突如とした叫竜の襲撃によって中断を余儀なくされた入隊の儀。その続きは翌日、ごく小規模な形で行われていた。
その場にパパたちの姿はなく、列席するオトナたちも数えるほどしかいない。どこか形式的な空気が漂う中、クロは一人、まだ現実感の掴めない頭で立ち尽くしていた。
昨日、グラジオラスのコクピットに乗り込んでからの記憶が、どうにもぼんやりとしているのだ。自分が本当にあの巨大なマシンを操縦したのか、未だに実感が湧かない。それでも、戦闘が終わった後にナオミやツグミが「無理な接続をしたのはダメだけど、一回であそこまで操縦できるなんてすごいよ!」と口々に褒めてくれたため、自分はちゃんと動かせていたんだろうと、どこか他人事のように納得しているのだった。
思考の海に揺られていると、隣に並ぶツグミが肘でつつつと腕を小突いてきた。
「見ろよ。顔が映ったぞ」
小さく笑みを浮かべるツグミの視線を追い、クロは目の前に聳え立つフランクス──イチゴとゴローの搭乗するデルフィニウムを見上げる。ちょうど機体の顔が投影され、その目線がすっと下へ向けられるのが分かった。
二人が無事に起動させたのだとうれしくなり、思わずパッと手を振り返そうとした瞬間、ガシッと右手を力強く掴まれた。
「……」
見ると、隣のナオミがクロの手をがっちりと握りしめたまま、静かに首を横に振っていた。式典の最中だということを察したクロは、小さく口をすぼめながら挙しかけた手をそっと下ろす。
そして、再び視線を上へと向けた。
(……おっきいなぁ……)
そんな素朴でぼんやりとした感嘆を胸に抱きながら、クロは静かに進んでいく儀式の光景を、ただじっと見つめていた。
─────
翌朝、陽光が差し込むベッドで目を覚ましたクロは、ぐーっと両腕を伸ばして軽く体を解した。
周囲に目をやると、すでにイチゴやナオミたちのベッドは空になっている。
(もう起きたんだねぇ……)
まだ頭の奥に残る眠気を振り払うように身を起こし、制服へと着替えると、パタパタと足音を立てて食堂へと向かった。
エントランスホールへと降りていくと、ちょうどヒロやイチゴたちと出くわす。
「クロ、おはよう」
「おはよう、みんな」
短く挨拶を交わし、そのまま全員で食堂へと足を踏み入れた。
今日の朝食は何だろうと楽しみにしていたクロの視界に、ふと見慣れない存在が飛び込んでくる。鮮やかなピンク色の長い髪、異彩を放つ赤色の制服、そして──頭部から生えた二本の赤いツノ。
不思議に思ったクロは、イチゴの袖を軽く引き、指をさしながら尋ねた。
「ねえ、イチゴ。あの子誰?」
「……昨日、私達を助けてくれた子だよ」
イチゴの硬い返答に首をかしげるクロへ、ゴローが声を添える。
「クロは知らなかったかな。最近噂になってるピスティルなんだけど……」
「噂……?」
「まあ、詳しい話は後にして今は朝食にしよう」
ゴローの言葉に頷き、クロは自分の席に着いて料理に手を伸ばした。
一方、離れた席のミクは蜂蜜を大量にかけるのを見て口元を軽く押さえ、忌々しそうに小声で吐き捨てる。
「オエッ……なんでアイツ、まだいんのよ……!」
「変わった人だね。甘いものが大好きなのかな」
「人じゃないでしょ!ほーら......!」
ココロが、料理へ大量の蜂蜜をドバドバと注ぎ込むゼロツーを見つめて呟くが、ミクは人差し指を自分の頭に立てて見せた。
「……叫竜の血を引いているって本当なのかな。それに、0番台コードなんて存在しないはずだけど」
イクノが冷静に分析し、隣のテーブルにいたフトシは「噂とだいぶ違うね」と首を捻る。ゴローは「せっかくの美人が台無しだな」と苦笑交じりに小声で漏らした。
ヒロはひとり、昨日の出来事を思い出していた。血を流していた彼女の姿を。
(あんなに怪我していたのに……もう治ってる)
その時、調子のいい声を上げながらゾロメがゼロツーのテーブルへと近づいていった。
「やあやあやあ! 君の腕前は見せてもらったよ。よかったら、この俺様がいっしょに乗ってあげようじゃんか! あの泣き虫野郎なんかより、うまくやれる自信があるぜ〜? 今度いっしょに──」
言いかけた途端、ゼロツーは手についたベタベタの蜂蜜を、ゾロメの制服の胸元で悪気もなくぬぐった。
「な、なにすんだよぉ!? あ”あ〜俺様の一張羅がぁ……!!」
大惨事に悲鳴を上げるゾロメを、ツグミは(あいつ何やってんだ……)と呆れ顔で見つめながら黙々と食事を進める。
ゼロツーは嘆き叫ぶゾロメなど意にも介さず立ち上がると、まっすぐヒロの元へ歩み寄り、そのとなりの席へ当然のように腰掛けた。
「えっ……」
唐突に距離を詰められ戸惑うヒロを余所に、ゼロツーは手にした蜂蜜の容器を傾ける。
「これ、甘くて美味しいよ。一緒に食べよ」
ヒロのプレートに蜂蜜が注ぎ込まれていく。困惑しながらも、ヒロは意を決したように真っ直ぐゼロツーを見つめた。
「ゼロツー、あの時……教えてほしんだ。俺が本当にフランクスに乗れていたのかどうか」
ゼロツーは指についた甘い蜜をちゅっと舐め取ると、ヒロに向き直り、思わせぶりな笑みを浮かべた。そして指先でヒロの顎を撫で上げながら、甘い声を零す。
「ちゃんと乗れてた。……素敵だったよ、ダーリン」
その言葉が出た瞬間、イチゴの手元でナイフが皿を強く引っ掻き、ナオミの手がピタリと止まった。
「「ダ、ダーリン……?」」
ミクやフトシたちが一斉に声を上げる。
「って何のこと?」
「私もわかんない……」
ざわめく周囲を余所に、ゾロメが「おい! 俺様を無視すんじゃねぇ!」と叫ぶが、誰の耳にも届かない。
黙って朝食を食べていたクロもその聞き慣れない単語が気になり、となりのイクノへと顔を向けた。
「ねえイクノ、ダーリンって何かわかる?」
「……わからないわ」
イクノも小さく首を横に振る。ダーリンとは一体どういう意味なのだろうとクロが首を傾げかけたその時、食堂の扉が静かに開いた。
「はーい、そこまでよ」
通る声とともに足を踏み入れてきたのは、ナナだった。
「ナナさん!」
ココロがパッと表情を明るくする。ナナは全員の視線が集まったのを確認すると、穏やかに語りかけた。
「ガーデンから引き続き、あなた達のお世話係をさせてもらいます。APE本部より、第13都市部隊に配属されたナナです。改めてよろしくね」
「やったー!」とミクやココロが歓声をあげ、ゴローも「やったな!」と顔をほころばせる。そんな中、イチゴが凛とした声で問いかけた。
「ナナ姉……彼女はここに残るんですか?」
「ゼロツーについては本部からの指示待ちなの。基本、あなた達とは別行動よ」
その言葉に反応してゼロツーが振り返る。イチゴは警戒心を視線に込め、ヒロは驚きと落胆の表情を浮かべた。
「さっ、あなたはこっちよ」
ナナがこちらに来るようにと暗に告げたことを察すると、ゼロツーはつまらなさそうに息を吐く。
「なーんだ。こっちの方が居心地良さそうだったのに」
立ち上がって歩き出すゼロツーの背中に、置き去りにされかけたヒロが思わず勢いよく立ち上がった。
「ちょ、ちょっと待って!あの、ゼロツー!……俺を、もう一度君のフランクスに乗せてほしいんだ! 確かめたいことが......!」
悲痛とも取れる叫びに対し、ナナは冷静に制する。
「それはあなたが決めることじゃないの。あなたにも追ってパパ達からの指示があるから、それまで大人しくしていてね」
「パパから!? なんでこいつに……!」
ゾロメが不満をあからさまにする中、ヒロは気まずそうに目を逸らし、イチゴも複雑な胸中で自分の皿へと視線を落としたその時──
様子を眺めていたゼロツーが、楽しげにフッと息を漏らした。ゆっくりとヒロへ歩み寄ると、その瞳に妖しい光を宿し、いたずらっぽく笑みを浮かべる。
「心配ないよ、もう決めてるから」
ヒロの耳元へと顔を寄せ、密やかで、どこか絶対的な確信を込めた声で囁いた。
「──ダーリンは、僕のもの……ってね」
どこか妖艶で、揺るぎない自信をたたえた笑みをヒロに向けた後、ゼロツーは満足そうに踵を返した。そして、促すように立つナナの後をゆっくりと追うようにして、静かに食堂を去っていった。
「何だったの、アイツ……?」
ミクが不満げに呟く中、皿を綺麗に空にしたクロは「ごちそうさま」と手を合わせた。
「私、外に行ってくるね」
トレイを片付け、そのまま素早い足取りで食堂を辞していくクロ。その背中を見送りながら、ナオミは(クロは相変わらずだな〜)と心の中で呟き、静かに食事を続けるのだった。
─────
寄宿舎を出たナナは、ゼロツーを連れてエレベーターに乗り込み、地下都市へと下降していた。
静かに揺れる箱の中で、ナナは先ほど食堂で見せられたゼロツーの奔放な振る舞いを思い返し、軽く眉をひそめる。
「勝手な行動をとられると困るわ」
管理責任者としての厳しい言葉にも、ゼロツーはどこ吹く風といった様子だった。手すりにぐっと背を預け、退屈そうに足を前後へぶらぶらと揺らしながら、悪びれる様子もなく微笑む。
「ダーリンと食事してただけだよ」
「パラサイトたちとの接触は控えて。あの子たちに、あなたは刺激が強すぎるわ」
釘を刺すナナの声を聞き流すように、ゼロツーはガラス越しの景色へと視線を向けた。
ちょうどエレベーターの窓に、地下都市の無機質な街並みが映し出されていく。規則正しく並ぶ建造物を見つめながら、ゼロツーはポツリと呟いた。
「……この中は、息が詰まるなぁ」
─────
APE本部──ラマルク・クラブ。忙しなく変動するグラフを囲むように配置された椅子に、仮面を被った七賢人たちが静かに座していた。
静寂の広がる空間に、機械的で感情の籠もらないアナウンスが響き渡る。
『第13都市にてモホロビチッチ級、一体の出現を確認。ストレリチアがこれを撃破しました』
『燃料の備蓄率が56%まで低下、近隣に停泊中。第26都市とのキッシングを求めています』
無機質な報告を聞き流しながら、首席がゆったりと頷き、低く厳かな声で指示を出した。
「許可する」
『了解。キッシング開始は、175時間後に予定』
再び静まり返った室内で、七賢人の一人が淡々と、だが軽く冗談を言うように口を開いた。
「ストレリチアを第13都市に留まらせたと報告が入っているが……またあの娘の気まぐれか。博士の甘やかしにも程があるぞ」
「だが今回のケース。肉体的に大きな損傷がない、稀な例のように見える」
副首席が静かに推察すると、隣に座る小柄な人物が言葉を重ねる。
「コード016……例のコドモですな」
「あり得ん!」
大柄な男が不満を露わにし、威圧的な声を上げた。
「原因の確かになっていない、特殊検体との交わりは血を汚す!即刻、回収するべきだ」
激しい意見に対し、首席は動じることなく静かに手を挙げ、全体を制した。
「……しかし、先の戦闘で見せたあの輝き。探ってみる価値はある。様子を見よう」
首席の決定に、それ以上の異論が挟まれることはなかった。静寂が再び支配する部屋で、オトナたちの思惑が蠢いていた。
─────
実機での訓練に備え、少年少女たちはそれぞれの更衣室へと足を進めていた。
男子更衣室の室内では、着替えを進めるゴローがとなりのヒロへと視線を向けた。
「あの叫竜……お前もよく戦えたよな。どんな感じだったんだ?」
「……その時のことは、あんまり覚えてないんだ」
ヒロは自分の手のひらを見つめながら、ポツリとつぶやいた。
「でも……感覚だけは、ちゃんと覚えてる」
「そうか。何にせよ、お前が残ってくれて俺は嬉しいよ。ヒロって本番に強いタイプなんだな。先越されちまったな」
ゴローは安堵と嬉しさを滲ませた笑顔を浮かべると、ヒロの背中を肘で軽く突いた。ヒロもそれに気づき、どこか気恥ずかしそうにはにかむ。
そこへ、わざとらしく不機嫌な雰囲気を撒き散らしながらゾロメが割り込んできた。
「オラ、邪魔だよ!」
バシン、と強い力で背中を叩かれ、ヒロは軽くよろめいて振り向く。ゴローもどうしたのかと思いゾロメを見る。
「俺は、お前が俺たちより先に乗ったなんて絶対に認めてねえからな! この泣き虫野郎が、へッ!」
言い捨てるように吐き出すと、ゾロメは大股で去っていく。ヒロとゴローはその背中を無言で見送るしかなかった。
一方、女子更衣室。
ミクがパラサイトスーツの下に着る専用インナーに足を通しながら、不満げに声を張り上げていた。
「なんでこんなに小さいのっ!」
なんとか着替えを終えると、となりのココロが胸元に手を当てて小さく息を吐く。
「コネクトする時の感覚、早く慣れるといいな〜。やっぱり訓練機とは全然違うよね」
「……こんな感じ?」
ミクが忍び足で近づき、ココロの脇腹や腰回りを突く。
「わあっ!?」
唐突な感触に悲鳴を上げたココロに対し、ミクは楽しそうにその体を優しく撫でまわしながら悪戯っぽく笑った。
「ぶよぶよになった全身を、内側からぐちゃぐちゃにかき混ぜられるようなあの感じィ……ほらほら来るよ〜?」
「も〜、くすぐったいよ〜っ」
「……やめてよ。思い出しちゃうから」
壁際で着替えを終えたイクノが、軽く眉をひそめて言う。
そのやり取りを見ていたクロが、ふと思いついたようにイクノへ尋ねる。
「フランクスとコネクトする時って、そんなに凄いの?」
「……否定はしない。普段使わない感覚を引き引き出されるのは事実だから。……そういえば、クロがフランドールとコネクトした時はどんな感覚だったの?」
イクノの問いかけに、クロはあの時の体験を必死に思い出そうと首を傾げた。
「うーん……実はあんまり覚えてないんだけど……すっごく痛かった、かなあ」
「それは、ちゃんとした手順を踏まずに無茶なコネクトをしたからでしょ」
即座にナオミから冷静な突っ込みが飛び、クロは「あ、そういえばそうだった……」と苦笑いする。
「ナオミはどんな感じなの?」とイクノが視線を向けると、ナオミは少し顎に手を当てて考え込んだ。
「機械と自分の身体が繋がるような……なんだか不思議な感覚かな。ミクが言ってたような不快な感じとは全然違うよ」
「そうなのね」
「へえー、パイロットによって違うんだ」
感心するクロの横で、ミクが「なんか怖~い」と身体をすくませた。
その時、台座の上に立ち、レーザー照射でパラサイトスーツを装着していたイチゴが静かに口を開く。
「パイロットはそんな感じなんだね。……こっちも少しキツかったけど、でも、なんだろう……私は不思議と安心感みたいなものを感じたな。誰かと一緒にいるような」
専用インナーに着替え終えたミクとココロが台座の前に歩み寄る。
「え〜? 」
「すごいなあ。私もイチゴちゃんくらい数値が高ければな……きっとゴローくんとの相性も抜群なんだね」
ココロの言葉に、イチゴの脳裏を一瞬だけヒロの顔が掠めた。胸の奥に小さな引っかかりを感じながらも、イチゴはそれを表に出さず、意識して振り払う。
「二桁組のエリート同士、仲がよろしいことで」
ミク軽く意地悪く笑うと、イチゴは「どういたしまして」と素っ気なく返し、台座の扉を閉めようとした。
「でもさ、エリートって言ったらあのヒロよ!」
ミクの一言に、扉を閉めかけていたイチゴの手がピタリと止まる。
「女連れで戻ってきたと思ったら、早速『ダーリン♡』なんて呼ばれちゃってさ♪ あの二人、案外うまくやっていけちゃったり──」
バンッ!!
更衣室全体に激しい衝撃音が響き渡り、ミクの言葉が途切れた。ココロやイクノたちも、一斉に音のした方へと視線を向ける。
そこには、台座の扉を力強く閉めたイチゴの姿があった。
イチゴは扉に手をかけたまま、一切の言葉を発することなく、硬い表情で更衣室を歩き去っていく。
ミクは、去っていく背中をこっそり見送りながら呟いた。
「な、なによ…………」
クロは「イチゴ、どうしたんだろう?」と不思議そうに首を傾げる。ナオミは一人静かに去っていったイチゴの背中を見つめ、イチゴがどれほどヒロのことを案じ、揺れているのかを察し、その複雑な胸中を気遣った。
─────
重厚な駆動音とともに巨大なハッチがゆっくりと解放され、外界の眩い光の中に4機のフランクス、そして3機のフランドールがその巨体を現した。
司令室の巨大モニタ群の前に立つハチが、通信を繋ぐ。
「作戦面での指揮は私が担当する。ただし現場での指揮はリーダー機であるデルフィニウムに任せる。もしデルフィニウムが指揮不能に陥った際は、副リーダー機としてダリアに委ねる」
『了解』
イチゴとナオミの冷静な返答が響く中、アルジェンティアのコクピット内では、ミクが不満げに口を尖らせていた。
「なんであいつがリーダーなのよ……」
司令室のホログラム画面には、7機の同調状況を示すパラキャパシティのメーターや各種モニタが整然と並んでいる。それらを確認したハチが通信をする。
「では、これより訓練を開始する。これが実機を使った初めての訓練となるが、慌てず落ち着いて臨むように。パラサイトはパートナーとの挙動に集中し身を委ねること。フランドールのパイロットも力を抜き、機体との接続に集中せよ。……それではコネクト開始」
ハチの合図とともに、一斉に神経接続が開始された。
「来たっ……!」
覚悟していたとはいえ、身体の奥底を揺さぶられるような未知の感触に、ココロが小さく声を漏らす。ミクもまた、全身を駆け巡る感覚に耐えきれず奇妙な悲鳴を上げてしまう。
「ああっ!んぅ......ッ!」
「へッ!? 変な声出すなっ……!」
「そんなこと言ったって~……!」
ゾロメの軽口にミクが愚痴をこぼし、クロロフィッツに搭乗するイクノも荒い息を吐きながら荒波のような負荷に耐えようと必死に耐える。
ハチはホログラム上のメーターを静かに観察していた。デルフィニウムのメーターは高い数値を安定してキープしている。一方でアルジェンティアの数値は激しく上下し、なかなか安定を見せない。ジェニスタとクロロフィッツはポジティブパルスこそ高く保たれているものの、ネガティブパルスが低い位置で停滞したままだった。
「お互いのわずかな心のズレが、パラキャパシティを大きく変化させる。パートナーを信頼し、受け入れることが不可欠だ」
ハチの冷静な言葉が飛ぶ。
「パイロットも力を抜き、機体との接続に専念せよ」
コクピットでナオミが荒い息を整え、ツグミも「わかってるけど……慣れないんだよなぁ」とぼやきながら、全身の力を抜くよう意識を集中させていた。
そんな中、クロは拍子抜けしたように自機の中でポツンと座していた。
ナオミから聞いていた言葉や、以前のあの引き裂かれるような激痛を思い出し、クロは全身を固くして身構えていたのだ。だが、実際に接続が始まってみると痛みなど一切なく、機械と身体が融け合うような不思議な感触だけが全身を包み込んだ。それは不快どころか、驚くほど自分の身体に自然と馴染んでいく。
(みんな、大丈夫かな……)
クロは心の中で仲間の身を案じつつ、全員のコネクトが完了するのを静かに待った。
「平気か?」
「大丈夫、そのまま続けて」
ゴローの気遣いにイチゴが力強く答えると同時に、デルフィニウムの頭部を覆うフード状の装甲からホログラムのツノが輝き、フランクスの顔が投影される。起動を完了させたデルフィニウムが足音を立てて歩き出し、他のフランクスとフランドールもそれに続いて動き出す。プランテーションから数メートルほど離れた荒野に出ると、各機は横一列に整列した。
「俺、下手じゃなかった……?」
自信なさげに尋ねるフトシに、モニター越しに微笑むココロの顔が映し出された。
「ううん、すごく良い感じだよ」
「本当!? 俺たち、相性バッチリだね!」
安堵したフトシが笑顔を見せると、ココロも嬉しそうに片手で口元を隠しながらくすりと笑った。
それを見ていたゾロメが割り込む。
「おーおー、この程度でいちゃついてんじゃねえよ! 一番早かったのは俺なんだからな! 特にそこの二桁組!」
アルジェンティアがデルフィニウムを力強く指さす。デルフィニウムのモニターにドアップでゾロメの顔が映し出された。
「よく覚えとけよ!」
自信満々に言い放つゾロメに、ゴローは「元気だなぁ……」と苦笑いを漏らす。すると、今度はイクノがモニターに割り込んできた。
「味方で争っても意味がないでしょ」
「へッ! 負け惜しみだな!」
ゾロメは強がるようにアルジェンティアを数回軽やかに跳躍させると、着地と同時に手をついてアクロバティックな姿勢を見せつけた。
「ちょっ、ちょっと!! 乱暴にしないでよ!!」
ミクが悲鳴を上げるのも気にせず動き回った結果、足元をすくわれてバランスを崩してしまう。
「うわあああ!? 」「きゃあああ!?」
豪快に倒れそうになったアルジェンティアの手を、デルフィニウムが間一髪で力強く掴み取った。
「大丈夫?」
「……ありがとう」
不服そうにお礼を言うミクのモニターに、イチゴの厳しい表情が映し出される。
「操縦系のイニシアティブは男子が取っているんだから、フランクスと繋がっている女子のペースも考えて」
そう言い捨てて通信が切れると、ゾロメは「んだよ、偉そうに……」と不満げに呟いた。
一方、ダリアに通信を繋いだクロが「ナオミ、大丈夫?」と心配そうに声をかけていた。ナオミは乱れた息を整えながら答える。
「……大丈夫だよ」
そう返したあと、ナオミはふと思い立ち、クロへ問いかけた。
「クロ……コネクトした感じはどう?」
「変な感覚はあったけど……特に何もなかったよ?」
「えっ……本当に、何もなかったの……?」
「うん、な~んも」
「……そっ、か」
ナオミは予想外の返答に驚きつつも、言葉を呑み込んで自分を納得させた。一瞬、ツグミにクロのことを話そうかと考えかけたが、その思考を切り裂くようにハチの指示が入る。
『各機、デルフィニウムを中心にフォーメーションを組み、前進せよ』
『『了解!』』
全員が一斉に応答し、機体を進め始める。自分たちの移動音が広大な大地に響き渡る中、実機による訓練は陽が沈みきるまで続けられた。
夕暮れの荒野。その遠くで、整列しながら前進訓練を続けるフランクスとフランドールたちの姿があった。
それをプランテーションから、一機の訓練機が静かに見下ろしている。
シューッ、と音を立ててコクピットのハッチが後方へスライドし、中からヒロが顔を覗かせた。
夕風に髪をなびかせながら、遠くで夕陽を浴びて躍動する仲間たちの機体を見つめる。
(……あの時、俺は乗れたんだ)
胸の奥で燻る熱い感覚。自分は飛べない鳥なんかじゃない。
(もう一度ゼロツーと……あのストレリチアに乗ることができたなら......俺は──)
強く握りしめた操縦桿にぐっと力を込め、ヒロはハッチを閉めた。
コクピットの中でレバーを強く引き倒し、己の焦燥を振り払うかのように、ヒロは訓練機を疾走させた。
オリジナル設定の説明欲しいですか?
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いる
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いらない