激しい戦闘が終わり、コドモ達が寄宿舎へと戻った頃には、すでに陽は完全に落ち切っていた。
ラウンジに灯りが灯る中、ココロが弾んだ声を響かせる。
「すごかったねー、ヒロくんの戦闘!」
「うん!めちゃくちゃ強かった!!」
フトシも興奮冷めやらぬ様子で頷いた。過酷な防衛戦を終えた直後とは思えないほど、室内は和やかな熱気に包まれている。
「けど、調子は大丈夫なのか?」
ツグミがふと尋ねると、ヒロは自分の身体を確かめるように見下ろしてから答えた。
「調子は...そうだね、なんともないよ」
「良かったじゃん!」
フトシが安堵の声を上げ、ミクも笑みを浮かべる。
「この感じだと、3回殺しの噂も嘘だったみたいね」
「それか異常に相性が良いのかも」
皆の感想に、ヒロはどこか恐縮したように答えた。
「そんな...俺は、ただがむしゃらにやっただけだよ。ストレリチアが動くかどうか直前まで不安はあったし...」
「へっ!調子に乗りすぎんなよ、たまたまうまく乗れただけじゃねーか」
退屈そうに腕を組んでいたゾロメが、吐き捨てるように鼻を鳴らす。
「おい、いちいち水を差さなくても...」
ゴローが呆れ交じりに制しようとしたが、ヒロはスッと立ち上がり、まっすぐにゾロメへ歩み寄っていった。
「ゾロメ」
「ああん?」
雑に睨みつけるゾロメの前で立ち止まり、ヒロは真摯な眼差しで右手を差し出す。
「足手まといにならないよう...俺、頑張るよ!これからもよろしく...!」
予期せぬ行動にゾロメは目を丸くし、少し口ごもった。
「お、おう...」
だが、差し出された手を見つめるうちにすぐさま上機嫌な表情へと変わり、勢いよくその握手に応じた。
「たくっ、しょーがねえなあ!次もしっかりやれよ!」
「調子いいんだから〜」
ミクがからかうと、ゾロメが噛みつく。
「うるせえなあ!俺は別にだなぁ、あれだよ、俺はただこの部隊のエースとしてだな」
「あー、ハイハイ」
ミクの手慣れたあしらいに、ラウンジには久しぶりに明るい笑い声が弾けた。ココロたち数人が顔を見合わせて笑い合い、ナオミもまた柔らかい笑みを浮かべてその光景を眺めていた。
その時、ソファーからクロが勢いよく立ち上がった。
「ヒロもすごかったけど、ナオミもすごかったんだから!!」
元気に声を張り上げるクロに、ナオミは驚きを隠せず目を丸くする。
「く、クロ!?」
「確かに。今回の戦闘、ナオミのおかげで勝てたと言っても過言じゃないからな!」
ツグミが腕を組み、堂々と胸を張って同調する。
「ツグミまで...」
思わぬ展開にナオミは声を漏らしながらじんわりと頬を染めた。いつの間にか元のソファーへ戻っていたヒロとゾロメも、興味深そうに耳を傾ける姿勢を取っている。
クロは身振り手振りを大きく交えながら、現場でのナオミの見事な指揮と判断力を熱弁し始めた。周囲からの注目が自分 に集まっていくのを感じ、ナオミの顔はどんどん赤くなっていく。だがクロはお構いなしに話を続けた。
一通り話し終わると、数人から称賛の声が送られた。そこへイチゴが歩み寄り、ナオミの肩へそっと手を置く。
「凄いね、ナオミ」
「あ...ありがとう......」
慣れない称賛の嵐に戸惑いながらも、ナオミは小さくお礼を言った。
その横顔を見つめながら、イチゴはクロの話を聞いて自分よりも優れた指揮を執っていた事実を突きつけられ、胸の奥で小さな焦燥がうずく。
(アタシもしっかりしなきゃ......!)
イチゴが自分を奮い立たせていると、背後から声を掛けられる。振り向くと申し訳なさそうな顔をしているイクノが肩を落として立っていた。
「ゴメン...役に立てなくて」
「イクノ......気にすることないよ、次頑張ればいいんだから」
イチゴは包み込むような笑顔を見せてフォローする。
「......うん」
イクノが小さく頷いたその時、イチゴのポケットの中で通信端末の電子音が小さく響いた。端末を取り出して画面を確認するイチゴに、イクノが覗き込むように尋ねる。
「呼び出し?」
「うん、ナナ姉から。こんな時間になんだろうね」
イチゴは不審そうに首をかしげながら、表示された通知を見つめていた。
─────
夕食と入浴を終え、寝間着に着替えたツグミは一足遅れて男子棟に繋がる階段を登っていた。すると丁度、これから風呂に入ろうと女子棟から降りてきたナオミとクロに出くわす。
クロはツグミを見上げると、首をかしげて尋ねた。
「今上がったところ?」
「ああ、遅れて入ったからな。上がるのが、だいぶギリギリになったけど...」
少し申し訳なさそうに呟くツグミに対し、ナオミは腰に手を当てて軽くため息をついた。
「何してたか知らないけど、時間は有限。ちゃんと確認してよ」
「わ、わかってるよ......」
ツグミは視線を外し、俯きながら首の後ろをかいた。
その時、玄関扉が開く音が静まり返った館内に響き渡った。
ふと視線を向けると、そこには堂々とした足取りで足を踏み入れてくるゼロツーの姿があった。寄宿舎の中に入り、無機質な内装を冷ややかに見回す。
「...やっぱりどこも同じだね」
つまらなそうに呟いたゼロツーは、階段にいる3人に視線を向けた。
「ねえ、ダーリンはどこ?」
突如現れた危険人物にツグミとナオミが身を構えて警戒する中、クロだけは無邪気に応じようとする。
「ダーリンってヒロのこと?それなら──」
「待って、クロ」
ナオミがすぐさま手をかざして遮った。一歩前へ踏み出し、凛とした強い眼差しをゼロツーに向ける。
「......あなた、どうしてここにいるの?」
ゼロツーは不敵な笑みを浮かべ、気負う様子もなく答えた。
「今日からここに住むことになったんだ。だから、ダーリンの隣がいいなーって」
「なっ......男子の部屋に入るなんて、そんなこと──」
ナオミが言いかけたその時、玄関から息を荒らげたイチゴの声が響き渡った。
「ゼロツー......!」
振り返るゼロツーに向け、イチゴは肩を上下させながら問い詰める。
「どうして勝手にどっか行くの!!」
「キミが遅いからでしょ?」
ケロリと言い放つゼロツーに、イチゴは一瞬眉をひそめる。
「......遅れたのは謝る」
続けて、毅然とした態度で言葉を重ねる。
「あなたには用意された部屋があるから、そこまでアタシが案内する。後、ここにはここのルールがあるから、それに従ってもらうから」
「ふ〜ん...キミってエラそー」
つまらなそうに肩をすくめるゼロツーに、イチゴは感情を押し殺して返した。
「それはどうも」
やり取りを見守っていたナオミは、状況が飲み込めずイチゴへ尋ねた。
「イチゴ、どういう事なの?」
イチゴは少し顔をしかめながら、事情を説明する。
「ナナ姉に頼まれたんだよ。『ゼロツーの処遇が決まるまで、ここに住ませる事になったからよろしく』......って」
ナオミとツグミは一瞬息を呑み、驚きを隠せない表情を浮かべた。しかしゼロツーは二人の反応など気にも留めず、イチゴの後に続いて悠々と女子棟の方へと歩いていってしまう。
二人の後ろ姿が見えなくなったのを確認すると、クロがぽつりと呟いた。
「......ヒロにすごい懐いてるね、前に会ったことがあるのかな?」
ナオミは昔の記憶を掘り起こそうと俯いたが、首を横に振る。
「......分からないわ」
「ナナは何を思って住まわせたんだろうな......」
ツグミが不穏な空気を感じ取ったように呟いたが、すぐに大きく息を吐き出した。
「まあ、今日は疲れたし、俺はもう部屋に戻るよ。じゃあな」
手を軽く振って男子棟へ登っていくツグミを、クロとナオミは見送る。クロは腕を伸ばして伸びをすると、元気に切り替えた。
「私たちもお風呂入って速く寝よ!」
ナオミは固かった表情を和らげ、小さく笑みを浮かべた。
「...うん、そうだね」
二人は並んで階段を降り、温かい湯気が待つ浴場へと向かっていった。
◇
一方、男子棟の一室では、ヒロとゴローが二人で会話を交わしていた。
「......本当に、体調なんともないんだな?ヒロ」
真剣な面持ちで投げかけられた言葉に、ヒロは苦笑いを浮かべて振り返る。
「なんだよゴロー、いきなり」
「パートナー殺しの噂......ゼロツーと3回乗ったら死ぬってのが本当なら、お前はもう2回目だ」
ゴローの眼差しには、隠しきれない心配の色が滲んでいた。ヒロは意識して明るい声声を意識して応じる。
「まだそんな事気にしてたのか?心配ないよ、なんなら今からトレーニングしたいくらい絶好調さ」
笑みを見せるヒロに対し、ゴローはなおも拭いきれない懸念を抱えながら、ぽつりと呟いた。
「......なら、いいんだけどな......」
その時、部屋の扉が静かに開き、風呂を終えたツグミが戻ってきた。
「悪い、遅れた」
ヒロとゴローが軽く返事を返し、それからしばらく三人でとりとめのない会話を交わした。やがて消灯時間を告げるチャイムが鳴り、部屋の灯りが落とされる。室内は深い静寂に包まれ、同室の二人の規則正しい寝息が聞こえ始めた。
しかし、ヒロは一人、ベッドの中で激痛に身をよじらせていた。
心臓のあたりから湧き上がる激しい痛みが絶え間なく波押し寄せ、まぶたを閉じることすら許さない。ヒロは歯を喰いしばり、必死に痛みを堪えるようにベッドのシーツを強く握りしめた。
(はは...勘がいいな、ゴローは......くそ、体が熱い......胸の内側から焼かれてるみたいだ....なんなんだ、これ...!?)
荒くなる息を必死に殺し、寝ているゴローとツグミを起こさないようじっと絶え忍ぶ。灼熱のような苦悶の中で、昼間ブリーフィングルームでゼロツーに誘われたあの瞬間の記憶が、フラッシュバックのように脳裏を駆け巡った。
(......ゼロツーと乗ったから、なのか...!?)
暗闇の中、胸を苛む未知の侵蝕に、ヒロは心の中で悲痛な叫びを上げていた。
─────
同じ時刻、ミストルティンの上層に位置する、プランテーション13の地下司令室。
ホログラムの戦術モニターや、無数のデータ波形が青白く発光する薄暗い空間の中で、ナナとハチは、デスクの前に並んで立っていた。
室内に響くのは、精密機械が刻む無機質なシステム音だけ。
ハチは淡々とキーボードを叩き、一つのパラサイトデータをメインスクリーンへと拡大表示した。そこに映し出されたのは、昼間の戦闘でストレリチアを完璧に駆動させた、コード016――ヒロの生体データだった。
画面に表示されたグラフの数値を見たナナは、思わず息を呑み、手元に持っていたバインダーを強く握りしめた。
「……これ、本当なの……?」
ナナの声は、微かに震えていた。長年、多くのパラサイトの育成と管理に携わってきた彼女にとっても、それはこれまでの常識を根底から覆すような、異常な数値だった。
「ああ。戦闘終了後、および先ほど行った精密検査の最終結果だ」
ハチは表情一つ変えず、淡々と、しかし極めて冷徹な声で告げた。
「どういうこと?この黄血球の異常な数値は......生きてるのが不思議なくらいだわ」
黄血球。パラサイトたちがフランクスを動かすために必須とされる、体内の特殊な細胞。
「原因は不明だ。ゼロツーの黄血球が、コード016の黄血球と拒絶反応を起こさず、むしろ融合を始めている可能性がある。これほどの数値を示しながら、肉体に一切の損傷が見られないステイメンは前例がない」
「.....」
ハチはホログラムを操作し、画面のデータを切り替えた。
次に映し出されたのは、もう一つの新しいデータ。コード960、コード703、コード293――Bチームの三人の生体反応と、機体の同調グラフだった。
「……次に、パイロットの戦闘データだ」
画面に表示された三つのグラフは、驚くほど整った一定の数値で留まり、機体と完全にコネクトしていることを示していた。
ナナは画面を見上げ、少しだけ表情を和らげた。
「こちらは、極めて順調みたいね。三人とも、初陣なのに機体とのコネクトを高い水準で維持しているわ。特にナオミは今回の戦闘で戦術指揮が優れているデータが取れた」
「ああ。機体とコネクトしているパイロットの相性は、我々の予測を大きく上回る良好さを示している」
ハチとナナはデータを眺め、分析を続ける。
すると思い出したように手元のキーボードに指を走らせ、メインモニターに新たなホログラムウィンドウを展開した。そこに映し出されたのは、二つの巨大な移動要塞都市──プランテーションが、ゆっくりと互いを目指して進路をとるシミュレーション映像だった。
「これって...」
「パパたちから正式な通達が来ている」
画面を見上げるハチの横顔に、より一層冷徹な影が落ちる。
「近々、第26部隊のプランテーションとの
「
「......次で3回目か...」
ハチはホログラムの映像を消去し、司令室には元の薄暗い静寂が戻った。
オリジナル設定の説明欲しいですか?
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いる
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いらない