手、繋ぐ。人類滅亡間際、救いの二文字は手の中に   作:睦月稲荷

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第十八譜 相思相愛のPaso Doble

「おまえは参加しないの? おまえが一番参加しそうだと思ったけど」

 

 修練場の視線を独占するエトナとアッシュ。そんな中で、唯一視線を向けていないのが今から帰ろうとしているハスタだった。

 どこか嬉しそうなミィシャを連れて立ち去ろうとしたところを、ミツキが話しかける。ハスタがエトナたちを嫌っていることは有名だ。ミツキの疑問は、おそらくこの場にいる全員が抱いていたことだろう。

 けれど、ハスタは手をひらひらと振って、それを否定する。

 

「戯れに興味はねぇよ」

「でも、結果くらいは見ていって良いんじゃない? おまえも気になるでしょ」

「勝者が決まってる戦いを見るくらいなら――だよね」

 

 にししっと、隣で緩やかに笑うミィシャに、ハスタは深いため息を吐いて半眼を向ける。

 

「勝手に代弁してんじゃねぇよ」

「へぇ、ってことは認めるんだ。意外。あんたの口から、エトナたちを認める言葉が聞けるなんて思わなかったわ」

「別に、事実を言ってるだけだ。〈合力〉が扱えるんだったら、有象無象にアイツらが倒せるかよ。腐っても元No.1と元No.2だぞ。くそムカつくが、その実力はオレらが一番分かってんだろ。それを認めないほどガキじゃねぇよ」

「子供みたいに無視したのに? ほんと素直じゃないよね〜ハスタは」

「うるせぇ。いいから行くぞ。どうせもうアレも終わりだ」

「は〜い」

 

 会話は終了。十人を圧倒するエトナたちを一瞥して記憶に入れたあと、ハスタたちはそのまま帰る。

 その時、最後に聞こえてきた小さな言葉に、イリーナとミツキは思わず苦笑してしまった。

 

「――『それでこそ』、か。楽しそうにしちゃって」

「やっぱハスタが一番認めてるよね」

 

 

「はぁはぁ……! なんで、こんな……!」

 

 悠然と佇むエトナたちに、自分の無力さが押し寄せる。

 五組の〈グロウズ〉が一斉にかかって、カスらせることも出来ない圧倒的なまでの『実力差』

 単純に考えて当たる範囲は二人分。〈外界〉での活動はパートナーとの一蓮托生だ。片方が死んだ時点で、もう一人もほぼ死が確定する。

 そのリスクの跳ね上がり比率は、人一人分程度じゃ収まらないだろう。それなのにこの結果。

 彼ら以上に〈外界〉で活動できることを証明したと言える。

 マリエラもヨハンもそれは認めていたが、『許可』を出すかどうかはまだだった。

 

「確かに、エトナたちが〈英雄候補〉並に動けたのは予想以上だ。――けど、『戦える』かどうかは別の話だよ」

 

 ヨハンが厳しい眼差しを向ける先には、動きを止めたエトナ達がいた。

 見定める強烈な視線。けれど、二人がそれに臆することはない。

 

「さて、もうすぐ五分経つことだし、そろそろ終わらせようか。いけるね、エトナ。さっさと倒すよ」

「もち」

 

 軽い口調に苛立つ〈グロウズ〉たち。

 

「ふざけんな!」

「このまま俺たちを倒すだと!? 躱すだけで精一杯だった奴らが、寝言は寝て言え!」

「手を繋いだまま人が戦えるか! そいつが重しにしかならないことを教えてやるよ!」

 

 確かに、その反論は正しい。動きが別格とはいえ、躱すだけに専念していたからこその動きとも言える。そこに『攻撃』が加わるなら、戦闘の難易度は更に跳ね上がるだろう。

 

「これだけやってもまだ分からないかなぁ。この『重し』を感じられるから、人は強くなれるんだよ」

「心も、体もね――」

 

 寸分のズレもない、同時の踏み込み。修練場の床に亀裂が入ると、二人は刹那の時間で男子生徒の目の前にいた。

 

「「一人目」」

「がッ……!!」

 

 繋いだ手で殴打。唸りを上げて放たれた一撃は、〈合力〉を纏っていても意識を飛ばすには十分な威力だった。

 

「なっ……! い、一撃で……!?」

「そんな、あり得ない……! あれでもアイツの防御力はかなり上位なんだぞ! それが〈合力〉をまともに扱えない奴の一発なんかで……!」

 

 速すぎるし、攻撃が重すぎる。

 理由は単純明快。『二人』だからだ。二人の動きがバラバラだったら効果は発揮しないどころか邪魔し合うだけに終わる。けれど、動作にズレがないなら、単純に人一人分の『強化』が行われるのは道理だ。

 まさしく相乗効果。一本の足で踏み込むよりも、二本の足で踏み込む方が地面を蹴る力が強化されるのは単純な計算だ。

 人の動作において、最も大事であり意識の配分を割かなければならないのが自分の中の『軸』。支えがなければ人は動けない。

 それを委ねられることの意味の大きさ。互いを支えにしながらの動きは、〈合力〉も相まって平均的な〈グロウズ〉では見切ることも出来ない。

 

「だから、どうしたってんだ!」

「これなら!!」

 

 後ろから挟撃。

 体に届きそうな瞬間に手を離して、回避と同時にエトナとアッシュは後ろ回し蹴り。二人の踵が、相手の顔面に叩きつけられ、二つの顔が挟まる形でぶつかり合う。

 続けて、斜め下から切り上げられる攻撃をアッシュがエトナの肩に手を置いて逆上がりで躱わす。瞬間、手の力だけで飛び上がると、エトナを引き上げるように手を繋いで二人の体が宙を浮く。

 

「アッシュ」

「思いっきりやるよ」

 

 そのまま、剣を振るうようにアッシュが()()()()()()()

 研ぎ澄まされた鎌の刃のように、放たれた踵がネルンの長杖を切り裂いた。

 

「え」

「はい、これで終わりね」

 

 呆気に取られるネルンの腹にエトナが手を添え、威力を極限まで抑えて――

 

「ゼロ距離〈閃光〉」

 

 衝撃が全身に余すことなく伝わり、ネルンは失神。膝から崩れ落ちる。

 その反対側では、胴体を貫くような強烈なアッシュの前蹴りが、ムンドに突き刺さっていた。

 

「カハッ……」

「ここまで付き合ってくれてありがとうね。キミ達も良い動きだったよ」

 

 ムンドとネルンが、同時に頽れる。その時が、今までの戦闘の中で一番『息が合っていた』のは皮肉だろう。

 主役が消え、ここからはもう時間がかからない。残った相手を一人ずつ倒すだけだった。

 やがて全員が床に伏せったところで、エトナ達がやりきった表情で嬉しそうにヨハン達を見る。

 

「ヨハン」

「分かってるよ……。はぁ、まったく。とんだ問題児を請け負ったもんだ――」

 

 ヨハンがもう一度大きくため息を吐く。

 ――もう何回、深い息を吐いただろうか。これから何回、吐くことになるのか。

 そんな益体もないことを考えながら、ヨハンは真剣な表情に変えて告げる。

 

「認めよう。アッシュ・ヴェンタス、エトナ・アンデルシアン。君たちに〈外界〉での活動を許可する」

「「――ッ!! エトナ/アッシュ!!」」

 

 ハイタッチするエトナ達。

 響き渡る、手と共に心が重なった歓喜のパーカッション。それが、この場にいる全員の心を打った――。

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