暗闇の底に意識が沈んでいた。
音も、光も、感覚さえも失われた世界。
その静寂の中で、クロはゆっくりと目を開いた。
目の前には見覚えのある廊下が続いていた。
白く無機質な壁。等間隔に並ぶ扉。冷たい床に反射する淡い光。
ガーデンの廊下だった。
けれど、どこかがおかしい。
人の気配がない。
普段なら聞こえてくるはずの足音も、コドモたちの話し声も、何一つ聞こえなかった。
まるで、世界から自分以外のすべてが消えてしまったかのようだった。
──さっきまでコクピットの中にいたはずなのに、どうしてガーデンの廊下にいるの?
クロは不思議そうに首を傾げた。
叫竜との戦闘。ストレリチアを助けようと飛び出したこと。そして、機体が激しく地面へ叩きつけられたこと。
そこまでは覚えている。
けれど、その後の記憶が曖昧だった。
白く霞む廊下の奥へ視線を向ける。
どこまで続いているのかも分からない、静かな通路。
そのときだった。
「───!!」
背後から声が聞こえた。
クロは驚いて振り返る。
何かを叫んでいる。
誰かを必死に呼んでいるようだった。
けれど、その言葉は遠く、ひどく不鮮明で、聞き取ることができない。
ただ、不思議な感覚だけが胸に残った。
懐かしい。
ずっと昔に聞いたことがあるような、そんな声だった。
廊下の奥から、小さな影が走ってくる。
幼いコドモだった。
こちらへ向かって、必死に手を伸ばしながら走っている。
──誰……?
クロは目を凝らした。
近づいてくるにつれて、その輪郭が少しずつ鮮明になる。
あと少し、もう少しで顔が見える。
そう思った瞬間。
遠くにいたコドモの姿が、眩い光の中へ溶けていく。
クロは思わず手を伸ばした。
しかし、その指先が何かに触れることはなかった。
次の瞬間、意識は再び暗闇へ引きずり戻された。
◇
──ガンッ!!
重い衝突音が、グラジオラスのコックピットに響いた。
「…………っ……」
クロが小さく呻く。
頭が痛い。
鈍器で殴られたような痛みが、意識を取り戻すと同時に襲ってきた。
ぼんやりと目を開ける。
視界が定まらない。
何度か瞬きを繰り返し、ようやく周囲の様子が見えてきた。
傾いた操縦席。
点滅する警告表示。
機体の状態を示すモニターには、各部の損傷が表示されていた。
そして、正面の映像に映っていたのは。
巨大なハンマーが、防護壁へ叩きつけられる光景だった。
その先には、ストレリチアがいる。
獣のような姿へ変貌した機体が、巨大な叫竜によって何度も壁へ打ちつけられていた。
(……ストレリチア……! ヒロ……ゼロツー……!)
クロの目が見開かれる。
助けたはずだった。
叫竜の拳が当たる直前に、ストレリチアを抱えて逃げた。
けれど、自分は着地に失敗して意識を失った。
その間に、二人は再び危険に晒されていた。
それを自覚した途端、胸の奥が急激に熱くなった。
悔しい。
助けたかったのに。
あんなに必死に飛び出したのに。
どうして、まだあの叫竜は二人を傷つけようとしているのだろう。
操縦桿を強く握りしめた。
痛む頭も、身体の重さも、今は気にならなかった。
グラジオラスのツインアイに、再び青い光が灯る。
倒れていた機体が、ゆっくりと起き上がった。
◇
防護壁の上方、そこから戦況を見下ろしていたナインアルファが、動き始めたグラジオラスに気づいた。
「へえ、あの子意外と根性あるね。ラムダもそう思わないか?」
隣に立つナインラムダは答えなかった。
視線は、ただ一点へ向けられている。
「君はもう少し人と会話した方が良いと思うな〜」
アルファが呆れたように肩をすくめる。
しかし、ラムダにはその軽口を聞いている余裕がなかった。
グラジオラスのツインアイ。
青く輝くその奥で、ほんの一瞬だけ、異質な光が走った。
稲妻のような残光。
見間違いかと思うほど短い現象だった。
だが、ラムダは確かにそれを見た。
(……今の光は……)
──偶然なのか、それとも。
ラムダが考えを巡らせている間に、グラジオラスは動き始めていた。
機体のスラスターが激しく噴射される。
地面を蹴ったグラジオラスは、一気に夜空へ舞い上がった。
そして、巨大な叫竜へ向けて急降下する。
「ストレリチアから────離れろオオオオオッ!!!!」
クロの絶叫が戦場を貫いた。
両手に握られたグラディエルが、鋭い軌跡を描く。
グラジオラスは叫竜の上半身をかすめるように通過し、その分厚い装甲へ無数の斬撃を叩き込んだ。
金属質の破砕音。
黒い装甲の表面に、幾筋もの傷が刻まれる。
しかし、叫竜の動きは止まらない。
クロは空中で機体を反転させた。
「あああああぁぁぁぁッ!!」
再び突撃する。
グラディエルが閃くたびに叫竜の装甲が削れていく。
グラジオラスは凄まじい速度で旋回を繰り返し、何度も斬りつけた。
けれど、巨大なハンマーは止まらなかった。
クロの攻撃を受けながらも、叫竜はストレリチアを叩き続ける。
まるで、そんな小さな傷など意にも介していないかのように。
◇
白い雪が降っていた。
どこまでも静かな森。
木々の枝には雪が積もり、足元には柔らかな白が広がっている。
ヒロは、その中に一人で立っていた。
寒さは感じなかった。
風の音も聞こえない。
ただ、雪だけが静かに降り続けていた。
目の前には、一本の大木が立っている。
見覚えのあるその姿を見つめながら、ヒロは不思議なほど落ち着いていた。
ここはどこなのだろう。
そう考えた瞬間、答えが自然と浮かんできた。
──俺は死んだんだ。
恐怖はなかった。
悲しみも、ほとんど感じなかった。
むしろ、どこか満ち足りた気持ちさえあった。
──やれることは、やったよな。
自分の手を見つめる。
かつては、何も掴めないと思っていた手。
フランクスに乗れなくなり、居場所を失ったと思っていた自分。
けれど、ゼロツーと出会ってから、すべてが変わった。
もう一度、空を飛べた。
もう一度、自分にもできることがあると思えた。
短い時間だったけれど。
確かに、生きている実感があった。
ふと、視線の先に人影が見えた。
大木のそばに、ゼロツーが立っている。
彼女はヒロに背を向け、静かに木を見上げていた。
──ゼロツー……見送りに来てくれたのか?君のおかげで、俺は自分の居場所を取り戻すことができた。少しの間だったけど。
ヒロは微笑み、彼女へ向かって手を伸ばした。
ありがとう。
そう伝えようとした。
しかし、その手が途中で止まる。
ゼロツーが横顔を見せた。
その表情にヒロは息を呑んだ。
寂しそうだった。
今にも泣き出してしまいそうなほど、悲しい顔をしていた。
──待ってくれ。なんで……そんな、寂しそうな顔をするんだ
胸の奥に、小さな痛みが走った。
何かがおかしい。
自分は、何か大切なことを見落としている。
そう思った瞬間。
世界が激しく揺れた。
◇
──ガツンッ!!
重い衝撃が、ヒロの身体を揺さぶった。
「……」
意識が現実へ引き戻される。
目の前には、激しく振動するコックピット。
警告表示が点滅し、機体の各部から悲鳴のような軋みが響いている。
そして。
ゼロツーがいた。
彼女は、たった一人で戦い続けていた。
青白い顔。
額や口元から流れる血。
全身に刻まれた傷。
それでも、ゼロツーは叫竜を睨みつけていた。
「コイツゥ……化物の分際でエッ!!!」
激しい咆哮。
ストレリチアの獣じみた四肢が、壁へ押しつけられながらも抵抗を続ける。
しかし、巨大なハンマーが再び叩きつけられた。
ゼロツーの身体が激しく揺れる。
口元から、新たな血が零れた。
──まさか……倒せていなかったのか……!?
ヒロは愕然した。
自分の最後の一撃。
仲間たちが必死に作ってくれた好機。
それでも、叫竜を倒すことはできなかった。
そして今、ゼロツーは一人で戦っている。
──やめろ、ゼロツー……! このままじゃ、君まで死んでしまう……! なんで……なんでそこまでして戦うんだ……!!!
ヒロは手を伸ばそうとした。
しかし、身体が動かない。
胸の奥にはまだ重い痛みが残っていた。
その間にもゼロツーは叫び続ける。
◇
少し離れたメインパイプの上。
ナインアルファは、獣の姿となったストレリチアを見下ろしていた。
「ホラね。やっぱり君は一人がお似合いなんだよ、イオタ……」
その口元には、薄い笑みが浮かんでいる。
隣のナインラムダが、静かに口を開いた。
「……これ以上の暴走は危険だ。回収に移る」
「いや、もう少し見ていたいな」
アルファは軽く手を上げ、ラムダの提案を退けた。
ラムダは黙って戦場を見つめる。
その視線の先では、グラジオラスが叫竜へ執拗な攻撃を続けていた。
一方で、ストレリチアは抵抗するたびに装甲を傷つけられている。
状況は、明らかに危険だった。
それでも、アルファは動こうとしない。
ラムダの表情が僅かに険しくなった。
◇
ゼロツーの背中を見つめながら、ヒロはようやく理解し始めていた。
彼女はずっと一人だった。
誰よりも強く、誰よりも自由に見えて。
けれど、その強さの裏側で、どれほどの孤独を抱えてきたのだろう。
──ゼロツー、君はずっとこうして戦ってきたのか……!?
──パートナーを失うたび、一人取り残され、孤独に苛まれて……。一人じゃ飛ぶこともできないのは……君も同じだったんじゃないか……!
脳裏に、あの日の光景が蘇る。
湖のほとり。
初めて出会った少女。
彼女が、何気ない調子で口にした言葉。
『ボクはいつも一人だよ。この……ツノのせいでね』
あのとき、ヒロはその言葉の意味を深く考えなかった。
けれど、今なら分かる気がした。
ゼロツーは、誰かと一緒に飛びたかったのだ。
一人ではなく、誰かと同じ空を。
──俺は一体何をやっているんだ...! 目の前で、ゼロツーがこんなにも傷つき、ボロボロになっているというのに...ッ!
ヒロの胸に、熱いものが込み上げた。
彼女を助けたい。
もう一度、隣に立ちたい。
その想いだけが、心の奥で燃え上がっていく。
──もう一度、君とストレリチアに乗るんだ。俺の翼は……君のためにあるのだから……!!
ドクン────ッ!!!
心臓が、大きく脈打った。
胸の奥に走ったのは先ほどまでの激痛とは異なる感覚だった。
身体の内側から熱が広がっていく。
青い腫瘍が徐々に薄れていく。
やがて、跡形もなく消えた。
ヒロの身体に力が戻る。
視界が鮮明になった。
目の前では、ゼロツーが限界を迎えようとしていた。
「ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ッ!!!!」
悲痛な絶叫。
ゼロツーが両腕を広げ、残された力を振り絞る。
その背後から、ヒロは静かに手を伸ばし、彼女の身体を強く抱きしめた。
「ダー……リン……?」
ゼロツーの声が震える。
先ほどまで荒れ狂っていた感情が、ふっと静まっていく。
背中に感じる温もり。
自分を包み込む腕。
聞き慣れた声が、すぐそばから響いた。
「俺は君のパートナーだ。……君を、一人にはしないッ!!」
ゼロツーは目を見開いた。
その言葉を確かめるように。
もう一度、胸の奥で繰り返すように。
◇
その頃、グラジオラスはなおも戦い続けていた。
グラディエルによる斬撃が、叫竜の装甲を切り裂く。
しかし、巨大なハンマーは止まらない。
──さっきから何度も攻撃してるのに、なんで止まらないの。こうなったら!
クロは機体を反転させた。
叫竜の正面へ回り込み、スラスターの出力を一気に上げる。
目の前では、巨大なハンマーが再び後方へ引かれていた。
次の一撃が放たれるまで、時間はない。
クロは操縦桿を握りしめた。
グラジオラスが大きく跳躍する。
空中で機体をひねり、鮮やかな宙返りを決めた。
そして、叫竜の頭上から一気に加速する。
「はあああぁぁぁッ!!」
勢いを加えた渾身の蹴りが、巨大なハンマーへ叩き込まれた。
──ドゴォォォンッ!!!
凄まじい衝撃音。
グラジオラスの脚部から伝わった衝撃が、叫竜の上半身を揺さぶる。
巨大なハンマーが押し返され、叫竜の巨体が僅かに後退した。
防護壁への攻撃が止まる。
クロは機体を離脱させ、荒い息を吐いた。
「これなら……どうだ……ッ!」
そのときだった。
背後から、眩い光が溢れ出した。
「なに……!?」
クロが振り返る。
視界を埋め尽くすほどの輝き。
その中心に、ストレリチアがいた。
獣のようだった四肢が形を変え、装甲が本来の位置へ戻っていく。
スタンピードモードが解除されていた。
純白の機体が、再び人型の姿で立ち上がる。
「ヒロ……! 生きてたんだね……!!」
クロの顔に、明るい笑みが広がった。
よかった、本当によかった。
その安堵が、ほんの一瞬だけ警戒を緩ませた。
──ガツンッ!!
「ぐッ!?……ううう……!」
巨大なハンマーが、グラジオラスを襲った。
叫竜はすでに体勢を立て直していたのだ。
グラジオラスは防護壁へ押しつけられ、ストレリチアごと巨大な質量に挟み込まれる。
クロは必死に操縦桿を倒した。
機体の脚部が地面を踏みしめる。
スラスターを噴射し、巨腕を押し返そうとする。
しかし、びくともしない。
(重いいいいぃぃ……!)
装甲が軋む。
警告音が鳴り響く。
このままでは、機体が押し潰される。
そう思った瞬間。
ふっと、圧力が軽くなった。
「あれ……?」
クロが顔を上げる。
すぐ隣に、ストレリチアがいた。
クイーンパイクが、巨大なハンマーへ深々と突き刺さっている。
ストレリチアはそのまま槍をひねり上げた。
──バリバリバリッ──ギシャァァンッ!
分厚い装甲が剥がれ落ちる。
巨大なハンマーの表面に亀裂が走り、内部の構造が露わになった。
さらに、ストレリチアが一気に力を込める。
叫竜の巨体が持ち上がった。
そして。
──ズザザザザァァァンッ!!
巨大な身体が、地面へ叩きつけられた。
土煙が舞い上がる。
その向こうに、槍を構えたストレリチアが堂々と立っていた。
◇
13部隊の誰もが、目の前の光景を信じられなかった。
つい先ほどまで、ストレリチアは完全に沈黙していた。
ヒロの生体反応は低下し、ゼロツーも限界に達していた。
それなのに。
今、純白の機体が立っている。
「ヒロ……あいつ、生きてやがった……!!」
ゴローの声が震えた。
驚きと、抑えきれない喜び。
その両方が混ざり合っていた。
「ヒロ……?」
デルフィニウムのコックピットで、イチゴが呟く。
「ヒロ……なの……?」
ダリアの中では、ナオミが涙に濡れた顔を上げていた。
信じられない。
もう二度と会えないと思ったのに。
ヒロが、生きている。
二人はただ、ストレリチアを見つめていた。
◇
司令室でも、異常事態が報告されていた。
『コード016のバイタル、急上昇……正常値に戻っています!!』
「どういうことなの……!? 」
ナナが驚愕する。
ほんの少し前まで、ヒロの生命活動は停止寸前だった。
それが、突然正常値へ戻ったのだ。
「これは一体……」
ハチも、モニターから目を離せなかった。
その二人の間に、いつの間にか一人の人物が立っていた。
フランクス博士。
「ほおー……」
博士は興味深そうに数値を見つめていた。
その表情からは、驚きよりも強い好奇心が感じられた。
◇
防護壁の上。
ナインアルファは、復活したストレリチアを見下ろしていた。
予想外の光景に、その瞳が僅かに見開かれる。
隣のナインラムダも、無言のまま機体を見つめていた。
ヒロの生体反応が回復し、スタンピードから元に戻った。
何が起きたのか。
ラムダは冷静に状況を整理しようとしたが、その変化はあまりにも急激だった。
そして、視線をグラジオラスへ移す。
先ほど見えた、あの異質な光。
戦場では、予想できない現象が続いていた。
◇
しかし、戦いはまだ終わっていなかった。
倒れた叫竜の内部から、不気味な駆動音が響き始める。
装甲が動き、再び形を変えようとしていた。
「マズイですよ!!」
ミツルが叫ぶ。
「また変形しちゃう!!」
ミクの声に、ゾロメが即座に反応した。
「ヤロー、そうはさせるかよッ!!」
「止めよう、フトシくん!」
「うんっ!!」
アルジェンティア、クロロフィッツ、ジェニスタ、アイリス。
四機が一斉に飛び出した。
その一方で、デルフィニウムとダリアは、まだ動けずにいた。
イチゴもナオミも、ヒロが生きているという事実を受け止めきれていなかった。
その二人へ、イクノの声が飛ぶ。
『イチゴッ!! ナオミッ!! しっかり!!』
「ッ……! 今行く!!」
ナオミが我に返った。
涙を拭い操縦桿を握り直す。
今は、喜んでいる場合ではない。
ヒロは生きている。
ならば、今度こそ守らなければ。
「行くぞ、イチゴッ!!」
ゴローが呼びかける。
「……うんっ!!」
イチゴも強く頷いた。
デルフィニウムが立ち上がり、先行する仲間たちの後を追う。
その頃、ツグミはクロへ通信をつないでいた。
『クロ! アイツの隙間に滑り込んで、変形を直接止める! 行くぞッ!!』
「うんっ、わかった!!」
クロが笑顔で応じる。
グラジオラスのスラスターが噴射され、再び機体が加速した。
「今がチャンスだッ!!」
ツグミの声が響く。
「今度はこっちの番だ!!」
フトシが続く。
「俺たちでやるぞッ!!」
ゾロメが叫んだ。
そして、ゴローが全機へ呼びかける。
「もう一度ストレリチアに繋げるんだッ!!」
13部隊が一斉に動いた。
叫竜の各部で、装甲がせり上がり始めている。
巨体が変形するための隙間。
そのわずかな空間へ、フランクスたちが次々と飛び込んでいく。
アルジェンティアが鋭い爪を装甲の継ぎ目へ突き立てた。
クロロフィッツが身体を押し込み、動こうとする外装を押さえつける。
ジェニスタが巨体の一部を支え、変形に必要な動きを妨げた。
アイリスも全身の出力を上げ、せり上がる装甲を力任せに押し戻す。
さらに、デルフィニウムとダリアが加わった。
ダリアはエアロヴェイルの推力を利用して装甲の隙間へ入り込み、機体を楔のように固定する。
グラジオラスも、両腕を広げて巨大な外装を押さえつけた。
──ミシミシ……ッ!
各機の関節が軋む。
凄まじい負荷が全身へ伝わってくる。
それでも、誰一人として離れなかった。
変形しようとする叫竜の動きが徐々に鈍くなる。
13部隊が、巨大な叫竜の変形を阻止していた。
「ヒローーーッ!! ゼロツーーーーッ!!」
イチゴの叫びが響く。
その声に応えるように、ストレリチアが槍を構えた。
目の前には露出したコア。
今度こそ、確実に狙える。
コックピットの中で、ヒロとゼロツーが同じ方向を見つめていた。
もう、どちらか一人ではない。
二人で飛ぶ、二人で戦う。
「飛ぶよッ!!」
「ああッ!!」
ストレリチアが大地を蹴った。
背部のバーニアが激しく噴射される。
純白の機体が、一直線に加速していく。
「ボクたちの翼で!!!!」
「俺たちの翼で!!!!」
二人の声が重なった。
互いの意志が、完全に一つになる。
「「うおおおおおおおおああああああああ!!!!」」
クイーンパイクの先端へ、莫大なマグマ燃料が送り込まれた。
眩い光が槍を包み込む。
ストレリチアが、叫竜のコアへ突撃した。
──ドスゥゥゥゥゥンッ!!!!
槍がコアの中心を貫いた。
硬質な破砕音が響き、コアが砕け散る。
凄まじい衝撃が叫竜の巨体を貫き、その身体が僅かに宙へ浮き上がった。
そして。
クイーンパイクの先端から、莫大なマグマ燃料が解放された。
眩い光が左右へ広がっていく。
それはまるで、巨大な翼だった。
夜の闇を切り裂く、二枚の光の翼。
「な……ッ」
ナインアルファが息を呑んだ。
その表情が、一瞬だけ屈辱に歪む。
隣のナインラムダは、光を見つめていた。
その口元がごく僅かに緩む。
遠くでは第26部隊の面々が呆然と立ち尽くしていた。
090もまた、夜空を見上げていた。
「翼……」
小さな呟きが漏れる。
次の瞬間。
左右へ広がった光が、叫竜の内部へ一気に収束した。
そして。
──チュドォォォォォンッ!!!!!
凄まじい爆発が、夜の戦場を照らし出した。
巨大な叫竜の身体が、内部から弾け飛ぶ。
青い液体が空高く舞い上がり、無数の雫となって降り注いだ。
光の翼が消えたあとも、その輝きは、戦場にいた誰もの瞳に焼きついていた。