chapter1-1(非)日常編
日向創は、頭をフル回転させながら一人ベッドに腰掛けていた。
ここはジャバウォック島、第一の島、日向創のコテージである。彼が、頭をフル回転させるのも当然のこと、なぜなら死んだ仲間は生き返り、コロシアイ修学旅行は再び始まってしまったのだから。俺は、焦る気持ちを抑え、必死に頭を働かせる。
俺は、確かに強制シャットダウンのボタンを押し、光に包まれた。でも、気づいたら最初にみんなと会った教室だなんて...。
そこから始まったのはウサミの登場に互いの自己紹介、そしてビーチで空が黒雲に包まれ、モノクマの登場に極め付けはコロシアイの開始宣言だった。
今は、コロシアイ開始宣言があってから、翌日。十神がリーダーに立候補した後、ジャバウォック公園の謎のタイマーを確認しに行って帰ってきた直後だ。もっとも、もちろんあのタイマーの意味を俺は知っているが、ここでそんなそぶりを見せると黒幕にも気づかれる恐れがあるのでもちろん驚くふりをした。
いくらプログラム世界といえど、とてもじゃないが信じられない。前回と全く同じ展開が、俺の目の前で繰り広げられたことに。
だが、俺が焦るのはそれだけが理由ではなかった。
冷静さを一段と奪ったのは、ビーチで交わした会話だった。
「は?前ってなんのことだ?」
「訳分かんねーこと言ってんじゃねえぞ!ボケ!」
「すみません、私ではお役に立てそうにありません。」
「そんなに心配しても仕方ねーからよ、お前もこっちに来て楽しもうぜ。」
それが、終里、九頭龍、ソニア、左右田、前周回共に生き残った仲間達が俺に告げた残酷な真実だった。
俺は、当然、あいつらが記憶を持っていると思って話しかけた。だから、余計にショックは大きかったし、疎外感だって感じた。
それに終里や左右田は器用に嘘をつけるタイプじゃないし、ソニアも含めてそんな悪質な冗談を言うような奴らじゃない。
なにより、九頭龍の態度が俺が思い至った最悪の考えが真実であることをなによりも告げていた。共にコロシアイを生き抜いた九頭龍ならあんな粗雑な態度はとらない。あれは、まるで俺たちが初めて出会ったころ、あいつがまだ俺たちを避けていたころのあいつにそっくりだった。
そして、俺は現実と向き合わざるを得なかった。この16人の中で俺だけが前周回の記憶を持っているということに。
もし、俺以外の仲間たちも記憶を持っていたらどんなに良かったことか、どんなに頼れたか、あいつらの記憶消失発覚からこれまでの短い間に何度も何度も考えた。孤独というものがこの極限状態でどんなにつらいものかということを再確認した。
しかし、時間は止まってくれない。俺にも、誰にも等しく寄り添うことなく進み続ける。冷静さを欠いた状態がこのコロシアイにおいてどのような結果をもたらすか俺は知っている。俺は、そんな考えの下、自分を奮い立たせると同時に冷静に気持ちを落ち着かせた。
「これから、どうしようか。」
俺は、一言呟くと目的を達成するためにどう動くべきか思考を巡らせ始めた。
目的とはもちろん、前周回で死んでしまった仲間たちを今周回では救う。すなわち、全員生還を目指すということだ。
苦しい道のりになるのは想像に難くないし、前周回の記憶をもつのが俺だけである以上、独力でやらなければならない。今度こそ、誰も死なせない。
そんな意気込みをした後、俺は本題に入り始めた。
まず、真っ先に考え、真っ先に廃案となった全員を集めて前周回で知った全ての真実をぶちまけるというもの。俺一人が証拠もなくこんなことを言ったって、妄言だと切り捨てられて終わりだろう。なにより、黒幕に俺がコロシアイの2周目だということを勘付かれる恐れもある。
そう考えると、やはり一つ一つの殺人に対して対処をしていくしかなさそうだ。
最初に起こる事件は、"超高校級の御曹司"十神白夜が、"超高校級の料理人"花村輝々に殺害されるというもの。動機は、外にいる母親が無事であることを確かめたいというものだった。
まだ、殺害日まであと二日、時間ならある。
この殺人を止めるために、俺は二つの方法を考え出したが、現実的に使えるものは一つだけだった。
まず一つ目は、動機を与えないというもの。つまり、動機発表を防ぐというものだ。しかし、これはどう考えてもモノクマが強硬してくるため却下。
結局、実行することにしたもう一つの方法、花村が2年間の記憶を消されたとモノクマから告げられてなお、殺人を思いとどまるように説得するというものだ。確実性には欠けるが、これが今のところ最も有力な案だ。やらなければまた前周回の二の舞になってしまう。
そして、一番の問題は十神でも花村でもない殺人計画を立てているもう一人の男の方だ。
"超高校級の幸運"狛枝凪斗。
第一の事件で、花村を殺人に誘った男。
こいつに関しては、最初から説得なんて考えていない。あいつの思想は、前周回で嫌と言うほど思い知らされたからな。説得に向かっても、恐らく並行線になるだけだろう。
かといって、他に策を練ったとしても超高校級の幸運の力で最終的にはあいつの思い通りの展開になるのがオチだ。
そう、この最難関とも言うべきこの男を突破しなければ全員生還はなし得ないんだ。しかし、俺は動じていなかった。
そもそも、前周回で狛枝は十神に突き飛ばされてナイフを手にすることが出来なかった。狛枝が殺人計画を立てても、それを実行することはできない。つまり、花村さえ説得できれば殺人は起こらないということだ。
俺が特別、前周回と違った行動をしなければ、今周回でも同じ流れになるはすだ。それは、今までの今周回の展開でよく分かってるからな。
こんなとこだろう。そして、ふと時計を見るとまだ昼過ぎだった。
「......あいつの、七海のところに行ってみるかな」
そう言うと、日向はベッドから立ち上がると半ば緊張した様子でコテージを出て行った。
【狛枝のコテージ】
「絶海の孤島で、超高校級の才能を持つみんながコロシアイをさせられる...こんな絶望的な状況なんて滅多にあるものじゃない。」
「やっぱり、これも僕の超高校級の幸運の賜物かな?まあ、そんなことはどうでもいいか。折角なんだ、この状況を生かさない手はないよね。」
「こんなクズでダメな僕がみんなの役に立つなんてこれくらいのことしかできないから、お膳立てはしっかりしないとね。」
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【chapter1 幸運トロピカル】