手、繋ぐ。人類滅亡間際、救いの二文字は手の中に   作:睦月稲荷

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第二十三譜 逢魔ヶ時の逢瀬

「うわぁ、うわぁ、うわぁぁぁ! 凄い、凄いよアッシュ! 見てみてあそこ! あんな綺麗な飾り付け見たことないわ!」

「は〜あんな緻密な花模様を形にするなんて、作った〈煉火師〉はかなりの腕だね。うん、見ててこっちの心も温かくなってくるよ。やっぱ良いね、こうやって形に残るモノがあるのは」

 

 赤い髪が映える白を基調としたエトナの私服。演習後、精一杯のオシャレをしたエトナは、アッシュの手を取りながら〈開拓祭〉の前夜で賑わう街中に目を輝かせていた。

 ここは円環状になっている〈アルカ〉の第二環だ。居住区・学校区・商業区と人の営みが繰り返されるこの場所は今、希望に満ちていた。

 聖鉱石による純白の石畳。聖鉱石単体で見れば無機質極まりないのだが、同じ色の建造物にはこれでもかと装飾が施され、より一層の煌びやかさを演出していた。

 人の明るいざわめき、どこからか香ってくる料理の匂い、準備に勤しむ活気溢れる音。多くの人が行き来し合うからこそ、誰も二人に注目することもなく二人は気兼ねなく楽しむことが出来ていた。

 

「ねっ! あっ、アッシュ! あっちアナタの好きそうなスイーツあるわよ! 見に行きましょ!」

「スイーツ!? 行こう、早く行こう!!」

 

 今度はアッシュが目を輝かせ、エトナをリードし歩いていく。もちろん、はぐれないように手はしっかりと握って、人にぶつからない様に二人は息を合わせて華麗に歩いていく。

 滑らかな道を滑るように歩きながらアッシュは、溢れそうになる想いに胸を熱くさせていた。

 

「(あぁ……、いいねやっぱり。『明日を願う』人の想いが溢れた、生気あるこの街並み……。ここを一番大切な人と歩けるなんて。お婆ちゃん、これが『幸せ』なんだね――)」

 

 感慨深く、今自分が立っている場所と手の温もりにアッシュの顔が思わず綻ぶ。

 ――どうしてまだ26年しか経っていないのに、人口を50万人にまで減らした【第七次赫醒戦】からここまで綺麗な街並みになったのか。

 理由は三つ。

 一つ目と二つ目は関係し合っている。皮肉にも人口が減ったからだ。

 当時、都市に侵入してきた【隷獣】。向かう先は第一環にある農村地帯だった。そこを〈執火官〉が命懸けで守り抜いたことで、食糧を万全に行き届かせることが出来たのだ。そんな『漲る生』を糧に、人々は立ち上がったのである。

 もう一つにして究極の理由が、〈道導〉がいたこと。英雄に相応しい活躍をして〈戦線区域〉を広げ続けたことで、効率よく『物資』が都市に届けられるようになったのだ。

 そうして、生きる希望を抱いた人々が聖鉱石を加工し、留まることなく復興を開始。

 今エトナたちが歩いているその道は、まごうことなき人の歩みの結晶体なのだ。

 それをアッシュは理解しているからこそ、エトナと歩むこの道が一層華やいで見えて嬉しくなっていた。

 

「アッシュ、アッシュ! ちょっと、あれ! 綺麗なアクセサリー売ってるわ! あれ見に行きたい!」

「ふふっ。いいけど、エトナ。そんなに、はしゃいでたら保たないよ。〈開拓祭〉の本番は明日なんだから」

「あ」

 

 人にぶつかりそうになったところを、軽くアッシュが引っ張って胸の中へ。顔が近くなり、よく見えるようになったアッシュの笑顔でエトナがようやく我に返る。

 

「ご、ごめんアッシュ! 私ばっかりはしゃいじゃって! こ、こういうの初めてだったからつい……! まずはスイーツよね! ったくもう、私ったら……!」

「ううん、僕としては可愛さ爆発してるエトナを見れて嬉しいから。もっともっと、はしゃいでいいよ。それだけで僕は楽しいし」

「う、うううう……!」

 

 恥ずかしそうに顔を腕で隠すエトナ。と、そこで気を取り直し(自分を誤魔化す様に)頬を赤らめたまま真剣な眼差しで空を見上げた。

 

「で、でも浮かれてばかりはいられないわよね。セヴァドス様も『気を張っておけ』って命令してたし……」

「〈斎火(いみび)天蓋(てんがい)〉昂ぶってるもんね」

 

 〈合力〉を発動させ、強化された視力で二人が空を見上げると、夕方を映し出す()()()()()が何かを弾いた様に小さな波紋を広げていた。

 〈斎火の天蓋〉は、最上級の〈浄火〉の力を持つ王族だけが生み出せる人類生存の絶対領域(結界)のことだ。天蓋が張られていることで、【邪気】や自然災害から都市を護り、人々は【ラグナマキア】以前の生活様式で生きることが出来ていた。

 色は【邪気】を弾く際に自然発光されるもので、人はその色を時間として定めていた。

 【邪気】の濃度が薄い朝焼け〜昼前は〈琥珀色〉。昼間〜夕方にかけては〈白熱色〉となり、その中の一時――最も【邪気】の濃度が濃くなる黄昏時は〈極彩色〉だ。

 

「……【邪気】の濃度がいつもよりかなり濃い。〈合力〉を使っていないと分からないレベルとはいえ、天蓋が(たわ)むのは相当のことなはず……。私も反省しないと――」

「いや、良いんじゃない別に。気を張っておくのと、楽しむことは別の話でしょ」

「え?」

「だってほら。普段はもういない、僕たちなんかより長く生きてる人たちが、まだここに集まってるんだ。なら、僕たちだけ気を張り続けても疲れるだけだよ」

「あ……」

 

 【隷獣】は一番怖い時にやってくるぞ――という言い伝えから、この時間になるともうほとんどの人が外には出ないのだが、お祭りの影響だろう。家に帰っている人の方が少ない。

 ただ、それは言い伝えを軽視しているわけではなく、【隷獣】の理不尽さを身に染みて理解しているからだ。

 いつなにが起きてもおかしくない。26年前から生き残った人々はそれを理解しているからこそ、『今』を楽しむために祭りの準備に勤しんでいるのだ。

 

「だから、僕たちもお祭りを全力で楽しんで良いんだ。セヴァドス様が言ってたのだって『気を張っておけ』ってだけで、『楽しむな』とは言ってない。僕はもっとエトナとこの雰囲気を楽しみたいよ」

「アッシュ……。そうね、アナタの言う通りだわ。こんな機会は滅多にないし、私もアッシュともっともっと楽しみたい……! 連れ回すけど良い……?」

「仰せのままに、お姫様――」

 

 にっこりと笑顔でアッシュが腕を差し出すと、エトナも晴れやかな笑顔を見せてアッシュの腕をぎゅっと抱きしめる。

 恥ずかしいが、それ以上にアッシュとこうして一緒に歩くことの方が大事。

 心から湧き上がる幸せを味わいながら、二人は賑わう街に足を進めるのだった。

 

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