元パーティーメンバーに『ざまぁ』されないように世界の果てまで逃げる   作:hoge55

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5話

 ダンジョン『眠らずの洞窟』、その入り口前でアリアがパーティー全員へ目を向け投げかける。

 

「準備はよろしいでしょうか」

 

 アリアの問いに俺、マギサ、ユートリア、そしてフィリスが頷きを返す。

 何者かに、おそらくゼイロにこのダンジョンを攻略されてから準備は入念に済ませた。ダンジョン内での隊列、想定される状況に対応、そして異常事態が起きた時の方針。一度攻略を失敗したダンジョンだからかいつもよりみんな気合が入っていた。

 既にフィリスの支援魔法は掛け終え、いつでもダンジョンへ突入できる。

 

 唯一の懸念としては今朝、マギサが完成させたという魔法。魔力操作の精度を取り戻してから何か取り組んでいたことはしていたが、新しい魔法を開発したらしい。そしてそれを今日の実践で試したいと。

 最初は断ったが、魔法の理論、術式、精度・・・・・・俺たちに有無を言わせぬ圧でプレゼンし、それを聞いた俺達は確かに実践で使えるのなら攻略は遥かに楽になると思ったため、先程ベースキャンプにてデモンストレーションした所・・・・・・その魔法の行使は採用された。隊列等に影響があるわけではないが、これが想定通りの性能を発揮すればぶっちゃけマギサ一人で攻略できる事になる。

 

「それではマギサちゃんの魔法発動後、突入します」

「じゃ、いくわよ。ーーー“起きろ、雷”」

 

 アリアの言葉を聞きマギサが詠唱を唱え魔法を発動する。普段、詠唱をせずとも魔法を発動できるマギサだが、この新たに開発したという魔法は詠唱が必要だという。もう少し時間をかければ詠唱すら不要らしい。こえーよ。

 

 マギサの魔法発動後、彼女を中心に凡そ10m以内の空気中に滞在する魔素が帯電し、空気が乾燥する。至る所でチカチカと小さな放電を繰り返し、マギサ自身も帯電し身体中に電流が流れているかのように見える。

 

「うし、じゃあ行くぜ」

 

 マギサが無事予定通り魔法の発動が出来た事を確認し、俺を先頭にダンジョンへと走りながら突入する。

 

 隊列は俺を先頭にマギサが続き、その後ろをユートリアとフィリスが並んで、最後方がアリアだ。このダンジョンは魔獣の圧倒的な発生数が一番の敵。前回はその物量を捌き切れず、撤退を選択した。それを踏まえて選択した俺達の作戦は“短期決戦”。一本の槍のように魔獣の壁をこじ開けてボスのいる場所まで駆け抜ける戦法を選択した。各自、歩幅やスピードは違うが、フィリスの支援魔法により駆け抜けてもそれぞれが出せる速力で逸れないようにしている。

 今回、俺はいつもの守りを重視した剣と盾ではなく長槍と短槍の二本の槍で道を抉じ開ける役目となっている。進行方向に長槍を投擲し魔獣達に風穴を開け、開いた道を短槍で魔獣を弾き飛ばしつつ強引に進む。マギサはそのサポート、ユートリアとフィリスが索敵と各員への指示、そしてアリアは緊急事態への対処と撤退時の先導役、そして背後から追ってくる魔獣の対処。最も強いアリアを最後方に配置して陣形を崩さない様にする布陣となっている。

 

 だがーーー。

 

「前方50m先、敵20!」

「もう背後から10体程沸いてますぅ!」

 

 ユートリアとフィリスからの報告。今の道はほぼ一本道で俺たちは駆け抜けており、最前線の俺も目視が出来た。当然、魔獣達も俺たちの存在に気付き、こちらを駆け出している。

 

「マギさん!まじで頼むぞ!」

「アンタはそのまま走ってるだけでいいわよ!」

 

 俺の声かけにマギサは魔力を漲らせ、ダンジョン突入前から発動中だった魔法の強度を増す。先程まで10m程まで影響をもたらしていた雷の空間が目視で凡そ30m程まで広がり、そしてその範囲内にまで侵入してきた魔獣達がーーー雷が迸り、焼き消える。

 

「まじかよ・・・・・・」

 

 魔獣達だった残骸を横目にそのまま駆け抜ける。

 

 マギサが発動している魔法はまだ名前は付けていないらしいが、発動効果自体はシンプル。“指定範囲内に侵入して来た魔獣を自動迎撃する”だそうだ。最初に聞いた時、そんな便利な魔法あるのかと聞いたら、『無いから作った』と返された。強すぎる。

 

 少しだけ進行スピードを抑えて、マギサに投げかける。

 

「おい!これもう急がなくていーんじゃねーのか!?」

「そうしたいけどっ、まだ継続時間が甘いのよね!もって1時間ってとこかしら!」

「十分なんだよなぁ・・・・・・」

 

 とはいえ、元々は短期決戦での攻略で進めていたこと、マギサのこの魔法はあくまで支援の一環であることからわざわざ方針を変える必要も無いと決め、速度を戻してユートリア、フィリスの指示に従いながらダンジョン内を駆け抜ける。

 

 そうして僅か30分でボスの居場所まで辿り着き、勢いそのままに長槍の投擲でダメージを与えつつ注意を逸らし、その隙に接近して短槍にて魔獣の核を貫いた。ボスを倒したことで魔獣達の出現も止まり、ダンジョンが攻略された。

 

 ボスの亡骸から短槍を引き抜き、思わずボヤく。

 

「・・・・・・歯応えなさすぎだろ」

 

 結局、ダンジョン突入からボスと接敵するまで、俺は一度も槍を振るう事なく、ボス以外全ての魔獣をマギサの魔法が雷で焼き焦がした。背後で湧いて襲ってくる魔獣達も時折アリアが斬撃を飛ばして狩ったりしていたため一度も詰まる事なく攻略を成し遂げられた。

 ユートリアとフィリスが改めて周囲の索敵をし、魔獣の生き残りが居ないことを確認して一息入れる。

 

「アリア、お疲れ」

「ありがとうございます。カイルもお疲れ様です」

「ああ・・・・・・しっかしマギさんの魔法、想像以上だったな」

「そうですね、マギサちゃんの魔法なのである程度役に立つとは思っていましたがここまでとは・・・・・・」

 

 マギサの魔法についてアリアも驚いているようで、フィリスからフル回転させていた魔力路の検診を受けている最中のマギサに目を向ける。

 特に消耗した様子も無く、ダンジョン突入前から変わったところが見当たらない。フィリスの検診も特に異常が無かったようでこちらへ集まってくる。

 

「ふふん。アタシの新魔法、どうだった?」

「最高、やっぱお前すげーわ」

「アハハ!もっと褒めなさい!」

「よっ!最強魔女っ子雷霆サマ!」

 

 俺の言葉に気を良くしマギサは腰に手を当ててふんぞり返る。

 多少、煽ててはいるが、実際にマギサのやったことは勲章物だろう。『眠らずの洞窟』は周辺じゃかなりの難所とされており、攻略者も少なかったがそれをこうもあっさりと攻略できたのは間違い無くマギサのお陰だろう。

 

「後ろから見ていて思ったが、これで結界魔法でないと言うのだからマギサ嬢の能力には戦慄すら覚えるよ」

「ですねぇ、結界魔法なら似たようなのはありますが・・・・・・これで強化魔法の一種なのですから恐ろしい物ですねぇ」

 

 ユートリアとフィリスの言葉に俺とアリアも頷く。

 フィリスの言った通り、似たような自動迎撃系の魔法なら既に結界魔法を応用したものが存在している。マギサが発動したのは強化魔法を弄ったもので大きく違うのは効果範囲が移動するかしないか。

 結界魔法の場合は発動対象地点を中心に効果範囲が固定化される。しかし、マギサが開発した強化魔法ベースの場合は術者を中心に展開されるため効果範囲の移動、更には拡大・縮小まで可能だ。マギサが言うには、人間が持つ“脊髄反射”の機能に魔法でアプローチをかけた結果、一定範囲内に魔獣が接近した場合にマギサの身体と空気中で生成した雷が放出され迎撃するという。他にも対象を選別するための複雑な条件があるとのこと。

 

 高笑いしていたマギサだったが、満足したのか一呼吸入れて俺に向けて口を開いた。

 

「・・・・・・まっ、これを開発できたのもアンタのお陰よ」

「俺?」

「この間、発破掛けてくれたじゃない」

「・・・・・・あー、あれか・・・・・・」

 

 マギサの言葉に一瞬何のことか考えるが、すぐにあのことだと思った。恐らく、数日前にマギサが魔力操作精度を失った際に掛けた俺の言葉だろう。

 

「俺としてはあんま言いてぇ言葉じゃなかったけどな」

「何言ってんのよ、このパーティーじゃあんなこと言えるのアンタくらいでしょ。アンタに言われて考えたのよ。このまま攻撃役に配置を変えたとして、これまでの支援役としての時間は無駄にするのかって。それで支援役として最初に習得した強化魔法をベースに新しい魔法の開発に取り掛かったのよ。アンタに言われなきゃ考えもしなかった。だから、・・・・・・ありがと」

「・・・・・・おう」

 

 マギサからの思わぬ感謝に戸惑いながら何とか感謝を受け取る。

 俺が言ったことは一言、“弛んでる”。それだけ。たったそれだけでマギサはこれほどの大魔法をたった数日で開発した。

 

 やっぱりマギサはすごい。正しく才能を磨けばこれほど劇的に変われる。そのきっかけが俺の一言にだったとしたら嬉しく思うし、同時に後悔が脳裏を過ぎる。

 

 

 もし、俺がゼイロにかける言葉が何か一つでも違っていれば、この場にはゼイロもいたんだろうか。

 

 

 そんなことを考えていると、誰かからポカと頭を叩かれて思わずマギサに“何すんだ”と言いかける。

 

「おい、何すん・・・・・・ユートリア?」

「どうせキミはゼイロ少年のことを考えているのだろう?」

「は・・・・・・なんでそれを・・・・・・」

「もう長い時間を共に過ごしている、流石に分かるさ。・・・・・・過去の事は考えても意味は無い。いや、反省なら意味はあるがキミの其れはただの後悔。後悔するのならば、次、彼に出会った時に投げかける言葉を考えてると良い」

「・・・・・・そーだな、そーするわ。さんきゅ」

 

 ユートリアからの思わぬ助言に固まるが、素直に受け取り感謝を述べる。ユートリアは偶にこうやって年長者らしく助言をしてくれるから頭が上がらない。今度一緒に精霊様のご機嫌伺いでもするか。

 

 その後、休憩も終えダンジョンを抜けて街のギルドまで戻る。攻略完了したことを報告するとギルド内は活気付いてギルド職員、冒険者がそれぞれダンジョン資源の採集へ向けて準備を慌ただしく始める。

 

 俺たちはそのまま反省会兼今後の方針決めをしながらご飯を食べて、その日は解散する。

 

 

 次の日。早朝に俺はアリアを連れて教会に来ていた。

 

「それで、今日はどうされたんですか?」

「ああ、この街周辺のダンジョンは攻略し終えたしな。すぐにこの街も発つことになったしその前に一度教会に寄っときたかったんだ。昼間は参拝者が来るだろうし今の時間が良かったんだ、朝早くに悪いな」

「いえ、いつもこの時間に起きてますし大丈夫ですよ」

 

 教会に入り、修道士やシスターに会釈し礼拝所に行くと、祈り場にある女神様を模したステンドグラスの下で数日前パーティーメンバーへ加わった仲間がいた。

 

「あれって・・・・・・フィリスさんでしょうか」

「みてーだな。今も教会所属って言ってたから冒険者稼業とどう両立してんのかと思ったが・・・・・・こんな朝早くから祈りを捧げてたんだな」

 

 フィリスは祈り場で跪き、両手を組んで祈りを捧げている。その佇まいから敬虔な信徒であることは一目瞭然だ。アリアが一緒に祈りをするか聞いてきたが、ああも本格的に祈りをしているとかえって邪魔になると思って俺たちは備え付けの長椅子に座る事にした。

 

「・・・・・・懺悔、だったり?」

「あー・・・・・・最近色々あったろ。それでちょっと考え纏めたくてな」

 

 俺は孤児院に住んでいた頃、教会の修道士やシスターに世話になっていた事もあり、教会の雰囲気は少し落ち着く。だから騎士様からの修行中や旅に出てからも何か考え事をしたい時はこうやって教会に来るようにしていた。

 今日来たのは当然、数日前にパーティーを脱退したゼイロのこと。パーティーとして戦力になれていなかったメンバーを脱退させるのは冒険者じゃありふれた話。だが、そこに“実はパーティーを支援していた”と言う事実が有れば話は変わってくる。俺達の仮説が正しければゼイロは無意識にパーティーに貢献していたことになる。それが意識的に行なっていたのなら脱退させられても仕方ないとは思う。自分が発揮している能力を申告しないのは思わぬ結果に繋がるからだ、マギサのように。

 だが、無意識だと言うのなら、それはゼイロの不足してた所もあり、俺達もゼイロの事を理解しなかったという非もある。何なら俺はメンバーの能力を把握していないと騎士様に折檻されるだろう。

 それに以前マギサも言っていたが、俺は言葉が強いみたいだからゼイロに気付かぬ内に酷い事を言っていたかもしれない。コミュニケーション不足。その言葉が脳に浮かぶ。

 

 前世の知識にある物語で有れば、俺達はゼイロに復讐される。俺にそうされるだけの事をした自覚は無いが、正当な理由があるのかもしれない。

 

 俺は、たぶん・・・・・・ゼイロが怖い、のかもしれない。

 

 

「・・・・・・アリアはさ、もしゼイロに会ったら・・・・・・どうする?」

「そうですね・・・・・・これまでの感謝をします」

「・・・・・・それだけか?」

「はい。あの時、一方的に別れを告げるだけで、感謝の言葉を伝えられていませんから。これまで共に着いて来てくれたことの感謝を伝える。それがリーダーとしての責務であり、幼馴染としての最後の言葉だと思います」

「そっか・・・・・・・・・・・・俺は、アイツが怖い」

「・・・・・・もしかして、私たちが脱退勧告したことを彼が根に持っていると?」

「ああ、アイツあの時相当ショック受けてただろ。特に俺にはいろんな思いがあったみたいだし」

「それは、まあ、私も悪いので・・・・・・ただ、それで仕返しをされたとして、それは良い事ではありませんか?」

「良い事?」

「“自分はパーティーを抜けてからここまで強くなったぞ”と言っているんです。だったら私たちの選択は彼のためになった。喜ばしい事でしょう」

「・・・・・・じゃあ、アイツが仕掛けて来た時はーーー」

「ーーー当然、受けて立ちます。先に道を歩んでいた者として、彼の力を測りましょう」

「・・・・・・ははっ、そりゃいいな。・・・・・・・・・・・・よし、俺も、ようやく腹括ったわ。ーーーアイツが復讐だの何だのやって来ても、全部、跳ね返す。それが、俺のやるべき事だな」

 

 

 アリアと話していると、ゼイロが脱退してから考えないようにしていた嫌な未来がどこか違う形に変わっていくような気がする。そうだ、アイツが復讐に来たってそれは良い事だ。前世の知識だと、スポーツという戦いの中でもそういう文化がある。そもそも、突然生えてきた前世の知識からくる不安に怯える必要も無かったんだ。

 俺は、俺達は生きている。復讐がどうとか、俺がアイツに感じている()()()だとか、もう関係無い。

 

 先に立っていた者として、アイツの挑戦を迎え撃つ。それだけだ。

 

 

 考えも纏まり、折角ならフィリスの祈りが終わるまで待つかという話になり椅子に腰を掛けたまま待っていると太陽が真上を通り過ぎた辺りでようやくフィリスが組んでいた両手を解き立ち上がった。長すぎだろ・・・・・・と思ったが、それだけ女神様のことを信奉しているのだろう。なんで冒険者やってんだ。

 

 フィリスがこの場を去ろうと歩いている途中、俺達の存在に気付いたようで近づいて来る。

 

「カイルさんにアリアさん。教会に来ていらしたんですねぇ、何かお悩み事でも・・・・・・?」

「もう解決したよ、フィリスさんこそ長い事お疲れ様」

「・・・・・・いつから見てたんですかぁ?」

「すみません、盗み見るつもりはなかったんですが・・・・・・陽が出始めた頃からここには居ましたね」

「そうでしたかぁ・・・・・・もしかしてお待たせしてましたか?」

「気にすんな、こっちが勝手に待ってただけだ。この後ギルド行って挨拶がてらそのまま昼飯にする予定だが一緒にどうだ?」

「そういうことならぁ是非、お願いします」

 

 数時間、ずっと跪いて祈っていたというのにフィリスは何とも無い様子で会話に応じる。魔法で体を補助していたようにも見えなかったし、教会のシスターってこんなもんなのかな。いや、昔見たシスターもこんなに長い時間祈りを捧げてなかったしフィリスが凄いだけだな。

 

 その後、教会を出てギルドへ向かう途中、フィリスが何か言いたそうにしていたため聞いてみると、どうやら女神様のことについて聞きたかったらしい。

 

「女神様がどうしたんだ?」

「ええとですねぇ・・・・・・カイルさんは例の騎士様に鍛えられたんですよねぇ?であれば才能の有無・・・・・・あっ、いえ、え〜とぉ・・・・・・才能を授かる事による苦難はご存じかと思います。それでそのような、あまり大きな声では言えませんが・・・・・・人によっては()()とも捉えられるようなモノを授ける女神様のことをどうお思いなのかと思いましてぇ」

 

 苦しそうに言うフィリスに一つ思うことがある。俺の才能について勘付いていないか?

 パーティー内において、俺が授かった才能が無才の象徴である<無し>であることはアリアだけ。それ以外でもそのことを知る人間は限られている。それは冒険者として旅に出る前、騎士様からの助言を聞いているからだ。

 

『君の才能については隠しておいた方がいい。()()()()()()()()()

 

 単純に俺が冒険者としていいスタートダッシュを切れるようにした助言だと思っていたが、今ではそうでは無いと感じている。騎士様は俺のような無才の人間が虐げられている現状を快く思っていないし、俺自身そうだ。だから俺が人類未到の地を攻略し、誰にも否定できないほどの功績を立てた時に明かした方が効果的だと言うのだろう。()()()()・・・・・・・・・・・・今はいいか。

 

 一旦、俺の才能については置いておこう。フィリスも特に深掘りしないようだし、俺が突っついても藪蛇に成りかねない。とりあえず彼女から聞かれた女神様への印象を答える事にする。

 

「・・・・・・感謝、だな」

「と、いいますとぉ?」

「俺は昔から教会の修道士達に教えを説かれて育ったからかな、女神様への悪印象はあんまり無い。勿論、授かった才能で苦しんでいる人を知っているし、それが原因で悪に堕ちた人も見た事がある。たぶん俺も、この先の冒険で才能に苦しめられることもあると思う。ただ、女神様はその苦難を乗り越えられると思って、俺たち人に才能なんてモノを授けてるんじゃ無いのか?俺たちの強さを信じて」

「傍迷惑なモノだと思ったりしないんですかぁ?余計な力を与えやがって〜みたいに・・・・・・少なくとも私は、女神様の行いが嫌いですねぇ」

「教会に属してる人間が言う言葉じゃねえな、さっきの祈りは何だったんだよ・・・・・・まあ、会ったこともない存在に勝手に期待されるのは気味が悪いが、俺の場合は・・・・・・そうだな、期待してるのが知らねえ誰かじゃなくて女神様ってんならそれは()()じゃなくて()()なんじゃねえの?だったら俺はその期待に応えたいと思う」

 

 昔、教会の修道士が俺に言った言葉、“才能を授からなかったのはキミがそれだけ強い人間だと女神様が認められている”。これが真実かどうかは分からないが、騎士様の修行を遂げ、俺は才能を授かった人たちと遜色のない力を手に入れた。だから俺はその言葉を信じたいと思う。

 

「そう、ですかぁ・・・・・・アリアさんはどう思われます?あれだけの才能をお持ちですから、苦労されてきたと思いますがぁ・・・・・・」

「私も、カイルさんと同じように女神様の期待に応えたいと思っていますよ。といっても、そう思うようになったのは最近ですが。・・・・・・教会の人の前で言うのは憚られますが、私は自分が授かった才能のことを呪いと思っていました。ですが、その才能(呪い)のお陰で今の仲間達と・・・・・・カイルと出会えた。先日の巨獣タイタンとの決戦前に、誰にも触れる事の出来なかった私がカイルに抱き締められた時・・・・・・ようやく自分の才能を認める事が出来たんです。私に<剣聖>という才能を授けた女神様の思いは分かりません。ですが、“世界中を冒険したい”という私の始まりの夢を追いかける。それが私に力を授けた女神様への恩返しであり、カイルとの約束でもあります」

「・・・・・・強いですねぇ」

 

 アリアの言葉にしみじみとフィリスはそう呟く。俺もアリアの出した答えと聞いて少し目を細めてしまった。この子は、輝いている。出会った時からその片鱗は見えていたが、今は比べ物にならない。タイタンとの戦いでその輝きを大きく増し、ゼイロとの諍いで一時は翳りを見せたが、その迷いも晴れた今、彼女の輝きを遮る者は誰もいない。

 俺も、先ほど教会で自分の迷い、恐怖をその輝きで晴らしてくれた。俺には勿体無い女の子だと思う。

 

 フィリスの問いは教会所属の人間が抱いてはならない様な物で、俺達の答えだって人によって違う。恐らく女神様の在り方と、フィリスの一人のシスターとしての在り方が違うのだろう。例えるなら、女神様は人の強さを信じる性善説。フィリスは“人間は本来、善でも悪でもなく、弱い生き物である”という性弱説の考えを持っているんだろう。

 相反する考えの様だが、どちらも“人間の根っこは悪では無い”という共通した点がある。これだけ思慮深いフィリスなら自分なりの答えを見つけ出せると思う。

 

 俺達の答えに納得したのか、それからフィリスは女神様の話題はしなくなりギルドまでは他愛無い雑談をしながら歩いて行く。

 

 

 暫くしてギルドに到着し、マギサ、ユートリアとも合流してから受付で顔見知りのギルド職員を呼んでこれからの事について伝えた。

 

「そうですか、貴方とはここまでですか・・・・・・寂しい物ですね」

「元々ここは通過地点だったしな。そんな寂しがる様なことな事じゃねえだろ、冒険者は出会いと別れの連続なんだから慣れてるだろ」

「・・・・・・確かに、貴方とは()()()()()()()()()でしょう」

「何処かってお前ここで働いてんだからここ以外ねーだろ」

「ふふ、どうでしょうね・・・・・・あれからフィリスさんとは如何ですか?何かされてませんか?」

「何かって何だよ。寧ろパーティーの支援役として十分過ぎるほど働いてくれてるぜ」

「そうですか・・・・・・そういうことならいいでしょう」

 

 コイツ、フィリスを紹介した時もそうだったがやけにフィリスのことを疑ってるよな。何か裏でもあるのか?ゼイロの二の舞を防ぐのなら無理にでもフィリスに踏み込むべきだが・・・・・・さっきの問答を経てフィリスへの疑いは俺の中では無い。コイツの思い過ごしだろう。一応小声で言っていたがフィリスに聞こえてないよな?・・・・・・聞こえてたら気分悪いだろうし一応後で説明しとくか。

 

 別れを告げて、受付を後にしようとするとまだ話があるようで引き止められた。

 

「最後に一つだけ、貴方達に伝えておくべき事があります。・・・・・・ゼイロさんの事についてです」

「ゼイロさんが、どうしたんですか?」

 

 ここまで俺とキルド職員のやり取りを聞いていたアリアがゼイロの名を聞いて思わず聞き返す。

 

「ここより西の街の周辺には二つ、未だ誰にも攻略されていないダンジョンがありますよね?」

「ああ知ってるぜ、俺達の目的地もそこだしな」

 

 元々、『眠らずの洞窟』を攻略したら次は未攻略のダンジョンがある西の街に行く予定だった。これはゼイロがいた時から決めていた事で、それは今も変わっていないことを昨日の方針決めで確認していたため、俺達の次の行き先はその街だった。

 

「その二つのダンジョンですが・・・・・・今朝、ゼイロさんをリーダーとしたパーティーが攻略された様です」

「・・・・・・まじ?一度に二つもか?」

「はい。魔素が減少し魔獣の発生もされていないことは確認済みのようで、事前にゼイロさんから攻略に挑戦するという報告もあった様です」

「そうか・・・・・・・・・・・・情報助かる、そんじゃ今度こそ。じゃあな」

「はい、みなさんお元気で」

 

 笑みを浮かべて頭を下げるギルド職員を背後に俺たちは揃ってギルドを出る。

 ギルドを出て、人の少ないところへ行ってからマギサが一番に口を開く。

 

「・・・・・・ねえ、これってアタシ達への()()()()よね?」

「そう決まったわけじゃねーが・・・・・・ま、俺もそう思う」

「ゼイロ少年は私達の次の行き先は知っているだろうからね。私達の仮説、才能を扱える様になったのなら自分を追い出した私達を見返すために先んじて目標を潰す、なんて事もあり得るだろうね」

「ハッ、面白いじゃない。アタシ達もダンジョン制覇よりも未攻略のダンジョンに焦点当てようじゃない」

 

 マギサは獰猛な顔をして拳を掌にパンと叩きつけて強く言葉にする。マギサの悪い癖が出たなと思いそれを眺めるが、マギサが言わずとも俺も同じ気持ちだ。

 これで分かった。『眠らずの洞窟』を俺達よりも先に攻略したのは間違いなくゼイロだ。きっと申告しなかったのは知らなかったんだろう、それで今回の攻略ではルール通り事前にギルドへ申告して攻略したと。それで一度に二つのダンジョンを攻略した・・・・・・かなり強引に攻略を進めたと察せるがそれだけの力をアイツは手に入れたんだろう。

 

「俺も賛成だな。こんなに早くアイツと戦えるなんてな。覚悟は決めたばかりだ、方針変えて進もうぜ」

 

 俺たちの方針は行き先々の街で、その周辺のダンジョンを全て攻略しながら進むというモノだった。過去に誰かが攻略したダンジョンも、未だ攻略されていないダンジョンも含めて俺達が全て上書きして全世界に足跡を残す。そんな思いから定めていた方針だが・・・・・・こうなってはゼイロの挑発に乗りたくなる。

 

 フィリスには悪いが、俺とマギサ、ユートリアは同じ気持ちのようでアリアの方を見る。ここまで目を閉じて考えていたアリアだったがゆっくりを瞼を開けて・・・・・・宣言する。

 

 

「これがゼイロさんからの挑戦状だというのならーーー受けて立ちましょう。彼の古巣として、全力でお相手します。次の目的地は変更し、未だ未攻略となっているダンジョンのある街にします」

「だな・・・・・・よっしゃ!燃えてきたぜ!」

「当然!全速力で行くわよ!」

「ふふ、年甲斐なくワクワクしてきたよ」

「こうなっては仕方ないですねぇ・・・・・・どこまでもお供しますよぉ」

 

 俺達は思いを一つにし、街を発つ。

 

 

 そして、俺達が再びゼイロと相対するのは僅か半年後のことだった。

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