手、繋ぐ。人類滅亡間際、救いの二文字は手の中に 作:睦月稲荷
「ハスタ……! ハスタ……!」
衝撃が空気を破裂させ、余波がミィシャ達のいる地下を揺らす。
その揺れが横たわるハスタの失った意識を呼び、手から伝わる温もりがハスタに瞼を開けさせた。
「ミィ……シャ……」
「ハスタ!! 良かった……!!」
生きていることは分かってたとはいえ、戻らない意識に恐怖していたミィシャが安堵の声と共に瞳に涙を浮かべる。
その涙がハスタの頬に落ちたところで彼の意識は明朗となり、状況を理解。
お互い満身創痍という言葉がこれでもかと似合っていた。
「生きて……たのか……」
信じられない――と言いたげな声色のハスタ。そこには自分とミィシャ二人分の意図が込められていた。
「うん……。ハスタは嫌がると思うけど、エトナたちが助けてくれて……。それで今、わたし達は戦線から離れてこの地下にいて……二人は代わりに戦ってくれてる」
「代わりに……だと? ってことはもしかして、アイツらが【ハルピー】と戦ってるのか……!!?」
「ちょっ! ハスタ……! 動いたらダメだよ! 傷はまだ塞がってないんだよ!?」
驚愕の中に、己への怒りを乗せたハスタが歯を食いしばり、無理やり体を起こそうとする。
ミィシャが手を繋ぎ続け、〈合力〉を維持することによって高まった自然治癒力がハスタから流れる血を止めている。
それでも、出来たことは応急処置未満。〈聖薬〉もなく、〈
全身に走る激痛は何も消えておらず、いつ血が吹き出てもおかしくない。
「そんなこと……どうでもいい……! アイツらに借りを作ってたまるか……! あれは、オレたちの獲物だ……!」
「その気持ちは分かるけど……。でも――」
地響きが轟く。それはエトナたちがまだ逃げず、生き延び、そして戦っている証明。
散々見下し――認めたくないが
敵にズタボロにされ、見下していた相手に助けられたままでいるのは、自分自身を許せない。恥でしかなかった。
なにより――
「いいか、ミィシャ……! オレはな、怒ってんだよ……! ミィシャをこんな目に遭わせやがって……! ぶち殺さねぇと気が済まねぇ……!」
「ハスタ……」
「【
誰よりも勝ち気に、誰よりも上を目指そうとするハスタ。そこには名門たるオッフェンデレ家としての矜持もある。
ただ、それ以上にハスタは
最後まで逃げずに抵抗していた理由もミィシャのことを思ってのこと。
手を繋いでいることでハスタの本心が伝わり、怯えていたミィシャの心も戦意へと変わる。
「分かったよハスタ……。一緒に戦おう。でも、戦うって言ってもどうするの? わたし達の武器はもう【ハルピー】に壊されちゃってるよ?」
「それについても考えはある。――そもそも、まともな武器がないのは『アイツら』も同じだ。同じことがオレ達に出来ないわけがないし、それに何よりオレ達にも
「え?」
手を借りながら今度こそ立ち上がり、両手を合わせてハスタはミィシャの瞳を見つめる。
「アイツらのことがきっかけなのはシャクだがな、ここで死ぬのだけはそれ以上にシャクだしあり得ねぇ」
「ハスタ、まさか……」
「やるぞ。アイツらに出来たことが、オレらに出来ないわけない。
――それは、エトナ達が〈合力〉を切らした時、咄嗟に放った炎の刃。
あの時は無我夢中でやったことだが、あれこそが〈合力〉の制御の極地にある〈固有能力〉の一端だ。
きっかけは既に掴んでいる。
あの昂った感情、魂が
「分かった、やろう」
「それでこそ、オレのパートナーだ」
手を握りしめ、瞳を閉じ、二人は心の波長を合わせる。
――〈合力〉はお互いを信頼し、
お互いの心が昂れば、その分だけ〈合力〉の出力も昂る。二人は溢れんばかり緋色の〈合力〉を、それでも確実に制御していった。
「(オレ一人じゃアイツらには勝てねぇ。けど、這いつくばったままのオレを許してたまるか。オレはミィシャと一緒に〈道導〉を超えてやる……!)」
「(ハスタばっかりに支えられてどうするのミィシャ・パシュ。ハスタのパートナーでいたいなら……ハスタと一緒に『上』に行きたいならちゃんと隣を歩くの……! エトナ達ばっかりに遅れを取ってたまるか……)」
「「オレ/わたし達がNo.1だ!!」」
二人で胸に湧きあがった想いを詠唱として口にする。
「〈オッフェンデレ家の名において、この身に勝利の栄光を〉」
王家の剣である名門たる誇り。それをミィシャと共に示し、果たす誓いの言葉。
「〈パシュ家の名の下に、この身に民を護る輝きを〉」
オッフェンデレ家を支え、民を守る者としてだけじゃない。『わたし個人』がハスタを支えたいという想いも載せてミィシャが紡ぐ。
目を合わせ、最後の詠唱を――
「「〈魅せるその背が希望とならん〉」」
二人から勢いよく発せられる緋色の〈合力〉が交差し混ざり合い、『熱』を持ってそれぞれの手に集中していく。
〈執火官〉の中でも第Ⅱ階位たる〈
緋色を纏う繋がれた手がゆっくりと離れる。しかし、放された訳ではない。
緋色の〈合力〉が両者を繋いだまま激しい鼓動のように
「「〈
轟々と燃え盛る炎の剣と炎の長杖が二人の手に収まり、地面を焦がしていった。
*
「ハッハーーーーッ!!!」
「さぁさぁ、アナタという経験値を私たちに寄越しなさい!!」
身体に傷が増え、血飛沫が宙を舞うも二人の動きはむしろ加速。『未来の姿』を楽しむ余裕が〈合力〉の出力を上げていく。
二人の意識は今、回避だけに集中している。まともに防御しても【ハルピー】の【羽】攻撃を完全に防ぎ切ることは出来ない。
ヒットアンドアウェイ。渾身の一撃を与える機会が訪れるまで、決して攻撃に意識を割かない。
それが、怪音波を防ぐ絶対条件だった。
「【――――――ッ〜〜〜ァ】」
【ハルピー】が【
それよりも早く、二人は口を開けた時点で動いていた。やることは先程と同じ。高速で描く蹴りの軌跡で空気の膜を作って相殺する。
「今だ!!」
「カウント五秒!!」
アッシュの声がけで手を離し、『一体』から『二体』に。攻撃対象が増えたことで、【ハルピー】の意識を逸らす。
【隷獣】の特性は、人類殲滅。【隷獣】の本能として定められたそれは、どんな状況においても最優先される。それに伴って行われるのが
【ハルピー】の中で最も効率の良い攻撃は『音』だろうが、今はそれは使えない。
――つまり、来る攻撃は……
「「範囲攻撃!!」」
【羽】を広げて一斉に拡散。縦横無尽。豪雨のように降り注ぎ、硬い地面を穿つその攻撃を二人は『一人身』を活かして軽やかに避けていく。
空っぽになった翼。掻い潜り、二人は同時に死角に潜り込む。意識が下に集中するのを察知したエトナが――
「ここ!!」
同時に即座に飛び上がり、邪魔な【羽】が無くなった翼の前で手を繋ぐ。
煌々と両手に白光の〈合力〉を宿らせ、繋いでいない方の拳を【ハルピー】の翼の間の背中に力の限り叩きつけた。
「はぁぁぁぁ!!」
「砕けろぉぉぉぉ!!」
「【――――――】」
痛みを感じているかのように、【ハルピー】が大きく口を開く。
ついで、響き渡る
それぞれの拳が砕けたのを代償に、あらゆる攻撃を弾いていた外殻が砕け、蒼い血が滴る【隷獣】の中身が現れる。
その奥には悍ましい紫色の球体――【邪気】の塊であり【隷獣】の
これの硬度は共通。【隷獣】の外殻を砕けるだけの力量があるなら間違いなく破壊出来る。
つまり、いかに【
「見えた!!」
『手』はまだある。繋いでいる方の手に〈合力〉を集中させ、その破壊の一撃を繰り出そうとする。
だが、【
「ったく……! だからテメェらは……」
「世話が焼けるんだよ!」
その死に送る槍を、炎の刃と炎の奔流が燃やし尽くす。
ハスタとミィシャによる、〈固有能力〉での攻撃。ヨハンから聞いていた、助けてもらった時以上の炎が【ハルピー】の翼を焼却した。
目の前には何もなく、恐れるものも何もない。【ハルピー】に大きすぎる隙が生まれた。
「【――――――〜〜〜〜〜〜!!!】」
〈
死を与えていた存在に、それが還ってくる。
「「いけ!!」」
二人が来ることを信頼していたのか、エトナたちはその攻撃動作を止めていない。それどころか、溜めに溜め続け『両拳』は眩い光を放っている。
「私たち――」
「――僕たちが」
「「〈英雄〉になる!!」」
〈固有能力〉は使えないが、それっぽいことは言いたいと子供心で生まれた、いずれ『二人』を象徴する技を【ハルピー】の
「「〈
蒼い血すらも蒸発させた一撃。
【ハルピー】の全身が上から下に向かって亀裂が入り、次の瞬間に粉々に砕け散った。
パラパラと紫白銀の雨に打たれながら、身も心も力を使い果たした二人は受け身も取れず地面に転がった。
全身に走る裂けるような痛み。けれど、二人は確実にまだ生きていた。
戦場のプレッシャーから解放され、落ちそうになる意識を繋ぎ止めて二人は勝利を祝う。
「……今度こそ、やったね――だねエトナ」
「えぇ、本当……お疲れさま、アッシュ。まぁ、私としては……二人だけで倒したかったんだけど」
「……分かるよそれ。……でも、ハスタ達も頑張ったんだ。これくらいは許してあげようよ……」
「そう、ね。はぁ、また借りが出来ちゃった……。いつまで返さないといけないのかしらね……」
「ね……」
「でも、そうね……。感謝はしてあげるわ……。起きたらちゃんとお礼は言いにいきましょ。今度こそ、受け取ってもらうんだから――」
遠くで意識を失いかけているハスタ達も同じようなことを思っていることにも気付かずに、二人は泥の沼の底に沈んでいくような意識に身を委ねる。
四人が最後に見たのは、こちらへと慌てて駆け寄ってくるセヴァドス達の姿だった――。