元パーティーメンバーに『ざまぁ』されないように世界の果てまで逃げる   作:hoge55

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6話

 王国が建国されて以来、国内において観測されたダンジョンは100を超える。そして、俺達があの街を発った時点で未攻略となっていたダンジョンの総数は“38”。

 

 半年。それだけの期間で長い間未攻略だったダンジョンは全て攻略されて王国中は“歴史が変わる”とお祭り騒ぎとなっている。

 

 俺達が攻略したダンジョンの数は“19”。対してゼイロのパーティーが攻略した数は“19”。同数だ。

 その間、一度もゼイロ達とは遭遇しなかったし、ゼイロ達の評判はあえて聞かない様にしていた。無駄な情報入れたくなかったからだ。

 

 俺達のパーティーは速度重視よりも結果重視。綿密に計画を立てて挑戦するスタイルを取っていた。それでも驚異的なペースでダンジョンを攻略していくゼイロ達と同じペースを維持できたのはアリアとマギサ、両名により力が大きい。

 元々アリアは巨獣タイタンとの戦いを皮切りに青天井に成長していき、マギサも戦闘役に配置転換してからは目覚ましい活躍を見せた。基本的な役回りは変えてないが、そんな二人の活躍に加え、フィリスの高度な支援もあり、俺の負担も減ったことで今まで以上に効率的に動く事が出来た。ユートリアに憑いている精霊は一度も表出しなかったが。

 

 

 そうして半年間の進撃ともいうべき俺達の冒険は王国内における全未攻略ダンジョンの攻略を終え、一旦休息に入る。

 そんな時、王国からパーティの招待状が届いた。何でも、建国以来ついに成し遂げられた全ダンジョンの攻略を祝して王城にてパーティが開かれるそうだ。そこには国のお偉いさん方や各業界の重要人物や友好国の王族もお祝いに来るそうだ。そして今回の立役者である俺達とゼイロが率いるパーティーも招待して盛大に祝うとのこと。

 

 その招待状を受けて俺達は・・・・・・作戦会議していた。

 

「これ行くのか?結局あれから一度もゼイロと会ってねーし、アイツがどれぐらい荒れてるか分かんねーぞ。つーか目的は同じなのに何で一度も遭遇しねーんだよ」

「流石に王のお膝元で暴れたりしないでしょ。それに行かないは無いわよ、わざわざ王から直接招待状頂いてんのに」

「そりゃそうか・・・・・・万が一、そんな事があったらその時何とかすりゃいいか」

「そうですね。今この国でゼイロさん達に対抗出来るのは私達か騎士団だけでしょう。なら、私達は招待状を通り、パーティに参加しましょう」

 

 ゼイロはパーティーを組んでいる様だが、恐らくゼイロのワンマンチームだろう。ゼイロ達の評判は聞かない様にしていたが、それでも噂話は耳に入ってくる。そのどれもがゼイロに関するものばかりで驚異的な力を手に入れたようだ。反対に、共にいるであろう仲間達に関しては何も噂が立っていない。俺達に届いていないだけかもしれないが、流石に不自然だろう。もしかしたら既にゼイロの才能について情報が出回っているが故の事なのかもしれない。

 

 それでもゼイロ達は俺達とほぼ同じペースでダンジョンを攻略していった。ということはゼイロ単騎でも俺達と同等の力を有しているのだろう。現状、王国内においてゼイロ達と同等の力を有しているのは俺達のパーティー以外だと王家直属の騎士団のみ。

 

 今代の騎士団は創設以来、最高峰の人材で構成されているようで歴代最強として名を馳せているが、その中でも群を抜いて強いのが俺を鍛えた騎士様。だが、当の騎士様は名を知られておらず、その原因は騎士団と王国上層部が全力で情報統制を敷いているからだという。騎士様から直接聞いたが、何でも王国最大の切り札とも言うべき騎士様を可能な限り隠しておきたいのと、自由に動かした方が王国、ひいては世界のためになると判断したらしい。

 そのため騎士様は騎士団内において唯一自由行動を許されており、国内を自由に行動できる。俺と出会ったのもその一環らしい。

 

 俺の見立てだと、騎士様一人で全ての勢力を制圧出来るのだろうが、今は不在らしい。パーティにも出れないという連絡を貰っている。俺の才能について確認したかった事があったが・・・・・・仕方無い。自分の判断で決める事にする。

 

 

 俺達は招待状通りに王城のある王都へ向かい、用意されていた宿で休息を入れてから指定された時間にパーティ会場へと向かった。

 

 

「剣聖様御一行ですね、お越しいただきありがとうございます」

「こちらこそ招待していただきありがとうございます。本日はよろしくお願いします」

 

 会場の受付にいた使用人に歓迎され俺達は豪華な扉を潜って会場内へと入る。

 パーティ開始時刻まで時間はあるが既に多くの人が立っており、会場の中央では人だかりが出来ている。人が多いでいで見え辛いが・・・・・・あの中心にゼイロと四人の少女がいる。恐らく今回の功績から貴族だったり、様々な業界に人物が話を持ちかけているのだろう。

 

 その様子を見ていると、俺達に気付いた人達が同じ様に近づいてくるが、揃えて足を止める。原因は、近づいてくる一人の人物。黄金の髪を持ち、次期王として囁かれているこの国における第一王子。その人が俺達に声を掛けてきた。

 

「君達が例の剣聖御一行だね、王国の歴史に名を刻んだ君達に敬意を表するよ」

「勿体なきお言葉、身に余る光栄です」

「そう畏まらなくてもいいよ、今日は君達が主役なんだ。もっと堂々としてくれ」

 

 王子の登場に俺達は跪き首を垂れるが、王子の言葉を聞き立ち上がり少し空気を緩める。以前、王城のパーティに参加した時は魔法学園の視察に行っていて不在だったらしいが、今日は参加しているようだ。お偉いさんとはあんまり話したくないなぁ、なんて考えているとマギサがいつもの調子で王子に声をかける。

 

「相変わらずムカつくほど上から目線ね、アンタは」

「実際“上”なんだよ、マギサ」

「・・・・・・マギさん、不敬罪になっても助けねーからな」

「心配しなくていいわよ、この王子に私は罰せないから」

「そうの通りだよ、学園では随分と世話になったからね。君達もマギサのように楽にしてくれていいよ」

「そうは言ってもですね・・・・・・」

 

 話を聞くに、どうやら王子はマギサが魔法学園時代の同級生だったようだ。まさか王子をボコってたりしてないよな、なんて思っていると顔に出ていたのか王子に笑われた。

 

「ふふ、心配しなくても物騒な話は何もないよ」

「アタシが魔法学園をシメてたってのは知ってるわよね?それ、王子の依頼だったのよね」

「マギサは私からのお願いを聞いてくれて、期待以上の成果を出してくれたんだ。だから私はマギサに頭が上がらないんだよね」

「十分物騒じゃん・・・・・・」

 

 衝撃・・・・・・衝撃か?の事実を知り唖然とするが、そういえば前回、王城に招待された時も緊張する俺達とは違いマギサは堂々としていたな。ユートリアですら身体を強張らせていたというのに、今思えばあの雰囲気に慣れていたんだろうな。

 

 それから王子に続いて王国内の有力な貴族達も少しずつ混ざって来て話をしていた所で、ピタリと会話が止まり会場内には静寂が満ちる。

 

 主催である王の登場だ。

 

 

「我が王国の誇り高き同胞達よ、そして此度の偉業を成し遂げし英傑達よ。今宵、この輝かしい宴の席によくぞ集まってくれた。心より歓迎する」

 

 王の登場とともに、煌びやかな大広間に集っていた招待客達は一斉に跪き、その厳かな声に耳を傾ける。俺達もまた、頭を垂れて静かに王の言葉を傾聴していた。

 

「我が国が産声を上げてより、幾百年。この大地に穿たれた数多のダンジョンは、常に人々の脅威であり、数え切れぬ王国臣民達の命を呑み込んできた不落の深淵であった。それを我ら人の手で全て攻略する日が来ようとは・・・・・・。建国以来、ついに成し遂げられた全てのダンジョン踏破という偉業を前に、余は今、言葉に尽くせぬほどの感動を覚えている。この歴史の新たな扉をこじ開けた立役者ーーー勇敢なる冒険者諸君が、今宵の主役である。剣聖の名に相応しい力を振るったアリア、女神様から授かった才能を遺憾無く発揮したゼイロ。両名それぞれをリーダーとして支える若き勇士達。お前達の不屈の闘志に、王国を代表して最大の賛辞と感謝を贈ろう」

 

 王はそこで一度言葉を区切り、会場全体を見渡すように一呼吸置くと、両腕を広げて大きく宣言した。

 

「彼ら英傑達がもたらしたこの栄光は、我が国の歴史に永遠に刻み、新たな冒険譚の始まりであろう!さあ、堅苦しい挨拶はここまでだ。今宵は我が王国における、千載一遇の記念すべき日である!身分も、礼節も、今宵ばかりは全て忘れるが良い。無礼講だ! 浴びるほどに美酒を酌み交わし、腹がはち切れるまで馳走を喰らい、この歴史的な大快挙を余と共に心から祝おうではないか! 宴を始めよ!」

 

 王の言葉を皮切りに、パーティが始まる。無礼講と言っていたが流石に酒を飲み過ぎるのは危険だと思い、他の参加者達からの酒を何とか躱しつつ宴の時間を過ごした。俺達は固まらず皆、思い思いに楽しんでいた。というより声を掛けてきた参加者に連れて行かれるという形で離された。アリアが特に抵抗していなかったため怪しい話を持ちかける人物とはいないと判断して俺達は流れに身を任せた。そもそも、そんな人物は弾かれているだろうしな。

 俺はパーティに参加していた騎士団の団長と副団長に挨拶し、騎士団と縁の深い有力者達と話したりしていた。

 パーティに招待されていた人は想像以上に多く、ゼイロの様子を伺うことが出来なかったため、気にしても無駄かと考えを変え、純粋にパーティを楽しんだ。

 

 そうしてあっという間にパーティも終了という頃に“それ”が始まった。

 

 

「ーーーパーティにご来場頂いている皆皆様、どうか僕の言葉を聞いていただきたい」

 

 パーティ会場に用意されていた壇上にいつの間にか立っていたゼイロがそう言葉を響かせていた。主役の言葉に皆、一様に口を閉ざして耳を傾ける。アイツ、何をする気だ・・・・・・?

 

「僕は以前までアリア率いる剣聖パーティーに所属していました。この場に居る方の中にも知っている人はいるでしょう」

 

 ゼイロの言葉に会場内が僅かに騒めく。別に隠している事じゃない。俺達も、行く先々でゼイロとの関係を問われる事が何度かあった。その度に、元パーティーメンバーと答えていたため、ある程度、冒険者事情に詳しい人は知っている内容だ。

 騒めく会場を尻目にゼイロは言葉を続ける。

 

「僕は剣聖パーティーを“力不足”という理由で脱退を宣告されました。・・・・・・実際、当時の僕は弱く、力になれていなかった。しかし!今は違う!僕は力を付け、彼女達に比肩する程まで登り詰めた!だからこそ僕は挑みたい!挑んで、僕の強さをアリア達に証明したい!!」

 

 うーん、これは思った以上に真っ直ぐだな。何か感情を隠している様にも見えるため、俺達に思うところはある様だが・・・・・・今言った俺達への力の証明というのは嘘は無い様に見える。

 俺は近くに居た騎士団長へと確認する。

 

「王城内の“あそこ”って使えます?」

「今、使用者は居ないが・・・・・・許可も降りた、自由に使ってくれていい」

 

 王城内には、他国からの使者との交流を目的に、騎士団の訓練場を設置してある。そこでは騎士団員による演舞や普段の訓練風景を見せて力を誇示しているが、団長の言葉から今は使用していない様だ。言葉の途中で団長は王に目を向け、それに気付き、意図を汲み取った王は頷きを返す。恐らく使用許可が降りたのだろう。

 それを聞いて、俺は騒めきが続いている会場内でも聞こえるようにアリアへ向けて言った。

 

「リーダー!俺達はいつでもやれる!号令を頼む!」

「ありがとうございます・・・・・・ゼイロさん!貴方の挑戦を受けましょう!」

 

 アリアの言葉を聞き、ゼイロは神妙な顔付きで頷き、壇上を降りる。それからは一気に騒がしくなり皆、訓練場へと足を運ぶ。俺達も皆一度集まり、訓練場へと向かおうとするが、マギサに止められた。

 

「カイル、アンタは残りなさい王子が話したがってたわよ」

「お、俺?なんかしたかな・・・・・・」

「アタシ達は先に行ってるからしっかり話して来なさい。アタシ達がことを終わらす前には来るのよ」

「おう・・・・・・」

「・・・・・・カイル、先に行ってますからね」

 

 そう言い、マギサはズカズカと歩いていき、それを見て他のメンバーも訓練場へと向かった。もしかして無礼かましてたかなぁ・・・・・・でも今日は無礼講だって言ってたしなぁ・・・・・・。

 なんて考えていると既に王子が近くまで寄って来ており先に声を掛けられた。

 

「すまないね、カイルくん。君だけ残して」

「あー、いえ、お気になさらず。それでどういったご用件でしょうか?」

「君の事は君のお師匠様である彼からよく聞いていてね、一度こうやって話しておきたかったんだ」

「なるほど・・・・・・」

 

 どうやら王子と騎士様は俺のことを話す程度には仲が良い様だ。これなら悪い話では無さそうだ。少し方の力を緩め話を続ける。

 

「君はこれから先、どんな選択をするのかな?」

「・・・・・・もしかして、私の才能のこと言ってます?」

「勿論。君の才能について彼から聞いている。その上で、ゼイロという冒険者との対決はどうするのかと思ってね」

「・・・・・・そうですね。とりあえず、真実は話そうと思います」

「それは、彼に止められていると聞いているけれど?」

「騎士様は“その時じゃない“と言っていたんです。俺にとっては”今がその時”ですよ」

 

 騎士様に確認をしたかったのは、これだ。きっと今回の宴会でゼイロ達と激突する事になる。そんな感覚があったからこそ、その時には自分の才能の事を明かそうと考えていた。一応、騎士様にも確認したかったが、まあ・・・・・・いいだろう。

 

「話したかったのはそれだけですか?なんかもう既に戦いを始めている様な音が聞こえるんで行きたいんですけど」

「そう、だね・・・・・・君と話せるのはこれが最初で()()になるだろうからもう少し話しておきたかったのだけれど、こうなってしまったは仕方ない」

「最後って、会おうと思えば会えるじゃないですか」

「ふふ、どうだろうね?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・聞かなかった事にします」

「それが良いよ、そうならない様に色々と立ち回っているからね」

 

 そう言いながら王子の見せた笑顔に俺は口を閉ざしてしまった。これ、何か手を出すべきか?この感じ、間違いなく裏があるだろうけど・・・・・・うーん。

 

「ほら、君の仲間達が戦っているよ。今はそっちが優先だ。行っておいで」

「・・・・・・そっすね、そんじゃあこの場は失礼させてもらいます!後で話聞きますんで!」

「君の行き先を応援しているよ」

 

 王子からの激励を聞き、皆が集まっている訓練場へと走る。

 やはり微かに聞こえていた音の通り既に戦いは始まっているようで近づくにつれて音が激しくなっていく。血気盛んすぎんだろ、アイツら。

 

 会場の受付にいた使用人に訓練場までの道は聞いていたため特に迷う事なくすぐに辿り着き、足を踏み入れる。

 

 そこで目にしたのは、傷だらけで倒れるユートリア、それを回復魔法で治しているフィリス、自身の杖を水平にして宙に浮かせ腰を掛けているマギサ。訓練場には来賓用の観戦スペースがあるため、そこには今回のパーティの参加者が詰めかけている。

 とりあえず、フィリス達に近づき話を聞く。

 

「何があった?」

「あっ、ようやく来ましたぁ!ユートリアさん本当にバカなんですよぉ!」

「・・・・・・本当に何があったんだ?」

「ーーーそこのバカが丸腰でアイツの腰巾着に突っ込んで返り討ちにあったのよ」

「・・・・・・はぁ?」

 

 マギサが呆れた様に言うが、状況が掴めない。フィリスが順序立てて説明してくれて、ようやく理解できた。

 訓練場についてからどのように力を比べ合うのかと思っていたが、リーダー同士の対決では無くどうやらパーティ全体での乱戦になったという。特に開始の合図などは無かったが、突然ユートリアが『いざ尋常に、勝負!』と言いながら突っ込んで、ゼイロのパーティーメンバー達に一方的にやられたという。やっぱ意味分かんねぇわ。

 

「・・・・・・ふ、ふふ。精霊様から啓示があったのさ。『偶にはボロ雑巾の様にされて来い』とね・・・・・・」

「あんま言いたくねーが、やっぱお前に憑いてる精霊様って邪霊じゃね?」

「同感ね」

「ユートリアさんはじっとしててください!なんでこんなバカなことをするんですかぁ・・・・・・!」

 

 ユートリアの行動に俺とマギサは顔を顰め、フィリスは回復魔法を掛け続ける。回復魔法の光が増したかと思えばそれから数秒のうちにユートリアの傷は全快した。やっぱフィリス、優秀すぎる。

 

 それで、と俺は遠くで倒れている四人の少女についても聞く。

 

「あっちは?」

「そこのバカをボコした後、良い気になってこっちに来たから軽く撫でてやったわ」

「ええ・・・・・・」

 

 さっきの”腰巾着“呼ばわりと言い、随分と見下している様に見える。事実、マギサはそれだけの力を持っているし、こうやって歯牙にも掛けないほどの力を見せ付けている。

 

「実際、倒してみてどうだった?」

「どうもこうも何も感じなかったわよ。ただ・・・・・・ユートリアとやり合っていた様子から、どこか力を持て余している様に見えたわ」

「なるほどな・・・・・・じゃあ、ゼイロの支援が効いているのは確実っぽいな」

「ええ、ただ力の振るい方がなってなかったわ。一言で言えば、戦い方が下手くそね」

「ひっでぇ・・・・・・」

 

 ひどいとは言いつつ、マギサが言うのなら事実だろう。そこでようやく俺は先程から激しい剣戟を鳴らしていた訓練場の中央に向ける。

 

「あっちはどうなんだ?」

「一対一でやりたいってアリアが言うから手出しはしてないわ。まあ、アンタなら割って入っても良いでしょ」

 

 目を向ける場所ではアリアとゼイロが激しい動きで剣を振るっていた。どちらも凄まじい速度と力で離れているはずの俺達までその衝撃が届く。ゼイロの動きは俺達が見ていた時とは比べ物にならない程速く、力を示していた。ゼイロが授かった才能、<ステータス編集>の力だろう。純粋な力比べなら、この様子だと俺も勝てない。

 だが、それでもこの戦いで押しているのはアリアだ。理由は一つ、戦い方の違いだ。達人の様な動きをするアリアと、言っちゃ悪いが素人の様な剣を振るうゼイロ。どれだけ力を増そうとも、そこの差は埋めることが出来ない。

 

「カイルさん、こちらをどうぞぉ」

「おっ、俺の剣と盾じゃん。ありがとな・・・・・・んじゃ、行ってくるわ」

「とっとと終わらせなさいよね」

「十分気をつけるんだよ」

「お気をつけくださいねぇ」

 

 王城に入る際に門番へ預けていた俺の剣と盾をフィリスから受け取る。俺の分まで受け取ってくれていたようだ、助かる。

 三人からの励ましを背後に俺はアリアとゼイロの元へと向かう。

 

「ーーーおい!もう十分だろ!次は俺だ、ゼイロ!」

「っ!ま、まだだ!僕はまだっ!!」

「・・・・・・いえ、ここまでにしましょう。ゼイロさん」

「何だよ・・・・・・”さん“って・・・・・・!」

「ーーー改めて、これまでありがとうございました、ゼイロさん。貴方の献身に私達は感謝しています。・・・・・・挑戦はいつでも受け付けます。今日は私の勝ちということで、また挑みに来てください」

「・・・・・・くそっ」

 

 ゼイロは息絶え絶えで、アリアの言葉にこれ以上反論する気は無いのか、アリアに折られて短くなっている剣を捨てて俯く。それを見たアリアがマギサ達の方へと足を向ける。

 

「もういいのか?」

「はい、後はご自由にどうぞ」

 

 アリアはスッキリした表情でこの場を後にするアリアを見送ってしみじみ思う。とんでもないモンスターが生まれたな、と。

 ゼイロは既にボロボロで流石にこのままで俺と一戦というのは不公平なためフィリスを呼んで回復してもらう。ゼイロの回復を終えたフィリスが俺に近づき、怪訝な目でこちらを見るゼイロに聴かれないように耳元で言った。

 

「あのぉ、危ないことはしないでくださいねぇ」

「もう十分危ないことはしてると思うんだが・・・・・・」

「そうではなく・・・・・・敵に塩を送るような事はしないでください、ということですぅ。彼の才能は()()ですからぁ」

 

 フィリスの言葉に反射的に”どこまで知っている“と聞き返し掛けたが・・・・・・今聞く事じゃない。フィリスの何処か申し訳なさそうな顔を見て、俺は堂々と返す。

 

「ーーー知らねーな。俺はアイツの全てを受け止め、跳ね返すって決めたんだ。アイツがどうなろうと俺の方が強い。それをこれから証明する」

「・・・・・・はぁ、もう知りませんからぁ」

 

 俺の言葉にフィリスは諦めたように、そしてどこか眩しいものを見るかのように目を細めてそう口にし、アリアと同様に後ろへ下がった。

 

 ・・・・・・ようやく、ゼイロとの対話が始まる。

 

「悪いな、待ってもらって」

「・・・・・・回復してもらったんだ、少しは待つよ。それよりどういうつもり?敵を回復させて」

「敵って物騒だな、フィリスも言ってたが・・・・・・ま、今の立場じゃそうなるか。理由は一つ、お互いに全力でやりあわなきゃ納得出来ねーだろ?」

「・・・・・・律儀だね」

「ああ、もう戦いたがっているように見えるが、もう少し待ってもらうぜ。お前に何らかの目的があるように、俺にも目的がある」

 

 そう言い、大きく呼吸を入れーーー訓練場内に来ているパーティの参加者、そして王と王子にも聞こえるように、腹の底から声を張り上げた。

 今がその時、だよな。

 

 

「俺が女神様から授かった才能は<防壁>じゃ無い!無才の象徴、<無し>!それが俺、無能のカイルだ!!」

 

 

 広大な訓練場を、俺の声がびりびりと震わせる。

 直前までガヤガヤと面白半分で見ていた見物人達が、水を打ったような一瞬の静寂に包まれーーー直後、爆弾でも落とされたかのように一気に騒ぎ出し

 

「無能!?では、彼は、女神様から見放された人間ということか!?」

「バカな!彼の実力は騎士団が認めているのだろう!?」

「だが今確かに・・・・・・!これはどういう事ですか、騎士団長殿!」

「カイル・・・・・・っ、なぜ、今・・・・・・!」

 

 蜂の巣をつついたような大騒ぎになり、見物客達から四方八方で問い詰められている騎士団長、うーわめっちゃ冷や汗かいてんじゃん。事前に言っておいた方が良かったか?でもあの人、絶対にこの場での暴露を全力で止めてきただろうしなぁ。それに、と後方をチラリと見る。背後で俺達の様子を見ていたアリア達も何か揉めているようだ。

 

「ハァ!?アイツが無才!?ありえないでしょ!確かにアタシはアイツの才能が<防壁>なんじゃ無く、<万能>って疑ってたけども・・・・・・!アリアは知ってたの!?」

「・・・・・・はい、私は知ってました。ユートリアさんは・・・・・・その様子だと知っていたようですね」

「そうだね、精霊様は全てをお見通しだ。彼と出会った時からその事は知っていたよ」

「う、嘘でしょ・・・・・・フィリスは私と同じで知らなかったーーー」

「すみません、私も知ってましたぁ。私の才能で知ってたんですよねぇ」

「知らなかったのアタシだけじゃない!」

 

 ウキーッと顔を赤くして騒ぐマギサを見て思う。ほぼ全員にバレてーら。隠してた意味ほぼ無かったじゃん。フィリスは以前、俺の才能について知ってそうなことを言っていたから分かるが、ユートリアまで知ってたのかよ。

 

「ーーー彼が言った事は真実だよ。彼は・・・・・・無才だ」

 

 騒ぎ立てていた見物客達が、今度こそ完全に凍りついた。

 まさかの王子からの援護射撃。国の象徴である王族から直々に証言が出たことで、俺の言葉は疑いようのない「真実」として決定づけられた。騎士様との縁もあってか、王子は俺の覚悟をここで後押ししてくれたらしい。

 

 

「ーーー帰れ」

 

 

 静まり返り、耳が痛いほどの静寂が支配する訓練場で、ポツリと冷酷な一言が響いた。

 誰が放ったかも分からないその言葉を皮切りに、先ほどとは比較にならないほどの激しい怒号が、津波のように俺へと押し寄せてくる。

 

「女神様に見放された()()めっ!ここから立ち去れっ!」

「なぜ悪魔がここにいる!衛兵!アイツを摘み出せ!!」

「消えろっ!穢らわしい存在め!!」

 

 すんげー言われてんな。今までこうやって直接見た事はなかったが・・・・・・この世界は無才の人間に本当に過酷だなあ。つーか、王子が知っていたってことは俺の存在を認めていたって事なのに、その上でここまで堂々と差別するのか。ほら、王子サマ苦笑いだよ。王サマも頭抱えてるし。

 

 そんなことを呑気に考えていると、呆然としていたゼイロが震えた声で言葉を発する。

 

「・・・・・・どうして、今・・・・・・」

「なぜって・・・・・・お前とちゃんと向き合いたかったからだよ」

「僕と・・・・・・?」

 

 訳が分からないと言った様子で聞き返すゼイロ。俺も、旅に出た頃はここまで大胆な行動に出るなんて考えなかったよ。でも、アリア達と出会って、ゼイロの脱退の件もあって・・・・・・考えが変わった。全てを晒した上で、()()()()()()()()ゼイロへ言葉を掛ける。

 

「俺はな、お前に嫉妬してたんだぜ?」

「君が・・・・・・僕に・・・・・・?」

「ああ、さっきの言葉で分かるだろ。才能の無い俺と、才能を持つお前。俺はお前の授かった才能が一番つえーと思ってるぜ。あと、アリアと幼馴染なのも羨ましい。だから嫉妬してた」

「・・・・・・今は、どうなの」

「今は、まあ、そこまで嫉妬はしてない。俺は鍛えて鍛えて鍛えて・・・・・・ここまで強くなった。これまで自分の歩んできた道のりを考えると、才能がどうとか、難しく考える必要は無いって思うようになってな。ゼイロはどう思う?」

「僕は・・・・・・僕に与えられた才能が“嫌い”だ。才能の無い君には分からないかもしれないけど、女神様が治めるこの世界は才能が全てなんだよ。君がよく口にする“努力”とか“根性”とか・・・・・・何の意味も無いんだ。僕の才能はね、ちょっと数字を弄るだけで途轍もない力を手にすることが出来るんだよ。分かる?この気持ちが。今までどうやっても手に入れることの出来なかった力が、たった一つ、指を動かすだけで手に入るんだよ」

「うーん・・・・・・分かんねーな、その気持ち」

「そうだよ、そうなんだよ。・・・・・・だから、僕は君に才能の力を思い知らせる。そして、君のこれまでの努力は全て意味が無かったんだと思い知らせる」

「アリアに勝てなかったのにか?」

「君には勝てる」

「言うじゃねえか・・・・・・なら、後はやる事は一つだな」

 

 お互い、言いたい事は言った。正直、なぜゼイロが俺にここまで固執しているか分からない。多分、俺がゼイロの想い人であるアリアを掻っ攫っていったことが理由じゃ無さそうだ。まあ、その辺は考えたって意味は無い。今はただーーーゼイロを打ちのめす。

 

 俺が盾を構えたのを見て、ゼイロが向かってくる。剣は先程、アリアに折られていたため、素手での殴りだ。俺はそれを躱す事なく盾で受け止め・・・・・・吹き飛ばされる。

 

「カイル!!」

 

 アリアの悲鳴にも似た言葉が聞こえるが、すぐに手で制する。大丈夫だと。大丈夫じゃねえけど。今の一撃で盾は破壊され、剣も衝撃波で粉々になっている。体は抉れ、骨も粉砕されているが、すぐさま自己回復魔法で再生して、ゼイロに飛び掛かる。

 

「良い一撃じゃねえか!!もっとこいや!!」

 

 やっぱり、俺がこれまで積み上げてきた全てを、ゼイロは軽々と超える。それが<ステータス編集>の力。だが、それは正面から受けた場合のみ。事実、俺が攻めに回ってからゼイロは攻め辛そうにしている。

 

「おいおいどうしたぁ!こんなもんじゃねーだろ!!」

「くっ!ちょこまかと!」

 

 ゼイロの放つ凶悪な拳を紙一重で回避する。だが、避けただけでやり過ごせるほど甘く無く、直撃を免れたはずの拳が巻き起こした凄まじい衝撃波が俺の皮膚を切り裂いていく。

 ただのパンチでどんなイカれた威力してんだよ。アリアはよくこれに勝てたな。だがーーー。

 

「そんなもんじゃ止まんねーよっ!」

 

 肉体が削られる痛みなど意に介さず、俺は怯むことなく前へ踏み込み、ゼイロの懐へと肉薄する。そして、一瞬の澱みもなく指先で印を結んだ。

 

「忍術って知ってるか?遠い大陸の技術だ」

「はっ?ーーーっ!!」

 

 残像を残すほどの速度でゼイロの死角へと滑り込み、その無防備な腰へと容赦なく掌を叩きつける。

 直後、バチバチと激しい音を立てて強烈な雷撃が迸り、ゼイロの身体を内側から焼き貫いた。骨を伝うような確かな手応え。的確にダメージが通った感覚が掌から伝わってくる。

 

「物理的なダメージは通せそうにねーからな、こうやって攻めることにするわ」

「っ、ならっ!近づかなきゃ良いだけ!」

「あーそこ、足元注意な」

 

 俺の言葉にゼイロは思わず足元を見るが、何も起こらない。その隙に近づき再び術を発動する。今度は別の術。

 

「ひっ、卑怯な!」

「戦いに卑怯もクソもねーよ」

 

 触れた対象の内部へ直接衝撃を叩き込む、不可視の呪術。

 ブラフで完全に初動を遅らされたゼイロは、躱すことも防ぐことも出来ずに衝撃をモロに喰らい、派手に後方へと吹き飛んだ。地面を激しく転がりながら、その口からドッと鮮血が吐き出される。

 

 俺がゼイロに勝っている点は二つ。戦闘経験、そして、切れる手札の数。

 騎士様での修行は武器を用いた戦い方の他に、世界中の様々な技術を俺に叩き込んだ。俺達が居る大陸で広く使われている魔法、東の大陸で用いられる忍術や呪術に巫術、他にも錬金術や占星術なんかも教わった。どうして俺にそこまでいろんな術を身につけさせるのかと聞くと、こう答えられた。

 

『君のような才能を授からなかった存在は、この世界で最も自由なんだ。僕達のような才能持ちはその行き先を才能により決定付けられる。でも君は違う。才能が無いからこそ、どんな未来だって選べる。今はそのための選択肢を増やしているだけだよ』

 

 かつて俺に言った盾の扱いに適性があると言ったのは、多分、慰めに近いものだと思う。中々自信の持てなかった俺に、騎士様が最も得意とする戦闘スタイルを真似させて自信をつけさせようとしてくれたんだと思う。

 

 つまり、俺がゼイロへ取れる戦法はーーー初見殺し。ゼイロが見たことの無い力を次々に浴びせて何もさせない。それが俺が勝つための最も勝率の高い戦法だ。

 

「ぐっ、くそ・・・・・・っ!まだ、だ!!」

 

 ゼイロは体勢を整え必死に駆ける。その姿を見て見物客達もゼイロを後押しするように声援を送る。『悪魔を退治しろ』ってひでーな。

 

 が、声援虚しくそれからもゼイロは俺の攻撃を捌き切れず、何十もの俺の攻撃をその身に受けてようやく膝をつく。

 

「あ、危ねえな・・・・・・っ」

「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・」

 

 そう言う俺も、自分の姿を翻ってみると地に塗れていた。返り血ではなく、自分の血だ。本当なら離れて戦いたかったが、ゼイロがそれをさせなかった。ゼイロは最初の俺からの攻撃で近距離は分が悪いと思ったのか距離を取ろうとしたが、寧ろ遠距離じゃ俺がイキイキとし出して本当は俺が近距離を嫌っていたことに気付いた。そこからは俺も捨て身で体をぶつけ合って、今に至る。

 

「ま、まだ・・・・・・」

 

 本当ならここで俺の勝利宣言で幕を引く所だが、完全に俺は()()いた。

 

「そうだよなあ!?まだ俺は倒れちゃいねーぞ!!」

「はぁ・・・・・・くっ!」

 

 体中から血を流し、フラフラの状態で何とか立ち上がるゼイロ。そうだ、まだ戦いは終わっちゃいない。

 

「今の状態じゃ俺に勝てねえ!じゃあやる事は分かってんだろ!!テメーの才能を!!ここで進化させてみせろ!!」

 

 ここまでやって分かった。恐らく、今のゼイロが出来るのは自身の能力の編集のみ。かつて俺達に掛けていた支援は、偶然の産物。その能力を持ったまま、今のパーティーメンバーも強くしていたんだろう。マギサの様子じゃ、そこまで強くはなってなかったようだ。だから、彼らの強さで噂となっていたのはゼイロだけで、他のメンバーは見向きもされていなかったんだろう。

 だとしたら、その支援能力。才能により発現したと思われるその能力が、他の能力も発現できたら?

 それが出来るのなら“剣術の達人”でも何でも発現させるだろう。でもそうじゃないってことはまだ、今の才能じゃそこまで出来ないってことだ。

 

 なら、やる事は単純。アリアのように、才能を進化させればそのような能力も自由に編集出来るようになる。そうに違い無い。

 

「ーーー僕は!君に、勝たなきゃいけないんだ!!」

 

 俺の叫びに呼応するようにゼイロは絶叫し、雄叫びを開ける。直後、奴の姿が視界から掻き消える。ーーー来るッ!

 

「ーーーかはっ」

 

 完全に死角へと回り込んでいたゼイロから、鋭い掌底が放たれる。寸前で無理やり身を捩って直撃だけは避けたものの、突き抜けた衝撃によるダメージは甚大。息の詰まるような痛みを強引にねじ伏せ、すかさず追撃を仕掛けてくるゼイロを視界に捉える。

 動きが、変わった。

 

「ハッ!身につけた見てーだな!新たな力!!」

「うおおおおおっ!!」

 

 先ほどまで素人同然だったゼイロの身のこなしが、まるで何かに目覚めたかのように洗練されている。もう、数秒前までのステータスで殴るだけの奴じゃない。

 ギリギリの猛攻を紙一重で躱し続けながら、俺は胸の奥から湧き上がる感情のままに叫んでいた。

 

 

「もうこれは!!ただの喧嘩じゃねえ!!俺とお前!!努力と才能!!どちらが上か決める戦いだッ!!」

「僕はっ!!君に勝てればそれでいいっ!!」

「そうは言ってらんねぇぞ!!この勝負の結果で!!無才の俺が!!最強の才能を持つお前に勝てば!!俺達無才の!!存在価値が証明されるッ!!」

 

 

 激しく拳が飛び交い、火花が散る。

 目に見えて俺の身体の傷が増えていくが、削り合いの中で一瞬の隙を見出しては、容赦なく内部破壊の術をゼイロの肉体へと叩き込む。肉体の強度も増したようで、効き目が薄いように見える。

 

 

「ここが歴史の分水嶺!!俺は!!俺の全てを賭けてお前にーーー勝つッ!!」

 

 

 それからの勝負は、一瞬だった。時間にして3分。たった3分の間に幾度も俺とゼイロは激突し、最後に立っていたのはーーー。

 

 

「ゼイロっ・・・・・・!俺の、勝ちだ・・・・・・っ!」

「ぐっ・・・・・・くそっ・・・・・・!」

 

 

 ーーー俺だった。

 

「カイル!!」

 

 戦いに決着がついたことを察して、アリアが真っ先に駆け寄ってくる。次いで、フィリスも必死な形相で追ってきて、俺の身体にすぐさま回復魔法をかけてくれた。マギサとユートリアは普通に歩いてきた。

 正直、めちゃくちゃ助かる。全身の傷が癒えていく感覚に安堵しながら、俺は心の底から息を吐き出した。・・・・・・もう、死ぬほど疲れた。

 

「カイルっ!無茶しないでっ!」

「ほんとですよぉ!私の忠告を無視して!」

「いいじゃん、結果俺が勝ったし・・・・・・」

 

 心配性な二人にそんな風に軽口を返していると、床に深く伏せていたゼイロが、なおも這い上がろうと身悶えした。しかし、芯まで破壊された腕にはもう力が入らず、立ち上がることすら叶わない。もう十分な程にダメージを与えた。回復魔法は使えない見てえだし、ここまでだ。

 

「く・・・・・・くそ・・・・・・」

 

 ゼイロはまだ諦めきれないのか、手を宙に出し、何やら指を操作する。・・・・・・ちょっと待て、こいつの編集、まさか・・・・・・。

 

「っ、フィリスッ!」

「は、はいぃ!」

 

 瞬きの間に身体が全快したゼイロが再び立ち上がり攻撃を仕掛けてくるが、寸前でフィリスの強固な結界が間に出現して凄まじい衝撃音と共にゼイロの攻撃を完璧に阻んだ。だいぶ無茶振りしたと思ったが今のゼイロの攻撃を正面から受け止めるってやばくねえか?

 恐らく、ゼイロは今、自分の身体を編集して身体を正常な状態に戻したのだろう。厳密には“戻した”と言うより、“成った”が正しいか。

 

「ま、それは今はいいか・・・・・・、マギさん!」

「はいはい、分かってるわよ」

 

 俺の呼びかけとほぼ同時に、マギサはすでに巨大な魔法陣を展開し、その魔法を臨界状態で待機させていた。こういう土壇場でのマギサの機転とスピードは、本当に頼りになる。

 

「待てっ!逃げる気かっ!」

「ああ逃げるね!勝負は付いたろ!!」

「僕はまだ倒れてないぞ!」

「さっき倒れてたじゃねーかっ!!」

「僕はっ、僕はっ!!」

 

 なおも現実を受け入れられずに何かを叫ぼうとするゼイロの声を、俺はそれ以上の声量で強引にねじ伏せた。

 

「この場は俺の勝ちだ!!」

「っ!僕はまだ!!」

「しつけーなお前まじで!・・・・・・ゼイロッ!俺達の夢は分かってんだろ!」

「な、何を・・・・・・!」

 

 俺は両手を大きく広げ、狼狽えるゼイロだけでなく、見物席にいる王や王子、騎士団長含め、この場にいる全員の鼓膜を震わせるように、堂々と、高らかに宣言する。

 

 

「俺達の夢は!全世界の踏破!未だ人類が辿り着いたことのない世界への到達!!」

「ま、待て・・・・・・!」

「お前が負けを認めねぇってんのなら!!次で決着だ!!」

「逃げ、るな・・・・・・!」

「俺達はこの先の世界へ行く!だからーーー追って来いッ!!世界の果てまでッ!!」

 

 

 俺が言い終えるのと同時に、マギサは臨界状態だった魔法、転移魔法を発動させた。

 

 眩い純白の光が俺達の身体を包み込みーーー次の瞬間、俺達は王城の訓練場から、跡形もなく姿を消していた。




明日の更新で締めです。
三人のキャラクターの視点を描いて終わります。
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