手、繋ぐ。人類滅亡間際、救いの二文字は手の中に   作:睦月稲荷

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第十七譜 相思相愛のwaltz

「な……な……。お、お前がこんな……」

「私が、何? 〈合力〉を纏わせた木剣を砕くのがそんなにおかしい? それとも、私が怯えなかったのがそんなに予想外だった? まぁどっちでも良いけどさ。もう誰かの目を気にするのを止めた今の私を舐めたら痛い目に合うわよ。その砕けた木剣みたいにね」

「ッ……!!」

 

 砕かれた木剣と赤い目の据わったエトナを行き来し、ムンドの心中に再び焦燥が走る。

 エトナの実力に畏れてしまったことで、それまで見下して安心感を抱いていた自分(過去)が消滅の危機にあったのだ。

 そうして『黙ることを止めた』エトナはアッシュを自分の体近くに引き寄せ、想いを曝け出す。

 

「アッシュも同じ気持ちだし、ずっと言わせてた分の借りもあるからここは私が言うけどさ。愛する人を傷つけられるのって、自分が傷つく以上に苦しいんだよ。それくらい、アナタたちでも分かるでしょ?」

「……」

「なにその上から目線……! こっちが黙ってるからって、良い気にならないでよね!!」

 

 ――『最下位』から見下されている。ネルンにも芽生えていた恐怖を屈辱が塗りつぶし、彼女一人で二人の間を引き裂こうと、〈合力〉を纏わせた長杖を振るう。

 ただ、それが今の二人に届くことはない。二人は密着状態のまま、振り下ろされる長杖をサラりと躱す。

 そのままダンスと同じようにターンし、ネルンの後ろへ。誰がどう見ても余分な動作。けれど、それが出来るだけの『余裕(実力差)』があった。

 アッシュがすれ違いざま、呆れたように首を傾げてネルンを見る。

 

「黙ってるって、そうなった時点で自分でも図星って気付いてることなんじゃないのかい?」

「五月蝿い!! アッシュ、アンタの言葉なんて聞きたくないのよ!!」

 

 横薙ぎに振るわれる長杖。同時にバックステップを踏んで紙一重で躱すと、長杖の先に光りが宿る。

 〈閃光〉。【隷獣】を倒すためだけに使われる技が、白い線を虚空に描いて二人に向かって放たれた。

 

「それは――」

「――躱すわけにはいかないわね」

 

 パッと片手を離し、エトナがアッシュが前に出る(隙間)を作る。〈閃光〉の直線上。それをアッシュは〈合力〉を纏わせた右手で打ち払った。

 光が霧散する。

 

「なっ……!」

 

 ミーシャと比べるのも烏滸がましい、〈閃光〉の威力と射程距離。それでも、直撃すれば【二ツ眼(デュオ)】の外殻を壊すだけの破壊力はあるのだ。

 なのに、虫を払うように他愛もなく散らされた己の技。認められない現実が、いくつもいくつもネルンに襲い掛かる。

 それがまた、怒りに拍車をかけた。

 

「ムンド! さっきからなにボーっと突っ立ってんの! 素手でも良いから、アンタも加勢しなさいよね!」

「い、言われるまでもねぇ! すぐに――」

「――君たち!! それ以上の行為は看過できないぞ! 今すぐ〈合力〉を解くんだ!!」

 

 〈合力〉が放たれたことで、ようやく我に返ったヨハンが止めようとする。

 〈閃光〉は、〈合力〉を纏っていなければ人体なんて簡単に貫いてしまう。各々が自主訓練をしているこの場。取り返しのつかない事故が起きる可能性が跳ね上がった以上、見過ごせない。

 ましてや、一撃を防いだとはいえ放たれた先にいたのは『欠陥品』の二人。ヨハンとしては、二人への心配が勝っていた。

 しかし――

 

「ヨハン先生、構いませんよ。このまま続けさせてください」

「この二人も、僕たちに対して色々思うところがあるみたいですしね。こんな中途半端な形では終われないでしょう」

「なっ!」

「それより、先生。ここで約束の更新をしてくれませんか? 今の私たちにとって、今ほど都合の良い時もありませんので」

「更新、だって……?」

 

 エトナの毅然とした要求に愕然とするヨハン。続きを、エトナの言いたいことを分かっていたアッシュが答える。

 

「手を離しての〈合力〉の保持時間五分を突破したら――ってやつですよ。あれを、ムンドたち相手に五分以上戦えたら、にしてください」

「何!?」

「あ、どうせだったらこの際、せっかくだし僕たちに思うところある人たち全員と相手になってあげるよ。その方が分かりやすいだろうし」

 

 どこまでも余裕な態度。アッシュが吐く言葉に嘘がないことは誰もが知るところだ。そんな男による『最下位』からの踏み台発言。

 空気が凍った冷たさが、エトナたちを嫌う者たちに熱い激情をもたらす。

 

「どうしたの? いつもみたいにかかってきたら?」

「先生がいるとはいえ、今だけは僕たちの許可があるんだ。好きなだけかかってきて良いんだよ? それとも、やっぱり『陰』からじゃないと何も言えないのかな?」

「「「「「――――――」」」」」

 

 侮られたことへの怒りの沸点が限界を突破。ムンドたちと同じ、抜かれたくないと切に思っている四組のペアが模造武器を持って躍り出る。ムンドたちも合わせれば合計、十対『一』だ。

 物々しい雰囲気が修練場を包み込み、ヨハンが慌てて止めようとする。

 

「ちょっと! 何を勝手に――」

「良いでしょう。アッシュ・ヴェンタス、エトナ・アンデルシアン。貴方がたのその挑戦を認めます」

「マリュー!!」

 

 思いもよらないところからの援護(許可)に非難の目を向けるが、マリエラはそれに取り合わない。

 真剣に、見定めるようにエトナたちだけを見る。

 

「ですが、自分達が無理を言っていることは分かっていますね? この実()訓練に負けたら、向こう半年は許可出しませんよ」

「「問題なし!!」

 

 これで、縛るものはもうない。身も心も軽くなり、解放感が二人を包み込む。

 あとは『証明』するだけ。簡単なことだと言わんばかりにアッシュが手招きし、開戦の合図をする。

 

「最下位が、調子に乗るな!!」

 

 嫌っているだけあって、敵意は高い。感情が昂り、〈合力〉の出力も増えている。

 十人からの攻撃をまともに受ければ、許可云々の前に半年は動けなくなるだろう。

 

「マリュー,あんなこと言ってなんのつもりだい!!」

「必要なことでしょう? 元より、五分が重要なのではありません。重要なのは、〈合力〉を発動したまま五分以上戦えること。そのことを彼女たちは理解していただけの話。時間だけ延びても無意味ですし、〈執火官〉としても木偶の棒はいりません。彼女たちは今『力』を示そうとしているのです。ヨハン、『時間』はないんですよ?」

「それは、分かってるけど……!」

「それに、アレを見ればそんな心配なんて無用でしょう――」

 

 指し示した方向をヨハンが見ると、焦茶色の瞳が驚愕に震える。

 十人、四方八方からの近・中・遠の攻撃。それらを全て、エトナたちは踊るように躱している。歩幅も身のこなし方も、ズレがない。

 単純に『的』が大きいというのに、二人の動きが阻害し合うことはなく、一つも当たらない。

 

「躱してばっかり……! 舐めているのか!?」

「舐めちゃいないよ、けど証明のためには必要なことだからさ」

「それを舐めてるって言うんだよ!!」

 

 空気を切り裂く木剣の鋭い横薙ぎ。エトナたちは同時に屈んでそれをやり過ごす。屈んだのに合わせて女子の薙刀が下から切り上げられる。後ろでは男子が剣と盾を構えており、逃げ道はない。

 同時に天井に届くほどの大ジャンプ。それを読んでいたムンドが上から攻撃。更に左右から挟撃が来て、今度こそ完全に逃げ道がなくなる。

 

「くらいやがれ!」

「これでおしまいです!!」

 

 上からはムンドの拳、左右からは別のペアによる両手剣と槍による間合いの広い武器が振るわれる。

 

「残念」

「まだまだ、これからよ」

 

 繋いでいた方の手。曲げていた肘を伸ばし、お互いの体を弾くように二人は手を離す。その勢いで上からの攻撃を回転して回避すると、同時に左右にいた者達を『足場』として、振り切られる前の武器に着地。

 軽く蹴って地面へと着地すると同時に指を上から絡めるように手を繋ぎ直す。

 そのまま駆け出し、薙刀を振り上げた女子に接近。『両手』を広げ、眼前に目隠しのように視界を覆う。

 

「ッ……!」

 

 目を潰されると勘違いし、ピタッと女子の動きが停止。その瞬間に手を離し、挟む形ですり抜けると、右手と左手を繋ぎ直して包囲網から抜け出した。

〈閃光〉が降り注ぐが、二人は回避するか打ち払うかの二択を取り続けて、身体に届かせない。

 一挙手一投足に淀みがない。悠然と圧倒するエトナたちにヨハンは唖然となる。

 

「ね、大丈夫でしょう?」

「そう、だけど……。だ、大丈夫などころの話じゃないよこれは……! 二人で動いているのに、まるで『一人』みたいな身のこなし……! なのに、一人よりも動きが格段に良い……!」

「〈外界〉で活動するには十分。流石は元No.1、元No.2と言ったところでしょうか。お互いの信頼関係も相まって、素晴らしい連携です。あれと同じことをやれと言われても、あそこまで動くのは(わたくし)たちでも難しいでしょう」

 

 心からの賞賛の言葉。ヨハンたちが見つめるエトナたちの動きはもう、最下位どころかトップ層にまで届きうる。

 成績が低いとはいえ、ムンドたちも〈狩場〉で戦うことを認められた〈執火官〉候補生だ。そんな相手を多数相手取り、あまつさえ一撃すら入れさせない。

 エトナとアッシュだからこそ出来る、唯一(オリジナル)の戦闘術だった。

 

「都合が良いと言ったのは、この状況を作り出すことが目的だったのか……」

「でしょうね。慣れない挑発までして他の者たちを巻き込んだのは、無差別に襲い掛かる【二ツ眼(デュオ)】を想定。そして一発も当てさせないとなると、『力』を示したと言えるでしょう」

 

 飛び上がり、優雅に宙()舞う。

 まもなく五分が経過しようとしていた――。

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