デビル・イン・ザ・フランドール   作:かるご

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キッシング防衛戦 前編

夜の闇が広大な戦闘領域を覆い尽くしていた。

遠くに見えるプランテーションの外壁には、無数の警戒灯が点滅している。

その外側に広がる荒野では、二つの部隊が出撃態勢を整えていた。

最前線には26部隊。

量産型フランクスが、一定の間隔を保ちながら整然と陣形を組んでいる。

その後方には13部隊が控えていた。

4機のフランクスと3機のフランドールがそれぞれの持ち場で待機している。

さらに、プランテーションの防護壁の上。

純白の巨体を夜の闇に浮かび上がらせながら、ストレリチアが静かに佇んでいた。

その後方には、ナインズの機体も控えている。

誰もが、迫り来る敵の気配を感じ取っていた。

大地の向こうから響く微かな振動。

それは無数の叫竜がこちらへ向かって進軍している証だった。

やがて、各機の通信モニターが一斉に点灯する。

 

 

『──両部隊へ、叫竜について新たな情報だ』

 

 

ハチの声だった。

緊迫した口調にパイロットたちの意識が一斉に通信へ向けられる。

モニターには最新のデータが映し出された。

 

 

『コンラッド級の群れの他に、巨大な質量体の存在を確認した。過去のいかなるデータにも合致しないが、自律的に移動していることから叫竜であることを断定。これを、目標βと仮称する』

 

 

表示された映像を見た瞬間、各機から驚きの声が上がった。

 

 

「でっけえ……!」

 

 

フトシが思わず息を呑む。

 

 

「なんだよ、ありゃ……!?」

 

 

ゾロメも目を見開いた。

 

 

「小さいのもすごい数……!」

 

 

ミクの声が、僅かに震える。

ソナーが捉えていたのは、夥しい数のコンラッド級叫竜。

そして、その群れの中心を進む異様な巨大個体だった。

真四角に近い巨躯。

その頂部からは、二対の角が突き出している。

まるで巨大な建築物が大地の上を移動しているかのようだった。

周囲のコンラッド級が小さく見えるほどの質量。

その存在は、映像越しであっても不気味な威圧感を放っていた。

 

 

『データがない以上、迂闊に近づくのは危険だ。よって交戦開始後は、コンラッド級の掃討を優先せよ。現場での判断は、090に任せる』

 

『了解』

 

 

第26部隊のリーダー、コード090が冷静に応答した。

その声には僅かな動揺もない。

経験を積んだ指揮官として、目の前の状況を正確に受け止めていた。

そして。

 

 

『──では、作戦開始』

 

 

ハチの宣言が戦場に響き渡った。

次の瞬間、前線に並んでいたフランクスたちが一斉に動き出した。

 

 

 

─────

 

 

 

夜の荒野を無数の黒い影が駆け抜けてくる。

コンラッド級叫竜。

地面を這うように疾走するその姿は、まるで押し寄せる黒い波だった。

しかし、最前線に立つ第26部隊に動揺はない。

 

 

「──各個撃破を心がけるんだ! 落ち着いて対処すれば負けはしない!! 26部隊、行くぞ!!」

 

『『おう!!』』

 

 

隊員たちの力強い声が重なる。

直後、三機の量産型フランクスが一斉に散開した。

先頭を走る一機が、手にしたポーンハスタを低く構える。

迫り来るコンラッド級との距離が縮まった瞬間、その先端から鋭いブレードが射出された。

一直線に伸びた刃が叫竜の装甲へ深々と突き刺さる。

勢いを殺された叫竜が前のめりに体勢を崩した。

その瞬間を、別の量産型は見逃さなかった。

高く跳躍した機体が、夜空を背に急降下する。

振り下ろされたポーンハスタが倒れた叫竜を貫いた。

凄まじい衝撃とともに叫竜の巨体が地面へ沈む。

一方、別方向では三機の量産型が複数の叫竜を包囲していた。

互いの位置を確認する必要すらないかのように、三機は同時にブレードを射出する。

叫竜たちへ突き刺さった刃。

そこから伸びるワイヤーを張り詰めさせながら、三機は円を描くように疾走した。

叫竜が逃げようと暴れる。

しかし、動けば動くほどワイヤーが絡みつき、自由を奪っていく。

 

 

『今だ!!』

 

 

ステイメンの叫びが響いた。

直後、ワイヤーに電流が流し込まれる。

黄色い火花が夜の闇に散り、拘束された叫竜たちが爆散する。

 

 

「いいぞ! 焦らず! 確実に数を削っていくんだ!!」

 

『了解!!』

 

 

第26部隊の攻撃には一切の無駄がなかった。

一機が敵の動きを封じ、別の機体が確実に仕留める。

互いの死角を補い合い、敵の進行方向を限定する。

誰か一人が突出することも仲間の動きを妨げることもない。

長い時間をかけて培われた、完成された連携だった。

後方でその戦いを見つめていたゴローが感嘆の息を漏らす。

 

 

「……言うだけあって、大した連携だな」

 

「うん……みんなが一つになってる感じ……」

 

 

イチゴも思わず見入っていた。

自分たちとは明らかに違う。

機体の性能だけではない。

一人一人が、自分の役割を理解している。

そして、仲間が何をするのかを信頼している。

その積み重ねが圧倒的な戦闘効率を生み出していた。

そんな中、前線の通信が慌ただしくなる。

 

 

「何体抜けた?」

 

『4体、いや5体!』

 

 

090は即座に状況を把握した。

包囲網を突破した小型叫竜が、後方へ向かっている。

彼は第13部隊へ通信をつないだ。

 

 

『13部隊は対処を頼む! ……ただし、前に出過ぎないでくれ。下手に動かれるとこちらの連携が崩れてしまう』

 

 

的確な指示だった。

しかし、その言葉は第13部隊の少年少女たちの自尊心を刺激した。

 

 

「けッ! ジャマならジャマってハッキリ言えよ、クソ!」

 

 

ゾロメが不満を露わにする。

 

 

「こんなにお荷物扱いされるなんてね……」

 

 

フトシも肩を落とした。

 

 

「ここまで言われると、ちょっと腹立つな……」

 

 

アイリスのコックピットで、ツグミが苦笑する。

自分たちだって戦うためにここへ来ている。

足手まといだと決めつけられるのは決して気分の良いものではない。

しかし、ミツルは冷静だった。

 

 

「事実でしょう。僕たちはまだ未熟……26部隊におんぶに抱っこですよ」

 

「んだとォ!?」

 

 

ゾロメが食ってかかろうとした、その時。

ミツルの表情が鋭く変わった。

 

 

「来ますよ!」

 

 

闇の向こうから、五体のコンラッド級が飛び出してきた。

地面を蹴り、猛烈な勢いで距離を詰めてくる。

 

 

「各機、迎撃準備! 」

 

 

イチゴの指示が響く。

第13部隊の戦闘が、始まった。

 

 

 

─────

 

 

 

最初に動いたのは、クロロフィッツだった。

両腕のマニピュレーターを格納し、光弾の発射機構を展開する。

次の瞬間、連続した閃光が夜の荒野を照らした。

しかし。

小型叫竜は左右へ素早く跳躍し、光弾を次々と回避していく。

一発も命中しない。

その隙を狙って、アルジェンティアが飛び出した。

俊敏な動きで距離を詰め、叫竜へ攻撃を仕掛ける。

だが、敵は軽やかに身を翻した。

攻撃は空を切る。

勢いのついたアルジェンティアは急には止まれず、進行方向にいたクロロフィッツと派手に衝突した。

 

 

「何やってんです!」

 

「勢いがつきすぎたんだよッ!」

 

 

ミツルの怒声に、ゾロメが叫び返した。

一方、ジェニスタも苦戦していた。

二体のコンラッド級が前後から執拗に機体へ迫る。

重量級のジェニスタは敵の俊敏な動きに対応しきれない。

ルークスパロウを構え、必死に砲撃を繰り返す。

しかし、敵は発射の瞬間を見計らったように跳躍し、攻撃をかわしてしまう。

 

 

「速い……!」

 

 

ココロの声が震えた。

次の瞬間、二体の叫竜が同時に飛びかかってきた。

前方と後方。

それぞれからジェニスタの装甲へ取り付き、動きを封じようとする。

 

 

「ココロちゃんに触るなああああっ!!」

 

 

フトシの絶叫が響く。

しかし、重量級の機体は簡単には振り払えない。

その時だった。

二筋の閃光が、ジェニスタの左右を駆け抜けた。

デルフィニウム。

イチゴとゴローの機体だった。

振り抜かれた双剣が、二体の叫竜を一瞬で切り裂く。

敵の身体が地面へ崩れ落ちる。

 

 

「しっかり!」

 

 

デルフィニウムが倒れかけたジェニスタを支える。

 

 

「あ、ありがとう、イチゴちゃん……!」

 

 

安堵するココロ。

しかし、休む暇などない。

周囲の戦況を確認し、即座に通信を開く。

 

 

「ゾロメ、深追いせずに敵を追い詰めて! スピードあるんだから!」

 

「言われなくても!」

 

「ミツルとツグミは、なるべくジェニスタから離れないでサポート!」

 

「了解!」

 

 

矢継ぎ早に指示を出しながら、デルフィニウムは再び前線へ向かった。

コックピットでは、ゴローが落ち着いた声をかける。

 

 

「お前も焦りすぎるなよ、イチゴ」

 

「……わかってる」

 

 

イチゴは短く答えた。

自分が焦れば、仲間たちにもその焦りが伝わってしまう。

リーダーとして、冷静でいなければならない。

敵は想像以上に速い。

しかも、たった五体を相手にしているだけでこれほど苦戦している。

前線には、まだ無数の叫竜が残っているというのに。

デルフィニウムが接近する一体を切り伏せる。

その直後。

死角となった背後から、二体の叫竜が忍び寄っていた。

ゴローが異変に気づく。

しかし、回避は間に合わない。

鋭い爪が、デルフィニウムへ振り下ろされようとした瞬間。

左右から、二つの影が飛び込んだ。

 

 

「そりゃあ!!」

 

「イチゴの邪魔しないで!!」

 

 

ナオミとクロだった。

ダリアが一体の叫竜へ射撃しコアを貫く。

同時に、グラジオラスがもう一体へ肉薄した。

一瞬の交錯。

二体の叫竜が、ほぼ同時に爆散する。

激しい衝撃が周囲の土砂を巻き上げた。

 

 

「助かった……!」

 

 

イチゴが息を吐く。

ナオミは通信越しに微笑んだ。

クロもいつもの穏やかな表情を浮かべている。

しかし、二機はすぐに次の敵へ向き直った。

戦闘はまだ始まったばかりだった。

一方、前線で指揮を執っていた090は、その光景を視界の端で捉えていた。

 

 

(……大した動きだ。コード015か……あれだけの動きができる10番台が、なぜあのチームに……)

 

 

デルフィニウムの動きは、未熟な部隊の中でも際立っていた。

判断の速さ。

仲間を救援するタイミング。

そして、状況に応じて指示を切り替える柔軟さ。

経験こそ不足しているが指揮官としての素質は十分に感じられる。

だが、090が考えを巡らせている間にも敵は迫っていた。

 

 

『第二波、来ます』

 

「来るぞ、絶対に通すなッ!」

 

 

090は即座に意識を前線へ戻した。

新たな叫竜の群れが夜の闇から姿を現していた。

 

 

◇

 

 

メインパイプの上に佇むストレリチアは、まだ戦闘へ参加していなかった。

開かれたハッチの上に立つゼロツーは、眼下の戦場を眺めていた。

その表情にはどこか退屈そうな色が浮かんでいる。

すぐ後方には、ナインアルファとナインラムダが搭乗する機体が控えていた。

ゼロツーは第13部隊の戦いぶりを見ながら小さく笑った。

 

 

「見てよダーリン。あんな滅茶苦茶な戦い方してる」

 

 

しかし、ヒロには笑う余裕などなかった。

コックピットのシートに座り、胸元を押さえている。

身体の奥から鈍い痛みが絶え間なく押し寄せていた。

呼吸をするだけでも苦しい。

それでも、ヒロは必死に表情を取り繕っていた。

 

 

「……ッ……押されてるの……?」

 

 

途切れがちな声。

ゼロツーはそんなヒロへ視線を向けることなく答えた。

 

 

「お行儀が良い連中のおかげでなんとかなってるよ……でも、少しまずいのが来てる」

 

「え……どういう、こと──」

 

 

ヒロが問いかけようとした、その時だった。

全機の通信回線に、ハチの声が割り込んだ。

 

 

『──全機へ警告。ワームタイプの叫竜が接近中、 地面に気をつけろ』

 

「ワームタイプ……? なにそれ?」

 

 

ミクが戸惑いの声を上げる。

第13部隊の面々には、聞き慣れない名称だった。

しかし、第26部隊の反応は違った。

 

 

「このタイミングでワームタイプか……!」

 

 

090の表情が険しくなる。

次の瞬間。

大地が激しく震え始めた。

足元から突き上げるような振動。

地面には亀裂が走り、土砂が跳ね上がる。

 

 

「各機、散開ッ!!」

 

 

090の叫びが響いた。

直後、地面が爆発するように盛り上がった。

轟音とともに飛び出してきたのは、巨大な鈎爪だった。

その先端が量産型フランクスの立っていた場所を薙ぎ払う。

間一髪、隊員たちは左右へ跳躍し直撃を免れた。

しかし、地中から響く振動は止まらない。

巨大な何かが大地の下を移動している。

090は、即座に戦況を分析した。

 

 

(周囲にも、目標βの付近にも、まだ無数のコンラッド級が残っている……この密集地帯でこの叫竜と交戦するのは危険すぎる……だが、かと言って経験の浅い13部隊にワームタイプを任せるわけにはいかない)

 

 

敵の数。

部隊の配置。

プランテーションまでの距離。

それらを瞬時に考慮する。

このままワームタイプと交戦すれば、前線の陣形は崩壊する。

しかし、後方の第13部隊に任せるには危険すぎる。

判断に迷っている時間はない。

090は通信を開いた。

 

 

「ハチ司令、許可を頼む。当部隊でワームタイプを引きつけ、別エリアへおびき寄せて撃破したい」

 

 

ハチはモニターに映し出された戦況を見つめ、眉をひそめた。

第26部隊が前線を離れれば、コンラッド級の大群は第13部隊へ集中することになる。

しかし、このままでは両部隊がワームタイプの攻撃に巻き込まれかねない。

 

 

『……本来、指定された戦闘領域を離脱することは反逆行為とみなされる。だが……現状の戦況を鑑みれば、それが最善の判断か。許可する』

 

「感謝します」

 

 

090は即座に第13部隊へ通信を切り替えた。

 

 

「13部隊、聞こえるか。僕たちは新手の叫竜をひきつける。その間、僕たちが前線を維持することはできない」

 

『了解!』

 

 

イチゴの返答は、迷いのないものだった。

090は僅かに目を細める。

 

 

「……頼んだ」

 

 

短い言葉。

しかし、そこには先ほどとは違う響きがあった。

第13部隊に前線を託す。

その判断を下した以上、彼らを信じるしかなかった。

通信を切ると090は隊員たちへ指示を飛ばした。

26部隊の量産型フランクスが一斉に反転する。

地中から飛び出すワームタイプの身体へ攻撃を加え、注意を引きつけた。

敵が反応し、巨大な身体をうねらせる。

その動きを確認すると、第26部隊は戦闘領域の外側へ向かって移動を開始した。

ワームタイプもその後を追っていく。

そして、ハチの通信が第13部隊へ届いた。

 

 

『──13部隊へ告げる。26部隊はワームタイプの叫竜を引きつけるため、離脱した。13部隊は向かってくる大量のコンラッド級に対処せよ』

 

 

その瞬間、通信回線に動揺が広がった。

 

 

「はあ!? 26部隊無しで、この数を相手にすんの!?」

 

 

ツグミが思わず声を上げる。

 

 

「そんな……いくらなんでも多すぎるよ……!」

 

 

フトシも青ざめた。

無理もなかった。

つい先ほどまで、たった五体の叫竜に苦戦していたのだ。

それが今度は、数え切れないほどの大群を相手にしなければならない。

しかし。

 

 

「へッ! むしろ好都合だ! あの敵全部倒して、俺たちの力を見せつけてやろうぜ!!」

 

 

ゾロメが不敵な笑みを浮かべた。

その声には恐怖を吹き飛ばすような勢いがあった。

いつもなら無謀に聞こえる言葉。

けれど、今は違った。

26部隊にいつまでも守られているわけにはいかない。

自分たちだって戦える。

その気持ちは誰もが胸の奥に抱えていた。

イチゴは、大きく息を吸い込んだ。

 

 

「そうだね……! みんな、行くよ! !」

 

『『おう!!』』

 

 

力強い声が重なる。

第13部隊は、再び戦闘態勢を整えた。

今度は自分たちだけで前線を守らなければならない。

 

 

─────

 

 

 

コンラッド級の大群が押し寄せてくる。

黒い影が幾重にも重なり、地平線を埋め尽くしていた。

デルフィニウムのコックピットで、イチゴは戦況を確認する。

敵の数は多い。

正面から一機ずつ相手にしていては到底間に合わない。

ならば、各機の長所を活かして迎撃するしかなかった。

 

 

「ミツル、ツグミ、フトシは射撃に専念して! 迫る小型叫竜の大群を絶対に近づけさせないで!」

 

『わかった!』

 

『こっから先には通さねェ!!』

 

 

三機が即座に動き出す。

ジェニスタ、クロロフィッツ、そしてアイリス。

それぞれが一定の間隔を保ち、後方に砲撃陣形を形成した。

最初に火を噴いたのはジェニスタのルークスパロウだった。

放たれた砲撃が先頭を走るコンラッド級へ直撃する。

激しい爆発が起こり、周囲の叫竜たちが巻き込まれた。

そこへ、クロロフィッツの両腕から光弾が連続して放たれる。

夜空を切り裂く無数の閃光。

敵が左右へ回避しようとするが今度は逃げ場がない。

さらに、アイリスが両腕のヴァルグレイヴを構え一斉に射撃する。

凄まじい発射音が響き渡った。

両腕から放たれる弾幕がコンラッド級の進路を薙ぎ払う。

さらに肩部と脚部のミサイルポッドが開いた。

次々と飛び出す無数のミサイル。

白い噴射炎が夜空に幾筋もの軌跡を描く。

そして、叫竜の群れへ一斉に着弾した。

巨大な爆炎が荒野を染め上げる。

大地が揺れ、黒い影が次々と吹き飛んだ。

しかし、敵の数はあまりにも多かった。

砲撃をかいくぐり、複数の叫竜が前進してくる。

イチゴは即座に次の指示を出した。

 

 

「ゾロメ、クロ! 射撃をかいくぐって来たのを叩いて! 機動力を活かして!」

 

『おうよ! 任せろ!』

 

『わかったよ!』

 

 

アルジェンティアとグラジオラスが一斉に飛び出した。

二機は砲撃陣形の前方を高速で駆け抜ける。

アルジェンティアが敵の側面へ回り込み、鋭い攻撃を叩き込む。

その反対側では、グラジオラスが滑るように距離を詰めた。

クロの黒い瞳が敵の動きを捉える。

一体の叫竜が弾幕の隙間から飛び出してきた。

敵が踏み込む瞬間に合わせて機体を動かす。

すれ違いざまの一撃。

叫竜は勢いを失い、地面へ崩れ落ちた。

その間にも、別方向から新たな敵が迫ってくる。

アルジェンティアとグラジオラスは互いの進路を妨げることなく、左右へ散開した。

敵を追い詰め、確実に仕留める。

先ほどまでのような無秩序な突撃ではない。

自分たちの役割を理解した動きだった。

そして、陣形の中心では。

 

 

「ナオミと私が、全体のサポートをする!!」

 

『了解!』

 

 

デルフィニウムとダリアが仲間たちの動きを支えていた。

前方へ突出した機体があればすぐにその死角を補う。

砲撃陣形へ接近する敵がいれば迎撃に向かう。

ダリアはエアロヴェイルの上に搭乗し、戦場を立体的に移動していた。

地上からでは見えにくい敵の動きも高所からなら捉えられる。

ナオミは戦況を確認しながら、必要な場所へ素早く駆けつけた。

一方、デルフィニウムは前線を駆け抜け、接近した敵を双剣で切り伏せていく。

イチゴの指示が響き続ける。

誰がどこを守るのか。

誰が敵を引きつけるのか。

どの機体が援護に向かうのか。

それぞれの役割が少しずつ噛み合い始めていた。

先ほどまで五体の叫竜に翻弄されていた部隊。

しかし今は、圧倒的な数の敵を相手にしながら、必死に防衛線を維持している。

未熟さが消えたわけではない。

それでも、確かに変化が生まれていた。

 

 

◇

 

 

ワームタイプを引きつけていた第26部隊は、戦闘領域の外側へ移動していた。

地中を進む巨大な叫竜が、地面を激しく揺らしながら追跡してくる。

090は周囲の状況を確認した。

第13部隊との距離は十分に開いている。

これなら、ワームタイプの攻撃に仲間たちを巻き込む危険は少ない。

その時、後方の戦況が通信モニターに映し出された。

第13部隊。

砲撃陣形を組み、敵の進行を食い止めている。

その前方ではアルジェンティアとグラジオラスが素早く動き回り、突破してきた叫竜を撃破していた。

さらに、デルフィニウムとダリアが全体を支えている。

090は思わず目を見張った。

 

 

(……良い連携だ。さっきまでたった5体の叫竜に翻弄されていたのに…… 少しずつ敵のスピードに対処し始めている。成長しているのか……この僅かな時間で……!)

 

 

先ほどまでは経験不足が目立っていた。

互いの動きを把握できず、衝突することさえあった。

しかし、今は違う。

敵の速度に慣れ始めている。

そして、各機の特徴を活かした戦い方ができている。

急造の部隊とは思えないほど、連携が改善されていた。

090の胸に僅かな驚きと賞賛が生まれる。

だが、感心している時間はなかった。

今、自分たちが倒すべき敵は目の前にいる。

 

 

「だいぶ引き離せたはずだ! ここで迎え撃つ!!」

 

『『了解!!』』

 

 

隊員たちが一斉に応答した。

次の瞬間。

地中から鈎爪が飛び出した。

凄まじい勢いで量産型の一機へ襲いかかる。

 

 

「くっ……ギリギリか!」

 

 

機体が大きく跳躍する。

巨大な鈎爪がその足元を掠めて通り過ぎた。

しかし、攻撃はそれだけでは終わらなかった。

地表が裂け、巨大な頭部が姿を現す。

円筒状の先端には鋭い刃が幾重にも並んでいた。

それが高速で回転しながら、フランクスたちへ迫ってくる。

 

 

「頭部か! 落ち着いて回避しろ!」

 

 

090の指示が飛ぶ。

隊員たちは即座に散開した。

回転する刃が地面を削り取り、土砂を巻き上げる。

その攻撃を紙一重でかわしながら、量産型フランクスたちが反撃に移った。

ポーンハスタのブレードが一斉に射出される。

次々とワームタイプの装甲へ突き刺さる刃。

そこから伸びるワイヤーが、巨大な身体へ巻き付いていく。

頭部、尻尾。

そして、その間をつなぐ長大な胴体。

複数の方向から拘束し、敵の動きを制限する。

 

 

「ワイヤーをビームにして、 一気に切断するぞ!!」

 

 

090の号令。

直後、ワイヤーにマグマエネルギーが流し込まれた。

光が走る。

細いワイヤーが、眩いビームの刃へと変化していく。

量産型フランクスたちは、互いのタイミングを合わせた。

そして、一斉にワイヤーを引き絞る。

ワームタイプの頑強な装甲が、光の刃によって切り裂かれる。

巨大な頭部と尻尾の装甲が破れ、内部が露出した。

叫竜が激しく身悶えする。

地面が大きく揺れ、土砂が舞い上がった。

しかし、第26部隊の攻撃は止まらない。

 

 

「頭部と尻尾から侵入する! 外の者は抑えろ!」

 

 

三機の量産型がさらにワイヤーを巻き付けた。

機体を地面へ踏ん張らせ、全力で巨大な身体を拘束する。

ワームタイプが暴れるたびに、ワイヤーが激しく軋んだ。

それでも、隊員たちは離さない。

 

 

「コアに到達するまで、そのまま抑えてくれ!!」

 

 

090の叫びが響く。

その直後。

二機の量産型フランクスが切り開かれた装甲の隙間へ飛び込んだ。

頭部と尻尾。

それぞれの方向から、ワームタイプの体内へ突入していく。

外側では三機が必死に敵の巨体を押さえ続けていた。

 

 

◇

 

 

防護壁の上では、ナインアルファが戦場を眺めていた。

モニターには、第13部隊の戦いぶりが映し出されている。

最初の混乱から立ち直り、次第に陣形を整えていく姿。

それを見て、アルファは興味深そうに口元を緩めた。

 

 

「へえ〜、意外とやるんだね。最初あんなにグダグダだったのに」

 

 

軽い調子の声。

しかし、隣の機体に搭乗するナインラムダは、冷静に戦況を分析していた。

 

 

「即座に体勢を立て直した手腕は評価できる。……だが、まだ敵の数が多い。押し込まれるのは時間の問題だ」

 

 

ラムダの視線は、敵の進行状況を追っていた。

第13部隊の動きは改善されている。

それは確かだった。

しかし、敵の数は依然として圧倒的だ。

いくら効率よく撃破しても、後続の叫竜が途切れる気配はない。

弾幕を維持するにも、機体を動かし続けるにも限界がある。

このままでは、いずれ防衛線が崩れる。

ラムダはその可能性を見極めていた。

その通信を、ストレリチアのコックピットでも聞いていた。

ヒロは胸元を強く押さえていた。

痛みは時間が経つにつれて増しているように感じられた。

身体の奥を締めつけられるような感覚。

額には冷たい汗が滲んでいた。

それでも、彼の視線は戦場へ向けられていた。

第13部隊の仲間たちが戦っている。

みんなが、必死に前線を守っている。

その姿を見つめながら、ヒロは唇を噛んだ。

自分も、戦いたい。

仲間たちと同じ場所に立ちたい。

そして、ゼロツーとともに。

もう一度、ストレリチアを動かしたい。

胸の痛みが再び強くなる。

ヒロは小さく息を吐いた。

それでも、目を逸らさなかった。

やがて、静かに口を開く。

 

 

「……なら、俺たちも行こう」

 

 

弱々しい声ではなかった。

痛みに耐えながらも確かな決意が込められていた。

ゼロツーがゆっくりと振り返る。

青緑色の瞳が、ヒロを見つめた。

彼の表情。

その瞳に宿る、揺るぎない意思。

ゼロツーは、しばらく何も言わなかった。

そして。

 

 

「……うん!」

 

 

力強く頷き、ゼロツーはコックピットへ入りハッチを閉める。

ストレリチアの顔に眩い光が灯った。

純白の機体が動き始めた。

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