マブラヴ火葬戦記 作:ポンコツ資源採掘重機駆除業者
クーデターによって東ドイツに新政権が誕生したことで、東西ドイツを分断していたベルリンの壁は崩壊した。
東ドイツ国内では一般市民による国家保安省関係者や情報提供者への私刑が横行するなど一時的な混乱があったが、新政権の呼びかけによってそれも徐々に鎮静化していった。
また、新政権による将来的なドイツ統一を見据えた東西融和政策も始まり、これまで受け入れを制限されてきた西側の軍も、対BETA戦のために本格的に駐留できるようになった。
この東ドイツでのクーデターは、東側諸国にも大きな波紋を広げた。東欧の社会主義国家の中から、ドイツと同じようにソ連と袂を分かち、民主化や西側陣営との協力によってBETAからの国土奪還を目指すべきではないかという声が上がり始めたのだ。
この流れを見た西側諸国、特に冷戦終結を目指す米国が動く。
西暦1983年。国連によってミンスク・ハイヴ攻略作戦が正式に発令。この作戦には国連軍、米軍、欧州連合軍、ソ連から離反予定のワルシャワ条約機構軍、そして米国からの要請と確保したBETA由来の物質――G元素の優先配分を条件に日本帝国軍が参加を表明した。
作戦名は『
ソ連は国内の治安維持を優先するため、今回の作戦への軍の派遣を行わない旨を通達した。だが裏では密かに精鋭部隊を掻き集めていた。
国土奪還。BETAの浸透阻止。G元素の確保。新兵器の性能評価。対BETA戦の戦訓獲得。戦力誇示、戦果の横取り……。
様々な勢力の思惑が絡み合う中、人類の一大反抗作戦が始まろうとしていた。
☆☆☆
東ドイツ軍所属、戦術機揚陸艦ペーネミュンデ艦上。
「米海軍のモンタナ級やアイオワ級に、イギリス海軍のライオン級や帝国海軍のヤマト級戦艦まで……」
海王星作戦に参加する大艦隊の威容を目にして、小柄な少女が感嘆の声を漏らした。彼女の名前はウルスラ・シュトラハヴィッツ。東ドイツ軍第666戦術機中隊の衛士である。
「凄い光景ですねぇ……」
視線の先には、作戦に参加する艦船が水平線の彼方までずらりと並んでいる。
ブリーフィングで聞いた話によると参加艦艇四百隻超、戦術機六百機超、総兵員40万超。さらにはハイヴ攻略のためにこの艦隊とは別に衛星軌道上にも多数の軌道降下部隊が控えているそうだ。
「これなら、勝てる気がします」
作戦前ということで緊張していたウルスラの表情が少しだけ和らいだ。
今回の作戦目標であるミンスクハイヴ攻略に、人類は一度失敗している。
ウルスラの父も参加したという、1978年に行われた人類初のハイヴ攻略作戦――パレオロゴス作戦。
欧州連合軍を主力とした北大西洋条約機構軍を陽動に、ソ連陸軍の戦術機甲師団ヴォールク連隊がハイヴへの突入に成功するも数時間後に全滅。
後に「ヴォールクデータ」と呼ばれる貴重なハイヴ内の観測情報を人類にもたらしたが、その後のBETAの大攻勢によって欧州戦線が全面瓦解する結果に終わった。
そのミンスクハイヴにウルスラたちは今一度挑まなければならない。
「調子はどうだ、ウルスラ?」
背後から声がかけられる。
振り返ると青い瞳に金色の長い髪を持つ美女が立っていた。
「ベルンハルト大尉……」
声の主はウルスラの上官、アイリスディーナ・ベルンハルトだった。
「ビスケット食べるか?」
「いただきます」
差し出されたビスケットを口に入れる。レーションのビスケットは、相変わらず岩のように硬かった。
「そう心配するな」
硬いビスケットを頬張りながら、アイリスディーナが言う。
「今回の作戦には米国や日本帝国も本腰を入れて参加している。間違いなく、投入戦力ではパレオロゴスの時よりも質、量共に上だ」
アイリスディーナの視線の先では、自分たちが乗るMiG-21バラライカとはまるで異なる姿の機体たちが艦隊の上空を飛行していた。
原作のF15Jに酷似している姿のその機体の手には、小型化された電磁投射砲が握られている。
日本帝国で開発された高性能戦術機鳳翔。
日本とライセンス生産を許可された米国のみが運用している機体であり、最近ようやく欧州でも配備され始めているが、東側の国々には未だ一機たりとも配備されていない機体だ。
鳳翔が装備している小型電磁投射砲の方も、精々ソ連がオルタネイティヴ3の成果を利用した諜報活動によって劣化再現した欠陥品を少数配備している程度。実戦でまともに運用できるのは未だ日米軍のみだ。
「あの部隊、黒、白、黄……なんで機体ごとに色が違うんでしょう?」
「あれは帝国斯衛軍部隊の機体だな。今回の作戦には対BETA戦の戦訓獲得のために派遣されて来ているそうだ。確か、搭乗者の地位に比して冠位十二階という制度に沿った色分けが行われているらしい」
カラフルな鳳翔の編隊を目にしたウルスラの疑問に、アイリスディーナが答える。
「そして、先導している赤い機体が――」
アイリスディーナの視線の先には、赤く染められている鳳翔とは異なる姿をしている機体。
「世界で唯一、日本帝国斯衛軍のみが実戦配備している戦術機『瑞鶴』だ」
その機体を原作を知っている人が見たら間違いなくこう言うだろう。「武御雷じゃねえか」と。
原作ではF-4派生機体として最も後期に開発された国産機に瑞鶴の名が与えられていたが、この世界では斯衛軍が採用した日米共同開発戦術機にこの名が与えられた。
その見た目は、偶然にも原作の第三世代戦術機『武御雷』によく似ている。
他にも、鳳翔派生機である帝国軍が新たに採用した日米共同開発機『翔鶴』(「不知火じゃねえか」と言いたくなる姿の機体)。
フランク・ハイネマンやミラ・ブリッジスらが日本の技術者たちと共に開発に携わった米国のF-14トムキャット(「いや、お前YF-23ブラックウィドウじゃねえか!?」と叫びたくなる姿の機体)。
日本からカツアゲした鳳翔の機密情報と多額の資金を注ぎ込んで対BETA戦では無用のステルス機能まで付けた新型戦術機F-15イーグル(「いや、お前はF-22ラプターだろ……」と突っ込まずにはいられない姿の機体)。
そういった普段最前線ではお目にかかれない面々が編隊を組んで艦隊上空を飛行している。
「……私も一度でいいから、あのような機体で戦ってみたいものだな」
アイリスディーナが珍しく、軽口めいた言い方をした。
だがその声に苦さが滲んでいるのを、ウルスラは聞き逃さなかった。
ユーラシア大陸が戦場になり、東側諸国や欧州連合がF4やF5の派生機で血を流しながらBETAを押しとどめている間、後背の安全地帯で日米は高性能機を開発し続け、そして技術流出防止を名目に輸出を拒んだ。
武器弾薬の補給に苦労し、機体整備に悩まされ、それでも仲間を失いながら戦線を支えてきた衛士たちの中に、その事実への不満が燻っているのは当然のことだった。
ウルスラとて、贅沢極まりない高性能戦術機は喉から手が出るほど欲しい。それを持っている日米軍の戦術機部隊のことを羨ましくも思う。
「だが、我々も彼等にはない得難いものを持っている」
アイリスディーナが静かに言った。
「この十年間で培われた、対BETA戦の経験だ」
東ドイツが国力で勝る西側、とりわけ日米に提供できる有益なものはそう多くない。
だが、少数精鋭による光線級への吶喊戦術。乏しい物資での陣地構築や補給が潤沢でないからこそ磨き抜かれた近接戦闘のノウハウなどは、いずれも西側諸国には持ちようのないものだった。
特に近接戦闘については、日本帝国軍がかなり強い関心を示しているという話をウルスラも耳にしていた。
「私たちにできることで、この作戦に貢献しよう」
アイリスディーナがそう言って、ウルスラへ視線を向ける。その青い瞳には、この作戦に対する強い想いが宿っていた。
「はいっ!」
ウルスラも力強く頷いた。
作戦開始時刻。
日、米、英が世界に誇る超弩級戦艦たちによる開戦の号砲と共に人類の一大反抗作戦が始まった。
機体解説
翔鶴
日米共同開発計画で開発された見た目不知火の戦術機。
後に技術者たちの執念によって擬似太陽炉と小型改良ML機関Gジェネレーターを搭載した後継機『不知火』が開発された。GN不知火はオルタネイティブ火葬戦記編で登場予定。
瑞鶴
日米共同開発計画で開発された見た目武御雷の戦術機。
近接戦世界最強クラスであり、小型電磁投射砲も運用可能な傑作機。
ただし、全身刃物のような特殊装甲のせいで整備性が終わっている。
後に技術者たちの執念によって擬似太陽炉と小型改良ML機関Gジェネレーターを搭載した後継機『武御雷』が開発された。GN武御雷もオルタネイティブ火葬戦記編で登場予定。
F14(を名乗っているYF23)
鳳翔の圧倒的な性能に魅力され、嫉妬したフランク・ハイネマンや米国の技術者たちが執念で完成させた傑作戦術機。フェニックスミサイルと小型電磁投射砲を運用可能な上に近接戦も強いという総合力最強の浪漫戦術機。ステルス機能は付いていない。
F15(を名乗っているF22)
アメリカが鳳翔の技術を盗用して莫大な予算をかけて作った新型戦術機。
小型電磁投射砲を運用可能な砲撃戦最強の機体。
しかし、擬似太陽炉搭載機の登場によって一瞬で旧型化してしまった。
たぶんアクティブステルスとかいう対BETA戦で無用なものを付けた罰が当たったのだろう……