【―外伝―メイド イン ロンドンの開始!】異能者が普通にいる世界へ転生した2周目は海外の死亡フラグと戦う!~新たなヒロインたちの悲哀と救い~ 作:初雪空
夜中の公爵邸は、襲撃を受けたような騒がしさだ。
「不審人物がいたら、連絡しろ! 自分で対処しようとするな!」
「ランドリーエリアは、閉鎖しました! 次の指示を」
ネズミ1匹も見逃すまいと、全ての明かりが点けられ、使用人たちもフラッシュライトを持参して、敷地内で使える無線を身に着ける。
剣呑な目つきをしている執事やメイドは、密かに銃などを携帯しているようで、制圧するためのポジション取りだ。
内通者として怪しい人物がいないかを、見張っている。
こういった事態に備えて、元警官、元軍人を雇っていても、不思議はない。
それと同時に、物々しいスコットランドヤードの警官、小銃を構えた特殊部隊が、大きな箱などを下げた鑑識と共に入り込む。
「現場の調査だが、犯人や協力者が隠れている可能性もある! 用心しろ!」
「「「了解!」」」
ボディーアーマーを着込んだ特殊部隊は、銃口を上げるだけで発砲できる姿勢を崩さない。
フォーメーションを組んだまま、全方位を警戒する。
どこぞの映画みたいに、テロリストがいそうな場所で縦一列のピクニックをする馬鹿なぞ、いるわけがない。
手厚く世話をされているジェニファーが襲われたなら、内部犯の可能性が高いのだ……。
室矢重遠たちが呼び戻され、出迎えたフローラ・テレサ・バーンズも付き添う。
ホテルまで迎えに行った本邸の執事は、不機嫌というか、重遠を疑っている様子を隠していない。
(いきなり東洋人が招かれて、お嬢様が倒れた……。そりゃ、疑う!)
ユニオンでも、移民問題が深刻だ。
歴史ある大貴族に仕えている使用人に言わせれば、重遠が原因としか思えない。
立ったままで会釈、そのまま後ろをついていくフローラは、気が重くなった。
チラッと見れば、部下のゼフィ・デ・メイソンは、顔面蒼白。
ただでさえ、本邸の洗礼を受けた直後。
(可哀そうに……。私でもキツいわ、こんなの!)
フローラにしても、下手をすれば、全ての責任を負わされると、生きた心地がしない。
案内している執事は、敷地内の倉庫に入り、奥へ進んでいく。
得体の知れない物品が並べられ、有名な博物館を思わせる雰囲気。
警察はここに集中していて、カシャッという、シャッター音が続く。
どうやら、ここが現場のようだ。
「こちらです……。では、失礼――」
「待て!」
幼い容姿である室矢カレナが、呼び止めた。
足早に立ち去ろうとした執事は、仕方なく、振り返る。
「何でしょう?」
「アルフレッド……。アーヴァイン家を潰したくなければ、気をつけろよ? 根拠なく重遠を疑うことは、義理の妹である私の顔を潰す行為じゃ! 今回だけ、見逃そう」
ビクッとしたアルフレッドは、無意識に後ずさるも、プロの矜持で直立不動へ。
頭を深く下げた。
「も、申し訳ございません!」
「お主の気持ちも分かる……。この機会に言っておくが、重遠は私の護衛でもある! ジェニファーを害した奴は、私たちの敵だ。お主も知るだろう、重遠の実力を」
頭を上げたアルフレッドは、カレナの顔をポカンと見るも、重遠に向き直った。
同じく、頭を下げる。
「大変失礼いたしました……」
「この件で、ウィットブレッド公爵家のお力になれればと存じます」
重遠は、大人の対応だ。
見物していたフローラは、感心する。
(貴族なら当たり前の返答だけど、日本の高校生だっけ? ずいぶんと、冷静ね!)
この対応は、周りの使用人が見ている。
重遠が犯人と証明されない限り、もう嫌な視線を受けないだろう。
フローラから見ても、重遠に高い評価を出せる。
また、カレナが公爵令嬢と言えるだけの格があることも、示された。
こういった場面ですぐに
公爵家に紹介した自分の義兄をバカにされたことを指摘したうえ、相手に納得させたことで、改めての上下関係。
人を扱うにも、主人に度量が求められる。
ヤードが引き上げて、現場は静かになった。
けれど、何かが出てきたと思しき、小さな棺を見たことで、フローラは緊張する。
(ここで、ジェニファー様が倒れた……)
ホラー系の推理小説に登場したような気分で犯行現場を観察していたら、老人の男の叫び声を聞く。
「カレナァアアッ!」
びっくりしたフローラが見ると、顔を真っ赤にしたウィットブレッド公爵が両手でカレナの襟をつかみ、空中に持ち上げている。
(えぇえええええええっ!?)
声にならない、絶叫。
今まさに、第二の殺人事件が発生している!
幸いにして、ヤードは帰った後だが……。
気になったフローラが見ると、近くにいるゼフィは、見ていると精神が不安定になりそうな笑顔。
おそらく、脳が理解することを拒否している。
周りの執事、メイドも、パニック寸前。
けれど、プロレスの技を食らっているカレナは、平然と話す。
我に返った公爵が、謝罪しつつ、彼女を床に下ろした。
何事もなかったように話し合う2人に、フローラは必死に頭を切り替える。
(いや、冷静すぎでしょ? どうなってるの!?)
普通なら、相手に白手袋を投げつける場面。
それを見ていた重遠も、我関せず。
「やはり、家族はいいものだ……」
他人事みたいに、感想を述べた。
あなたの義理の妹が殺されかけたのですが?
思わず尋ねそうになったフローラは、何とか自制。
ゼフィは、精神が不安定なまま。
室矢家の兄妹の恐ろしさは、ここから本番だ……。