デビル・イン・ザ・フランドール   作:かるご

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キッシング防衛戦 前編

夜の静寂が広がる戦闘領域。

前線にはベテランである26部隊のフランクスが整然と陣を張り、その少し後方に13部隊が控えていた。そして遥か高所、巨大な燃料パイプの上には、ストレリチアが静かに佇み、戦況を見下ろしている。

緊張が極限まで高まる中、各機の通信モニターにハチの厳格な声が響き渡った。

 

 

『──両部隊へ、叫竜について新たな情報だ』

 

 

メインモニターに最新のソナーデータが展開される。

 

 

『コンラッド級の群れの他に、巨大な質量体の存在を確認した。過去のいかなるデータにも合致しないが、自律的に移動していることから叫竜であることを断定。これを、目標βと呼称する』

 

 

モニターに映し出された異質な影に、パイロットたちからどよめきが漏れた。

 

 

「でっけえ……!」

 

 

フトシが息を呑み、ゾロメが目を剥く。

 

 

「なんだよ、ありゃ……!?」

 

「小さいのもすごい数……!」

 

 

ミクも思わず声を張り上げた。群れをなすコンラッド級の中央で、真四角な巨躯に二対の角を生やした「目標β」が、気味の悪い圧迫感を放ちながら進軍してくる。

ハチの声が再び引き締まる。

 

 

『データがない以上、迂闊に近づくのは危険だ。よって交戦開始後は、コンラッド級の掃討を優先せよ。現場での判断は、090に任せる』

 

『了解』

 

 

26部隊のリーダー、090の短く冷静な返答が通信に落ちる。

 

 

『──では、作戦開始』

 

 

その一言を合図に、防衛戦の火蓋が切られた。

 

 

 

─────

 

 

 

無数のコンラッド級叫竜が迫る中、090の落ち着いた声が通信に響く。

 

 

「──各個撃破を心がけるんだ! 落ち着いて対処すれば負けはしない!! 26部隊、行くぞ!!」

 

『『おう!!』』

 

 

隊員たちの力強い唱和とともに、3機の量産型フランクスが一斉に散開した。

先頭を行く一機が槍──ポーンハスタを低く構え、先端からブレードを射出。突進してきた小型叫竜に深々と突き刺す。叫竜が体勢を崩した瞬間、高く跳躍した別の量産型が上空から急降下し、倒れた叫竜へ容赦なくポーンハスタを突き立てて撃破してみせた。

さらに散開していた3機が息の合った足並みで複数の小型叫竜を取り囲む。

一斉に射出したブレードを叫竜に突き刺すと、3機はまったく同じ速度で叫竜の周囲を円運動しながら駆け抜け、伸びたワイヤーを巻き付けて自由を完全に奪い去った。

 

 

『今だ!!』

 

 

ステイメンの叫びと同時にワイヤーへ電流が流し込まれる。黄色い火花が上がり、拘束された叫竜たちが次々と崩れ落ちていった。

 

 

「いいぞ! 焦らず! 確実に数を削っていくんだ!!」

 

『了解!!』

 

 

一切の無駄がない、洗練された戦術。

後方からその激闘を見つめていたゴローが、感嘆の息を吐き出す。

 

 

「……言うだけあって、大した連携だな」

 

「うん……みんなが一つになってる感じ……」

 

 

イチゴも思わず息を呑む。自分たちの戦いとは根本的に異なる、ベテラン部隊の完成度に圧倒されていた。

その時、26部隊から通信が入る。

 

 

「何体抜けた?」

 

『4体、いや5体!』

 

 

即座に応答する仲間の声を受け、090が13部隊へ回線をつないだ。

 

 

『13部隊は対処を頼む! ……ただし、前に出過ぎないでくれ。下手に動かれるとこちらの連携が崩れてしまう』

 

 

的確だが、どこか自分たちを下に見るような090の言葉に、13部隊には不満の空気が渦巻いた。

 

 

「けッ! ジャマならジャマってハッキリ言えよ、クソ!」

 

 

ゾロメが忌々しそうに吐き捨てれば、フトシも肩を落としてため息をつく。

 

 

「こんなにお荷物扱いされるなんてね……」

 

「ここまで言われると、ちょっと腹立つな……」

 

 

ツグミが苦笑いを浮かべながら呟く。だが、ミツルが冷静な声でそれを遮った。

 

 

「事実でしょう。僕たちはまだ未熟……26部隊におんぶに抱っこですよ」

 

「んだとォ!?」

 

 

ゾロメがミツルに噛みつこうとしたその時、ミツルが鋭い声を張り上げた。

 

 

「来ますよ!」

 

 

正面の闇から、26部隊の包囲網を抜けた5体の小型叫竜が猛スピードで肉薄してくる。

 

 

「各機、迎撃準備! 」

 

 

イチゴの指示とともに、13部隊の戦闘が幕を開けた!

 

 

 

─────

 

 

 

13部隊が担当する後方エリア。

先行したクロロフィッツムがマニピュレーターを格納し、腕部から光弾を連射する。だが、俊敏に立ち回る小型叫竜には一発も当たらない。

間髪入れずにアルジェンティアが追撃を繰り出すが、叫竜は軽やかにそれを回避。勢いがつきすぎたアルジェンティアは制動が効かず、そのまま後方にいたクロロフィッツと派手に激突してしまう。

 

 

「何やってんです!」

 

「勢いがつきすぎたんだよッ!」

 

 

不満を爆発させるミツルにゾロメが叫び返す。

一方、重量級のジェニスタは二体の小型叫竜に完全に包囲されていた。必死に砲撃を繰り出すものの、すばしっこい敵を捉えきれない。

 

 

「速い……!」

 

 

ココロが悲鳴を上げる。砲撃の隙を突かれ、ジェニスタは前後から一気に組みつかれ、身動きを封じられてしまった。

 

 

「ココロちゃんに触るなああああっ!!」

 

 

フトシが絶叫したその瞬間、横合いから飛び込んだデルフィニウムが、ジェニスタに取り付いていた二体の叫竜を一瞬で切り伏せた。

 

 

「しっかり!」

 

 

倒れかけるジェニスタの肩を支え、イチゴが声をかける。

 

 

「あ、ありがとう、イチゴちゃん……!」

 

 

イチゴは休む間もなく通信を開き、次々と矢継ぎ早に指示を飛ばした。

 

 

「ゾロメ、深追いせずに敵を追い詰めて! スピードあるんだから!」

 

「言われなくても!」

 

「ミツルとツグミは、なるべくジェニスタから離れないでサポート!」

 

「了解!」

 

 

指示を残し、素早く復帰していくデルフィニウム。その操縦席で、ゴローがイチゴへ穏やかに声をかける。

 

 

「お前も焦りすぎるなよ、イチゴ」

 

「……わかってる」

 

 

向かってくる叫竜を次々と切り伏せるデルフィニウム。だがその隙を狙い、背後から二体の叫竜が密かに牙を剥く。直撃を覚悟したその瞬間──

 

 

「そりゃあ!!」

 

「イチゴの邪魔しないで!」

 

ドカァンッ!

 

背後から飛び込んだダリアとグラジオラスが、イチゴたちの背後を襲おうとしていた二体を挟み込むように粉砕した。ナオミとクロの見事なカバーに、イチゴは胸を撫で下ろす。

 

前線で指揮を執りながら、090はその光景をチラリと視界に収めていた。

 

 

(……大した動きだ。コード015か……あれだけの動きができる10番台が、なぜ急造のテストチームに……)

 

 

だが、感慨に浸る時間はなかった。

 

 

『第二波、来ます』

 

「来るぞ、絶対に通すなッ!」

 

 

090は再び気合を入れ直し、前線のラインを維持すべく声を張り上げた。

 

一方──戦闘区域を見下ろす巨大なパイプの上。

ストレリチアはハッチを解放し、高所から戦況を静観していた。そのすぐ背後には、ナインアルファとナインラムダが乗る九式が不気味に佇んでいる。

ハッチの上に立ち、戦場を見下ろすゼロツーが、クスクスと可笑しそうに笑った。

 

 

「見てよダーリン。あんな滅茶苦茶な戦い方してる」

 

 

コクピットのシートで胸に手を当て、激痛に耐えながら息を吐くヒロが呟く。

 

 

「……ッ……押されてるの……?」

 

「お行儀が良い連中のおかげでなんとかなってるよ……でも、少しまずいのが来てる」

 

「え……どういう、こと──」

 

 

ヒロが問いかけようとしたその時、ハチの通信が全機のコクピットに響き渡った。

 

 

『──全機へ警告。ワームタイプの叫竜が接近中、 地面に気をつけろ』

 

「ワームタイプ……? なにそれ?」

 

 

戸惑うミクたち13部隊。対照的に、26部隊の面々は苦々しい表情を浮かべた。

 

 

「このタイミングでワームタイプか……!」

 

 

次の瞬間──26部隊の足元の地盤が、まるで地震のように凄まじく激震した。

 

 

「各機、散開ッ!!」

 

 

090の焦燥を含んだ叫びと同時に、26部隊が立ち並んでいた直下の地面を突き破り、爪形の尻尾が噴き出した。

フランクスのコクピットの中で、090は冷静に戦況を分析する。

 

 

(周囲にも、目標βの付近にも、まだ無数のコンラッド級が残っている……この密集地帯でこの叫竜と交戦するのは危険すぎる……だが、かと言って経験の浅い13部隊にワームタイプを任せるわけにはいかない)

 

 

思案の末、090は通信を開き、司令室へと回線をつないだ。

 

 

「ハチ司令、許可を頼む。当部隊でワームタイプを引きつけ、別エリアへおびき寄せて撃破したい」

 

 

司令室でモニターを見つめるハチは、眉をひそめた。

 

 

『……本来、指定された戦闘領域を離脱することは反逆行為とみなされる。だが……現状の戦況を鑑みれば、それが最善の判断か。許可する』

 

「感謝します」

 

 

090は即座に回線を13部隊のデルフィニウムへと切り替えた。

 

 

「13部隊、聞こえるか。僕たちは新手の叫竜をひきつける。その間、僕たちが前線を維持することはできない」

 

『了解!』

 

 

イチゴの即答を聞き、090は短く言葉を返す。

 

 

「……頼んだ」

 

 

通信を切ると同時に、26部隊は一斉に反転。ワームタイプに向かって一斉射撃を叩き込んで注意を引くと、その巨体を自らの方へと誘い込みながら離脱を開始した。

直後、13部隊の全機へハチからの厳格な指示が入る。

 

 

『──13部隊へ告げる。26部隊はワームタイプの叫竜を引きつけるため、離脱した。13部隊は向かってくる大量のコンラッド級に対処せよ』

 

「ええっ!? 26部隊無しで、この数を相手にすんの!?」

 

「そんな……いくらなんでも多すぎるよ……!」

 

 

狼狽えるツグミとフトシ。だが、アルジェンティアのコクピットでゾロメが不敵な笑みを浮かべ、力強く言い放った。

 

 

「へッ! むしろ好都合だ! あの敵全部倒して俺たちの力を見せてやろうぜ!!」

 

 

ゾロメの威勢の良さに引っ張られ、落ち込みかけていた13部隊の空気が一変する。

デルフィニウムのコクピットで、イチゴもまた晴れやかな笑顔をみんなに向けた。

 

 

「そうだね……! みんな、行くよ! 13部隊の力、見せてあげよう!」

 

『『おう!!』』

 

 

26部隊の離脱というピンチを力に変え、13部隊の気迫が夜の戦場を包み込んでいく。

 

 

 

─────

 

 

 

13部隊の指揮線に、イチゴの力強い声が響き渡る。

 

 

「ミツル、ツグミ、フトシは射撃に専念して! 迫る小型叫竜の大群を絶対に近づけさせないで!」

 

『わかった!』

 

『こっから先には通さねェ!!』

 

 

イチゴの指示を受け、後衛の3機が即座に砲撃陣形を組み上げた。

ジェニスタがルークスパロウで砲撃をし、クロロフィッツは両手を再び格納して高出力の光弾を絶え間なく連射する。さらにアイリスが両腕のガトリングガンで掃射し、肩と脚部から一斉に解き放たれた無数のミサイルが夜空を描いて叫竜の群れへ着弾、大爆発を巻き起こした。

押し寄せる黒い波に、圧倒的な火力の壁が立ちはだかる。

 

 

「ゾロメ、クロ! 射撃をかいくぐって来たのを叩いて! 機動力を活かして!」

 

『おうよ! 任せろ!』

 

『わかったよ!』

 

 

アルジェンティアとグラジオラスが閃光のようなスピードで交錯。弾幕の隙間から飛び出してきた小型叫竜を、すれ違いざまに切り伏せていく。

そして、その陣形の要を担うのは──。

 

 

「ナオミと私が、全体のサポートをする!!」

 

『了解!』

 

 

デルフィニウムとダリアが縦横無尽に戦場を駆け抜け、乱れかけたラインを的確にカバーし、仲間たちの背中を完全に死守していた。

 

 

 

ワームタイプを誘導しながら戦場を駆けていた26部隊。

090は、チラリと後方の13部隊の戦いぶりに目をやり、心の中で目を見張っていた。

 

 

(……良い連携だ。さっきまでたった5体の叫竜に翻弄されていたのに…… 少しずつ敵のスピードに対処し始めている。成長しているのか……この僅かな時間で……!)

 

 

驚きと賞賛の念が胸を掠める。だが、いま自分たちが集中すべきは目の前の巨躯だ。ワームタイプは十分に13部隊や目標βから引き離されている。

 

 

「だいぶ引き離せたはずだ! ここで迎え撃つ!!」

 

『『了解!!』』

 

 

その瞬間、地中から凄まじい地鳴りとともにワームタイプの鈎爪状の尻尾が飛び出し、量産型の一機をすくい上げようと襲いかかった。

 

 

「くっ……ギリギリか!」

 

 

量産型は間一髪で回避。すぐさま他の仲間たちが反撃に移ろうとした瞬間、今度は地表を切り裂いて円筒型の巨大な刃を持つ頭部が回転しながら出現する。

 

 

「頭部か! 落ち着いて回避しろ!」

 

 

襲いかかる刃を紙一重でかわすと同時に、26部隊の量産型たちが一斉にブレードを射出し伸びたワイヤーを巨躯に巻き付ける。

無限に伸びる特殊ワイヤーが、ワームタイプの頭部と尻尾へ強固に巻き付く。

 

 

「ワイヤーをビームにして、 一気に切断するぞ!!」

 

 

ワイヤーにマグマエネルギーが注ぎ込まれ、ギラギラとした眩いビーム刃へと変化する。26部隊の隊員たちがしなるビームワイヤーを同時に勢いよく引いた。

 

バチバチバチッ──ズバァンッ!!

 

凄まじい放電とともに、ワームタイプの頑強な装甲が断ち切られ、叫竜の体内が剥き出しになった。

 

 

「頭部と尻尾から侵入する! 外の者は抑えろ!」

 

 

叫竜が激しく身悶えして暴れるが、外に残った3機の量産型がワイヤーを全身に巻き付け、地面に膝をつきながら全力でその巨体を拘束する。

 

 

「コアに到達するまで、そのまま抑えてくれ!!」

 

 

090の叫びとともに、2機の量産型がワームタイプの切り開かれた体内へと突入していった──!

 

 

 

一方、高所にそびえ立つ巨大パイロットパイプの上。

フランクスの搭乗席からその光景を見下ろしていたナインアルファが、小さく口元を緩めた。

 

 

「へえ〜、意外とやるんだね。最初あんなにグダグダだったのに」

 

 

隣のナインラムダ機も、冷ややかな声で通信を返す。

 

 

「即座に体勢を立て直した手腕は評価できる。……だが、まだ敵の数が多い。押し込まれるのは時間の問題だ」

 

 

その言葉を聞いていたストレリチアのコクピット。

激痛に耐えかねて胸を固く押さえていたヒロが、意を決したように静かに、だが力強く呟いた。

 

 

「……なら、俺たちも行こう」

 

 

その声に、ゼロツーが静かに振り返る。

ヒロの決意に満ちた瞳を見つめ返し、彼女は力強く頷いた。

 

 

「……うん!」

 

 

ストレリチアの瞳に、光が灯る。

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