喧騒が常に絶えない表通りから少しだけ外れ、程よい平穏な静かさが人気の一角。そこにある一件の雑貨屋から本日の物語は幕を開ける。
店内では店員である高校卒業したかくらいの身長の少女が鼻歌交じりで商品を陳列したり掃除したりしているとカランカランと入口の扉が来客を告げるベルの音を鳴らし、見ればそこに居たのはベクターさんの姿を見れば百点満点な笑顔で出迎える。
「いらっしゃいませ、ベクターさん! 今日はお一人なんですか?」
「えぇ、ずっと一緒だと思った?」
「うーん、記憶の限りだといつも一緒でしたので珍しいなって。あ、おばあちゃんならいつもの場所に居ますよ!」
看板娘の案内にお礼を伝えてからベクターさんは目的の人物に会いに行くために奥のレジカウンターまで向かうと安楽椅子に座り読書に耽っていた人物がチラッと一瞬だけ本から視線をベクターさんに向ける。
向けてから、つまらなそうな表情と息を吐き出しそれから彼女へ向けて
「なんじゃ、お主か」
「随分な挨拶ねナガン、これでもお客よ?」
「はん、今更気にする性分じゃなかろうて」
「それはそうね。椅子、失礼するわよ」
客相手とは思えない態度を取る小柄な戦術人形もとい【ナガンM1895】、だがエーアデントに居る彼女は世間一般的な姿とはかけ離れている。
まず特徴的なものと言って上がるのは右目部分がつや消しの黒で塗りつぶされた眼鏡を着用しているという点だろう。また服装も通常及びMOD化のそれとも違い雑貨屋の制服といった感じのものを身に纏っている。
見てくれがコレということで先程は戦術人形と書いたのだが正しくは〝元〟戦術人形、だがここもまた事情があるものでありこのナガンはグリフィン所属だったというわけでもなかったりする。
「それで彼女は? 今日も依頼で飛び回ってる感じかしら?」
「おぉ連日飽きもせずな。呵々、そうでもしなければ火の車じゃから当たり前だがのぉ」
「この閑古鳥が鳴く雑貨屋を抱えてるせいじゃないかしら」
「なんじゃなんじゃ、わしの老後の趣味を畳めというのか?」
人の心がないことを言うのぉと弱々しい声で反論しているナガンだがこの雑貨屋が畳まれることは絶対にないと確信しているので演技であるしベクターさんも理解しているのではいはいと言った感じに相槌を挟む程度にする。
今しがた話題に出た〝彼女〟がナガンの一応の保有者、もとい相棒であり正規軍所属だったが辞めて、そこから探偵に転職した彼女に付き合い暫くはナガンも相棒として活動していたが右目を失う大怪我を負ってから引退、そして今に至る。
「そもそもじゃ。わしがこうして暇を持て余してるのはお主のせいじゃろうて」
「その話はもうしないって約束したでしょ、おばあちゃん」
「そうじゃったかのぉ」
「あらあら、まだボケるような年数でもないでしょうに」
お決まりのやり取りから笑い合う、最早こうして雑貨屋で顔を合わせれば様式美な会話を挟んでから二人は本題に入る事が多い。因みにここに指揮官が居た場合はもう少し長くなると言うのは今はおいておこう。
さて、今回ベクターさんがこの雑貨屋【ナデシコ】に来たのは暇つぶしということでもナガンと雑談しに来たと言うだけではなくきちんと買い物も用事にあるし向こうも分かっているので少し待っておれとナガンは告げてから店の奥へと消えていく。
それを見送ってから、少し時間があるわねと座ったまま店内を慣れた感じに見渡せばふと前に来た時は無かった一枚の写真を見つけ立ち上がって近くで見てみれば
「これはあぁ、あの娘のライブのやつね」
「はい、前回のツアーライブのをあの娘が送ってきてくれて」
「いい笑顔じゃない、そう言えば二人も元気?」
「元気ですよ。ただちょっと仕事にのめり込み過ぎて全然帰ってこないのはどうかと思ってるんですけどね」
看板娘が嘆くように呟くように彼女には他に三人の妹が居るのだがそれぞれが仕事に夢中と言っても過言では無いほどであり家に帰ってくるのは休日の一日二日だけがザラではないらしい。
そんな言葉にベクターさんはワーカホリックは親譲りかしらと苦笑するしかない。なお、その親は娘よりも安定した稼ぎが低いんじゃないかという現実に若干打ちのめされ始めていることを誰も知らない。
「わしを省いて盛り上がってるようじゃの?」
「省いてなんかないわよ、貴女のお孫さん達が全然家に帰ってこないって話をしてたの」
「全くじゃ、帰ったと思えば直ぐに仕事じゃのライブじゃの、誰に似たんじゃか。それよりほれ、注文の品物じゃ」
出されたのは瓶詰めされた茶葉、ようは紅茶の茶葉である。ベクターさんのお気に入りの銘柄ではあるのだが入手手段はこの雑貨屋しかなく、無くなりそうになればこうして注文しているというわけだ。
「ありがと、それじゃはいこれ、丁度だと思うけど確認お願い」
「……うむ、確かに丁度じゃ。もう帰るのか?」
「えぇ、まだ外も寒いし早く帰らないと『紅茶』の茶葉が『凍っちゃう』かもしれないもの」
「3点じゃ、突拍子も為さすぎるし古典的すぎるわ」
あら手厳しいとベクターさん、それはそれとして急に目の前で正直言ってセンスがあまり感じられないギャグをぶち込まれるのはやっぱりあれだなぁと看板娘は思いつつ笑顔を浮かべてから
「またのご来店お待ちしてますね!」
看板娘の言葉を背にベクターさんは雑貨屋を後にして数十分後、基地の食堂に茶葉を片付けようと向かえば丁度、指揮官とネゲブが会話をしており戻ってきたベクターさんに気付いて
「おかえり、ベクター」
「おかえりなさいベクター、ていうかどこにって……あぁナデシコに行ってたのか」
「えぇ、茶葉がもう無くなりそうだったから注文したのを受け取りに、ついでにナガンとも雑談してきたもあるけど」
〝雑談〟そのワードを聞きネゲブは素直に思ったことを茶葉を棚に仕舞っているベクターさんに投げかけてみることにした。
「毎度毎度思うんだけど、互いに本気で殺し合った相手とよく顔を合わせて会話だとか出来るわね」
「この業界じゃよくある話だもの、気にしないわよ向こうも私も」
そういうことらしい。因みに指揮官からすればそれがあったからベクターさんに出会えたんだよなとコーヒーを飲みながら思ってたとかなんとか。
店舗紹介
『ナデシコ』
何でもはないけど大体は揃うエーアデントの雑貨屋。地下になにか秘密があるとかないとか。
『ナガンお婆ちゃん』
元戦術人形、今は民間の雑貨屋店主をしている人形さん。ベクターさんとは過去に何かあったらしく右目の負傷はその名残だとか。
『看板娘ちゃんと三姉妹』
常に世界を飛び回っている母親に代わり雑貨屋を手伝いをしているのが長女、最近の悩みは次女と三女と四女がワーカホリックかと思うくらいに仕事に没頭して中々帰ってこないこと。
次女は教師、三女はアイドル、四女は科学者をしているとか。