こより監督とホロメンたちの栄冠ナイン 2022年、ホロライブ高校始動   作:きのこ大三元

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久々の更新です、実況を0.5倍速にしながら自動進行の場面など確認しています…
中々大変です…


第16話 初めてのサイン

6月10日(土)晴れ。

 

 白球が、猫又おかゆの手に収まった。

 

 ホロライブ高校、初めての練習試合。相手は、知多工業。ホロライブ高校は後攻で、先発マウンドに立つのは1年生投手の猫又おかゆ。その球を受けるのは、同じく1年生捕手の赤井はあとだった。

 

 こより監督は、ベンチからグラウンドを見つめている。練習では何度も見てきた光景だ。おかゆんが投げる。はあちゃまが受ける。内野が構え、外野が位置につく。けれど、今日は違う。相手打者がいて、審判がいて、スコアボードがあり、勝敗がある。

 

『いよいよ、初めての練習試合です……!』

 

ついに始まる

おかゆん先発

はあちゃま頼む

こよ監督初采配

まずは初回大事

 

 コメント欄も、いつもの練習回とは空気が違っていた。試合が始まる。けれど、こより監督は、最初から自由に動けるわけではない。投げるのは、おかゆん。捕るのは、はあちゃま。打球を追うのは、選手たち。監督はベンチから見守る。

 

 見守るしかない時間が、試合にはある。

 

1回表。

 

 知多工業の攻撃。スコアは0対0。

 

 1番打者が打席に入る。おかゆんが、ゆっくりと振りかぶった。初球。白球が、はあちゃまのミットへ向かう。打者が振る。打球は二塁方向へ転がった。

 

「セカンド!」

 

 内野の声が飛ぶ。2年生の脇田が前に出て、落ち着いて捕球。一塁へ送球する。アウト。1アウト走者なし。

 

「まずひとつです!」

 

 はあちゃまが、マウンドへ声をかけた。続く2番打者はショート方向へのゴロ。西田が捕り、一塁へ投げる。アウト。2アウト走者なし。

 

『おかゆん、いい立ち上がり!』

 

おかゆん落ち着いてる

打たせて取ってる

守備もいいぞ

あとひとつ

初回いけるか

 

 3番打者。ここで打球がセンター方向へ抜けた。ヒット。2アウト1塁。初めての走者に、こより監督の肩へ少しだけ力が入る。ただのランナーひとり。けれど、試合ではそのひとりから何かが始まることもある。

 

「大丈夫です! あとひとつです!」

 

 はあちゃまの声が、またマウンドへ飛ぶ。4番打者。相手の中軸。おかゆんは少しだけボールを握り直し、投げた。打球はセンターへ上がる。

 

 夜空メルが後ろを確認しながら落下点へ入り、グラブを構え、白球を収めた。センターフライ。3アウトチェンジ。

 

「よし……!」

 

 こより監督は、小さく息を吐いた。初回無失点。猫又おかゆの、初めての試合の立ち上がりは、静かに始まった。

 

1回裏。

 

 ホロライブ高校の攻撃。スコアは0対0。

 

 先頭打者は、1番、脇田。脇田の打球はレフト方向へ上がった。レフトフライ。そう思った瞬間、相手レフトのグラブから白球がこぼれた。

 

「落とした!」

 

 ベンチから声が上がる。脇田はすぐに走り、一塁へ。セーフ。ノーアウト1塁。

 

相手ポロリ

チャンスきた?

先頭出た!

ここからだ

初得点ある?

 

 いきなり走者が出た。けれど、ここでこより監督が細かく指示を出せるわけではない。打席に立つのは、2番、獅白ぼたん。こより監督はベンチから見つめる。できることは、ほとんどない。

 

 ぼたんが打つ。打球はピッチャー前へ転がった。ピッチャーゴロ。1アウト。続く3番、稲葉の打球はセンターへ上がる。センターフライ。2アウト。

 

 そして、4番。

 

 こよロー。

 

「こよロー、お願いします……!」

 

 こより監督は、思わず声をかけた。1年生ながら4番。転生イチロー由来の、別格の外野手。期待は大きい。こよローがバットを振る。打球はセンター方向へ上がった。

 

 センターが落下点へ入り、捕球。センターフライ。3アウトチェンジ。

 

 先頭打者は出た。けれど、得点には繋がらなかった。期待される選手でも、最初から全部うまくはいかない。こより監督は、それを初めて、試合の中で見た。

 

2回表。

 

 知多工業の攻撃。スコアは0対0。

 

 5番打者から始まる。打球はファースト方向へ。ファーストゴロ。1アウト。6番打者はセンター方向へのヒット。1アウト1塁。

 

 7番打者の打球は、センター方向への低いライナーだった。夜空メルが一歩前に出る。反応は遅れていない。グラブを差し出し、白球を収めた。

 

「メルメル!」

 

 こより監督が声を上げる。飛び出していた1塁走者が戻れない。メルはすぐに送球する。中継を経て、一塁へ。アウト。ダブルプレー。3アウトチェンジ。

 

「メルメル、ナイスです!」

 

 こより監督の声が弾んだ。注目選手に選んだ夜空メル。その最初の見せ場は、打撃ではなく守備で訪れた。

 

メルメルナイス!

センターライナー捕った

ダブルプレー!

注目選手きた

守備で魅せた

 

 メルメルは、少し驚いたようにグラブを見ていた。それから、ベンチの方へ小さく笑った。

 

2回裏。

 

 ホロライブ高校の攻撃。スコアは0対0。

 

 5番、西田から。ショートゴロ。1アウト。

 

 6番、赤井はあと。

 

「はあちゃま、いきます!」

 

 勢いよく打席に入る。投じられた球を振り抜いた。打球はセンター方向へ抜けていく。ヒット。1アウト1塁。

 

「はあちゃま、ナイスヒット!」

 

 こより監督が声を上げる。

 

はあちゃまナイス!

初ヒットきた?

ここから繋ぎたい

捕手も打てる

流れこい

 

 しかし、流れは簡単には続かない。7番、大迫。打球はセカンド方向へ転がった。二塁へ送球。一塁へ転送。ダブルプレー。3アウトチェンジ。

 

 はあちゃまのヒットで生まれたチャンスは、一瞬で消えた。こより監督はベンチで手を握る。試合は、思ったよりも流れが速い。少しチャンスが来たと思ったら、すぐに終わってしまう。

 

3回表。

 

 知多工業の攻撃。スコアは0対0。

 

 8番打者の打球は三塁方向へ鋭く飛んだ。ぼたんが反応する。サードライナー。1アウト。

 

 9番打者はレフト方向への打球。ヒット。1アウト1塁。1番打者も再びレフト方向へ。ヒット。1アウト1、2塁。ベンチの空気が少し固くなる。

 

 2番打者。打球はセンター方向へ抜けた。ヒット。1アウト満塁。

 

『満塁……!?』

 

まずい

満塁だ

おかゆん踏ん張れ

はあちゃま頼む

ここで失点したくない

 

 この試合、初めての大きなピンチだった。1アウト満塁。スコアは0対0。外野フライでも、内野ゴロでも、点が入る可能性がある。こより監督は、ベンチから立ち上がりそうになる。けれど、ここで自由にマウンドへ行けるわけではない。自由に試合を止められるわけでもない。

 

 見守るしかない。

 

 そのことが、こんなにも重い。

 

「おかゆん!」

 

 はあちゃまが、ミットを叩いた。

 

「大丈夫です! ひとつずついきましょう!」

 

 おかゆんは、静かに頷いた。

 

「うん。ひとつずつ」

 

 3番打者。おかゆんが投げる。打球は内野の上へ上がった。サードフライ。ぼたんが落下点へ入り、しっかり捕る。2アウト満塁。まだ、ピンチは終わらない。

 

 4番打者。ここで打たれれば、一気に試合が動く。こより監督は息を止めるように見つめた。おかゆんが、ゆっくりと投げる。打者のバットが空を切った。ストライク。もう一球。ファール。追い込む。

 

 はあちゃまが、ミットを構える。

 

「ここです!」

 

 3球目。おかゆんの球が、ミットへ向かう。打者が振った。空振り。三振。3アウトチェンジ。

 

三振きたあああ

無失点!

おかゆん踏ん張った

はあちゃまナイスリード

満塁しのいだ!

 

 こより監督は、思わず息を吐いた。

 

 初めての満塁。

 初めての大きなピンチ。

 

 それでも、スコアボードにはまだ0が並んでいた。

 

3回裏。

 

 ホロライブ高校の攻撃。スコアは0対0。

 

 先頭は、8番、夜空メル。注目選手に選んだメルメルに、打席が回ってきた。ノーアウト走者なし。

 

 左打席に入ったメルは、バットを握り直している。緊張しているのが、ベンチからでも分かった。その時だった。こより監督の前に、試合指示の選択肢が並んだ。

 

 おまかせ。

 センター返し。

 流し打ち。

 引っ張り。

 転がせ。

 待て。

 

「えっ、ここで……!」

 

 初めて、監督が試合中にサインを出せる場面が来た。こより監督はメモを見下ろす。まだ野球知識は十分ではない。どれが正解か、すぐに分かるわけではない。

 

 ノーアウト走者なし。まずは出塁したい。メルメルは左打ち。広角打法を覚えていることを考えるなら、流し打ちも気になる。転がせで足を使うのか。待てで相手を見るのか。それとも、おまかせにするのか。

 

 けれど、数字が一番高いのは、④のセンター返しだった。こより監督は、息を吸う。

 

「……センター返しでいきましょう」

 

 サインが出る。メルメルが、小さく頷いたように見えた。

 

初指示きた

メルメルにサイン

センター返し④

監督っぽい

頼むメルメル

 

 1球目。メルが振る。打球は三塁側へ切れていった。ファール。

 

 2球目。再び、メルはバットを出した。今度はボールに当たる。打球は、ショート方向へのゴロ。メルが走る。一塁へ。ショートが追いつく。捕球。素早く一塁へ送球。

 

 メルの足が、一塁ベースへ迫る。

 

 間に合うか。

 

 ぎりぎり。

 

 アウト。

 

 1アウト走者なし。

 

「ああっ……!」

 

 こより監督は声を漏らした。結果はアウト。けれど、何もできなかったわけではない。サインを見て、バットに当てた。ゴロを転がし、一塁まで走った。あと少し。あと少しだった。

 

「今の、悪くなかった……ですよね?」

 

 こより監督が杉谷に尋ねる。杉谷はスコアブックに目を落としながら頷いた。

 

「はい。結果はアウトですが、しっかり当てています」

 

 その言葉に、こより監督は少しだけ息を吐いた。初めてのサイン。初めての結果は、アウト。けれど、それは失敗だけではなかった。

 

 続く9番、おかゆ。アウト。1番、脇田。アウト。3アウトチェンジ。ホロライブ高校は、この回も得点できなかった。

 

4回表。

 

 知多工業の攻撃。スコアは0対0。

 

 さきほどの満塁ピンチを切り抜けたおかゆんは、少し落ち着きを取り戻したように見えた。

 

 5番打者。アウト。6番打者。アウト。7番打者。アウト。三者凡退。

 

「おかゆん、いい流れです!」

 

 はあちゃまの声が響く。

 

『さっきの満塁から、よく立て直しました!』

 

三者凡退!

おかゆん落ち着いてる

守備もいいぞ

まだ0対0

次こそ点ほしい

 

 スコアは、まだ動かない。0対0のまま、試合は4回裏へ入る。

 

4回裏。

 

 ホロライブ高校の攻撃。スコアは0対0。

 

 先頭は、2番、獅白ぼたん。ぼたんの打球はショート方向へ転がった。ショートゴロ。1アウト。

 

 3番、稲葉。稲葉さんが、静かに打席へ入る。こよローに刺激を受け続けてきた、2年生外野手。ここで、打球がライト方向へ転がった。ゴロが抜ける。ヒット。1アウト1塁。

 

「稲葉さん、ナイスヒット!」

 

 こより監督の声が弾む。続く4番、こよロー。こよローが打席に入ると、ベンチの空気が少し変わる。1年生。4番。外野手。走攻守三拍子の主力候補。

 

「こよロー、お願いします!」

 

 投じられた球を、こよローが捉えた。打球はセンター方向へ、低く鋭いライナー。ヒット。稲葉が2塁を回る。さらに3塁へ。こよローは一塁へ。1アウト1、3塁。

 

 この試合、ホロライブ高校最大のチャンスだった。

 

稲葉さんヒット!

こよローきた!

4番の仕事!

1アウト1、3塁!

先制チャンス!

 

 外野手同士が繋いだ。稲葉が出て、こよローが続く。こより監督は、ベンチでメモを握りしめた。

 

 ここで1点が欲しい。

 

 5番、西田。

 

 また、こより監督の前に指示の選択肢が広がる。

 

 強振。

 ミート。

 おまかせ。

 センター返し。

 流し打ち。

 引っ張り。

 転がせ。

 送りバント。

 犠牲フライ。

 

「さっきより、できることが多い……!」

 

 1アウト1、3塁。内野ゴロでもいいのか。犠牲フライで3塁走者を返せるのか。送りバントは違うのか。ここは打たせるべきなのか。選択肢が増えた分、迷いも増える。

 

 こより監督は、西田の名前の横に表示されたものに目を止めた。

 

 闘魂。

 

 1試合に一度だけ使える、選手固有の力。闘志が溢れるバッティングができそう。

 

「……使います」

 

 こより監督は小さく言った。西田の目つきが、少し変わった気がした。打席の中で、気合いが一段上がる。

 

「西田さん、お願いします……!」

 

 指示は、犠牲フライ。3塁走者を返す。最低限でも、1点を取りにいく。

 

闘魂きた

固有スキル!

犠牲フライ狙い

ここで1点ほしい

西田頼む

 

 1球目。ストライク。

 

 2球目。西田は振らない。見逃しストライク。追い込まれた。こより監督の喉が詰まる。

 

 3球目。西田が振る。けれど、バットは空を切った。三振。2アウト1、3塁。

 

「ああ……!」

 

 こより監督は思わず声を漏らした。闘魂を使った。犠牲フライを狙った。1点を取りにいった。それでも、結果は三振。サインを出しても、成功するとは限らない。その当たり前のことが、初めてはっきりと胸に刺さった。

 

 まだチャンスは残っている。

 

 6番、赤井はあと。

 

 2アウト1、3塁。スコアは0対0。

 

「はあちゃま……!」

 

 こより監督の前に、また選択肢が並ぶ。そして、はあちゃまにも固有の力があった。

 

 熱血。

 

 パワーが上がるようだ。瞳の奥に、炎が燃えて見える。

 

「使います。はあちゃま、お願いします!」

 

 はあちゃまが、打席でバットを構える。いつも以上に気合いが入っていた。

 

「任せてください!」

 

 指示は、④の引っ張り。思い切り振り抜いて、強い打球を飛ばす。

 

熱血きた!

はあちゃま頼む

引っ張り④

ここで打てば先制

打ってくれー!

 

 1球目。空振り。

 

 2球目。低めのボールに、またバットが出る。空振り。追い込まれた。

 

「打って〜!」

 

 こより監督は、思わず叫んだ。

 

 3球目。正面のボール。はあちゃまのバットが出る。当たった。しかし、芯ではない。ボテボテのゴロが、ピッチャー前へ転がっていく。ピッチャーが前に出る。捕球。一塁へ送球。アウト。

 

 3アウトチェンジ。

 

 得点は、入らなかった。

 

 4回裏終了。

 

 スコアは、0対0。

 

 ホロライブ高校は、初めて大きなチャンスを作った。稲葉が出た。こよローが繋いだ。1アウト1、3塁。

 

 こより監督は、サインを出した。西田に闘魂。はあちゃまに熱血。犠牲フライ。引っ張り。けれど、得点には届かなかった。

 

 初めてのサイン。

 初めてのチャンス。

 初めての、あと一本が出ない感覚。

 

 試合は、まだ0対0。

 

『チャンスは作れました。でも……点が、遠いです』

 

惜しい

無得点かあ

闘魂も熱血も使ったのに

あと一本が遠い

まだ0対0

後半勝負だ

 

 知多工業との練習試合は、静かなまま後半へ入っていく。

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