元パーティーメンバーに『ざまぁ』されないように世界の果てまで逃げる   作:hoge55

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4話

 さて、とギルドの一角でパーティー全員が集まり話し合いを始める。内容については当然ーーー。

 

「『眠らずの洞窟』の攻略、先越されてしまいましたね・・・・・・」

「だな・・・・・・」

 

 俺たちが『眠らずの洞窟』に挑戦すると決めていた当日、ギルドで最終チェック中にギルド職員よりもたらされた俺たちよりも先に攻略されたという情報。それ自体は別にいい。そもそもこのダンジョンは既に過去の冒険者によって攻略済みであり、今回が初めてでは無い。俺たちがここに挑戦しているのは単に腕試し。難易度の高いダンジョンに挑戦して自分達のレベルを確かめるためだ。

 しかしこうなると俺達が立てた計画が少しだけ狂う。

 

「昨日攻略されたのか今日攻略されたのかは不明だが、私たちが再挑戦するまで時間が空くな」

 

 ユートリアが淡々と口にする。

 そう、ダンジョンは一度攻略されると暫く時間を空けないといけない。別に、ダンジョンに入れないなんてことは無い。ただ、ダンジョンの魔獣が出現しなくなる。

 

 この世界の空気には魔素と呼ばれる物質が含まれている。俺たち人はその魔素を呼吸によって体内に取り込んで魔素を基に魔力を精製、魔法の行使へと繋げていく。人以外にも魔素は利用されており、動物なんかは過剰に摂取した場合は魔獣へと姿を変え魔素を持つ人を襲うようになる。加えて、魔素が密集している場所では魔獣が発生する。先日、俺たちが倒した巨獣タイタンもそのケースだ。

 だが、動物から魔獣への変身や無から魔獣の発生は非常に極めて稀だ。通常、地上にはそこまで過度な魔素は満ちていない。だからこそ、人は魔素を取り込む量も少量であり、魔素から精製される魔力に人体が慣れるのは難しく“魔力酔い”が起きる。マギサのように魔力酔いが起きないほど圧縮された魔力を精製するというのは魔法使いの目指す極致と言える。

 

 そんな空気中に薄く存在している魔素だが、唯一密集している場所がある。それがダンジョンだ。ダンジョン内では空気中の魔素濃度がかなり高いため、ダンジョン内では至る所で魔獣が発生し、通常の動物たちも姿を消す。

 過剰な魔素は魔獣達を凶暴にし、冒険者達に牙を剥く。当然、魔法使いは通常よりも魔力酔いのリスクは高まり、魔素を取り込むだけでは起こらない筈のそれも、ダンジョン内では過剰な魔素が人体へ影響を与える。それを防ぐために支援魔法により酔い止めの様な形で事前にメンバー全員へ支援を掛け、ダンジョン内でも適宜魔素の影響が人体へ及ばさない様に注意している。支援魔法の使い手は冒険者パーティーにおいて生命線と言える。

 

 そしてその魔素が極端に薄まるタイミングがある。そのタイミングこそがダンジョンの攻略。ダンジョンの奥地、最も魔素濃度が高い場所には強大な魔獣が存在しており、一般的に“ボス”と呼ばれている。ボスを倒せばダンジョンはまるで主人が居なくなったかの様に活動を停止し、魔素が急激に薄まる。そこの因果関係は頭の良い学者達が研究している様だが、未だ掴めていないらしい。そもそもダンジョンの発生原因が不明だしな。

 

 魔素が薄まると、それを活動のエネルギーとしている魔獣達はダンジョンと呼応するように活動を停止し、新たな魔獣の発生も無くなる。その間、人は何をするのかというと・・・・・・ダンジョン内にある資源の採集だ。通常時、ダンジョン内は魔獣が跋扈しており資源の採集は難しいが、この停止期間中であればいくらでも採集が出来る。

 だからギルドはダンジョンを攻略したパーティーに対してダンジョンの難易度、採集できる資源の希少性、その数・・・・・・その他様々な情報を加味して報奨金を渡し、加えて冒険者全体へ資源採集依頼を発注する。

 

 既に、この街のギルドを拠点としている冒険者達も攻略された『眠らずの洞窟』へと赴き、せっせと資源採集に励んでいる。

 いつもはギルド内で屯っている冒険者達も資源採集へと向かっており、今ここにいる冒険者は俺達だけとなっており、ガランと静まり返っている。

 

「次、ダンジョンが活動再開するのっていつだったかしら?」

「そもそも攻略されたタイミングが分かんねーかんな。ただ、あそこの停止期間は二日らしいからそこまで待たされることはねーと思うぜ」

「早いわね・・・・・・一昨日は攻略されて無いのは確認されてたわよね?それじゃあ、明後日になりそうかしら」

「そうですね。少し予定は狂いましたがそこまで影響は無いと思います」

 

 『眠らずの洞窟』が攻略されて活動を停止し、活動再開するまでの期間は“二日”。これは現在確認されているダンジョンの中では群を抜いて短い。殆どのダンジョンは二週間〜一ヶ月程度。長いところは半年かかる。そういったダンジョンは相応に大きいが、『眠らずの洞窟』はダンジョンが広大なのに加えて、停止期間がほぼ無いに等しい。更に、通常のダンジョンと比べて魔素濃度が非常に高いため、魔獣の出現も圧倒的に多く冒険者に対して息つく暇もなく襲いかかる。

 故に、『眠らずの洞窟』。

 

 ダンジョンの活動再開が早いため、ギルド側も資源採集は本日限りとしている。今日攻略されたのであれば明日まで大丈夫だが、攻略されたタイミングが分からない以上、今日だけの採集としているのは適切な判断だろう。

 俺達も余裕を見て、最速で挑戦するのなら明後日がベスト。

 

 その後もこれからの予定を詰め、ある程度決まったら話題は次へと流れる。

 

「それで、いったい誰が攻略されたんでしょうかぁ?」

「ギルド職員に聞いても分からないと言ってたしなー・・・・・・それにこの街に居る冒険者じゃ、俺たち以外にあそこを攻略出来そうなパーティーは居ない筈だ」

「他の街の冒険者ではないのでしょうか?」

「あー・・・・・・多分違うな」

 

 次の話題。誰が『眠らずの洞窟』を攻略したのか。

 ダンジョン資源はギルドが管理している以上、ダンジョン付近に必ず観測員を設置している。冒険者に対しても攻略前にはギルドへ一報入れる様にお願いしている。義務としていないのは冒険者がそこまで頭が回らない生き物だと思われているかららしい。舐められすぎだろ。

 

 アリアの言った通り、他の街を拠点としている冒険者が攻略した可能性もあるが、恐らくその線は低い。ギルドにはそれぞれ管轄があり、その中でダンジョンの管理を行っている。『眠らずの洞窟』を管理しているのは俺たちが居るこの街で、他の街に居る冒険者はわざわざマナー違反というリスクを冒してまで攻略しない筈。

 

 ギルドの観測員も二人組の冒険者がダンジョンから出て来たのを遠くから確認した程度だそうだ。そのコンビに聞き取りして貰いたかったもんだ。荒くれ者の冒険者にそんなことやりたく無いだろうから仕方ないちゃ仕方ないが。

 

 いったいだれがこうりゃくしたんだろーなー、だれだろーなー?

 

「どうやら、カイルには思い当たる人物が居る様だ」

「!?」

「何、アンタ知ってんの?隠してないで教えなさいよ」

「ユ、ユートリアお前・・・・・・!マギサも誰が攻略したとか大して興味ねーだろ!」

「暇潰しよ暇潰し。どうせ今日は瞑想しかやる事無くなったからそれまでの間、話し相手になりなさいよ」

 

 こ、こいつ・・・・・・。

 

 マギサは完全に聞きの態勢に入っており、適当に誤魔化しておくか、なんて考えるがふと周りを見ると俺以外の四人全員が俺を見ていた。あ、これちゃんと言わないと帰らせて貰えない感じだな・・・・・・。

 

 観念して溜め息を吐きながら自身の考えを口にする。

 

「・・・・・・ゼイロじゃねーの?」

「ハァ?そんなの・・・・・・・・・・・・いや、無くは無い、かしら」

「・・・・・・実は私もそうなんじゃ無いかって、思ってました」

 

 俺の言葉にマギサは反論しようとするが、少し考え込んだ後すぐに俺と同じ結論に至った様だ。アリアは元から俺と同じ考えだったみたいだが。つーかユートリアも絶対分かってて俺に言わせただろ。

 

「それだったらアイツ、才能を使えるようになったってこと?」

「俺はそう思う。この前話したアイツの無自覚の支援も、パーティー脱退を契機になって才能が使える様になって俺たちへの支援を打ち切ったんじゃねーか?そんで新しい仲間増やしてダンジョンに突撃、見事攻略成功って流れだと思うぜ」

「だいぶこじつけな気もするけど・・・・・・そう言われたらそうとしか思えなくなって来たわね」

「あのぉ、ゼイロさん?って荷物持ちだったんですよねぇ。その方が急にあのダンジョンを攻略出来る程の強さを得たということでしょうかぁ?」

 

 マギサも俺の考えに納得したようで、それ以上追及して来ない。ただ、フィリスからもっともな疑問が出る。

 それの答えも、ゼイロの才能で片付く。

 

「アイツが授かった才能は<ステータス編集>だ。大方、自分の能力を“編集”して強くしたんじゃねーの。やり方はさっぱりだけど」

「ははぁ、それは何とも・・・・・・」

 

 ゲームのようなにステータス画面でも見えるのだろうか。パーティーにいた頃はそんな物は何も見えなかったらしいが。それに、ここまで早く強くなると一つ思うことがある。

 

「アイツ、訓練しても強くならなかったのって才能が原因かもな」

 

 元々その可能性自体は考慮していた。ゼイロにもその事は言い、それからは才能に使い方を探るように試行錯誤していたように見える。あくまで可能性だから訓練自体はした方がいいとも言ったが・・・・・・まあそれはいい。

 

 女神から授かる才能は何もメリットだけを享受出来るものでは無い。アリア、マギサ、ユートリアがいい例だろう。

 

 アリアは<剣聖>により剣術の上達が格段に上がるが、剣以外の得物は圧倒的に扱いが下手だ。技術の上達も苦労している様に見える。

 マギサは<魔導>により常人よりも効率的な魔力運用が可能となるが、10歳になり才能を授かったタイミングであろうある日に溢れ出す魔力に体が耐えきれず自壊したらしい。

 ユートリアは<精霊憑き>により精霊に憑かれその力を授かることが出来るが、魔法の使用が出来なくなる。精霊に憑かれる事で体に流れる事になる精霊の血とやらが魔法の発動を邪魔するらしい。

 

 強大な才能を持つ物は皆、大小差はあれど何かしら苦労をしている。

 ゼイロも才能が想定通りの強力さだと、そのぐらいのデメリットがあってもおかしくは無い。きっと俺じゃ想像出来ない様な苦しみがあるのかもしれない。

 

「ーーーやはり、ゼイロくんは私を、恨んでいるでしょうか・・・・・・」

「何言ってんのよ、そんなの逆恨みでしょ。出来る事はやってたし私達に非は無いわ。むしろ環境を変えたからこそ才能を使える様になったと考えるべきよ」

「そーだな。つーか恨まれるんなら俺だろ。別れ際、俺に色々言ってたし俺に対する不満結構あるだろーよ」

 

 アリアがゼイロにパーティー脱退の話をした時、もっと冷静な状態で話し合っておけば。なんてことは言わない。言っても意味は無いし、むしろ俺が円満にパーティーを抜けてもらうようにもっと強く介入するべきだった。

 

「皆、何かしら反省することはあるだろう。アリア嬢だけの責任じゃない」

「アタシは無いわよ」

「マギさんは強い言葉で怖がらせてたんじゃねーのかな・・・・・・」

「それはアンタもでしょ」

「・・・・・・・・・・・・え?」

 

 嘘だろ、と思いアリアを見ると少し苦笑いしていた。

 ま、まじか・・・・・・。俺の何気ない一言がアイツを苦しめた、か・・・・・・自分の想い人を奪い取った奴にそんな言葉を言われたら恨むよなぁ。俺とアリアが付き合ってることを知ってんのか分からんが。

 

「アリア嬢、気持ちは切り替えられたか?」

「そう、ですね・・・・・・私も、いい加減、後悔を断ち切るべきなんでしょう。私はリーダーですから・・・・・・もし、ゼイロさんと会うことがあれば、その時はしっかりとお話しをして訣別します」

 

 アリアは覚悟を決めた様子でそう宣言した。その瞳には光が宿っており、強く輝いていた。

 

 何だか久しぶりに見た様に思う、この目。たぶん俺は、この目に一目惚れしたんだと思う。

 こうなったらもうアリアは心配いらねーな。ここ暫くはずっと目が暗く澱んでいたが、今は完全に曇りは消え、折れることももう無いだろう。

 

 その後、今日は自由行動とし別れ、また明日、近場のダンジョンで調整する事にした。

 

 

 ギルドの訓練場にて剣を振る。

 最初は言われるがままに繰り返してきた動作も、今では自分で考えて鍛錬を積む様になった。それも全て、共に訓練をしているカイルのお陰。

 

 ふと、カイルを見ると両手に槍を一本ずつ持ち、無心で振るっていた。実戦では使用しているところをあまり見ない得物。本人曰く、殆どの得物を剣や盾と同じぐらいの水準で使用できるらしい。今度のダンジョン攻略では色々考えた結果、このスタイルで挑む事になった。昨日の調整でも問題無く戦えている所を見たから心配要らないと思う。私が心配するのも烏滸がましいだろうが。

 

 これほどの力を得るのに、一体どれほど努力をしたのだろう。私のような世界を知らない弱者には想像すら出来ない。

 

 私は王国の辺境にある小さな村に生まれ、幼馴染のゼイロと共に育った。

 優しい両親に恵まれ、戦いとは無縁の、その時に私にとっては幸せな日々を送っていた。

 

 転機はある日、ゼイロが持ってきた絵本だった。

 その絵本はとある冒険者を主人公とした冒険譚で、それは小さな村の中で生きてきた私にとってとても刺激的で夢の様な話だった。

 

 『虹を渡る方舟』『海底に沈んだ星を斬る聖剣』『天空に浮かぶ竜の城』『忘れられた女神様の遺産』・・・・・・どれもが輝いていていつかこんな冒険をしたいと思うのは自然で、冒険者となって世界中を冒険することが私の夢となった。

 

 両親含め、村の大人達はみんな反対した。当時の私はその理由が分からなかったけれど今なら分かる。世界の荒波に自分の子を晒したくなかったのだろう。村の中で唯一背中を押してくれたのがゼイロだった。

 

 ゼイロは私の背中を押してくれていつか一緒に冒険しようと約束した。ゼイロとはずっと冒険の話をして、未来の事をお互いに語り合っていた。その時間は心地よくて、今はもう分からないが村の中で唯一通じ合ったゼイロに対して特別な思いがあったのかもしれない。

 

 10歳になると、村にある小さな教会で私に<剣聖>と呼ばれる才能を授かったことが分かった。村の大人達はみんな喜んでくれていたが、ゼイロは対照的だった。ゼイロが授かったのは<ステータス編集>と呼ばれる才能だった。なんでも教会でも分からないらしく、村の大人達も反応に困っている様子だった。

 才能の良し悪しは分からない。でも、大人達の反応で何となく、私は恵まれてゼイロは恵まれなかったことだけは感じた。

 

 だからと言って関係が変わるわけじゃない。大人達もゼイロを排斥する様な事は無く、ただ同情する様な目を向けていた。きっとこの時から私の才能は力を発揮し出していたのだろう。何となく、他者の感情が伝わる様になり、ゼイロが現状を悔しく思って村を出たがっていることが分かった。

 

 結局、私達が村を出たのは三年後、13歳の時だった。

 あれから何度かゼイロと村を出ようと画策したが毎回見つかり、村に連れ戻されていた。その度に、作戦を練り直して、遂に村を出ることが出来た。

 

 ようやく私たちの冒険が始まる。

 そうして村を出てすぐに野党に襲われた。

 

 当然だ。冒険者を目指して村を出る子供なんて格好の餌食だろう。野党の人数は七人、ハッキリ覚えてる。野党に襲われて、何とかしようと村から持ち出した小さな剣で抵抗して、がむしゃらに振るってーーーーーー気付いた時には全員斬り殺していた。

 

『おぇっ・・・・・・っ!』

 

 地に手をつき何度も何度も吐いて、私が落ち着くまでゼイロは背中を摩ってくれていた。暫くしてようやく落ち着き、苦しさはまだあるが何とか顔を上げ、落ち着かせようとしてくれていたゼイロに礼を言おうとした。礼は、先に言われた。

 

『ありがとう』

 

 きっと、私とゼイロの間にヒビが入ったのはこの時なんだろう。

 ゼイロは悪くない。私を励まそうとしただけだ。“戦えないでごめん、助けてくれてありがとう”と、そう言ったつもりなんだろう。私もそう捉えたし私の方こそ励ましてくれてありがとうと返した。

 

 ただ、胸にしこりのようなものが残って・・・・・・その日の夜、川辺で一晩過ごそうという事になってゼイロが寝静まった後、只管川の水で手を洗っていた。

 手についた血は既に落としたはずなのに、何でそんなことをしたのか分からない。夜が明けるまで私はずっと、手を洗い続けていた。

 

 村に帰るという選択肢もあった。たぶん、両親なら許して、慰めてくれるだろう。でも、どんな顔をしていいか分からない。私は逃げるように、朝になるとすぐにゼイロを引っ張って街に向かった。

 

 街に向かってからは、すぐに冒険者組合、ギルドへ向かい冒険者登録をした。冒険者は年齢不問のようですんなりと登録できた。続け様に近くのダンジョンを聞き、若手に適している所を教えて貰ってまともな準備もせずにすぐに向かった。

 忘れたかった。あの惨状を、血で塗れた両手を、血の滴る剣を。

 

 これは私の問題だからゼイロには街に置いて行こうとしたが、無理矢理着いて来た。たぶん、心配だったんだろう。実際、街の門番にも流石に一人は危険だと言われ、ゼイロを連れて行く事になった。

 

 ダンジョンは近場にあり、中に入るとすぐに魔獣と接敵した。そこでようやく・・・・・・気付いた。

 

 

 私は、剣を、殺人の剣を振れるのか?

 

 

 私の迷いに魔獣は関係無い。立ち呆けている私に魔獣は襲いかかり、ーーーーーー私の剣は再び、敵を斬り裂いた。

 襲いかかって来ていた魔獣は一振りで両断され、呆然とする私にゼイロが興奮した様子で言った。

 

『すごい!アリア、すごく強いよ!』

 

 すごい?殺しの剣が?

 

 私はもう、自分の夢が何だったのか思い出せなくなっていた。

 

 それからは惰性だった。ゼイロが調べて来たダンジョンを簡単に攻略する。その日々だった。戦う時は何も意識していない。ただ歩いているだけで、敵が勝手に斬り裂かれて死んでいく。何も感情を抱かない。

 そんな私の様子を心配したのかは分からないが、時折ゼイロが私に剣を教えてくれと頼んできた。私から教えられる事は何もないというのに。結局彼には何も教えることが出来なかった。

 

 この身に授かった才能が力を持ってからゼイロとの関係も、幼い頃の夢も、全て変わった。

 女神様はなぜこんな才能を私に授けたんだ。

 

 

 私は、自分の才能(呪い)を強く憎んだ。

 

 

 それからも私たちの活動は続き、街を転々として・・・・・・村を出て一年が経った頃、唐突にやる気を無くした。

 もとよりやる気なんてものはなかったが、こんな事を続きる意味なんて無いと、急に思った。ゼイロにも暫く一人になりたいと言い、宿でただ食べて寝るだけの時間になった。宿の管理をしているおばさんが“せっかく可愛いんだから”と、私の身を世話してくれた。そうした数日間は、昔の、何も知らずに両親と平穏な日々を過ごしていたあの頃を思い出させた。

 

 何でこんな事になったんだろうと、後悔と同時に、かつての幸せな日々に浸れて少し心が和らいだ。

 暫くして、外に出ると久しぶりにゼイロと出会った。挨拶もそこそこに彼は私にある提案を切り出した。

 

『仲間を増やそう』

 

 一瞬、何の話か分からなかった。少し考えて、冒険の話だと気付いた。戦えないゼイロが、私の負担を減らそうと考えてくれたんだろう。その事にありがたく思う。そして、意味のない事だとも思った。むしろ、共に戦う人に私の才能が反応しないか心配だった。

 ゼイロやギルド職員から話を聞いて、少しだけ期待した。どうやら辺りでは有名な冒険者がこの街に来ているらしく、その人とパーティーを組もうと言う事になった。私の才能を止めてくれる人だったらいいなと、私の思いはそれだけだった。

 

 件の人物を探していると、ギルドの片隅で依頼書を複数広げて何やら悩んでいた。ギルドからの依頼を受けられるほど高位の冒険者。期待は大きくなり、声をかけて自己紹介をする。

 

『何だガキンチョども、俺に何の・・・・・・・・・・・・話を聞こう』

 

 彼はどこか気怠げな様子だったが、私の顔を見て態度を翻した。その時、感じ取った感情は衝撃だった。ゼイロと似たような、大きな感情を感じ取った。なんで初対面の人にここまで強い感情を抱けるんだろうか。私はこの人と会ったことを少しだけ後悔した。

 

 彼の名はカイル。灰の髪で身体が大きく、村にいた頃の私だったら怖がっていただろうなと思う。話をしている内に、私の授かった才能の話になり、答える時少しだけ逡巡した。私の才能を知ってどんな反応をするのか、正直怖かった。そして意を決して、自分の才能は<剣聖>だと伝えた。

 

『へー、<剣聖>!いいじゃん、似合ってるぜ!』

 

 村の大人達や、ゼイロのような喜びの言葉。結局、この人も何も変わらない・・・・・・というか似合ってるって何だ、私は冷酷な殺人鬼と言いたいのか。

 今まで感じたことのない感情(怒り)を抱いたが、次はゼイロの話になり、彼は不安そうに自分の才能を口にすると、カイルは顔を顰めていた。流石に分かりやすすぎだろうと思い、ゼイロもその顔を見て少し怯えていた。

 だが、カイルはすぐに態度を変えてゼイロを励ました。

 

『あー、<ステータス編集>な!知ってるぜ!何でも能力を強化するような感じの才能らしい!教会の聖書に書いてたぞ!』

 

 因みにそれは嘘だった。

 

 

 それから私達は一旦、お互いの出来る事を確かめるため簡単なダンジョンで共に戦う事になった。私は先程の会話でこの人とパーティーを組むつもりは無くなったがゼイロが自分の才能について何か知ってるかもしれないから一緒に行動したいということで、お試しだけならと私も付き合った。

 

 ダンジョンに入り、いつも通り何も考えずに歩く。魔獣と接敵してもそれは変わらない。あの人がどんな動きをしていたかは知らないが、暫くして前を見ると大きな魔獣の死体が映っており、どうやらいつの間にかダンジョンのボスを倒していた様だ。

 

『すげーつえーのな!おかげでやりやすかったわ!ありがとな!ギルドには攻略するって言ってねーが・・・・・・まあお兄さんに任せとけ、上手いこと言っとくわ!』

 

 彼はそう言い私に近付いてくる。剣を片手にその様子をぼーっと眺めていると、私と彼の距離が3m程だろうか、その辺りで私の才能が反応した。

 

 しまった。ゼイロにはダンジョンを抜けるまでは近付かないよう言っていたが、今回初めて同行するカイルには伝えて無かった。迂闊。その二文字が頭を過ぎる。気付くのが遅すぎた。もう身体を止められない。

 これから起こる惨劇を想像し、ギュッと目を閉じて、ーーーーーー剣が何か、硬いものに弾かれる感覚がした。

 

『おー悪い悪い、そうだよな。まだ会って間もない男に近付かれたら怖いわな。ちょっとずつ距離縮めてこーぜ!』

 

 何でもないように言う彼の姿は何処も傷付いておらず、私の才能が初めて・・・・・・命を奪わなかった。




アリアの視点についてはここまでです。
あとはご想像にお任せします。
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