chapter3-1
薄暗い部屋の中俺はベッドに腰掛けている。ベッドとはいうがとても簡素なものであり部屋もインテリアも何もない殺風景な唯の小部屋。
正面にある部屋の入り口は開いておりその先には一本の通路が続いている。俺は身体を動かそうと試みるが動かない。
そして入り口の横には知らない黒髪の女子高生が気絶している。そして俺の足に踏みつけられているのはこれまた女子高生だったが俺の知っている人物だった。
大きなツインテールに整った容姿。モノクマのヘアピンにミニスカート。踏みつけられてなお恍惚の表情を浮かべるその女こそ超高校級の絶望、江ノ島盾子。
「ねえ、あんた。希望を求めた先に何があるの?その先にあるのは明るい未来だって?それの何が楽しいの?あるのは既に決められた予定調和の退屈な世界。そんなの今時、流行ってないんだって。
一方で絶望には無限の可能性があるのです。誰にも予測できない不確定要素に満ち溢れた世界を創り上げることができる。きっとそれは貴方にもお気に召してもらえるかと思うのですが。」
それに俺はこう答える。
「....私には必要ないものです。希望も絶望も私にとってはツマラナイ。」
「そりゃあこんなとこにずっと居たらつまらないだろうねー。私なら退屈すぎて百六十三回首を吊って二十四回切腹しちゃう程だもん。でもね、私ならあんたを退屈から解放してあげられる。ちょっとついてきなよ、面白いもの見せてあげるからさ。」
「....」
「それにあんたバカデブスのむくろちゃんを返り討ちにしちゃう程強いなんて私そこにシビれて憧れちゃうう。だからぁ、一緒に行きましょうよぉ、カムクラ先輩♡」
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【chapter3】
夢と希望のデッドエンド
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ソニアの学級裁判の翌朝、俺はいつも通り食堂にやって来た。
そこには既に何人か集まっていたが九頭龍と左右田の姿は見えなかった。
「あれ?九頭龍と左右田はまだ来てないみたいだな。」
「そうなんだよ、俺は腹が減ってるってのによ。弐大のオッサンにこのあとあれをしてもらう予定もあるんだからな。」
「あんたの腹が減ってるのはいつものことじゃん。」
「あれ?日寄子ちゃん、モノクマに酷いことを言われたから落ち込んでるかと思ったっすけど大丈夫みたいっすね。」
確かに西園寺は落ち込んでるかと思ったけど意外と立ち直りが早いのか?まあそれにこしたことはないけど。
「とにかく西園寺さんが元気で良かったですぅ。」
「クソビッチに心配なんてされたくないし。」
「ひぃぃ、クソビッチですみません!」
「ところで左右田と九頭龍はどうしたのだ?」
「九頭龍はすぐに来ると言っていたが、左右田は何度インターホンを押しても返事がないのだ。」
田中の疑問に辺古山が答える。どうやら九頭龍のついでに左右田の様子も見に行ってくれたようだ。
「それって大丈夫なんかあ?コテージで何かあってもわしらは気づけんぞ。」
「うーん、それは大丈夫だと思うよ。仮に左右田クンが死んでたとしたら死体が発見されなきゃ学級裁判を始められないわけだしモノクマがそのまま放置する訳ないよ。
まあ何もモノクマから連絡がないってことは大丈夫なんじゃないかな?」
もっともな狛枝の考えに皆納得したようだった。
それよりも意外といえば田中もそうだ。左右田ほどではないとはいえ俺たちの中だったらソニアと話すことも多かっただろうから少し心配していた。
「田中、お前は大丈夫なのか?まだ気分的に切り替えが難しかったら無理しなくてもいいんだけど。」
「気遣いには感謝するが俺様には不要だ。例え俺様が歩みを止めようとも時は俺様に寄り添い流れを止めることはない。ソニアは言った、この島から必ず脱出しろと。ならば俺様達にできることはただ一つ。その思いを受け止め茨の道を突き進むことだけだ。
それがなにより亡き者への慰めになろう。」
田中は強いと改めて感じた。かつて自分の死の直前さえ絶望に屈することはなかった男だ。あいつ独自の強靭な精神力の成せる技なのだろう。
「よお。」
突然の声。声のした方を向くと九頭龍がやって来たところだった。
「九頭龍クンも来るとは聞いていたけど珍しいね。」
「まあ、今までは足並み乱して悪かったな。これからは、もうちっと協力できるようにするからよ。」
「がっはっは!九頭龍が協力してくれるとは心強いわい。」
九頭龍も俺たちも歩み寄って、他のやつらも九頭龍を受け入れてくれて本当にほっとした。今回、九頭龍は犯人に仕立て上げられた被害者にすぎないからその分前周回よりハードルは低いのだ。辺古山もどこか穏やかな顔をしている。当の九頭龍は少し照れた様子で他のやつらは嬉しそうに喜んでいる。
少しでもこのような穏やかな時が長く続けばいいのにと思った。
「じゃあ唯吹は冬彦ちゃんが心を開いてくれた記念コンサートをしたいっす!プラス日寄子ちゃんがステージ上で踊ってくれたらテンションめちゃくちゃ上がるっす!」
「え!私?私はいいよ。あー!そんなことより私、今日用事があること思い出しちゃった。だから新しい島のことはあんた達に任せたから!」
そうわざとらしく言うと西園寺はそそくさと食堂から出て行った。恐らく九頭龍にどう接したらいいか分からないのか。しかしこればっかりは西園寺と九頭龍二人の問題で最終的には二人が決着をつけるべきことだ。まあなんにせよ左右田も含めてまだ完全に団結するには時間がかかるみたいだ。
「そういえばそうだったね。学級裁判が終わったってことは新しい島に行けるようになってるかも。後で調べてみようか?」
「七海さんの言う通りだよ。何か新しい手がかりがあるかもしれないし。まあ超高校級のみんなにボクなんかが差し出がましく言う必要もないだろうけどね。」
「おめーらいつまで待たせんだよ。もう飯食っていいよな?」
「ああ、いいぞ。」
「よっしゃ!今日も食うぞ〜!」
終里に促される形で朝食を食べた俺たちは新しい島の探索を始めた。得られた情報は全て俺が知っている通りのものだったため俺にとっては真新しい発見などはなかった。
一通り探索を終えた俺たちは解散し各々のコテージへと帰った。俺も一息つくとそろそろ次の殺人の対策を考えなければならないと思い始めた。それにしても毎度毎度ここまで殺人を誘発するような状況を作りあげることができるものだと若干呆れ気味だった。
しかし何にせよ辺古山を助けることができたのは不幸中の幸いと言える。少なくとも前周回からルートは大きく変わりつつある。
ピンポーン。
その時俺のコテージのインターホンが鳴った。まだ夜にもなってないから狛枝ではないだろうと思いながら玄関のドアを開けると辺古山と九頭龍が立っていた。
「お前らどうしたんだ、二人揃って?」
「今時間空いてるか?ちっと話があるんだ。」
「あ、ああ俺はいいけど。」
予定も無いし特に断る理由もないためとりあえず二人にはコテージに上がってもらった。部屋に入った二人はというと俺と向かい合う形で正面に九頭龍があぐらをかいて座り、その隣りに辺古山が正座をして座っている。
流石、極道の跡取りとその側近と言うべきか。威圧感と緊張感が半端ない。俺もなんとなくかしこまって正座をしてしまっている。シメられるなんてことはないと思うが一秒一秒が長く感じるほど重い空気に死にそうになる。
沈黙に耐えられなくなった俺は自分から話を切り出すことにした。
「で、話って何のことだ?」
「まずはペコが世話んなったな。いやペコだけじゃねえ、俺の事についても迷惑かけちまったみてーだ。とりあえず礼は言っとくぞ、ありがとよ。」
そう言うと九頭龍は俺に頭を下げてきた。俺は驚いて慌てたように止めようとする。
「大丈夫だ、九頭龍。顔を上げてくれ。俺は迷惑だなんて微塵も思ってないぞ。」
「そう言ってくれるとちったあ楽になる。俺はあのゲームの事で小泉を呼び出そうとしていた。今だからこそ言える事かもしんねーが一歩間違えたら小泉を殺してたのはソニアじゃなくて俺だったかもしんねえと思うんだ。最もあのゲームによれば俺はE子を殺しちまってる訳だが。」
「必要以上に思い詰める必要もないんじゃないか?さっきの様子を見る限りみんなもお前を受け入れてくれたみたいだし。」
「ああ、だったらなおさらそれに応えるつもりだ。」
久しぶりに九頭龍のこんな顔を見れた気がする。俺の思い出に囚われた俺の記憶の中にある九頭龍を今の九頭龍に押し付けるのも何か違うと思っていた。でもやっぱりどこまでいってもこいつは良くも悪くも変わらないのだと今感じた。
「そろそろいいですか、ぼっちゃん。」
「ああ、構わねえ。俺も気になってるしな。」
「日向。お前が以前、私に言った言葉を覚えているか?もう二度と私とぼっちゃんが引き裂かれることがないようにという言葉だ。この言葉だけなら唯の邪推で済ませることもできるがあの時の一連のお前の言動からは何やら確信めいたものを感じた。
単刀直入に聞こう。お前は何を隠している?少なくとも私たちの知らない秘密を抱えているはずだ。」
鋭い目で見つめられると途端に怖くなってくる。敵意ではないのだが相対するだけで逃げ出してしまいそうな感覚に陥る。しかもそれが図星であればなおのことだ。
しかしここが潮時なのかもしれない。例え俺の秘密が黒幕にバレたとしてもそれが必ずしも絶望を意味するわけではない。その状況下でもやれることはあるはずだ。
それにここまで真剣に俺と向き合ってくれている二人を裏切るようなことはしたくない。
「分かったよ。俺の知る全てを話すよ、落ち着いて聞いてくれ。」
そして俺は遂に言葉通り全ての秘密を暴露したのだった。
それに対する二人の反応は口を開けて声も出ないというような感じだった。半ば分かりきっていたものであったが人が理解を超える事実に直面したときこのような反応になるのは仕方のないことなのだろう。
「ここがプログラムの中で俺たち全員超高校級の絶望だと?」
「そして私たちが今、行っているコロシアイは2回目のコロシアイだと言うのか?」
「ああ、全て本当だ。」
「ってことは七海以外の全員が超高校級の絶望ってのもマジなのかよ。」
「もちろん信じられないのは重々承知の上だ。そんなショッキングなことそう簡単に受け入れられる訳ないからな。」
「いや、すまねえ。お前が嘘をついてるとは思ってねえんだ。ねえんだけどよ、あまりにも予想を超えてたっつーか。ちょっと混乱してんだ。」
「しかし、ぼっちゃん。ということは日向の言う通りこのループ現象を利用して死んでしまった4人も生き返らせることができるのではないですか?」
「確かにそれはそうだな。日向、てめー自身ループの原因は知ってるのか?」
「いや、俺自身まだ何も把握できていないんだ。目の前の殺人を防ごうとするのが精一杯で。」
「じゃあよ、俺らも手伝えば精一杯じゃなくなるってことだよな。だよな、ペコ?」
「はい、ぼっちゃんの命であれば喜んで。それに私自身、日向には恩がありますから。」
「それは分かったけどよ言ってるだろ。俺とお前はこの島に来てからは対等な関係だって。命令とかそんなもんは気にすんな。」
「は、はい、心がけます。」
辺古山も変わったなと思った。ここで以前の辺古山ならば「それはなりません。」とか言って意地でも主従関係を貫き通そうとしただろう。でも辺古山も少しずつ変わろうとしているのだと思うと、俺も少しは二人の役に立てたかなと思えて嬉しくなる。
「そういうことだ。俺ら二人世話んなるぜ、日向。」
「こちらこそ宜しく頼むよ。」
なんて心強いのか。今まで一人で奔走してきた。一人で全て抱え込んできた苦しみから解放されるようだった。俺には頼れる仲間がいる。
そして九頭龍が差し出してきた手を俺は握り、再び強く仲間を救う決意を固めるのだった。
「ま、大丈夫だろうよ。前周回で江ノ島盾子っつー女は倒してるんだろ?だったら今回もそいつを倒せねー道理はねえからな。」
「確かに江ノ島の事もあるけどまずは目の前の殺人を止めることが先決だな。」
「そもそも先程、私たちに全ての真実を話した様に皆に暴露するのはダメなのか?どうせモノクマにも知られているのだろう?」
「でもよ、ペコ。そんな荒唐無稽なことを俺たち3人が言ってもただの戯言扱い、最悪、気狂い扱いだろうよ。俺が言うのもなんだけどよ、俺ら特別信頼があるわけでもねーぜ。」
「九頭龍の言う通りかもな。俺たちが今、言っても混乱させるだけだ。俺たちだけで動いた方がいい。」
そうして俺は今回起こるであろう事件について二人に説明し、ある程度の対策も練りその場は別れた。
しかし今回ただ一つだけ二人に言ってないことがある。カムクライズルについてだ。別に知られたくないというわけではないが必要がないと思ったからだ。俺は俺、どこまで行こうと日向創だ。
それに最近時々見る夢のこともあってカムクラのことは考えたくなかったからだ。
夜もふけた頃、今度は俺が訪ねる側となった。
深呼吸をして自らを落ち着かせた後インターホンを押す。
「やあ、日向クン待ってたよ。」
いつも通り屈託のない笑顔を浮かべた狛枝に招かれて俺は部屋に入った。
「話ってなんだ?」
何となく話題は予想がついてたけど、あまり狛枝と二人きりというのも避けたかったため俺は早速話を切り出す。
「この際、単刀直入に聞くけど君はいつ、どこで、誰が殺人に巻き込まれるかが分かってるんじゃないかな?」
知っていると言えば確かにそうなんだろうけど必ずしも前周回と同じになるわけではないから半分正解、半分間違いとも言える。
「理由を聞かせてくれるか?」
「それは今までの君の行動から推測した結果だよ。最初の事件の時の旧館大広間での探索、まだ何も事件は起きていなかったにも関わらず既にボクが仕掛けを施していたのを知っているかの様な行動を見せた。
次に小泉さんがトワイライトシンドローム殺人事件をプレイするようにボクが促したことを聞いて今までにないほど動揺してた。それこそモノクマが初めて現れた時や動機発表が行われるとき以上にね。その他にも言いたいことはあるけど、とにかく一つだけなら唯の偶然や君が極度の心配性だということで片付けたけどね、何か臭うんだよ。
まあ、証拠はないから君がこれを否定するならボクはもう何も言えないけど。」
やはり俺の秘密についての話か。確かに狛枝ほど鋭い人間なら俺の行動を見て違和感を覚えるのは当然かもしれない。九頭龍や辺古山にも言った通り秘密を語るのは慎重に考えた方がいい。特に相手が狛枝であれば何が起こるか予測不可能だ。
最悪、最初の事件の時の様に狛枝に殺人を誘発される恐れさえ出てくる。
「そんなの分かるわけないだろ。まさか俺が裏切り者っていうのか?」
「最初はその可能性も考えたよ。でもね君がモノクマ側の人間なら少なくとも殺人を防ごうとは思わないだろうからその可能性は除外したんだよ。
ま、なんにせよ君はボクの推理は間違いだって言うんだね。」
「当たり前だろ。未来が見えるなんて馬鹿げた話、そんなの誰も信じないぞ。」
「ふーん、なるほどね。分かったよ、ありがとう今日は来てくれて。」
「あ、ああ、じゃあ俺は夜も遅いしもう帰るぞ。」
「うん、おやすみ日向クン。」
そうして俺は狛枝のコテージを出た。
最も狛枝が結局どういう結論に至ったのか俺には知る由もない。
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日向クンが帰った後、ボクはベッドに横たわり改めて決意を固くする。
(結局、日向クンは否定したけど実際どうなんだろう。もしボクの予想通り殺人を防ごうとしているんだったら余計な事はしないで欲しいなあ。)
(だって立ちはだかる困難から逃げるなんて希望の象徴と言われる超高校級のみんならしくないからね。)
(日向クンが何を考えようと、どんな秘密を抱えていようとボクには関係ない。ただボクはみんなの踏み台になればいいだけ。)
(そして最後にはみんなの希望がモノクマの絶望を打ち破るんだ!永遠に希望は不滅なんだからね。ふははははははははははは!)
決して衰えることのない不変の形をもつ希望。それが狛枝の思う絶対的な希望なのか、それは本人にしか分からない。
そして今夜、狛枝は再び殺人の扉を開くべく策を巡らせるのだった。