手、繋ぐ。人類滅亡間際、救いの二文字は手の中に   作:睦月稲荷

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第三十九譜 泥に濡れてもなお

 力無く項垂れながら放たれた無気力な言葉に、エトナたちの思考が一瞬だけ固まる。

 目の前にいるのは誰だ? と思ってしまうほどに、目の前のセヴァドスに王族としての威厳はない。というよりも、今のセヴァドスの姿は()()()()()()()()()()()()()()()()()

 なにもしないセヴァドスに(じれ)ったくなったエトナが、問いただす。

 

「……無理ってどういうことよ? 何か身体に異常があるの?」

「いいや、そうじゃない。其方らは〈斎火(いみび)天蓋(てんがい)〉を使える者として私を頼ったのだろうが、それは不可能という話だ。――私には〈斎火の天蓋〉を発動させることは出来ん」

「国王たちしか使えない、なんて意味じゃないよね? 〈斎火の天蓋〉は王族の固有能力だ。王族であれば誰でも使えるって聞いたよ」

「あぁ、そうだ。アッシュの言っていることは間違っていない。だから、分かるだろう? ――私は、落ちこぼれの王族なのだ」

 

 とことん恥だと、自嘲と共に吐き棄てる。

 本来、王族ならば〈合力〉を扱えるようになった時点で〈斎火の天蓋(固有能力)〉が発現するもの。次世代の人類を絶対に守るためにと、善神〈メテウス〉より膨大な〈気力〉量・〈魔力〉量という恩恵を授かり、早熟を約束された一族。

 それがメーテリウス家だと、セヴァドスは語る。

 

「なのに私にはその当たり前が出来ない。他の者と違うことが出来るモノといえば、ささやかな〈合力:浄火〉だけ。幸い戦闘面では才があったためなんとか役に立とうと〈執火官〉になろうとはしたが、結局はお飾りのNo.2止まり。【四ツ眼(クワトル)】を倒せもしなければ、ここに現れた【隷獣】すらも倒せない未熟者。父上が誤魔化してくれたおかげで、今までは騙し騙しやってこられたが、本来の私なんて、こんなものだ……」

「セヴァ様……」

「先程も、なにも出来なかった。父上と母上が【隷獣】に殺されそうになっているにも関わらず、私がしていたことといえば馬鹿みたいに突っ立っているだけ……。きっと、殺されたくなかったんだろう……。ハスタが乗っ取られていたことなんて言い訳にならない……。そういう情けない卑怯な奴なのだ私は……」

 

 ひたすらに、後悔を恥を己へと塗りたくるセヴァドス。俯く彼は誰の目も見れないでいる。失望、あるいは怒り、それとも虚無か。

 そういった視線を見たくないと、自分の心の弱さにまた情けなさを覚えていた。

 

 ――これだから、最期まで父上と母上から目を向けられることもないのだ。と、劣等感を膨らませていく。

 

「だから、私を頼りにはしないでくれ……」

 

 完全な自己喪失。

 チラリとエトナとアッシュが破壊された病室を見る。【隷獣】に殺された、と言った通りそこはもう部屋としての機能を消滅させている。

 見るも無惨になった部屋の中に散らばるのは、赤い血と四つの死体。そして、血は流していないがずっと倒れ伏したままのハスタがいる。

 陰鬱とした負の吹き溜まり。唯一の生き残りはご覧の有り様で、やるせない憤りがエトナの中に渦巻いていく。

 すると、ズズズッと足を引き摺る音が聞こえてきた。

 

「ハス……タ……」

「ミィシャ!?」

 

 現れたのは〈マスク〉を付けているミィシャだった。だが、間に合わなかったのか【邪気】に汚染された彼女の身体はもう血だらけ。顔は苦痛に歪み、全身に走る激痛は今にも『死にたい』と思わせてくる。

 だが、彼女はエトナたちを押し退けて『前』だけを見ていた。

 

「どい……て。わたしは……ハスタのところに……。〈合力〉を……」

「ミィシャ……。でも、ハスタは多分もう……」

「関係……ない。ハスタのいるところが……わたしの、いるところ……。わたしが隣にいないで、誰が彼を守る……の」

 

 息も絶え絶えで、体はまともに動かないのにハスタだけを思って歩くミィシャ。横たわるパートナーを見て息が止まりそうになるが、ここで倒れてたまるか――とハスタと手を繋ぐ。

 そこに、意味はない。

 

「あ――そう、だった」

 

 ――〈合力〉の発動にはお互いの意志が必要。

 再発動ならまだしも、意識を失っているハスタにその意志は取れない。

 ごめんね、と小さく呟き、虚しさを抱えたままミィシャはハスタの隣で倒れた。

 

「ミィシャ……!!」

「待ってエトナ! 大丈夫、彼女はまだ息がある……!! 〈斎火の天蓋〉で〈浄火院〉を覆って〈浄火〉を使えば助かる可能性は高い!! だから、セヴァドス……! 君の劣等感は理解するけど、それでも出来るっていう可能性に全力を費やしてくれ!!」

「……やろうとは思っている。だが、出来ないものは出来ないのだ。諦めてくれ……。……友人が倒れてもこれだ。……私には王族としても〈執火官〉としても『居場所』がない」

「セヴァ様……」

 

 自虐を繰り返すセヴァドスに、ずっと彼の劣等感を見てきたキッカはなにも言えない。

 するとその時、怒りが頂点に達したエトナがセヴァドスの頬を思いっきり叩いた。

 パァンと乾いた音が響き渡る。

 

「さっきから聞いてれば……。居場所がないから、なにもやらない? ふざけないで! そんなの私が許さないから!」

 

 それは居場所を与えられなかった、彼女の心からの叫び。項垂れたセヴァドスを過去の自分と重ね、情けなさすぎる姿に同族嫌悪を覚えていた。

 だが、それ以上に。今、『私』がここにいる意味を思えば、一言以上言ってやらないと気が済まなかったのだ。

 

「セヴァドス様の気持ちは分かるよ。けど、納得なんてしてやらない! 未熟でも居場所がなくても、前に進まなきゃそれこそ今ここにいる意味がなくなるの! 足掻いて足掻いて足掻いて、そこで倒れてもなお立ち上がれる者に人は希望を見るんでしょ! そのための〈英雄候補〉じゃない! 私たちに倒れてる暇なんてないの! ごたごた言い訳ばっかり並べてないで、さっさと前を向いて、がむしゃらに走りなさい!」

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