【―外伝―メイド イン ロンドンの開始!】異能者が普通にいる世界へ転生した2周目は海外の死亡フラグと戦う!~新たなヒロインたちの悲哀と救い~ 作:初雪空
第18話 三代続けてから本番の世界
ロンドン南西部にある、電車で1時間半のサリー。
王道のカントリーハウス圏。
上流の邸宅に囲まれた、優雅に庭園を眺めてのお茶会や乗馬を楽しめる場所から、ロンドンへ向かう列車の中。
ガタン ゴトン
のどかな田園風景が、どんどん近代的になっていく車窓。
向かい合って座るのは、若い女2人。
片方は、長い黒髪で東洋人だが、不自然ではない雰囲気の20代半ば。
それに対して、金髪碧眼のいかにも現地っぽい女は、高校生に見える。
「フロア長! もうすぐ、ロンドンですよ? あーん! 行きたいお店がいっぱい――」
「いい加減にして! これから、本邸へ行くのよ? 外で遊ぶ時間はないから!」
怒った東洋人の女は、フローラ・テレサ・バーンズ。
金髪碧眼のゼフィ・デ・メイソンの上司である。
息を吐いたフローラは、うんざりした。
(まったく……。筋はいいし、人種差別をしない。それに、柔軟で素直だから、見込みはあるんだけどね?)
フローラのバーンズ家は、メイド家系。
メイドの世界は、血統と由来がすべての貴族家とは違う。
東洋人だが、何代にも渡り、信用を積み上げてきた。
そのために結婚をしてきた経緯で、フローラも純粋な東洋人とは違う顔立ち。
サリーにあるウィットブレッド公爵家の別邸で、シニア・ハウスメイド兼フロア責任者をしている。
中間管理職で、メイドのシフト管理の補佐、客室の管理や客人の見極めなど。
祖母や母から英才教育を受けて、16歳できちんとした家のメイドへ。
新人イジメなどの通過儀礼を乗り越え、いくつかの屋敷を経験した後の20歳すぎに、一人前と認められた。
別邸だが、ウィットブレッド公爵家で幹部候補に……。
メイドの学校で1ヶ月ぐらいの専門コースを修めた直後に、ロンドンの本邸へ呼ばれた。
(ヘマするか、本邸のハウスキーパーに睨まれたら、一発でアウトね? はぁ~)
中堅となり、実家でも散々に教育されたフローラは、その狙いが嫌でも分かる。
おそらく、別邸のハウスキーパーとして相応しいかの最終テスト。
王族などのVIPを招いても恥ずかしくない作法や知識を学んだことで、使えるメイドかどうかを公爵家の女ボスが直々に見定めるのだ。
現場の経験と信用が大事でも、管理職として機能するには、正しい上級マナー、絶対に失敗できないワイン管理などを体系的に学ぶ必要がある。
でなければ、王族や貴族とのサロン、会食、晩餐会で大恥をかき、一度の失敗で家のメンツが潰れる。
次は、ない。
ハウスキーパーとは、家政婦長のこと。
ただし、日本のお手伝いさんとは全く違い、メイドの最高責任者としての権限がある。
貴族家の当主、その奥様、男性の使用人のトップである家令(ハウス・スチュワード)とも対等に話せる立場。
言うなれば、現場に出ずっぱりの重役。
あまりの激務に、現代でも独身になることが珍しくない。
もう1人のメイドであるゼフィは、キャリアなしの庶民だ。
18歳で高校を卒業したら、単身でロンドンへ。
ロンドンの公立カレッジであるウェストミンスター、いわゆる職業訓練校で学びつつ、小さな屋敷でインターンの実習。
(そこで評価されて推薦をもらい、ウチに来たと!)
今は、別邸のメイドとして、半年の試用期間だ。
そのゼフィが、笑顔で言う。
「ピーターヘッドから出てきて、良かったー! 今度は、ゆっくりロンドンを歩ける!」
「だーかーらー! 遊びに来たんじゃないって!」
フローラは怒るも、上司と部下の関係にしては親しげ。
「あのね? ロンドンの本邸は、のどかな別邸とは訳が違うの!」
言いながらも、体験しないと理解できないな、と思う。
ゼフィの出身地であるピーターヘッドは、スコットランド北東部にあるユニオン最大の漁港だ。
厳しい寒さで、海に落ちれば、数分で心停止。
ワイヤーが切れて、鞭のように飛んでくる。
上から吊っているフックが、頭をめがけて弧を描く。
すぐに暴れ回るロープだって、扱いを間違えれば、叩きのめされて死ぬ。
荒れる外洋に出ている漁船の甲板は、そういう世界だ。
それが日常であれば、喧嘩なんぞ珍しくもない。
潮風にさらされて育ったゼフィは、まだスコットランド訛り。
けれど、漁師に囲まれて育ったことで体力があるし、タフ。
女所帯のネチネチした言い方、遠回しの嫌がらせにも、めげない。
(同性に好かれるか、上手い距離の取り方も、必須……)
その意味で、ゼフィの気質は向いている。
だが、何のバックもない庶民では、別邸の中間管理職で定年だろう。
(娘も同じメイドにすれば、ようやく上にいけるかどうか!)
フローラの見立ては、そこまでしない。
ともあれ、列車はロンドンの駅に到着。
女2人がしばらく滞在できるだけのスーツケースを引っ張りつつ、駅のタクシーで目的地へ。
ウィットブレッド公爵家の裏口から入り、ハウスキーパーの中年女性に挨拶する。
彼女は、端的に告げる。
「ミス・バーンズ? あなたのお母様は、立派なメイドでした。あなたにも、期待していますからね?」
穏やかな言い方で笑顔だが、尋常ではないプレッシャー。
翻訳すると、お前の家名に傷をつけたくなかったら、死ぬ気で頑張れ。
ボディブローを続けて食らった気分のフローラは、ゼフィを引き連れ、執事やメイドから遠巻きに品定めされつつの見学。
敷地内で別棟になっている宿舎へ戻った時には、疲れ切っていた。
「空気が、ピリピリしているぅ……」
「これで、分かったでしょ? 私たち、路上で買い食いできるファーストフードほども価値がないの」
外様としての宿舎で、食堂すら、本邸の使用人とは別!
夕飯をいただき、メイドの制服などをチェックしつつの会話へ。
「私たちがお世話をするのは、この2人……」
「ええ! 片方は日本人だから、私が呼ばれたのね? 名前は、シゲトオ・ムロヤ」
室矢重遠。
別邸から呼ばれたメイド2人は、面倒を嫌った本邸の身代わりとして、この難題に挑む!
生き延びろ!