手、繋ぐ。人類滅亡間際、救いの二文字は手の中に   作:睦月稲荷

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第4掌 躍進と迫る不穏な気配
第十九譜 躍進


「ハァァァァ!!」

「これで五体目!!」

 

 エトナとアッシュの繋いだ手による殴打の一撃が【レプリカント】の体を二つに分ける。

 〈外界(ケイオス)〉の〈狩場〉。『メガネ』を外し『マスク』もない二人の勢いは、これまでの停滞を吹き飛ばすようだった。

 

「さぁどんどん行くわよアッシュ! 次は――」

「二十m行った先に【レプリカント】三体! 内、一体浮いてる!」

「じゃあ、そいつからにしましょ! 手、離さないでね!」

「当たり前!!」

 

 視界が不明瞭な砂塵をモノともせず、荒れた大地をまるで舗装された道の如く、二人は駆け抜けていく。

 元より二人が得意とする『感知』が砂塵の中でも【隷獣(ヤツガレ)】の存在を正しく捉え、そこに向かって一直線。

 一糸乱れぬ無駄のない動き。己を追い込むいくつもの『枷』が外れたエトナの自在で活発な動きに、全て合わせるアッシュの鋭い協調性。そしてそれは『逆』もまた然り。

 誰よりも自由な二人は、通常の二乗の速度を実現させていた。

 【レプリカント】も迫ってくる人間(生命反応)を捉えて攻撃に移ろうとするが、遅い。

 鋭い腕を振る前に、エトナ達はガントレットを纏う『両』の手を胴体に重ねていた。エトナは手のひらを、アッシュは拳を突き立てる。

 白い燐光が瞬き――

 

「六体」

「目ッ!!」

 

 砕け散る。抵抗すら許さず【レプリカント】は砂塵の仲間入りを果たす。その粒子に紛れるように別の【レプリカント】が挟み込む形でほぼ同時に二人に襲い掛かる。

 〈合力〉を扱う人間にも似た連携攻撃。しかし、二人の前でそれは無意味だ。

 

「ほっほっ!」

「遅い遅い。そんなので私たちを倒せると思ってるの? この体を貫きたいなら、もっと息を合わせなさいな!」

 

 ひらりひらりと、舞うように手を繋いだまま二人は攻撃を躱していく。

 【隷獣】に連携の意志はない。仮に今のように、それっぽく見える状況があったとしても、そこにあるのは『どっちが先に獲物を狩るか』といった競争だ。僅かにズレがある。

 攻撃意志も物理的な間合いも、()()がある状態でエトナ達を捉えることは不可能だった。

 

「「――――」」

 

 無音の合図による、高速のスピンターン。先に攻撃が届く(距離が近い)【レプリカント】にエトナが来るように位置を入れ替えた。

 そのままの勢いで二人は体を傾け、槍の様な腕を躱すと同時に、放った鋭い蹴りで二体の【レプリカント】の胴体を貫いた。

 これこそが、エトナ達の常識外れの戦闘術の中で最も常識から外れた現象。デメリットが多いと思われた『手繋ぎ』だからこその副次効果だ。

 外殻を破壊して、内を破壊するという〈合力(〈魔力〉と〈気力〉)〉の特性による役割分担が、手を繋いでいる時だけはエトナ達に必要なかったのだ。

 二人の四肢には〈男女〉の特性がそのまま付与されている。

 

「八体目っと。そろそろ二桁に乗せたいわね

「十五m先に一体、そこから二m先にもう一体反応がある。そいつらを狩って、一旦休憩にしようか」

「了解」

 

 二人は砂塵の向こうにいる次の【隷獣】に破壊の意志を叩きつけた。

 いつもは人類の命を狩る側の【隷獣】も、今だけはその特権を失っている。

 道中跳び上がって、飛行体である【ヒュッケバイン】を足場として()()し、その速度をさらに加速。

 そこで見下ろす先にいるのは、体長一.三mの四足歩行【二ツ眼(デュオ)】。何物も噛み砕く鋭く太い牙が特徴の【マスティカ】だ。

 

「【マスティカ】だ! アイツは速いわよアッシュ!!」

「先に行く! 打ち上げるからあとよろしく!」

「了解!!」

 

 エトナがアッシュを地上に向かって思いっきり投げ飛ばす。

 牙による人体破壊が【マスティカ】の特徴だが、その最大の特徴は敏捷性。太くしなやかな脚による高速移動は、今のエトナ達の動きにも勝っている。

 ただ、どれだけ速くとも、動くよりも前に攻撃を仕掛け『空中』に浮かせてしまえば一体だけではどうしようもない。

 【マスティカ】の死角からさらに下。体を屈ませた状態でアッシュが降り立ち、その反発を利用して色の濃い【マスティカ】を思いっきり蹴り上げた。

 四肢に残った〈魔力〉の特性が破砕音を響かせる。

 

「Gァ亜Aアァあァ!!」

「へぇ、初めて聞いたわ、アナタ達の断末魔。【マスティカ】も声を上げることなんてあるのね。私のアッシュの攻撃がそんなに痛かった?」

 

 宙に浮かされ、無防備になった【マスティカ】を凄惨な笑みと共に迎え撃つエトナ。苦しみに喘ぐ【マスティカ】だが、生存を掴める『道』はもうない。

 エトナが〈気力〉の特性が残る右拳を思いっきり振りかぶり――

 

「――〈閃光〉」

 

 割り込む極太の緋色の〈閃光〉が【マスティカ】を包み込む。

 さらに二人を追い抜くように、そこに突如現れたハスタが長剣に緋色の〈合力〉を纏わせ、ボロボロの【マスティカ】を叩っ斬った。

 

「あー!! 私たちの獲物!」

「ちょっとハスタ! それはないでしょ!!」

 

 降りてくるエトナをアッシュが抱き止めながら、二人は獲物を奪ったハスタとミィシャに向かって抗議する。

 けれど、二人はそれをガン無視。近づいたミィシャと手を叩きながら、ハスタが戦果報告をする。

 

「うし、これで十一体目っと」

「ハスタ、七時の方向に【レプリカント】一体と【マスティカ】二体いるよ。どっちからやる?」

「全部同時だ。オレが先行してそいつらを釣るから、三体重なった瞬間に〈閃光〉をぶつけろ。出来るな?」

「ヨユーだよ」

 

 エトナ達に構うことなく、二人は獲物を狙うべく前進。

 取り残された二人は、顔を引き攣らせながらその背中を見つめた。

 

「アッシュ」

「分かってる。掻っ攫われたのはシャクだから、ハスタ達の獲物は僕たちが貰おう。一気に追い抜くよ」

「うんっ! ぎゃふんと言わせてやるんだから!」

 

 手を繋ぎ直しエトナ達は一気呵成に駆け抜け、ハスタ達を追い抜く。

 すれ違いざま、ハスタ達に勝ち気な笑みを浮かべて挑発。そのまま【マスティカ】を破壊した。

 

「あ、テメェら!!」

「お返しよ!」

「悔しかったら、僕たちより早く破壊するんだね!!」

「いい気にならないで!!」

 

 死が眼前に迫る〈外界〉に似つかわしくない四人の騒々しい余裕しかない声。

 ――エトナ達が〈外界〉への許可が降りてから一ヶ月。二人の討伐の速度は、〈英雄候補〉に追いつきつつあった。

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