【第一章 死の刻印スタート!】異能者が普通にいる世界へ転生した2周目は海外の死亡フラグと戦う!~新たなヒロインたちの悲哀と救い~ 作:初雪空
広間に、沈黙が訪れた。
(今なら、まだ間に合う!)
数人が横に座れるソファで、俺はキスマークをつけたまま、悩む。
メイド服で近くに立ち、ニコニコしている、アドラステア・リーディ・シェラフィールを見た。
(いいな? 上手く、誤魔化せ!)
視線で伝えれば、こくりと頷いたアドラステアは、明るい声で語り出す。
「重遠? 1周目は急いで子供を作っただけですし、今回はゆっくり愛し合いましょうね♪」
音がしない……。
横目でシャーリーを見ると、大口を開いたまま。
(アドラステアも『円卓の騎士』の正騎士だから、面識があるよな?)
そう思っていたら、両手で頭をはさまれ、グイッと向きを変えられた。
「もうっ! 私がいるのだから、他の女を見ないでください!」
正面から向き合っているアドが、可愛らしく怒った。
…………
(もぉおおおおおおっ! またかよぉおおおおおおおっ!?)
せっかく、ロンドンまで来て、これだけ気を遣ってきたのに。
全て、台無し!
「下着も指定されるんですよー! 体位まで作法があるのは、おかしいと思いません? 気持ちよさそうに喘いだらダメ、女が腰を振ったらダメ、四つん這いはもってのほか!」
いきなり王家を否定されても、返事のしようがない。
(知りたくもない豆知識だけ、勝手に増えていく……)
深呼吸した俺は、アドに命じる。
「後でかまってやるから、ひとまず帰れ」
座っている足で小さく円を描いたら、アドラステアが立っている床から落ちる。
「わっ!」
その声だけ残して、彼女は消えた。
ヨシッ!
◇ ◇ ◇
円卓の騎士の拠点である、キャメロット。
非公開の場所に、シャーリーが戻ってきた。
タイムスリップしたような石造りの空間を歩けば、数人のメイドや女騎士を引き連れた同年代の女子が正面から歩いてくる。
脇によけたシャーリーは、簡素な騎士服にユニオン王族を示す装飾が施された人物に頭を下げる。
そのまま通り過ぎると思いきや――
「あっ! この前は、どうも!」
明るい声で、シャーリーは頭を上げる。
ニコニコしている女子は、ウィットブレッド公爵の館で見たメイドだった。
(夢じゃなかった……)
アドラステア・リーディ・シェラフィールが、首をかしげる。
我に返ったシャーリーは、騎士らしい返答へ。
「失礼しました! アドラステア王女殿下にお声がけいただき、光栄です」
「フフフ……。そういえば、あなたは重遠と一緒にいましたよね?」
片腕を胸の前で横にしつつ、軽く頭を下げていたシャーリーは、彼女と見つめ合う。
笑顔のまま、目が笑っていないアドラステアは、低い声になった。
「まさか、重遠に色目を使っていないでしょうね?」
「……い、いえ! 私は、
探るように見ていたアドラステアは、ニパーッと笑う。
「それなら、いいのです! 時間を取らせました」
「……も、もったいない、お言葉」
ふと見れば、騎士服の女子が目に留まった。
アドラステアの従騎士である、クリスタだ。
口元が引きつり、笑っているのか泣いているのか――
「あなたの想い人との仲、私が応援してあげますよ?」
耳元で、アドラステアの囁き声。
驚いたシャーリーが見ると、離れたアドラステアは微笑みつつ、普通の音量へ。
「ですから、私も応援してくださいね?」
「……は、はいっ!」
条件反射で答えたシャーリーが頭を下げれば、一行は立ち去った。
それを確認したシャーリーは、肩を落とす。
「ハ――ッ! つ、疲れた……」
重い足取りで、本来の目的地へ向かう。
(も、もう忘れよう! 王女の色恋沙汰なんて、命がいくつあっても足りないよ)
広い食堂に入れば、見覚えのある顔を見つけた。
貴族の子女だけの空間とあって、高級レストランのような料理が並び、各自でとっていくカフェテリア方式。
他の女子が控えめに選んでいく中で、ステーキ、フレンチフライ(フライドポテト? 丸ごと揚げるの?)、パン、サラダ、チキンサンド、フルーツを積んだ。
ガシャガシャと鳴らしつつ、トレイを運ぶ。
重そうに置いたら、すでに食事をしていた女子が振り向く。
「あら? シャーリーさん……。相変わらず、よく食べますね?」
一口サイズで上品に食べていたセーラは、座ったままで会釈。
隣にドカッと座ったシャーリーが、それに応じる。
「まーね! というか、みんなが食べなさすぎるだけ! 体を動かせば、問題ないのに」
「周りの評判も、ありますよ?」
暗に、他の女子がどう思うのかが問題だと、言った。
シャーリーは、両手を動かしつつ、反論する。
「分かるけど……。これだけメニューがあるのに、もったいない」
苦笑したセーラは、食べてから喋る。
「そういえば、任務でしたよね?」
「ああ、うん! 王女殿下が公爵邸にいる東洋人と恋仲みたいで、もう大変――」
「ブ―ッ! ゲホゲホゲホッ!」
不意打ちとなったセーラは、飲んでいる紅茶を噴き、派手にむせた。
「あ゛っ!」
シャーリーは、自分の失言に気づく。
食堂が、静まり返っている。
物音1つ、しない。
さすがのシャーリーも、全身から冷や汗。