それに割とオリジナルの方が作りやすいからね
初めに気付いたのは人の呼びかけるだ。名前を呼ばれている気がする。だが意識が覚醒しない。そもそも俺は誰かから呼ばれるなんて状況下に有ったか?
学校でも家庭でも、どこででも大抵の事では俺は呼ばれず、珍しく家内で呼ばれるときだって決まってその晩は夕飯が用意されてない事を明言されるためだった。
…というか此処はどこだ?
俺はハッキリしない頭を探っていき、思い当たったのは最近良く行くあの海浜公園だった。現実逃避の逃げ場、と言われるかもしれないが俺は嫌な事が有ったり腐った将来を考えたりするとよく足を運んだ。それは四月から始まり、6月になった今もそうだ。少し蒸し暑くはなってきたが雨が降らない限りは行っている。
だが、そこで新たな疑問が生じる。
ーーーあの場所で俺を呼ぶ人間など誰一人居ない筈なのだ。
学校とはそこまで距離は離れていないが、根本的に学校に知り合いなどいない上にまさか家族の誰かが俺を迎えに来るなんてことも想像し難い。
考えれば考えるほどに思考がこんがらがり、しかし逆に、徐々にだが視界も見えてくる。
まず見えたのは俺の真上から顔を除く誰かの姿だった。誰かは分からない、ただ俺の知らない人物だろうとは予測をつけれた。なぜなら金髪に俺の知り合いはいないからだ。顔の細部はまだ見えないが、それでもそこで確定出来る。
視線を外し、次に周囲を軽く首を動かして確認すると全面赤色の壁が見えた。…何かのトレンドなのだろうか?
時間が経つにつれ視界は鮮明になるが、壁の色は変化しない。均一な、赤。ただ少し分かったのは赤と言っても黒ずんで、茶色味かかった赤という。仮にその色の物質を表すなら銅だ。
頭も回り始め、段々と状況が理解できるようになると、ようやく俺は自身に起きていることを整理できるようになっていた。なので目を瞑って考えることにする。
まず俺が意識を失った場所、これは恐らくあのいつもの海浜公園で間違いないだろう。いつも通り、何となく放課後にあそこへ赴いた。ただ一つ変化を述べるのするならば4月の時とは違い直接行くようになったことだろうか?
…まあ家に帰っても帰らなくとも特に何も無いから良いんだが。
そして肝心なのは二つ目、俺は何故ここにいるのか?
そしてここは一体何処なのか?
だが、先ほど少し見た限りではどうやら現在俺は室内に誰かと居るらしい。
そこで一つ思いつく仮説と言えば、本当に性懲りも無い仮説だが、よくネットでは見かける異世界トリップと言うものだ。
このジャンルは総じて、ある日突然何のきっかけも無く異世界に行くというものだが、それにも大きく二つ種類がある。
一つは自由トリップ型、つまるところ始めは草原がダンジョンが、そういう場所から始まって後々冒険者として大成するルートだ。俺ならそんなハイリスクハイリターンな職は選ばず、最初の危ない場を凌いだら街で商売とかするが。
そしてもう一つは有名な召喚トリップだ。一時代前を風靡したと言ってもいいルートである。
これは簡単に言えば、魔王の復活やら魔族の逆襲やらで困った国が、召喚術を行使して主人公を日本から引き寄せるというものである。
これに関しては特に、主人公と王や姫とのやりとりは最早全て出尽くされたレベルで流行りまくり、今は鳴りを潜めている。雑な小説になると、「はいはいテンプレテンプレ〜」だとか突然言われてとても萎えたものである。
この周囲の環境から察するに、前者か後者、どちらかといえば後者の確率が高い。もし仮に前者だとしたら、倒れ込んでいる人をまずこんな珍妙な部屋に連れこんだりはしないだろう。ここが家ならともかく。
必要な情報は整理し終えた俺は、もう一度目を開けた。そこにやはり金髪の、しかし予想外に俺と同年代くらいの整った顔たちの女がこちらを覗き込んだ。金髪ロングのストレート、そして温和な顔立ち。服装も中世の純白のドレスで、それでいて装飾はそこまで目立たない程度。
それはどこか本当に姫のようなものを俺に感じさせていた。
「…起きました?」
始めに一言発したのは間も無く、目がばっちり完全に合った時だった。つかさっきから気付いてたんだが、それに気づかなかったのかよ。俺が転がっている側にいたのに。
「…まあ、な」
なので歯切れ悪く俺は答えるしかなかった。別に今はそんなことはどうでもいいしな。
「じゃあまず一つ聞くぞ…ここは何処だ?」
多分、いや絶対この女は俺のこの現状を俺以上に知っていると確信する。まあこりゃルートは後者で決定だな、路頭に迷わなくてよかった。
「ここは、皇国ジルアール。しがいない大きな大陸の端っこにある小さな国です」
…何か、自分の国なのに冷めた言い方だな。かく言う俺も今の世界を否定しているので人のことを批判出来る身ではないが。
「それで、俺は今からどうなるんだ?牢屋にでも監禁されながら勇者ごっことかすりゃ良いのか?」
「い…いえ!全く違います!」
速攻大否定、どうやら王の奴隷コースは何とか免れていたようである。
実際は王様本人の口からでないと信用性はそこまで無いが、というか本当にこいつ姫と皇女的な立ち位置で良いのか?もし魔法使いですとか言われたら何ともアレな話になるんだが…。
…ドレス着てるから姫だよな?或いはそれ的な某だよな?
そう思っていると彼女は口を開いた。
「貴方様には魔導士になって欲しいのです…!」
うーわ、マジか…。ほぼ当たっちゃったよ俺の危惧が。
魔導士。そう言われると、俺の中でら炎出したり雷出したりして派手な事をするイメージがある。そして最終的にはアルティメットなんちゃらだの極・なんちゃらだのと起句に強調効果のある単語を付けたがる。要は中二病だ、それも俺はそういう人種になった事は無いので中二病を演じなければならないピエロだ。
「…拒否権は?」
「ありますが、断れば元の世界には帰ることが出来なくなると思います」
…正直なところ、元の世界には一片のしこりも心残りも無い。それは断言出来る。
だが、この未知の環境で一人放り出されたとしたならば、俺は果たして生き残っていけるのだろうか?…当然無理だろう。
「…分かった、受け入れよう」
そう言うと喜んだようにドレス姿の女は俺の手を握った。柔らかい…が意識を取り乱す程でもない、特にこれと言うことは無いのだから。
「交渉成立ですね!これから少しの間、宜しくお願いします!」
「ああ、まあ期間はともあれ宜しくな」
目の前の女が笑顔を浮かべる。…だが、俺にはその理由が全く分からなかった。
「それで、これからどうするんだ?」
俺はいい加減姿勢を起こし、端っこの方に座る。
女も目の前に座った。まるで透明の椅子が存在するかのように、空気の上に。…魔法ってあるんだな。
「突然外に出るのは危険なので、先ずはこの場で簡単にこの世界の大まかなことを説明しますね」
そう言って両手を広げると地図が突然現れる。見た感じでは世界地図と言うよりは一国の地図っぽいので、恐らく女の言っていた皇国ジルアールとやらの地図なのだろう。
「ああ、頼んだ」
「まずこの点在する壁で囲われた場所、これは全て街です。ついで中心にあるのが王都になります」
女は人差し指で指しながらそう説明する。確かに地図で描かれた王都を仕切る壁は、他の街より少し厚い気がする。
「そしてこれらの街の外、その地域を一括して全て危険領域と呼んでいます」
多すぎだろ危険領域。街が地図に10個くらいしかないのに対してその危険領域は10倍以上はあるぞ。
「…あまり聞きたくはないが、何で危険領域と呼ばれてるんだ?」
その質問に簡単に女は答えた。
「それは、モンスターが現れるからです」
ほらきた異世界因子。魔法があるからって調子乗ってモンスターまで出さしてくるなよ。せめて電気ネズミとか始めははねるしか覚えない魚とかそんぐらいにしろよ。
「そして、私たちが行く場所は此処です」
そう言って指を指したのはどの街からも外れていて、地図で見る限り森の奥地、かつ危険領域の何もなさそうな場所だった。
「…モンスターが現れる上に森しかないが?」
「大丈夫です、実は地図には載ってないんですけど村というものが各地に点在しています。それに、私たちが行く場所はその村からも離れていますが、何よりお師匠様が居ます!」
そんな信頼し切った目の前の人間に俺は羨望を覚えた。何故かは分からない、だがきっと俺には一生手に入れることは出来ないのだろう。
だからこそ、俺は分からないのだ。
「…じゃあそろそろ行きますよ」
そう目の前の女は言うが、周りは銅のような物質に囲まれていて出口は無い。ただ、先ほどは気付かなかったが小さな空気孔のような物が幾つか存在していた。確かにそうじゃなきゃ窒息死コース一直線だしな、当たり前の処置ではあるだろう。
「だが、ここどうやって出るんだ?」
そんな俺の発言には取り合わず女は何事かをブツブツと呟く。…詠唱とか呪文とか、そんなやつか?
ブツブツと何かを言い終えると、こちらへと向き直った。
「じゃあ、…ようこそジルアールへ!」
突然足元に魔法陣のような物が現れ、神々しく緑の光を放つ。外円部分には英語のアルファベットのような文字が円を形作るように光っている。
そうして、一瞬だった。
ーーー景色は赤から緑へと変化した。