【第二章 The Princess's Knightスタート!】異能者が普通にいる世界へ転生した2周目は海外の死亡フラグと戦う!~新たなヒロインたちの悲哀と救い~ 作:初雪空
シャーリーは、ウィットブレッド公爵邸での一部始終を見届けた。
それゆえ、ローズマリーが室矢重遠のお手付きになっても驚かない。
(ここで、専用の娼婦になるよりは……)
ローズマリーの様子と声から、嘘はないようだ。
本番、前段階のどちらでも、同じこと。
遵守するべきオーダーの有無にかかわらず、彼女は拒まないだろう。
「良かったね? 私が聞くべきことではないけど、重遠
ローズマリーの頭の上にある白い猫耳2つがペタンと倒れ、白い尻尾も床に落ちた。
「……どうしよう」
「マスターの命令もあるだろうけど、黙っていたら何も伝わらないよ? 公爵令嬢のカレナ様に相談してもいいし」
シャーリーの提案に、猫耳と尻尾を立てたローズマリーが頷く。
すると、シャーリーは苦笑する。
「あいつ、モテるって次元じゃないね?」
「マスターは、日本で200人以上の女子と仲良くしたって――」
「ブホッ!」
セーラが、紅茶を噴く。
周りで聞き耳を立てている女子も、一斉に咳き込む。
(((え? いや、多すぎない?)))
エロい妄想に励む女子に対して、シャーリーは悩ましい顔に。
「神話に、そういう騎士がいたね? 大小の槍と剣が4つもあり、それを使い分ける贅沢な奴だったけど……」
「そうなの?」
興味を引かれたローズマリーが尋ねると、シャーリーはため息をつく。
「相思相愛の若い男女が、権力者の老人に引き裂かれる……。よくある話だよ! その神話に出た騎士には、女を魅了する黒子があったとか」
要するに、重遠がそれだけモテているのも、似たような理屈ではないか?
再び息を吐いたシャーリーは、現状との共通点を述べる。
「グラーニャ姫……。まさに、王女殿下が夢中なわけだし! 円卓の騎士の私たちが重遠卿を討伐する話にならないと、いいけど」
「あなたとは、戦いたくない」
真面目に答えたローズマリーに、シャーリーが苦笑する。
「その時には、キャメロット最後の日になるよ……。あんな攻撃、どうにもならない」
それを知らないローズマリーは、首と尻尾をかしげる。
わりとシリアスな会話だったが、周りの女子たちは興奮冷めやらぬ。
シャーリー達が話しつつ立ち去った後に、追加注文で仕切り直し、ワイワイと騒ぎ出す。
「重遠卿は、ウィットブレッド公爵の館にいましたよね?」
「……そんな! ジェニファー様も!?」
王女殿下ですら魅了されたとなれば、公爵令嬢が抵抗できるはずもない。
先ほどの会話で、年齢制限がつくシーンを妄想する女子たち。
「ずっと、胸だけ……」
「そんな格好のまま、放置されるなんて……」
「触れるぐらいで、ずっと焦らされたんですね」
「……跡がつくほうが、マーキングみたいで良くない?」
「少しぐらい乱暴なほうが、いいな」
ハッとした女子グループは、お互いに言い合う。
「ジェニファー様が」
「……ええ、そうですね!」
「そうそう」
「うん!」
深淵をのぞき込む時、深淵もこちらを見ているのだ。
ともあれ、ジェニファーは重遠に開発され尽くしたことに……。
責めたり受けたり、忙しい。
ただ、ジェニファー様はフリー素材ではないことを覚えておくべき。
◇ ◇ ◇
世間が想像しているより広いバッキンガム宮殿は、王の公邸と行事をする場を兼ねる。
王家の主な居住地はケンジントン宮殿だが、ロイヤルファミリーが国民に手を振る儀式のために集合していた。
第二王女アドラステアは、円卓の騎士の拠点であるキャメロットを離れられず、欠席。
ニマーッと笑った第一王女が、話を振る。
「聞きました、お兄様? ジェニファー様が大変なことになったようで……。フフ、アハハハハ!」
「お前に、人の不幸を楽しむ趣味があったとは……。公爵令嬢に、何があった?」
呆れたように尋ねた第一王子へ、片手で口を隠した第一王女が悪戯っぽい表情で答える。
「お兄様も、男ですね! そんなに聞きたい? ん?」
「……レディの秘密を暴く気はない! 真面目に答えろ」
姿勢を正した第一王女が、真剣な表情へ。
「キャメロットの女性エリアで、妙な噂が流行っただけですわ! 事実無根ゆえ、すぐ収まるでしょう……。そちらに残ったアドも、いきなり訪ねた東洋人を自分の騎士にすると! まったく、何を考えているんだか」
「隠れてコソコソするよりは、良いだろう? 円卓会議で堂々と宣言すれば、周りも監視しやすい」
あっさりと流した第一王子に、つまらない第一王女。
「妙に達観したアドが一目惚れした男ですよ? もうすぐキャメロットを訪ねるようだし、釘を刺しに行きません?」
「ハッキリ言ったら、どうだ? 自分が見に行きたいと……」
第一王子の指摘に、肩をすくめる第一王女。
澄ました顔で紅茶を飲み、ケロッと言う。
「可愛い妹のためです! 私たちが、しっかりしないと」
面の皮は、とんでもなく厚い。
アフタヌーンティーを楽しむ第一王女に、落ち着いた女性の声。
「良い提案ですね? タイミングも合いますし。全員で行きませんか、あなた?」
「そうだな……。キャメロットに行く機会は少ない。日帰りも可能だし、アドの勇姿を見ておこう」
女王陛下とその王配が同意したことで、ロイヤルファミリーも出迎える。
派手なセレモニーになるだろう。
――郊外にあるコテージ
田園風景を眺めている室矢重遠は、キャメロットから生還する手順を考える。
(東洋人の俺は、冷遇されるだろう……。命の危険すら、ある)
しかし、ローズマリーの扱いを無視できない。
必要ならアドラステアの手を借りつつ、待遇の改善、または彼女を連れ出す必要がある。
「出迎えもないか? 中に入れなかったら、少し困るな……」
嫌がらせで止めるようなら、それなりに対応。
後は、普段は入れないキャメロットを一通り見学して、とっとと帰ればいい。
(誰にも注目されないだろうし、気楽だな!)
あらゆる状況を利用する、この知略。
昔のユニオンに生まれていれば、スペインの無敵艦隊すら打ち破る提督になっていたに違いない――
「そうかそうか! なら、心配いらんな!」
室矢カレナの声だ。
重遠が振り向けば、笑顔のカレナ。
ニコニコしたまま、
遠ざかるカレナに疑問を感じつつ、重遠は田園風景を見ながら、うたた寝へ……。
重遠は、自分の価値を正しく理解していないことが1周目と同じ。
無名の東洋人なのに公爵家と親交があり、円卓の騎士ですら返り討ちの敵を瞬殺したのだ。
苦肉の策とはいえ、ユニオンで最も差別をするであろう円卓で東洋人として初の正騎士。
おまけに、凄腕の投資家のように稼ぎつつ、それを国に還元していて、王族の自覚と可愛げもある第二王女に好意を寄せられ、タダで済むわけがない。
しかしながら、猫耳メイド騎士の連鎖反応については、同情する余地が大いにあるだろう。