ミツルの唐突な主張に、イクノが声を漏らす。
「ミツル……?」
だが、ミツルはイクノの視線を冷たく無視し、一歩踏み出してナナへと迫った。
「あの大群です。今ストレリチアを出さなければ、皆やられてしまいます。そして、この場に動けるステイメンのパラサイトは僕しかいない……なら、僕がやるしかないでしょう?」
理路整然と語るミツルの言葉にも、ナナは表情を崩さない。
「ストレリチアは普通のフランクスとは違うわ。コネクトすら満足に慣れていないあなたでは──」
「大丈夫ですよ」
ミツルはナナの言葉を遮り、強い口調で畳みかける。
「そこのヒロにだって乗れたんです。それなら僕にだって、乗れないはずがない……!」
ナナは腕を組み、深く思考に沈む。そして隣の赤髪の少女へ視線を巡らせた。
「……ゼロツー、ミツルと乗れる?」
その問いに、ゼロツーはわざとらしく大きなため息をついて見せた。
「聞こえなかったのかなぁ。ボクはダーリンと乗りたいって言ったんだよ」
不機嫌さを隠そうともせず吐き捨てると、ゼロツーはヒロの方へと顔を向ける。
「ダーリンもそう思うでしょ?」
しかし、問いかけられたヒロは視線を落としたまま、固く口を閉ざしていた。
(そう……だけど……ッ)
ヒロの胸中で、黒い渦が猛烈に巻き荒れていた。
(ダメだと言われた後で、俺が何か言ったって状況が変わるのか? 仮に乗れたとして、あの時みたいに動かなかったら……? 俺がわがままを言って場を混乱させるより、ミツルに乗ってもらった方がいいんじゃないか……?)
不安と諦めに背中を押し出されそうになり、ヒロの唇が勝手に動く。
「ゼロツー、ミツルと──」
そこまで口にして、ヒロはハッと息を呑んだ。
目の前のゼロツーが、不安げな瞳で自分を見つめていたからだ。
(俺は……俺は何を言おうとしてたんだ……!)
ゼロツーは自分と乗ることを信じ、待ってくれていた。それなのに、自分は失敗を恐れ、ただ逃げようとしていたのだと気づく。
ヒロは強く目を閉じ、己の弱さを断ち切るように深く息を吸い込んだ。開かれた瞳には、先ほどまでの迷いは一切なかった。
「俺が……ゼロツーと乗ります!!」
凛とした声がブリーフィングルームに力強く響き渡る。
「……!?」
ミツルが驚愕に目を見開く。ゼロツーの表情に大きな変化はなかったものの、隠しきれない驚きと喜びの動揺が滲み出ていた。
ヒロは毅然とした態度でミツルと向き合う。
「ミツル、俺は見たんだ。ゼロツーと乗った前のパートナーがどうなったか」
ヒロの脳裏に、あの日自分の前に力なく倒れたステイメンの姿が鮮明に蘇る。
「全身ボロボロで……血だらけだった」
言葉の重みに、ミツルの額からツーっと冷や汗が伝い落ちる。それでもミツルは必死に虚勢を張った。
「僕が乗れば……そうなるとでも言うんですか!?」
「分からない……! でも、少なくとも俺が乗った時はそうならなかった! ストレリチアがスタンピードになることもなく、叫竜を倒したんだ!!」
ヒロは一歩歩み寄り、ミツルの瞳を真っ直ぐに見据えた。
「俺なら……やれるッ!!」
揺るぎない覚悟を突きつけられ、ミツルは呆然と口ぐもり、言葉を失った。
ヒロはすぐさまナナの方へと振り向く。
「必ずみんなを助けます!! だから……行かせてください!!」
その言葉を聞いたゼロツーの唇が、歓喜に歪んだ。優雅にヒロの肩へと腕を回し、体に重みを預ける。
「……ホラ見なよ。ダーリンもやる気満々だ。大丈夫さ、一回乗ってよく分かってるから。ボク達相性がいいんだ」
そう囁くと、ゼロツーは一転して、ゴミを見るかのような視線をミツルへ向けた。
「外野は引っ込んでなよ」
氷のように冷たい一言。だが、ミツルは拳を強く握り締め、必死に抵抗した。
「な……何を言ってるんですか、あなたたちは……ッ! 聞いたでしょう!? 正式なステイメンじゃないヒロに出撃は許されない!! 僕が行くしかないんですよ……!!」
貼り付けたような笑みを浮かべるミツルだったが、その声は惨めに震え、隠しきれない焦燥が惨死の陰を落としていた。
その光景を、ナナとモニター越しのハチはただ静かに見つめ続けていた。
─────
向かってくる叫竜の群れを次々と粉砕していたBチーム。ついに最後の1体のコアを破壊し、力なく地面へと崩れ落ちたのを確認すると、3人は張り詰めていた肩の力を抜き、深く呼吸を整えた。
「……これで全部か?」
アイリスのコックピットでツグミが荒い息を吐きながら問うと、ナオミは額の汗を軽く拭いながらモニターを確認する。
「反応は途絶えたわ。……そう思いたいけれど」
その時、グラジオラスからクロの不安げな声が滑り込んできた。
「……ねえ、さっきからイチゴに通信をかけてるんだけど、全然返事が来ないの。これって、もしかしたらイチゴ達、すごくピンチなのかな……?」
「……ッ」
ナオミの表情が引き締まる。真面目なイチゴが仲間からの通信を意図的に無視するとは到底思えない。
「……そうかもしれない。イチゴたちが返事を返す余裕が無いほどの危険に陥っているんだわ」
「なら、早く助けに行こうぜ!」
ツグミが叫び、ダリアを動かしてAチームのもとへ駆け出そうとした──その瞬間。
「待って! ツグミ!」
通路の奥から急激に膨れ上がる異様な叫竜反応をキャッチし、ナオミが金切り声をあげた。ツグミも即座に足を止め、前方へと警戒の視線を走らせる。
やがて通路から姿を現したのは、先ほど倒した丸いコンラッド級と似た形状の個体。──だが、その姿が決定的に異なっていた。
それは先ほど相手していた叫竜の5倍以上の巨体。そして、こちらに向けられた頭部には、4方向に異様に裂けた口が蠢いていた。
「おっきい……!」
「何よ……あいつ……ッ」
クロの驚愕の声。ナオミは息を呑み、その禍々しい威容に戦慄した。
ツグミも一瞬その圧倒的な巨体に気圧されたものの、すぐに頭を振り武器を構える。
「大きさがなんだってんだ!! おらああああッ!!」
アイリスのガトリングガンから無数の光弾が放たれる。だが、猛烈な弾幕すら叫竜の分厚い装甲にはあまり効果がなく、進撃速度をわずかに遅らせるのが限界だった。
次の瞬間、叫竜の巨体の底部から不気味な突起が蠢き出し、やがて太くしなやかな4本の鎌状の足が伸長した。
「まずッ!? 離れて、ツグミ!!」
ナオミの直感が警鐘を鳴らす。直後、叫竜の苛烈な反撃が始まった。
一瞬の隙すら与えないほどの速度で振り下ろされる鎌の嵐。アイリスはシールドを必死に構え、機体全体を覆って耐え忍ぶしかない。
「くそッ、速え……っ!」
反撃の機会を探るツグミだったが、絶え間ない連撃の前に完全に防戦一方へと追い込まれていく。
「ツグミ!!」
叫んだクロのグラジオラスが、ブースターを全開にして一直線に突っ込んだ。
「クロ、待って!!」
ナオミの制止も聞かず、グラジオラスは空中へと高く跳躍。攻撃が届かないであろう死角から、一気に急襲を仕掛ける。
すれ違いざま、閃光のような二連斬。
ゴリッという鈍い感触とともに叫竜の側面が深々と切り裂かれ、グラジオラスは勢いよく地面を滑りながら反転、叫竜と正面から対峙した。
攻撃の手が止まった一瞬の隙を、ツグミは見逃さなかった。アイリスのスラスターを即座に噴射させ、バックステップで間合いを取ると、ダリアの傍らへと滑り込む。
「……悪い、ナオミ。足を引っ張った」
ツグミが申し訳なさそうに謝罪を入れる。ナオミは前方の敵を見据えたまま、冷ややかな声で返した。
「……これが終わったら、覚悟しておいてね」
「うぐっ……」
(やべえことしたなぁ……)と心の中で青ざめるツグミ。
だがナオミはすぐに思考を切り替え、新手の叫竜を鋭い観察眼で分析する。
(形状はさっきの小型と酷似しているけれど、アイリスの射撃をあの距離で受けてほぼ無傷……叫竜の体が硬いか、それとも...)
その時、ナオミの視線が叫竜の側面に刻まれた傷跡に留まる。クロが切り裂いたバツ印の亀裂が、再生途中のまま残っていた。
(……待って。あれはグラジオラスの斬撃跡。……なら、射撃よりも剣による直接攻撃が有効……?)
ナオミは瞬時に作戦を構築し、強く声を張り上げた。
「二人とも、聞いて! クロは敵の攻撃を避けながら、剣でダメージを与え続けて! ツグミは私と一緒に間合いを取って射撃支援! グラジオラスの隙を作らせないように援護するわ!」
「わかったよ! よ〜し、今度は私が相手だ!」
クロは気合十分に叫ぶと、グラジオラスのブースターを吹きかして再び叫竜の懐へと突っ込んだ。
「おう! 次は絶対にヘマしねえ!!」
ツグミも叫び、ダリアとともに猛烈な射撃を開始した。
◇
アルジェンティアの薄暗いコックピットの中で、ミクはゆっくりと瞼を開いた。視界が急速に鮮明さを取り戻していく。
「ミ……ミクーーーッ!!」
意識が戻ったことに気づいたゾロメが、感極まった声を張り上げてミクへ思い切り抱きついた。
「ひゃあああ!!?」
突然の事にミクは叫び声をあげ、少し頬を赤らめる。
「ちょっとゾロメ!? なんなのよ、も〜っ!」
だがその直後、コックピットの装甲越しに凄まじい金属の打撃音が響き渡り、二人は思わず首をすくめて冷や汗を流した。
外では、デルフィニウムとジェニスタが全身でシャッターに体重をかけ、溢れ出そうとする叫竜の群れを必死に押し留めていた。
「お前ら!! ミクが生き返ったぞお!!」
「死んでないっつーの!!」
ゾロメの興奮した報告にミクが即座にツッコミを入れると、アルジェンティアが再起動を果たし、機体フェイスにミクの顔が鮮やかに投影された。
『良かった……!』
イチゴの安堵した声が通信越しに弾け、ココロも『ミク、大丈夫?』と声をかけた。
しかしその直後、ジェニスタの機体にズシンと重い衝撃が走った。分厚い防護シャッターが内側から大きく隆起し、吹き飛ばされそうになる。
「平気!!」
ミクが叫ぶと同時にアルジェンティアが駆け寄り、シャッターを抑える列へと加勢した。だが、押し寄せる無数の叫竜の圧力は留まることを知らず、隙間から不気味な爪が覗く。
「でも、このままじゃ……!」
フトシが悲鳴のような声を漏らした瞬間、ハチからの無機質な通信が割り込んだ。
『ストレリチアが救援に出た。耐えられるか?』
「やった! それまで持ちこたえれば……!!」
『うん!!』
フトシが歓声を上げ、ココロもモニター越しに笑みを浮かべて頷いた。
だが、イチゴの表情だけが劇的に強張る。ストレリチアに乗っている人物──その可能性が脳裏をよぎり、気が気ではなくなってしまう。
「誰……? 誰が乗ってるんですか!!?」
悲鳴にも似たイチゴの叫び。その混乱を察し、ゴローが必死に嗜める。
「おいイチゴ! 集中し──ぐッ!?」
次の瞬間、ゴローの手元で操縦桿が恐ろしいほどの重量と抵抗感を増した。激しい負荷に耐えるよう、ゴローは歯を食いしばる。
「急に、重たく……ッ! イチゴ!!」
しかし、イチゴの頭の中はすでにパニックに陥っていた。模擬戦の記憶──ヒロと唇を重ねたあの瞬間の光景がフラッシュバックとなって脳裏を焼き尽くす。一瞬にして全身の脱力感がイチゴを襲う。
バランスを崩したデルフィニウムは膝から崩れ落ち、しゃがみ込んでしまった。
「ちょっと!?」
ミクが驚愕の声を上げた直後、支えを失ったシャッターに叫竜たちの決定的な一撃が加わった。
ドォン!!と凄まじい衝撃波が走り、加勢していたアルジェンティアが前方に軽く吹き飛ばされ、派手に尻もちをつく。
「きゃあッ!? 急に何なのよ!!」
ミクが不満を叫ぶが、すでにシャッターは半壊し、コンラッド級が雪崩れ込んできそうになっていた。
「ここはもう駄目だ! 中央に向かって走るぞ!!」
動揺で指示が出せないイチゴに代わり、ゴローが即座に撤退の号令を下す。
デルフィニウム、ジェニスタ、アルジェンティアの3機は、群がる叫竜の脅威から逃れるように、最初に降り立ってきた中央の広い空間を目指して一進一退の全速力で駆け出した。
─────
重厚な作動音とともに巨大ハッチが滑るように開放され、内部からストレリチアが姿を現した。
コックピットの中で、着座したゼロツーが後方で座るヒロへ視線を送る。
「……どうしたの?」
どこか硬直しているヒロの背中に、優しく問いかける。ヒロは深く息を吐き出し、胸の内に渦巻く緊張と不安を押し殺すように呟いた。
「……動かせるかな、俺に……」
一度は起動させたものの、先の模擬戦での挫折が不吉な影となって脳裏をよぎる。だが、ゼロツーは迷いのない、自信に満ち溢れた笑みを深めて見せた。
「大丈夫さ。ボクとダーリンなら、できる……!」
その瞳に宿る絶対的な信頼が、ヒロの恐怖を疾風のように吹き飛ばしていく。ヒロは短く呼吸を整え、操縦桿を強く握り締めた。
「……ああ、行こう!」
二人の意識がひとつに溶け合い、コネクトが完了する。ストレリチアの機体フェイスにゼロツーの顔が投影され、瞳に鋭い光が宿った。
腰部の高出力バーニアが眩い火花とともに噴出する。重力を置き去りにするように、ストレリチアは蒼穹へと跳躍し、採掘現場へ向けて一気に飛翔していった。
◇
一方、その光景をブリーフィングルームのメインモニターで見送っていたミツルは、やり場のない苛立ちを隠せないままナナへと詰め寄った。
「……なんでヒロに出撃を許可したんですか」
ナナはモニターから目を離さず、冷徹なまでの静けさで応じる。
「戦略的判断よ。ヒロが言った通り、あなたがゼロツーと乗って無事でいられる保証は無いわ。ストレリチアはそれほどまでにリスクの伴う機体なの」
一拍置き、ナナはさらに言葉を重ねた。
「それに、ヒロは無意識だったとはいえ一度ストレリチアで叫竜を撃退した事実がある。彼の言葉通り、深刻な肉体的ダメージも負わずにね」
「ですが…… その後の模擬戦では、彼はまともにデルフィニウムを動かすことすらできなかったんですよ?」
ミツルが噛みつくように反論する。ナナは流れるストレリチアの機影を見つめたまま、静かに呟いた。
「そうね……だからこそ、これでハッキリするわ。ヒロのパラサイトとしての真価が」
「……ッ」
納得できるはずもなかった。ミツルは激しい嫉妬に狂いそうになる感情を殺し、ナナの側頭部を射抜くような視線で睨みつける。
(どうして……どうしてあんな奴が、期待されるんだ……!!)
握り締めた拳が震える。その傍らでイクノは何も言うことができず、ただ沈黙を守りながらミツルの横顔を見つめているだけだった。
◇
3機は叫竜の群れが後ろから雪崩のように向かってくるのを感じながら、降りてきた中央へとひたすら走っていた。そしてようやく辿り着いた広場で、ゴローが声を張り上げる。
「ストレリチアが来るまでなんとか──」
だが、突然前方のジェニスタが立ち止まり、追突しかけたデルフィニウムとアルジェンティアがぶつかり合って、ゴローの言葉は途切れてしまう。
何事かと周囲を見渡すと、降りてきた中央の空間はすでに小型の群れによって隙間なく埋め尽くされていた。
「こ...この数は無理だよ......」
フトシが絶望的な声を漏らす。すると何かを察知したアルジェンティアが、別の地下通路へと視線を向けた。そこから、周囲の小型叫竜とは比較にならない、数倍以上の巨体を誇る叫竜が近づいてくる。
「ちょっと、リーダー......どうすんのよ......!」
ミクが怯えた様子で声を漏らす。しかし、イチゴは声を出すことすらできず、恐怖と後悔で唖然としたまま固まっていた。
(……アタシがあそこで余計なこと考えなかったら、こんな事態にはなってなかったかもしれない……ストレリチアも間に合って……アタシは、リーダー失格だ...)
大型叫竜が目の前のデルフィニウムを喰らおうと、口が裂けるように大きく開く。恐怖で機体を動かせず、このまま食べられてしまうと悟った直後──凄まじい衝撃音が響き渡り、叫竜の体が上から潰されるように大きく歪んだ。
その頭上に降り立ったフランクスを確認し、イチゴたちは揃って声を上げた。
「「「ストレリチア!!」」」
破裂した叫竜の衝撃を受け、3機は寄り添うように倒れ込む。イチゴは縋るように呟いた。
「ヒ...ヒロなの......!?」
すると、ストレリチアのスピーカーから、しっかりと力のこもった声が響いた。
「みんな!!無事か!?」
乗っているのがヒロだと確信したイチゴの顔に、瞬時に歓喜が浮かぶ。
「ヒロ!!」
直後、ストレリチアが腰部のスラスターを激しく噴出させた。デルフィニウムとギリギリですれ違いながら加速する。すれ違う直前、ストレリチアの機体フェイスが勝ち誇るような表情をデルフィニウムに一瞬だけ見せた。
そのまま、デルフィニウムを襲おうとしていた小型叫竜を槍で突き刺し、コアを粉砕する。勢いを殺さず、向かってくる複数の小型叫竜を次々と突き刺し殲滅していく。
その圧巻の戦いぶりを見たゾロメは、思わず声を漏らした。
「す...すげー」
鮮やかな立ち回りに息を呑む3機へ、ハチからの通信が入る。
「その場はストレリチアに任せ、Aチームも地上で待機せよ」
ゴローが返事をしかけるが、ふと思い当たった懸念があり、ハチへ問いかけた。
「待ってください、ナオミ達はどうしたんですか!」
「安心して、Bチームにも同じ命令を出したところよ」
ナナの声が聞こえ、ゴローは安堵の息をつく。3機は地上へ戻るため、上昇する架台へと向かっていった。
─────
一方、時間は戻り、Aチームが動かなくなったアルジェンティアを運びながら叫竜から逃げている時、Bチームは現れた大型叫竜と激しい戦闘を繰り広げていた。
ナオミの適切な指示により戦いやすくはなったものの、コアへ攻撃を当てられずにいた。グラジオラスが叫竜に取り付き、何度も剣を深く突き刺す。だが、コアを砕いた手応えは全く得られず、クロは徐々に苛立ちを募らせていった。叫竜が暴れ出す気配を感じ取ると、すぐに距離を取ったクロがナオミとツグミに向かって叫ぶ。
「もー!コアはどこなの!!」
当たり散らすような叫びを聞きながら、ナオミは冷静に状況を分析していた。
(さっきからライフルで撃っても浅い穴しかできてない。試しに開いた口の中を撃ってみたけど、効果は殆どなかった)
思考しながらもナオミは叫竜への射撃を継続する。すると、放たれた一弾がグラジオラスの残した切り傷に直撃し、深々と穿たれた風穴を作った。その瞬間を目撃したナオミの頭に閃きが走る。あの開いた穴に一点集中で撃ち込めば、奥にあるコアに届くかもしれない。
「二人とも、作戦を変えるわ!クロは叫竜に攻撃し続けて!ツグミはクロが作った切り傷に射撃して!」
ナオミの指示に素早く二人が応じると、ツグミが問いかけた。
「それで、ナオミはどうするんだ?」
「私が開いた傷に打ち込んで、コアを破壊する!」
「なるほど、そういうことか!」
ツグミはナオミの意図を理解すると、即座に行動に移る。気合を入れ直したクロが声を張り上げた。
「よ〜し、行くよッ!!」
グラジオラスがブースターを吹かして叫竜へ突っ込み、その表面へ切り傷を無数に刻み込む。直後、アイリスに搭載してあるミサイルポッドが展開し、ガトリングガンの光弾とともに放たれた大量のミサイルが叫竜の同じ部位へと次々直撃した。
爆煙と爆光が晴れていく中、ナオミは叫竜の巨体に刻まれた無数の傷から、最も深く穿たれたものを必死に探す。傷は見つかった。だが、予想よりあまり深くなくコアへ確実に届くかまだ心もとない。ナオミは迷いを捨て、覚悟を決めた。
ダリアと背部リフターのスラスターを限界まで噴射させ、叫竜の傷口に向けて一直線に突撃する。突っ込むダリアの姿を確認し、ツグミが驚愕の声を上げて射撃を止めた。
「突っ込むのか!?」
ナオミは制止を気にする素振りのみせず、機体の突進力をそのままライフルにのせて傷口へ深く突き刺す。手応えからこれ以上深く刺さらないことを確認すると、リフターに搭載されたエネルギー砲を向ける。
「当たれええええええ!!!」
ナオミの咆哮とともに、ライフルとエネルギー砲からビームが同時に放たれた。閃光が叫竜の内部を焼き尽くし、そのまま反対側へと貫通していく。
ビームの光芒が立ち消え、周囲を一瞬の静寂が包み込む。ずしりと叫竜の巨大な体が傾き始めるのを感じ、ナオミはコアを外し損ねたかと青ざめながら慌ててライフルを引き抜いて距離を取った。だが、大きく開いた風穴の奥を覗き込むと、そこには半分砕け散ったコアの残骸が覗いていた。確実に撃破できたのだと悟り、胸を撫で下ろす。
巨体が力なく崩れ落ちるのを見届けたツグミが、半信半疑で尋ねた。
「や、やったか?」
ナオミは荒い呼吸を軽く整えてから答える。
「倒せたよ。コアが半分かけていたからね」
「やったあああああ!!」
「よっしゃあああああ!!」
クロとツグミの歓声が回線に響き渡る。ナオミが安堵の笑みを浮かべた直後、通信が入った。
「残りはストレリチアに任せ、Bチームは地上で待機せよ」
「了解」
「地上へ戻るよ。クロ、ツグミ」
ナオミが短く返答すると通信が切れた。ナオミはすぐさま二人に声をかける。
「イチゴ達、大丈夫かな」
クロが懸念を口にすると、ツグミが頼もしく言葉を返した。
「大丈夫だろ。向こうにはストレリチアがいるんだ、なんとかなるだろ」
「たしかに〜」
クロの適当な返声を聞きながら、ナオミは心の中でストレリチアに乗っている人物の姿を思い浮かべていた。一体誰が操縦しているのか気になり思わず視線を落とすが、すぐに軽く頭を振って思考をクリアにする。前を行くグラジオラスとアイリスの後を追うように、ナオミはダリアを歩ませた。
◇
デルフィニウム、ジェニスタ、アルジェンティアが地上へ登っていった後も、ストレリチアは押し寄せる叫竜の群れを破竹の勢いで殲滅し続けていた。
そのコックピットの中で、ヒロは湧き上がる強い高揚感に胸を震わせる。
(動いてる...乗れてる...!俺、フランクスに!!)
ストレリチアと同調するゼロツーも、満足気な笑みを浮かべていた。
(そうさ、これがダーリンの力!いいよ...やっぱりキミが、ボクのダーリン...!!もっとだ、もっとキミを味合わせて......)
迫る敵を一通り殲滅し終え、ヒロは荒い呼吸を整えようとした。だが、通路の奥からさらに膨大な小型の群れが再び雪崩のように押し寄せてくる。
「まだこんなにいるのか...!」
ヒロが思わず呟くと、ゼロツーがからかうような声で問いかけた。
「怖気付いちゃった、ダーリン?」
ヒロは余裕の笑みを浮かべて言い返す。
「大丈夫......やれる!!」
「ヘェ......いいね、さすがダーリン」
ゼロツーは嬉しそうに応じると、言葉を重ねた。
「じゃあボクも、ちょっと本気出してみようかな」
ストレリチアの機体フェイスに投影されたゼロツーの顔が、どこか妖しく歪んだ笑みを深める。
直後、ヒロの胸中で心臓が狂ったように強く脈打った。己とゼロツーとの境界線が曖昧になり、自分という存在がゼロツーの意識の深淵へと溶け出していくような猛烈な感覚がヒロを襲う。
だが、ヒロはその奔流の中で笑みすら浮かべて叫んだ。
「でも、嫌じゃないッ!!!」
ゼロツーも同じ官能と衝動を感じ取り、笑みを浮かべる。
「ボクも感じてるよ......ダーリンの匂い、味......ゾクゾクするよ」
一呼吸置いた後、ゼロツーが呼びかける。
「......行こう!!」
「ああ!!!」
ヒロが吠え、ストレリチアは猛然と小型の群れの中へと突っ込んでいった。
◇
モニター越しにその常軌を逸した戦闘を見つめていたミツルは、血が滲むほど固く歯を食いしばる。イクノは思わず口元を指で押さえ、恐怖と感嘆が混ざった声を漏らした。
「強い......これがヒロの力...?」
ナナは腕を組み、険しい表情で画面を見据える。
(かつて振動と呼ばれた人の力が、ストレリチアによってここまで引き出されるなんて......でも)
その横で、ハチが静かに呟いた。
「このままでは......」
語尾を濁した言葉の先を察し、ナナも短く頷く。
「......ええ」
(やりすぎよゼロツー。ヒロを壊すつもり?)
ナナは胸中で危白の念を募らせながら、破竹の勢いで叫竜を散らしていくストレリチアの姿を凝視し続けていた。
◇
小型の群れを再び殲滅した直後、大型叫竜が再び姿を見せた。
「...まだいたんだ...デカイヤツ......」
ゼロツーが不機嫌そうに呟き、ストレリチアの体を動かそうとした。だが、機体からの反応が無い。一瞬の硬直を突かれ、大型叫竜の底部から生えた鎌状の足が振り下ろされる。激しい打撃を受けたストレリチアは、そのまま床へと倒れ込んでしまった。
大型叫竜が容赦なく追撃の姿勢を見せる中、コックピット内でゼロツーが呟く。
「......どうしたの、ダーリン?反応鈍ったよね?」
ヒロは自身の胸元、心臓のあたりを強く抑えながら答えた。
「......ごめんゼロツー、油断した......」
激痛と疲労を力任せにねじ伏せ、ヒロは目を見開いて叫ぶ。
「でも......ここからだ!!」
「いいねダーリン、その調子...!!」
ゼロツーの笑みとともにストレリチアが素早く立ち上がり、槍を大きく薙ぎ払った。一閃された刃が大型叫竜の足を切断し、巨体が大きくバランスを崩す。
その絶好の隙を逃さず、ストレリチアは槍を深く突き立てながら背部スラスターを限界まで吹かし、叫竜へ向かって猛然と突撃した。
槍を深く突き刺したまま、ヒロとゼロツーの咆哮が重なり合う。
「「おおおおおおおおお!!!」」
ふたりの叫びとともに、ストレリチアは叫竜ごと空へ向かうような猛烈な勢いで高く飛び上がり、そのままコアを貫いた。
オリジナル設定の説明欲しいですか?
-
いる
-
いらない