手、繋ぐ。人類滅亡間際、救いの二文字は手の中に   作:睦月稲荷

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第二十譜 〈灰被〉返上

「おいこの【隷獣女】! テメェら、よくもオレらの獲物を獲りやがったな!」

 

 実戦演習が終わり〈グロウズ〉達が〈外界門〉の前に集められた中、いつぞやで見たようなハスタの怒号が響き渡る。

 違うのは、怒号を浴びせられている側の彼女の態度。至って平然と、悪いのはそっちでしょと言わんばかりに胸を張って、堂々と赤い眼を向けていた。

 

「なによ。元はと言えば、アナタ達から始めたことじゃない。アナタ達が【マスティカ】を横取りされたの、私ちゃんと覚えてるから。その後に私たちに遅・れ・て取り返されたからって文句言わないでよね。みっともないわよ」

「テ、テメェ……!!」

 

 睨まれても、決して怯むことのないエトナの正論。今までなら押し通せていただろうが、その言い分が正しいと分からされてしまったことで、ハスタは言葉に詰まる。

 というより、それ以上にまるでアッシュ(正論野郎)が乗り移ったかのような物言いが怒りを弾ませていた。

 すると、いつものような気怠げに、前髪を下ろしたミツキが大きくため息を一つ。

 

「……どっちが先か後かなんて、いつまでくだらないことやってるの? ……どっちも、おれらより遅かったんだから変わらないでしょ。……まぁ、どっちが上か――なんて比べるあたり、おまえ達は『下』がお似合いだよ。同率No.2」

「「テメェの方がスコアは下だろうが/アナタの方がスコアは下でしょうが!! ――ッ」」

 

 合いたくもない息の合い方で、エトナとハスタが即座に再び睨み合う。

 

「はぁ……まったく、ハスタったら……。にしても、いつもはやる気ないミツキがあそこで口を挟むなんて珍しいね。いつもならぼーっと突っ立ってるだけなのに」

「色々思うところがあったみたいよ。そういうミィシャだって、やけにやる気が漲ってたじゃない。そんなにエトナに負けたくなかったんだ」

「い、いやそれは……!」

 

 恥ずかしそうに頬を赤らめ、両手で握った長杖を横に振って否定する。が、それが効果を成さないのは一目瞭然。

 小さな彼女の頭をポンポンと撫でて宥めるイリーナが、隣にいたセヴァドスとキッカを含みのある視線で見る。

 

「まぁ意外って言うなら、セヴァドス様ですけどね。てっきり、ここで一番になろうとするくらいには頑張るかなって思ってたんですが」

「イリーナ、その物言いは少しばかり不敬かと」

「よい。流石はイリーナというべきか、()()()()()()()。なに、少しばかり実験をしていて討伐を後回しにしていただけだ」

「実験? なんの実験です?」

「それについてはまだ秘密だ。完成した際にお披露目してやる」

 

 不敵にほくそ笑むセヴァドスに、それこそが意外だとイリーナとミィシャが目を丸くする。

 隣にいるキッカもどこかいつもより距離が近く、表情が柔らかかった。

 

「セヴァドス様とキッカさん、なにかあったんですか……? いつもと雰囲気が違うような」

「べ、別になにもありません! ふ、二人で鍛錬していただけです!」

「枕に『特別な』がつくがな」

「セヴァ様!」

「「……()()()()??」」

「ハハハッ。まぁ、鍛錬は本当だ。なにせ、成長出来る方法を誰かさんが示してくれたのでな。活用しない手はなかろう――」

 

 快活なセヴァドスの言葉が、誰を指しているかは一目瞭然。彼女たちは、唯一輪に入れていないアッシュを見る。

 相変わらずの一人。あれだけ(大告白)のことをしても、アッシュへの対応は誰も変わらないが、そんなの彼は微塵も気にしていない。

 というより、気にする余裕が今のアッシュにはなかった。

 

「あぁ、エトナ……! あんなに正面からハスタと言い争って……! 成長したねぇ……! ――でも、ハスタと息を合わせるのは許せないかも……」

「「「「…………」」」」

 

 感涙にむせぶかと思いきや、突如目を暗くさせながら、未だに言い合うエトナを見るアッシュ。独占欲というか執着心というか、それらがいっぺんに伝わったことでミィシャたちの口が強制的に閉ざされた。

 あれが、おそらく『逆』だったとしても同じことをエトナも思うと分かるからこそ、その耽溺具合に胸焼けしそうにある。

 そんな侃侃諤諤(かんかんがくがく)に自由な光景を作り出す中心部を他の〈グロウズ〉が憎々しげに見ていると――

 パァンッとヨハンの柏手が全体に響き渡る。

 次いで。

 

「静粛に。いつまでダラダラダラダラ話しているのですか。さっさと、戦果報告だけをしなさい」

「「「はい」」」

 

 マリエラの極寒の圧に、〈グロウズ〉たちの背筋が氷を捩じ込まれたようにピンッと伸びる。一人だけ、凛々しい彼女の姿にデレっとしているがそれに構う者は勿論いない。

 場に沈黙が訪れる。

 

「さぁ、では左からお願いします」

「うす。ハスタ・ミィシャペア、討伐数32です」

「合計討伐数は、827ですね」

「……ミツキ・イリーナペア、討伐数29」

「合計討伐数は、これで800です!!」

「セヴァドス・キッカペア、討伐数25だ」

「合計討伐数は、804でございます」

 

 〈英雄候補〉たちの淡々とした報告に、〈グロウズ〉達から感嘆の声が漏れる。全員が〈執火官〉の資格を得る討伐数千体に近い。このペースならば、まず間違いなく最短で〈任命式〉に呼ばれるだろう

 次の報告者はエトナとアッシュペア。一ヶ月前なら、討伐数0だった彼女らに、ここでせせら笑いなどが起きるのだが、今は違っていた。

 堂々と、エトナが戦果を発表する。

 

「アッシュ・エトナペア、()()()3()0()

「合計討伐数は、4()1()1()()()

「「「――――」」」

 

 先ほど以上に、痛くなるほどの沈黙が〈グロウズ〉達に駆け巡る。

 合計討伐数そのものこそ〈英雄候補〉に及んでいないが、そのスピードは〈英雄候補〉も同然。十五歳で頭角を表し、半年で〈合力〉をモノにして戦果を出し続ける〈英雄候補〉もだが、このたった一ヶ月で彼らの半分に到達していることがどれだけ異常なことか、平凡な彼らには理解せざるを得ない。

 なにせ、彼らの一回の討伐数は多くて十数体。合計にしてもまだ二桁台。けれど、〈英雄候補〉が驚異的な速さで狩っていく現場でそれだ。十分に優秀な方ではある。

 それ以上に〈英雄候補〉が常識外れなだけだ。

 

「ッ……!」

 

 誰かの歯噛みする音が響き渡る。完全に最下位から抜け出されたと分かる悔しさと屈辱。一ヶ月前に言われた事が実現していた。

 〈灰被(ハイカブリ)〉と蔑むことはもうとてもじゃないが出来そうにない。

 ヨハンがその討伐数を書類に記録しながら、彼らを褒め称える。

 

「まさか、一回でここまでの戦果を出すとはね。流石は〈英雄候補〉というべきか。それとも、良いライバルが現れたことの影響かな?」

「それこそ、まさかですよ。ただ、数がいつもより多かっただけっす。たかが『作業』に一々威張ってられるかってんだ」

「あら。さっきまであれだけ早い者勝ちに拘ってた人のセリフとは思えないわね。さっきの今でもう改心したの?」

「いいから、テメェは一々チャチャ入れてくんじゃねぇよ!!」

「あんた達、いい加減にしなさい! マリューの話が聞こえないでしょうが!!」

 

 ガツンッと、再び喧嘩を始めようとするハスタとエトナの頭を殴りつけるイリーナ(世話焼き役)。いつものようにまとめたつもりだろうが、そこに私怨が混ざっているのは誰もが理解していた。

 そうして場の雰囲気が元に戻る中、アッシュが手を上げて、戦っていた時にはスルーしていた疑問をマリエラに投げかける。

 

「あのーマリエラ先生。一つ質問」

「なんでしょう?」

「今まであまり直接対峙していなかったので知らなかっただけかもしれないんですけど、【マスティカ】って『声』を出すんですか?」

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