デビル・イン・ザ・フランドール   作:かるご

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初陣

それぞれスーツに身を包んだコドモたちがブリーフィングルームに集まり、正面に立つハチとナナへ真剣な視線を向けていた。

 

 

「本部から作戦指示があった」

 

 

ハチの第一声に、フトシが思わず不安混じりの声をあげる。

 

 

「ええっ、もう実戦ですか?」

 

「そう緊張しないで。最初からこの前みたいな奴と戦うわけじゃないから」

 

 

ナナが柔らかな声色で微笑むと、肩をすくませていたミクは「よかったぁ……」と安堵の息を漏らし、隣のココロもほっと胸を撫で下ろした。

 

 

「本来ならもっと訓練の時間を設けたいのだけど、そういうわけにもいかないの」

 

 

ナナの言葉と同時に、二人の中央に採掘現場の立体ホログラムが青白く浮かび上がった。ハチが淡々と説明を引き継ぐ。

 

 

「目標はコンラッド級と呼ばれる叫竜だ。サイズはフランクスより一回り小さい」

 

 

ホログラムが切り替わり、討伐対象である小型叫竜の姿が表示される。

 

 

「叫竜はマグマエネルギーの反応に引き寄せられて出現する。現在、近郊レベル8にある採掘現場最深部の二箇所に出没し、被害を出している。自動防壁システムだけでは防ぎきれない状況だ」

 

「だから今回は、二つのチームに分かれて対処することにしたわ」

 

 

ナナがホログラム上のアイコンを示しながら指示を飛ばす。

 

 

「デルフィニウム、アルジェンティア、ジェニスタ、クロロフィッツのAチーム。そしてダリア、アイリス、グラジオラスのBチームで当たってもらうわ」

 

 

編成を聞いていたヒロの胸に、ある疑問が浮かびかけたその時、ナナが静かに言葉を付け加えた。

 

 

「それと今回、ストレリチアの出撃はないわ」

 

「えっ」

 

 

ヒロは息を呑んで顔を弾ませた。イチゴが一瞬だけ、ヒロへ視線を向ける。だがナナは動じず、コドモたち全体を見回して言葉を重ねた。

 

 

「この先、第13都市はあなたたちだけで守っていかなければいけない。今回の叫竜を駆除できないようじゃ、この先やってはいけないわ。心して作戦に当たるように」

 

「現場の指揮は、Aチームはイチゴとゴロー。Bチームはナオミに任せます」

 

 

名指しされた三人は凛とした表情で身を正した。

 

 

「「「はい!」」」

 

「以上だ。各自、搭乗準備を」

 

 

ハチの冷徹な号令が響く中、ヒロはただ一人、固く唇を噛み締めて俯いた。膝の上で強く握りしめた拳が、悔しさとやるせなさで震えていた。

 

デルフィニウムの搭乗口前。互いに向き合うイチゴとゴローの間には、どこか固い空気が漂っていた。それを察したゴローが、明るく声をかける。

 

 

「模擬戦のこと、まだ気にしてるのか? これから実戦だ、気持ち切り替えていこうぜ」

 

「……わかってるよ」

 

 

イチゴは短く答えて視線を落としたが、意を決したように「あのさ」とゴローを見上げた。

 

 

「ん?」

 

 

何かを言いかけ、一瞬だけ口を開いたイチゴだったが、すぐに固く目を閉じて大きく首を振る。胸の中の雑念を振り払うように深く息を吐き出すと、まっすぐな瞳でゴローを見つめた。

 

 

「リーダー、頑張るよ。……操縦、よろしくね」

 

 

差し出されたイチゴの小さな拳。ゴローは頼もしそうに口元を緩めると、「おう、頑張ろうぜ」と己の拳を力強く打ち合わせた。

 

 

 

一方、アルジェンティアのコックピットでは、すでにシートに収まったゾロメがギラギラとした視線で拳を握りしめていた。

 

 

「いよいよ初陣だぜッ!」

 

「ちょっと! また一人で突っ走ったりしないでよね!」

 

 

モニター越しに釘を刺すミクへ、ゾロメは腕を組んで豪快に胸を張る。

 

 

「任せとけって! ガッハッハッハ!!」

 

「……ほんとに分かってんのかよ」

 

 

高笑いするゾロメの背中に、ミクは聞こえないほどの小声で呆れたように吐き捨てた。

 

 

 

その頃、すでにコネクトを完了させていたフランドール隊のコックピットでは、モニター越しに3機の映像が繋がっていた。

 

 

「いよいよ初陣か……」

 

 

どこか硬さの残るナオミの声に、グラジオラスのクロが屈託のない笑みを向ける。

 

 

「腕が鳴るね!」

 

「よっしゃあ!! 俺の実力、見せてやるぜェ!!」

 

 

アイリスのツグミがグッと力強く拳を突き出す。だが、ナオミはその拳が微かに震えているのを見逃さなかった。

 

 

「……ツグミも緊張してるの?」

 

「い、いいや! 武者震いしてるだよッ!!」

 

 

フンスと荒い鼻息を鳴らし、必死に意地を張るツグミ。そのやり取りに、少しだけチームの緊張が解けていく。

 

 

 

だが、クロロフィッツのコックピット内は凄惨な空気に包まれていた。

 

「ハァ……ハァ……っ」

 

激しく息を乱し、額から汗を流して苦しむイクノ。操縦桿を握るミツルは、無表情のまま冷ややかに座していた。

 

 

『どうした、クロロフィッツ』

 

 

ハチからの通信が入ると、ミツルは隠そうともせず吐き捨てる。

 

 

「イクノがダメみたいです」

 

「も、もう少しだから……っ! ちょっと待って……!」

 

 

必死に食らいつこうとするイクノだったが、ミツルは深く眉をひそめ、忌々しそうに吐き捨てる。

 

 

「もう無理ですよ」

 

 

司令室では、オペレーターの悲痛な報告が響いていた。

 

 

『クロロフィッツ、パラキャパシティ基準値未満。さらに低下中』

 

「……ダメか」

 

 

ハチは短く呟くと手元のホログラムを操作し、ヒロとナナが残るブリーフィングルームへと回線を繋いだ。

 

 

『クロロフィッツは残る。Aチームは他3機で任務に当たってくれ』

 

『......ッ、了解です』

 

 

通信越しに届くイチゴの苦渋に満ちた返答。モニターを見つめるヒロの顔に焦りと不安が走り、傍らのナナもまた「少し厳しいわね……」と重い吐息を漏らした。

 

 

 

─────

 

 

 

採掘現場へと到着した6機の機体は、眼前に広がる圧倒的な光景を見下ろしていた。

地上をくり抜いたかのような巨大な縦穴の縁に立ち、ココロがポツリと呟く。

 

 

「おっきい穴……」

 

「どこまで続いてるんだろう」

 

 

ミクも思わず息を呑み、暗闇へと続く深淵を見つめた。

アルジェンティアが縦穴の壁面に沿って無数に走る巨大な配管を指差すと、ゾロメが声を上げる。

 

 

「すっげえな、パイプのおばけだぜ」

 

「こんなものでマグマ燃料を吸い上げていたのか……」

 

 

デルフィニウムのコックピットで、ゴローが関心したように呟いた。人類の生存を支えるエネルギーの源泉たる施設のスケールに、一同は改めて圧倒されていた。

やがて6機は、最深部へと向かう大型の開口エレベーターへと乗り込む。重厚な作動音とともにプラットフォームがゆっくりと下降を始めると、通信機からハチの厳格な声が響いた。

 

 

『レベル8まで降りてもらう。すでに頭に入っていると思うが、叫竜を完全に仕留めるには、奴らの心臓とも言えるコアを、マグマエネルギーを用いた攻撃で直接破壊するしかない。必ずコアを粉砕してとどめを刺せ。……わかったな』

 

『『『『了解!』』』』

 

 

最深部へと到着した6機は力強く応答した。

作戦通りAチームとBチームに分かれ、それぞれ別の地下通路へと足を進めていった。

仄暗い通路を歩きながら、グラジオラスのコックピットでクロが感心したように声を漏らす。

 

 

「採掘現場とか初めて来たけど、こうなってたんだね〜」

 

「確かにな。普段はミストルティンにしかいないから、こういうの見るのは新鮮だな」

 

 

ツグミも同調し、クロは「なんかテンション上がるね!」と弾んだ声をあげた。だが、先頭を行くナオミからすぐに制する声が飛ぶ。

 

 

「二人とも! 今は作戦中よ。いつ叫竜が出てくるかわからないんだから、油断しないで」

 

「「はい……」」

 

 

隊長であるナオミにピシャリと釘を刺され、二人はシュンとした返事を返すしかなかった。

しばらく進むと狭い通路を抜け、ゴツゴツとした岩肌がむき出しになった広大な空間へと行き着いた。ナオミがモニターの反応を見据え、引き締まった声で語りかける。

 

 

「叫竜の反応はこの先にあるわ。気を引き締めて行くよ」

 

 

二人は先ほどまでの浮ついた雰囲気を払拭し、力強く声を揃えた。

 

 

「「了解!」」

 

 

 

─────

 

 

 

一方、ブリーフィングルームでは出撃を取りやめたイクノとミツルが、ナナと向き合っていた。

 

 

「どうしたの? 体調でも悪かった?」

 

 

ナナの問いに、イクノは申し訳なさそうに視線を落としたまま首を横に振る。

 

 

「いえ……そういうわけでは」

 

「いいわ。イクノは以前から、少し数値が不安定なところがあったものね。一応、明日詳しく検査をしましょう」

 

 

気遣うようなナナの言葉を聞いていたミツルが、どこか探るような視線で口を開いた。

 

 

「あの……僕たちのパートナー適性に、何か問題でもあるんじゃないでしょうか」

 

 

その唐突な問いにナナは一瞬だけ目を見開いたが、すぐに平静を取り戻すと穏やかな声で応じる。

 

 

「初めのうちは割とよくあることよ。これくらいでパートナー解消したりはしないから、安心して」

 

 

パートナー変更の可能性を暗に提示していたミツルは、思惑が外れたようにそっぽを向くと、「……そうですか」と冷ややかに呟く。その様子を傍らで見つめていたヒロは、ミツルが抱く不自然な冷たさに密かな疑問を募らせる。

その時、ブリーフィングルームのメインモニターに割り込むように通信が入り、イチゴの声が静寂を破った。

 

 

『叫竜を目視しました。各機展開、配置完了。作戦開始します』

 

 

モニターに現場の映像が映し出される。巨大なマグマ燃料タンクに群がり、びっしりと吸い付くように蠢く小型の丸い叫竜たちの異様で不気味な姿だった。

間髪を入れず、ナオミからの通信もブリーフィングルームに届く。

 

 

『こちらも叫竜を目視しました』

 

 

Bチームが到達した現場でも同様に、マグマ燃料を貪る叫竜の群れがモニター越しに鮮明に浮き彫りとなっていた。

叫竜の姿を確認したBチームは、存在を悟られぬよう通路の縁に身を潜め、慎重に敵の動きを観察していた。

 

 

「なんか……意外とちっちゃいね」

 

「クロ、油断しないで」

 

 

クロの緊張感のない呟きを、ナオミが小さく諫める。するとアイリスのコックピットで、ツグミが「よーし、あの程度の大きさなら俺の集中砲火で消し炭にしてやる!」と勢いよく前へ出ようとした。

 

 

『マグマ燃料が多く入ったタンクに攻撃すると誘爆の危険がある。特に重火器の使用には十分気をつけるように』

 

 

だが、通信越しに容赦のないハチの釘刺しが飛ぶ。

 

 

「うっ……は、はい、わかりました……」

 

 

完全に出鼻をくじかれ、しゅんとしぼむツグミ。今度はグラジオラスのクロが元気よく手を挙げた。

 

 

「じゃあ私がビューンって飛んでって、コアを壊してくるよ!」

 

「待って!」

 

 

ナオミが制止の声をかける。

 

 

「なんで?」

 

「この狭い通路じゃ、グラジオラスの機動力を活かしきれない。それに……叫竜が一体だけとは限らないわ」

 

 

暗闇に佇み、タンクに吸い付く気味の悪い影を見据えながらナオミは呟く。クロは「あ、確かに」と納得したように頷いた。

 

 

「じゃあ、ナオミがやるのか?」

 

 

ツグミの問いにナオミは力強く頷いた。

 

 

「うん。あの叫竜までの距離はそこまでないし、動きも止まってるから狙撃できる」

 

 

ダリアがライフルを構え、照準を合わせる。モニター上にターゲットマーカーが浮かび上がり、叫竜のコアを捉えた。ナオミは一度深呼吸をし、鋭い眼差しで敵を見据えると操縦桿のトリガーを押し込む。

銃口にマグマエネルギーが急速に収束し、一瞬の溜めの後、一筋の閃光が放たれた。回転しながら螺旋を描く光弾が叫竜の体を貫く。コアを穿たれた叫竜は力なく壁面から剥がれ落ち、二度と動かなくなった。

 

 

「やったあ!」

 

「ナイス、ナオミ!」

 

「ふう、よしっ!」

 

 

クロ、ツグミの声が重なりナオミが安堵の息をつく、Bチームのコックピットに安堵の空気が広がる。

 

 

 

一方、別ルートのAチームも同様にターゲットの叫竜を発見していた。

 

 

「なんだ、案外小さいじゃない」

 

 

ミクが肩の力を抜き、ココロも「よかったぁ」と胸を撫で下ろす。

 

 

「油断しちゃダメ、作戦通り行くよ!」

 

 

イチゴの号令とともに、デルフィニウムが疾走する。その背後をジェニスタとアルジェンティアがピタリと追従する。

敵へと接近したデルフィニウムは、手に握った双剣の片方を鋭い叫びとともに突き刺し、タンクにへばりついていた叫竜を強引に引き剥がして放り投げた。

空中に放り出された叫竜の底部から、4本の鉤爪状の足が展開し着地態勢をとろうとする。だがその瞬間、滑り込んだジェニスタが大砲の先に備えられた銃剣を深々と突き刺した。

 

 

「ええええい!!」

 

 

ココロの叫びとともにジェニスタが叫竜を上に掲げ上げると、上空から影が舞い降りる。

 

 

「もらったあ!!」

 

 

跳躍したアルジェンティアが両腕の鉤爪を叩きつけ、凄まじい衝撃とともに叫竜を地面へ突きたてた。そのまま距離を取ってバックステップを距離を取る。

 

 

「すげーぞゾロメ!」

 

「やった!」

 

 

フトシの歓声に合わせ、ブリーフィングルームでモニターを見つめていたヒロも思わず拳を握りしめた。だが──

 

 

「……まだやってないよ。3機もいて何やってんだか」

 

 

入口付近で壁によりかかり、退屈そうに飴を舐めていたゼロツーの声が冷ややかに響いた。その場にいた者たちの視線が一斉に注がれる。

 

 

「ゼロツー……」

 

 

ヒロが呟くが、ゼロツーは意に介さず退屈そうに飴を転がしているだけだった。

現場では、アルジェンティアが気取り気味にポーズを決められていた。

 

 

「へっへー、見たか! 俺様の実力ゥ!!」

 

「ちょっと、恥ずかしいからやめてよ!」

 

 

コネクトしているミクの顔が赤くなり、連動してアルジェンティアの頬も赤く染まる。

 

 

「油断しないで! すぐにコアを潰して!」

 

 

イチゴの焦ったような指示に、ゾロメは「わ、分かってるって!」と肩を回しながら倒れた叫竜に向き直った。

 

 

「叫竜って言っても、大したことなかったぜ」

 

 

軽く言い放ち、鉤爪でコアを突き刺そうとした──その瞬間。

突如として倒れていた叫竜が跳ね起き、アルジェンティアの顔面へと飛びかかった。

 

 

「……え!?」

 

 

あまりに唐突な反撃に対処できず、ミクの悲鳴が上がる。バランスを崩したアルジェンティアは勢いよく仰向けに倒れ込んだ。叫竜は離れず、4本の鉤爪でアルジェンティアの装甲をバリバリと削りながら、顔面に容赦なく攻撃を行う。

フランクスを介してダイレクトに伝わる激痛。着座していたミクの体が跳ね上がりを見せた。

 

 

「きゃはあああ”あ”ッ!!!!」

 

 

鼓膜を突き破るような絶叫。

 

 

「おいミク! ミクッ!!」

 

 

ゾロメが呼びかけるが、ミクは力なく倒れる。コネクトが遮断され、アルジェンティアのコックピットは待機電力の薄暗い明かりに包まれた。

 

 

「こいつーッ!」

 

 

フトシがジェニスタの大砲を放ち、取り付いていた叫竜を強引に吹き飛ばす。剥き出しになったコアへ、デルフィニウムが双剣を突き刺し、ようやく叫竜は動きを止めた。

 

 

「おいミク! 大丈夫か!? ミクッ!!」

 

 

動かなくなったコックピットでゾロメが叫び続ける。イチゴも「ミク、大丈夫!?」と通信を入れるが、返答はない。

そして次の瞬間。

天井の暗がりから、ポタリと不気味な影が落ちてきた。撃破したはずの叫竜と同型の個体だ。

 

 

「もう一匹いたのかよ!!」

 

 

ゴローの悲鳴のような叫び。

 

 

「いや……ちょっと待って……」

 

 

フトシが怯えた声を漏らし、モニターを見上げる。そこには、天井一面の暗闇から雨のように降下してくる大量の叫竜の姿があった。

 

 

「な、何匹いるの……!?」

 

 

ココロが息を呑み、ジェニスタが思わず後ずさる。動かなくなったアルジェンティアを抱え直したデルフィニウムの中で、イチゴが決断を下した。

 

 

「一旦ここを離れよう!」

 

「う、うん……!」

 

 

一方、Bチームも同様に天井の穴からコンラッド級の叫竜たちがボトボトと音を立てて落下してきていた。

 

 

「おいおい……何匹いるんだ、あいつら……?」

 

 

呆れたように引きつった声を漏らすツグミ。アイリスのモニターを見つめるクロは、呑気に指を折り数え始める。

 

 

「ちっちゃいのが一匹、二匹……う〜ん、とにかく沢山だね!」

 

「……っ」

 

 

ナオミはダリアの操縦桿を握り締めながら、蠢く影の群れを鋭い眼差しで見据えた。脳内で瞬時に戦況を計算する。

 

 

(あの数を正面から迎え撃つのはあまりに危険……。しかもこの通路は狭すぎて動きづらいし、お互いの射線が被るから誤射の危険もある)

 

 

どう打ち崩すべきか──ナオミの思考が回転する。その時、ここへ至る途中に通過した岩肌がむき出しになった広大な空間が頭に浮かんだ。

 

 

(……あの広い空間なら! これならいける……!)

 

「ねえナオミ、あの数どうするの?」

 

 

思案に暮れるナオミへ、クロが通信越しに尋ねてくる。ナオミはハッと意識を戻すと、毅然とした声でふたりに呼びかけた。

 

 

「クロ、ツグミ、よく聞いて。作戦を思いついたわ!」

 

「お、思いついたのか!?」

 

「なになに? 教えて!」

 

「まず、私とツグミはここに来る途中にあったあの広間まで引き返して、そこで迎え撃つわ」

 

 

ツグミは「なるほどな」と頷いたが、クロが疑問を口にする。

 

 

「私はどうすればいい?」

 

「クロには叫竜を射撃で引きつけて、私たちが待つ広間までおびき寄せてほしいの」

 

「おびき寄せるだけなら、俺かナオミでもいいんじゃないか?」

 

 

ツグミの問いに、ナオミは首を横に振った。

 

 

「それも考えたけれど、あの叫竜がどれ位速く動けるか分からないわ。それに狭い通路で追ってくる敵とつかず離れずの距離を維持しながら確実に離脱できるのは、この中で一番機動力の高いグラジオラスだけよ」

 

 

納得のいく理由に、ツグミも「たしかに……」と頷く。ナオミは念を押すように言葉を続けた。

 

 

「それじゃあ二人とも、準備ができ次第作戦を開始するよ。ツグミは私についてきて。クロは私の合図が来るまで、ここで待機していてね」

 

「わかった!」

 

「了解だ!」

 

 

ダリアとアイリスは身を翻し、来た道を引き返していく。クロはその背中を見送ると、グラジオラスを壁の影に隠した。右手に構えた剣の刀身をスライドさせ、射撃モードへと変形を完了させる。

モニター越しに叫竜たちの様子を窺うが、穴からの落下は未だ止まらず、その数は優に十数体を超えていた。

 

 

(……叫竜、流石に多すぎじゃない?)

 

 

冷や汗を拭ったその瞬間、ナオミからの通信が届いた。

 

 

『こっちは配置についたよ。始めるタイミングはクロに任せるわ』

 

『いつでもオッケーだ!!』

 

「了解。じゃあ……行くよ!」

 

 

クロはグラジオラスの展開した剣を通路へ突き出し、蠢く群れへと狙いを定めた。

細く鋭い光弾が打ち出され、先頭の一体に直撃。周囲の叫竜たちへ爆風が撒き散らされる。攻撃を受けた叫竜たちは一斉に頭部をこちらへ向けると、津波のような勢いでグラジオラス目がけて雪崩込んできた。

 

 

「うわっ、すごい勢い!」

 

 

クロはすぐさまスラスターを噴射させ、狭い通路を猛スピードでバックドライブする。背後から迫る無数の足音を感じながら、ナオミたちが待つ広間へと一気に滑り込んだ。

目の前には、すでに射撃態勢を整えたダリアとアイリスの姿が映る。

 

 

「叫竜が来たよ!」

 

『よし来たあ!!クロ!! 俺の射線から離れろッ!!』

 

 

ツグミの叫びと同時に、クロはグラジオラスのブースターの出力を上げて高く跳躍し、アイリスの背後へと着地した。

開けた空間へ雪崩れ込んでくる無数のコンラッド級。それらを真っ正面から見据え、ナオミはツグミに合図を送る。

 

 

「ツグミ!!」

 

『よっしゃあ!! くらいやがれええええ!!!』

 

 

ツグミが狂わんばかりの叫び声を上げ、アイリスの両手に構えられたダブルガトリングガン、そして機体内蔵のガトリング砲が一斉に火を噴く。火花とともに狂乱の弾幕が広間を埋め尽くした。

同時にナオミも操縦桿を握りしめる。ダリアの長距離ライフル、シールド内蔵マシンガン、さらにリフターに搭載されたビーム砲──持てる火力を全て解き放つ。

無数の光弾とビームの奔流が、迫り来る叫竜の群れを容赦なく抉り、コアを次々と穿っていく。爆炎と破壊音が広間に吹き荒れた。

しかし、叫竜の数はあまりにも多すぎた。無数の屍を乗り越え、残存した個体が着実に距離を詰めてくる。

 

 

「ツグミ!! ミサイルも使って!!」

 

『おっしゃあああ!!』

 

 

咆哮とともに、アイリスの肩部および脚部、背部に装着されたミサイルコンテナのハッチが一斉に開放された。

 

 

『吹き飛べぇッ!!』

 

 

解き放たれた無数の小型ミサイルが綺麗な軌道を描いて飛び立ち、叫竜の群れの真ん中へと着弾。連続する凄まじい爆風と衝撃波が広間全体を揺らし、敵の進撃を一瞬だけ完璧に足止めした。

だが、煙の向こうから再び蠢く影が現れる。

 

 

「まだまだ来る……! 撃ち続けて!」

 

「私も手伝う!」

 

 

ナオミの果敢な号令のもと、ダリアとアイリス、そしてグラジオラスの射撃が広間に再び轟き渡った。

 

 

 

─────

 

 

 

画面越しにそれぞれの状況を見守っていたナナが呟く。

 

 

「マズイわ……マグマエネルギーの放出で、多数の叫竜を引き寄せてしまってる……!」

 

 

その後ろで、腕と足を組んで優雅に腰掛けていたゼロツーが、どこか他人事のように口を開いた。

 

 

「ほら見なよぉ。最初っからボクを出しておけばよかったのに」

 

「あなた……!」

 

 

怒りを滲ませるナナに、ゼロツーは妖しい笑みを深めてみせる。

 

 

「いいの? あの子たち、みーんな殺られちゃうよ?」

 

「……っ! 俺とゼロツーで、救援に行かせてください!」

 

 

ヒロが必死の面持ちでナナへ叫ぶ。しかし、モニターの通信越しにハチの冷酷な突っぱねが入った。

 

 

『それは無理だ。正式なステイメンでない者に、搭乗許可は出せない』

 

「そんなこと言ってる場合じゃないんじゃないの~? またここの部隊、全滅しちゃうよ?」

 

 

ゼロツーはすっと立ち上がり、一跳びでナナの目の前へ着地し、腰に手を当てて顔を覗き込む。

 

 

「……さっさとボクを、ダーリンと乗せろよ」

 

 

氷のように冷たく落ちた声。ゾクリとするような圧力が部屋を満たす。

だが、ナナは毅然とした態度を崩さなかった。

 

 

「……出撃は認められない」

 

 

ナナの毅然とした拒絶が響き渡り、ブリーフィングルームには重苦しい静寂が広がった。

その張り詰めた沈黙を破ったのは、傍らで冷ややかに事態を見つめていたミツルだった。

 

 

「……ヒロが駄目なら、僕が乗るしかないんじゃないですか?」

 

 

ミツルは静かな、けれど野心を孕んだ声で呟いた。

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