【―外伝―メイド イン ロンドンの開始!】異能者が普通にいる世界へ転生した2周目は海外の死亡フラグと戦う!~新たなヒロインたちの悲哀と救い~ 作:初雪空
「室矢様のお世話を命じられた、バーンズと申します」
「同じく、メイソンです」
2人で、頭を下げる。
現在は、室矢家の一行、正確には名字が変わったカレナを出迎えた後。
敷地内にある、ゲストハウスだ。
ウィットブレッド公爵家の当主が出迎えて、本邸の煌びやかな執事、メイドたちも並ぶ中、すみに立っていただけ。
今になって、ようやく自己紹介……。
用があるか、公爵家から呼び出しがあった時だけ、応対。
けれど、カレナと室矢重遠を見極めなければ、動きようがない。
フローラ・テレサ・バーンズが、最優先のタスクを考える。
(予想通り、カレナ様は公爵家の
言うまでもなく、フローラの担当。
公爵家の会話でスケジュールを探り、準備しなければいけない。
ゼフィ・デ・メイソンに、声をかける。
「ゲストハウスは、任せたわよ? 分からないこと、すぐに確認できないことは、私に聞くという名目で時間を稼ぎなさい」
「はい、フロア長!」
――本邸 大食堂
長机にズラリと並ぶ、銀食器。
室矢カレナの後ろ、壁際に立っているフローラは給仕するも、覚えたばかりの知識と周りの動きで何とかついていく。
いきなり本題に入るのは無粋で、世間話をはさみつつ、コース料理が進むだけ。
上座にいるウィットブレッド公爵は、息を吐いた。
「私が目にするとは、思わなかったぞ?」
「……変わっておらんな、ここは」
地球の裏側に嫁いだような娘と会ったわりに、事務的。
カレナが幼いにせよ、公爵と対等に話しているのは、納得できず。
夫人、その娘も、どちらかと言えば、怖がっている様子……。
食後としての紅茶のカップを置いた公爵が、率直に尋ねる。
「日本土産はなかなかに興味深いが、どうするつもりだ?」
「留学にやってきた重遠の付き添いじゃ! ついでだから里帰り、という意味もあったが……。重遠は、爵位を欲しいそうだ」
大食堂の空気が、張り詰めた。
公爵は、探るように問う。
「お前の義理の兄が?」
「そうだ!」
息を吐いた公爵は、首を横に振る。
「無理だ! 日本でどうだろうが、ここはユニオン! せめて、欧州で縁組みなりの理由を示してもらわなければ……。中世なら、公爵は子爵、男爵の爵位を併せ持ち、領地を預かる代官としての慣例的な爵位もあろうが」
注がれた紅茶を飲んだ公爵は、肩を上下させる。
「お前には、騎士爵があるだろう? そのエスクワイア(従騎士)として扱えば、準貴族だ」
ハラハラするフローラに対して、カレナはあっさり答える。
「そうだな……。悪いが、お主の口から言ってくれ!」
嘆息した公爵は、しぶしぶ頷く。
「致し方あるまい……。返事は、変わらんぞ?」
「構わん! プリシラと会うかは未定だ。重遠の反応を見たあとに、決める」
ため息をついた公爵が、呆れる。
「お前という奴は……。分かった! 明後日までに、時間を作る」
「よろしく頼む! 公爵家に迷惑をかけん。そもそも、プリシラとは個人的な付き合いだからな?」
その説明で、かろうじて和やかな空気へ。
公爵が立ち去り、夫人と娘も。
それに続く形で、カレナも大食堂を後にする。
「ジェニファー! 少し、いいか?」
立ち止まった本人が、母親を見る。
首肯されたので、カレナに向き直った。
「何でしょう?」
「たいしたことではない……。久々に足を踏み入れたから、案内が欲しくてな?」
後ろで控えているフローラの耳元で、地獄の底から響くような、小さな声。
「ミス・バーンズ? 女王陛下と親交があるカレナ様のお世話、よろしくお願いしますね?」
忘れたくても忘れられない、公爵家のハウスキーパーの声だ。
ハッと振り向けば、彼女はすでに離れていた。
もはや、怪奇現象と同じ。
(噓でしょ!? 公爵家から追い出されたような令嬢が、女王陛下を呼び捨てにできる仲って……)
今になり、プリシラの名前と繋がった。
立っている床がグニャリと歪んだような錯覚を覚えるも、何とか
――数日後
公爵と室矢重遠の対談は、スムーズだった。
事前に聞いていた公爵は大人の対応で、心配された重遠のワガママもなく。
話の流れで、公爵がロンドン滞在の費用を負担することに。
室矢カレナの後ろで立っているフローラは、密かに感心する。
(へえ? 無理なお願いと分かっていて、これを狙っていたなら、面白い子ね!)
たぶん、重遠はそこまで考えていない。
ともあれ、公爵を激怒させるルートは、これで消えた。
そっと見れば、ゼフィも上手くやっているようだ。
重遠はネイティブ並みの英語を喋っていて、意思疎通で問題なし。
女と見るや抱きたくなる色情魔ではなく、素直。
(よしよし! 何とか、乗り切れそう!)
微笑みで固定しているフローラは内心で喜ぶも、その日の夜に、事態は急変する。
ジェニファーが倒れたうえ、命の危険があると、分かったのだ。
メイド2人は、室矢重遠の恐ろしさを思い知ることに……。