デビル・イン・ザ・フランドール   作:かるご

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しばしの休息と秘密

激しい戦闘が終わり、コドモたちがミストルティンへ戻ってきた頃には、空はすっかり夜の色に染まっていた。

昼間の喧騒が嘘のように、寄宿舎の周囲は穏やかな静けさに包まれている。

窓の外には深い闇が広がり、遠くに見えるプランテーションの構造物には、規則正しく並んだ照明が小さな光を灯していた。

寄宿舎のラウンジには、久しぶりに明るい声が満ちていた。

初めての実戦。

それも、予想を遥かに上回る数の叫竜との戦闘だった。

誰もが無事に帰ってこられたことへの安堵を抱えながら、今日の出来事を興奮気味に語り合っている。

 

 

「すごかったねー、ヒロくんの戦闘!」

 

 

ココロが嬉しそうに両手を合わせた。

 

 

「うん!めちゃくちゃ強かった!!」

 

 

隣に座っていたフトシも、勢いよく頷く。

彼の頭には、今も地下広場で目撃した光景が焼きついていた。

逃げ場を失い、もう駄目かもしれないと思った瞬間。

そこへ現れたフランクス。

ストレリチアが巨大な叫竜を踏み潰し、次々と敵を倒していく姿は、まるで夢のようだった。

 

 

「けど、調子は大丈夫なのか?」

 

 

不意にツグミが口を開いた。

ソファーに腰掛けていたヒロへ、心配そうな視線を向ける。

昼間の戦闘でストレリチアが見せた力は、確かに凄まじかった。

しかし、ゼロツーと搭乗したステイメンがどうなるのか。

その噂を、ツグミも知らないわけではない。

ヒロは自分の身体へ目を落とした。

腕を軽く動かし、指を開いてみる。

少なくとも今は、特別な異常を感じなかった。

 

 

「調子は...そうだね、なんともないよ」

 

「良かったじゃん!」

 

 

フトシが安心したように笑う。

ミクも、ソファーの背もたれへ身体を預けながら口元を緩めた。

 

 

「この感じだと、3回殺しの噂も嘘だったみたいね」

 

「それか異常に相性が良いのかも」

 

 

ココロの言葉に、何人かが頷いた。

ヒロは少し困ったように笑った。

 

 

「そんな...俺は、ただがむしゃらにやっただけだよ。ストレリチアが動くかどうか直前まで不安はあったし...」

 

 

自分が特別なことをしたという実感は、まだ薄かった。

ただ、仲間を助けたかった。

ゼロツーと一緒に戦いたかった。

その一心で操縦桿を握っていたことだけは、はっきりと覚えている。

 

 

「へっ!調子に乗りすぎんなよ、たまたまうまく乗れただけじゃねーか」

 

 

水を差すような声が飛んだ。

ゾロメだった。

腕を組み、わざとらしく顔を背けている。

しかし、ちらちらとヒロの方を窺っている様子からは、彼自身も昼間の戦闘を強く意識していることが分かった。

 

 

「おい、いちいち水を差さなくても...」

 

 

ゴローが苦笑交じりにたしなめようとする。

だが、その言葉を最後まで聞く前に、ヒロが立ち上がった。

そして、ゾロメの前へ歩いていく。

 

 

「ゾロメ」

 

「ああん?」

 

 

ゾロメが眉をひそめる。

何か言い返されると思ったのだろう。

しかし、ヒロが差し出したのは、右手だった。

 

 

「足手まといにならないよう...俺、頑張るよ!これからもよろしく...!」

 

 

その表情には、挑発も皮肉もなかった。

ただ、同じ部隊の仲間として認めてもらいたいという、素直な気持ちがあった。

ゾロメは一瞬、呆気に取られた。

 

 

「お、おう...」

 

 

視線が、差し出された手へ落ちる。

しばらく戸惑っていたものの、やがて口元が大きく緩んだ。

 

 

「たくっ、しょーがねえなあ!次もしっかりやれよ!」

 

 

勢いよく手を握り返す。

ヒロも笑った。

その様子を見ていたミクが、呆れたように肩をすくめる。

 

 

「調子いいんだから〜」

 

「うるせえなあ!俺は別にだなぁ、あれだよ、俺はただこの部隊のエースとしてだな」

 

「あー、ハイハイ」

 

 

ミクは慣れた様子で受け流した。

ゾロメがさらに何か言おうとする。

しかし、その前に周囲から笑い声が上がった。

ココロは口元を押さえ、フトシは声を立てて笑っている。

ゴローも肩の力を抜き、楽しげに二人のやり取りを眺めていた。

ナオミは、その光景を少し離れた場所から見守っていた。

今日の戦闘では、誰が命を落としてもおかしくなかった。

それでも今、こうして全員が笑い合っている。

その事実が、何より嬉しかった。

すると、隣のソファーに座っていたクロが、突然立ち上がった。

 

 

「ヒロもすごかったけど、ナオミもすごかったんだから!!」

 

 

ラウンジに響く大きな声。

ナオミは驚いてクロを見上げた。

 

 

「く、クロ!?」

 

「確かに。今回の戦闘、ナオミのおかげで勝てたと言っても過言じゃないからな!」

 

 

ツグミも力強く頷いた。

 

 

「ツグミまで...」

 

 

ナオミの頬が、じわじわと赤くなっていく。

クロはそんな彼女の様子など気にせず、両手を大きく動かしながら話し始めた。

大型叫竜が現れたこと。

アイリスの射撃が通用せず、ツグミが危険な目に遭ったこと。

グラジオラスの斬撃で敵の装甲に傷をつけたこと。

そして、その傷を利用してコアを破壊するという作戦をナオミが考えたこと。

クロの説明は身振り手振りが大きく、時折自分の動きを再現しようとして、隣に座るツグミへぶつかりそうになっていた。

ツグミも負けじと、アイリスの砲撃がいかに凄まじかったかを語り始める。

しかし、最後には必ずナオミの判断力を褒める言葉へ戻ってくるのだった。

ナオミは両手を膝の上で揃え、俯きがちに二人の話を聞いていた。

普段なら、二人が調子に乗りすぎないよう注意するところだ。

けれど、今日は何も言えなかった。

恥ずかしい。

それ以上に、胸の奥が温かかった。

自分の判断が、二人の役に立った。

そして二人が、それを喜んでくれている。

そのことが、ナオミには何より嬉しかった。

やがてクロの話が終わると、周囲から感心した声が上がった。

ココロが微笑み、フトシも驚いたように頷いている。

その中から、イチゴが歩み寄ってきた。

 

 

「凄いね、ナオミ」

 

 

肩へそっと手を置かれる。

ナオミは顔を上げた。

幼い頃から一緒に過ごしてきた友人が、優しく笑っている。

 

 

「あ...ありがとう......」

 

 

小さな声で礼を言う。

イチゴも微笑み返した。

しかし、その胸中には、別の感情が生まれていた。

クロたちの話を聞いて、ナオミがどれほど冷静に戦況を判断していたのかが分かった。

一方、自分はどうだっただろう。

初めての実戦で動揺し、仲間たちを危険にさらしてしまった。

ヒロのことを考えた瞬間、デルフィニウムを動かせなくなったことも、忘れられない。

ナオミを羨ましく思う気持ちが、なかったわけではない。

けれど、それ以上に、自分の未熟さが悔しかった。

 

 

(アタシもしっかりしなきゃ......!)

 

 

イチゴは胸の内で、改めて決意した。

その時、背後から声をかけられる。

 

 

「ゴメン...役に立てなくて」

 

 

振り返ると、イクノが立っていた。

肩を落とし、申し訳なさそうに目を伏せている。

クロロフィッツを起動できなかったことが、まだ心に引っかかっているのだろう。

イチゴは彼女へ向き直った。

 

 

「イクノ......気にすることないよ、次頑張ればいいんだから」

 

 

自分自身も、今日の戦闘で失敗している。

だからこそ、イクノを責める気持ちは少しもなかった。

 

 

「......うん」

 

 

イクノが小さく頷く。

その時、イチゴのポケットから電子音が鳴った。

通信端末を取り出す。

画面には、ナナからの呼び出しが表示されていた。

 

 

「呼び出し?」

 

 

イクノが尋ねる。

 

 

「うん、ナナ姉から。こんな時間になんだろうね」

 

 

イチゴは首をかしげた。

戦闘報告なら、すでに済ませているはずだった。

それなのに、こんな時間に呼び出す理由とは。

彼女は画面を見つめたまま、少しだけ不思議そうな表情を浮かべていた。

 

 

 

─────

 

 

 

夕食を終え、入浴も済ませたツグミは、男子棟へ続く階段を上っていた。

濡れた髪からは、まだわずかに湯気が立っている。

身体はさっぱりしていたが、昼間の戦闘で蓄積した疲労は残っていた。

重い足取りで階段を上っていると、上の踊り場から二人の少女が降りてくる。

ナオミとクロだった。

これから浴場へ向かうところらしい。

クロはツグミの姿を見つけると、首をかしげた。

 

 

「今上がったところ?」

 

「ああ、遅れて入ったからな。上がるのが、だいぶギリギリになったけど...」

 

 

ツグミは気まずそうに笑った。

すると、ナオミが腰に手を当てる。

 

 

「何してたか知らないけど、時間は有限。ちゃんと確認してよ」

 

「わ、わかってるよ......」

 

 

ツグミは首の後ろをかきながら、視線を逸らした。

クロはその様子を見て、くすくすと笑っている。

いつも通りのやり取りだった。

しかし、その穏やかな空気は、玄関の扉が開く音によって途切れた。

三人が振り返る。

そこに立っていたのは、ゼロツーだ。

彼女は寄宿舎の内部を見回していた。

どこかで見慣れた景色を確認するように、青緑色の瞳を巡らせる。

 

 

「...やっぱりどこも同じだね」

 

 

退屈そうに呟く。

やがて、階段にいる三人へ視線を向けた。

 

 

「ねえ、ダーリンはどこ?」

 

 

突然の問いかけに、ツグミは戸惑った。

ナオミも警戒を隠せない。

ゼロツーが危険な存在だという噂は、二人とも聞いている。

それに、昼間の戦闘でヒロが見せた異常な強さも、彼女と無関係ではないはずだった。

しかし、クロだけは違っていた。

 

 

「ダーリンってヒロのこと?それなら──」

 

 

何の疑いもなく答えようとする。

 

 

「待って、クロ」

 

 

ナオミが手を上げて制した。

一歩前へ出る。

ゼロツーを見据え、慎重に尋ねた。

 

 

「......あなた、どうしてここにいるの?」

 

 

ゼロツーは、そんなナオミの警戒を面白がるように笑った。

 

 

「今日からここに住むことになったんだ。だから、ダーリンの隣がいいなーって」

 

「なっ......男子の部屋に入るなんて、そんなこと──」

 

 

ナオミが思わず声を上げる。

その時、玄関の方から足音が近づいてきた。

 

 

「ゼロツー!」

 

 

イチゴだった。

息を切らし、肩を上下させている。

どうやら、ゼロツーを探していたらしい。

 

 

「どうして勝手にどっか行くの!!」

 

 

ゼロツーは悪びれた様子もなく振り返った。

 

 

「キミが遅いからでしょ?」

 

 

その態度に、イチゴの眉が寄る。

 

 

「......遅れたのは謝る」

 

 

しかし、すぐに表情を整えた。

 

 

「あなたには用意された部屋があるから、そこまでアタシが案内する。後、ここにはここのルールがあるから、それに従ってもらうから」

 

 

ゼロツーは肩をすくめる。

 

 

「ふ〜ん...キミってエラそー」

 

「それはどうも」

 

 

イチゴは短く返した。

感情を表に出さないよう努めているのが、ナオミにも分かった。

二人のやり取りを見ていたナオミは、ようやく口を開く。

 

 

「イチゴ、どういう事なの?」

 

 

イチゴは少し困ったように顔をしかめた。

 

 

「ナナ姉に頼まれたんだよ。『ゼロツーの処遇が決まるまで、ここに住ませる事になったからよろしく』......って」

 

 

ナオミは驚いた。

ツグミも、思わずゼロツーへ視線を向ける。

あのゼロツーが、これから同じ寄宿舎で暮らす。

それは、予想もしていなかった出来事だった。

しかし当のゼロツーは二人の反応など気にしていない。

イチゴの後について、女子棟へ向かっていく。

その足取りは軽く、まるで以前からここに住んでいたかのようだった。

二人の姿が見えなくなると、クロがぽつりと呟いた。

 

 

「......ヒロにすごい懐いてるね、前に会ったことがあるのかな?」

 

 

ナオミは考え込んだ。

ヒロとゼロツー。

二人の関係には、まだ分からないことが多い。

 

 

「......分からないわ」

 

 

ツグミも、階段の先へ視線を向けたまま呟く。

 

 

「ナナは何を思って住まわせたんだろうな......」

 

 

答えは出なかった。

やがてツグミは、大きく息を吐いた。

 

 

「まあ、今日は疲れたし、俺はもう部屋に戻るよ。じゃあな」

 

 

軽く手を振り、男子棟へ上っていく。

クロはその背中を見送ると、両腕を上へ伸ばした。

 

 

「私たちもお風呂入って速く寝よ!」

 

 

ナオミは少し笑った。

 

 

「...うん、そうだね」

 

 

二人は並んで階段を下りていった。

浴場へ続く廊下には、ほのかな温もりが漂っている。

しかし、ナオミの頭からは、ゼロツーの姿がなかなか離れなかった。

 

 

◇

 

 

男子棟の一室。

ヒロはベッドの端に腰掛け、ゴローと話していた。

部屋の中には、夜の静けさが満ち始めている。

昼間の戦闘が遠い出来事のように感じられるほど、寄宿舎は穏やかだった。

 

 

「......本当に、体調なんともないんだな?ヒロ」

 

 

ゴローが尋ねた。

その声には、いつもの気楽さがなかった。

ヒロは少し笑って振り返る。

 

 

「なんだよゴロー、いきなり」

 

「パートナー殺しの噂......ゼロツーと3回乗ったら死ぬってのが本当なら、お前はもう2回目だ」

 

 

ゴローは真剣だった。

ヒロがストレリチアに乗れたことは嬉しい。

しかし、それ以上に、幼い頃からの友人を失いたくなかった。

ヒロはそんなゴローの気持ちを察しながらも、明るく答えた。

 

 

「まだそんな事気にしてたのか?心配ないよ、なんなら今からトレーニングしたいくらい絶好調さ」

 

 

ゴローはすぐには笑わなかった。

ヒロの顔を、確かめるように見つめる。

 

 

「......なら、いいんだけどな......」

 

 

その時、扉が開いた。

 

 

「悪い、遅れた」

 

 

ツグミが部屋へ入ってくる。

入浴を終えたばかりらしく、髪はまだ少し湿っていた。

ヒロとゴローが声をかける。

ツグミも笑って応じ、三人はしばらく他愛のない会話を交わした。

そんな話をしているうちに、消灯時間が近づいてきた。

やがてチャイムが鳴り、室内の照明が落とされる。

三人はそれぞれのベッドへ入った。

ほどなくして、ゴローとツグミの寝息が聞こえ始めた。

しかし、ヒロだけは眠れなかった。

胸が痛む。

最初は、戦闘の疲れが残っているのだと思った。

だが、時間が経つにつれ、その痛みは強くなっていった。

心臓の奥を、熱い何かで焼かれているようだった。

ヒロはシーツを握りしめる。

身体を丸め、必死に声を殺した。

 

 

(はは...勘がいいな、ゴローは......くそ、体が熱い......胸の内側から焼かれてるみたいだ....なんなんだ、これ...!?)

 

 

呼吸を整えようとする。

しかし、息を吸うたびに胸の奥が痛んだ。

額には汗が滲み、背中の寝間着が肌へ張りついていく。

隣のベッドでは、ゴローが眠っている。

ツグミも、疲れ切ったように寝息を立てていた。

二人を起こしたくなかった。

心配をかけたくなかった。

だからヒロは、声を上げずに耐え続けた。

だが痛みは容赦なく押し寄せる。

その中で、昼間の光景が脳裏をよぎった。

ブリーフィングルームで、自分へ手を差し伸べたゼロツー。

ストレリチアのコックピット。

そして、二人の意識が深く重なった瞬間。

 

 

(......ゼロツーと乗ったから、なのか...!?)

 

 

暗闇の中、ヒロは胸元を押さえた。

答えは分からない。

ただ、身体の内側で何かが起きている。

そのことだけは、確かだった。

 

 

 

─────

 

 

同じ頃。

プランテーション13の地下司令室では、ナナとハチが戦闘データの解析を続けていた。

室内にはホログラムの光が漂っている。

複数のモニターには、昼間の戦闘記録やパラサイトの生体情報が表示されていた。

ハチが操作卓へ指を走らせる。

中央の大型スクリーンに、一人の少年のデータが拡大された。

コード016。

ナナは表示された数値を見て、表情を変えた。

 

 

「……これ、本当なの……?」

 

 

声に、信じられないという響きが混じる。

ハチは画面を見つめたまま答えた。

 

 

「ああ。戦闘終了後、および先ほど行った精密検査の最終結果だ」

 

 

ナナはバインダーを握り直した。

画面に表示された黄血球の数値。

それは、彼女がこれまで見てきたどのパラサイトの記録とも大きく異なっていた。

 

 

「どういうこと?この黄血球の異常な数値は......生きてるのが不思議なくらいだわ」

 

 

黄血球。

フランクスを動かすために必要とされる、コドモの身体にのみ存在する謎の多い細胞。

その数値が、通常では考えられない領域に達していた。

ハチは淡々と説明を続ける。

 

 

「原因は不明だ。ゼロツーの黄血球が、コード016の黄血球と拒絶反応を起こさず、むしろ融合を始めている可能性がある。これほどの数値を示しながら、肉体に一切の損傷が見られないステイメンは前例がない」

 

「.....」

 

 

ヒロは、昼間の戦闘で確かにストレリチアを動かした。

しかも、ゼロツーとの搭乗によって深刻な外傷を負っていない。

だが身体の内部では、常識では説明できない変化が起きている。

ハチが画面を切り替えた。

次に表示されたのは、三人のパイロットの記録だった。

コード960。

コード703。

コード293。

それぞれの生体反応と、フランドールとの同調データが並んでいる。

 

 

「……次に、パイロットの戦闘データだ」

 

 

グラフは安定していた。

戦闘中に多少の変動はあったものの、いずれも高い水準で機体とのコネクトを維持している。

ナナは、その数値を見て少しだけ表情を和らげた。

 

 

「こちらは、極めて順調みたいね。三人とも、初陣なのに機体とのコネクトを高い水準で維持しているわ。特にナオミは今回の戦闘で戦術指揮が優れているデータが取れた」

 

「ああ。機体とコネクトしているパイロットの相性は、我々の予測を大きく上回る良好さを示している」

 

 

ハチは三人の記録を確認した。

初めての実戦で、ここまで安定した結果を残したことは評価に値する。

特に、ナオミが率いるBチームは、大型叫竜を相手に連携を崩さず、最終的には独力で撃破している。

フランドールの運用に関する貴重なデータが得られたことは間違いなかった。

しかし、ハチはそれ以上を口にしなかった。

代わりに、別の画面を映す。

そこには、二つの巨大なプランテーションが表示されていた。

互いへ接近していく移動要塞都市。

その間に、複数の予測進路が示されている。

ナナが眉を寄せた。

 

 

「これって...」

 

「パパたちから正式な通達が来ている」

 

 

ハチは画面を見上げた。

 

 

「近々、第26部隊のプランテーションとの燃料交換(キッシング)を行うことが決定した。ストレリチアの処遇を含めて、それまでに結論を出すとのことだ」

 

 

ナナの表情が険しくなる。

 

 

「燃料交換(キッシング)ね......あれは大量の叫竜を呼び寄せる危険があるわ。ナオミ達の適性が高いとはいえストレリチアは戦力としてほしいけど......」

 

 

昼間の戦闘では、ストレリチアの圧倒的な力が証明された。

同時に、その力を引き出すことが、ヒロにどれほどの影響を与えるのかも分かっていない。

次の戦闘で、彼が無事でいられる保証はなかった。

ハチはヒロの生体データを再び表示した。

異常な数値を示す黄血球のグラフ。

そして、ゼロツーとの搭乗記録。

 

 

「......次で3回目か...」

 

 

その言葉を最後に、ハチはホログラムを消した。

青白い光が薄れ、司令室には機械の駆動音だけが残った。

寄宿舎では、仲間たちが眠りについている。

その一方で、ヒロは誰にも知られないまま、胸の痛みに耐え続けていた。

次の戦いが、彼らに何をもたらすのか。

その答えを知る者は、まだ誰もいなかった。

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