スーパーダンガンロンパ2:return   作:希望の語り部

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chapter3-5

 

「罪木が犯人って本当なの!?」

 

「これ程までに弱々しい人間に殺される者がいるとは到底思えぬが..。」

 

「そ、そうですよぉ。私なんかが二人も人を殺せるわけないじゃないですかぁ。」

 

「蜜柑ちゃんはずっと唯吹たちの看病をしてくれてたんすよね?創ちゃんには悪いっすけど今回ばかりは流石に信じたくないっすね..。」

 

「しかしのぉ、気持ちは分かるが日向の言っていることにも一理あるぞ。確かに罪木ならテレビ電話の設置もワシに罪を着せることもできるじゃろうからな。」

 

「そんなのただの可能性の話じゃないですかぁ。それだけで犯人だって決めつけるなんて酷いですよぉ。」

 

「じゃあなんでお前は嘘の検死結果を俺たちに伝えたんだ?さっきはたまたま間違えたって言ってたけど本当はわざと俺たちに嘘の結果を伝えようとしたんじゃないのか?」

 

「だからたまたまなんですよ。ほら、わ、私ってドジですから今回もやらかしちゃったみたいで。」

 

「でもね罪木さん絶望病で亡くなったわけじゃないのはコロシアイのルールから明らかだよ。そうなるとモノクマの手で終里さんと狛枝くんが殺されたのも同然になっちゃうから。そんなの検死以前に除外される選択肢で専門的な知識がない私たちですら分かることだよ。」

 

「そ、それは..。」

 

「検死結果の偽装をしてる時点で少なからずお前は犯行に関わっているんだ。この学級裁判で嘘をついて得をする人間なんてそれこそ犯行に関わっている人間しか有り得ないんだからな。」

 

俺たちは罪木を疑うべき理由を述べてもやっぱり決定的というにはあと一歩なにか足りないような気がする。当然それなりの証拠を出さないと罪木も犯行を認めはしないだろう。

しかしここからどうやって議論を展開すればいいのかまだ分かっていない。何かきっかけとなる糸口はないのか。

 

「おい日向、やっぱり罪木が犯人なのか?」

 

「だから違いますってばあ。日向さんも七海さんも酷いです。そんなに私を犯人にしたいなんて。」

 

「あのさゲロブタを庇うわけじゃないけど、私もこいつが犯人っていうのは信じられないんだよね。ほら、いっつも私にアリたんとか乗っけられてるぐらいひ弱だし。」

 

「唯吹もっす。蜜柑ちゃんは唯吹たちの友達っす。前の動機で2年も前から友達って分かってなおさらで...今もそうっす。どうしても信じたくないっすよ。」

 

「...。西園寺さんも澪田さんも信じたくないのは当然だよね。でも無条件に信じるだけが友達じゃないと思うんだよね。疑うことを放棄した信頼なんてただの嘘っぱちだよ。これから前に進むためにも本当の意味で信じるためにも私は疑うということも必要だと思う。」

 

「それは...。確かにそう...かも...。」

 

「千秋ちゃん...。」

 

いつかどこかで聞いた様な言葉。たとえこれが二周目だとしても七海は変わらないな。これが命をかけた学級裁判の最中であるにも関わらず俺は少し嬉しくなってくる。不思議な気持ちだ。

 

「しかしここから何を話し合えばいいんじゃ?」

 

「そういえば死亡時刻についてまだ話し合っていなかったな。」

 

「辺古山の言う通り俺も気になってんだ。仮に罪木が犯行に関わってるとしてだ。殺したタイミングはいつなんだ?確かモノクマファイルにも書かれてなかったよな?」

 

「そ、そうでよぉ。死亡時刻すら特定されてないのに犯人扱いなんて酷いですよぉ。」

 

「いや、お前の行動と他のやつらのアリバイから死亡時刻はすぐに特定できる。

まず、モーテル組と俺、九頭龍、辺古山、左右田が犯人ではないのは学級裁判が始まってすぐ言った通りだ。そしてこれだけで病院組に犯人は絞られる。弐大が薬を取ってきて俺たちが駆けつけるまでの間、病室に入ったのは午前1時過ぎにただ一人罪木だけだったはずだ。

そもそも弐大が廊下に立っている時間帯に自由に動き回れないから犯行はできないだろうからな。」

 

「では罪木が私にビデオ電話を通じて弐大に襲われている様に見せかけたのは死亡時刻を誤認させるためでもあったということか。

実際は、ビデオ電話よりもかなり前に二人は殺害されたにも関わらず、私にビデオ電話の直前に殺人が起きたと思わせるために。」

 

「確かに日向の言う通りワシから薬を受け取った罪木はすぐに終里の病室に入ったがまさかその時に!?」

 

「そ、そんなの明け方6時頃に弐大さんだって私の後に病室に入ってきたじゃないですかぁ。」

 

「じゃあてめーは弐大が犯行を犯す瞬間を見てんのか?」

 

「っ!」

 

「それに弐大のヤローが犯人ならテレビ電話をセットして疑われる様な真似をするメリットはねーんだ。少なくとも弐大は犯人じゃねー。」

 

「じゃあ本当にこいつが犯人なの?罪木が犯人なの?」

 

「どうやら運命の裁きの時は来たようだな。」

 

「罪木、なぜじゃ?なぜあんなに熱心に看病をしておったお前さんが終里たちを殺したんじゃ?」

 

「ではモノクマ。投票タイム...」

 

「ちょっと待った!」

 

罪木が犯人だと皆が確信を持ち始めた時、七海の声がそれを切り裂いた。

 

「何なんすか、千秋ちゃん。」

 

「うーんと、私が少し気になってることがあるんだけど最後に念のため話し合っておいてもいいかな?上手く言い表せないんだけど何か胸騒ぎがするんだよね。」

 

「その気になっている事とは何だ?」

 

辺古山の問いかけに七海は難しい顔をして答える。

 

「罪木さんが犯行に関わっているのは間違いないと思うんだけど何で死因を明らかに間違いだと気づかれる恐れのある絶望病って言ったのかなって思ったんだよね。」

 

「ど、どういうことですかぁ?」

 

「死因を偽装するとしてもこんなにハッキリとしたミスを犯すのはおかしいように感じるんだ。罪木さんならもっと一目で偽装だと気付かれにくい誤魔化し方はできるよね。例えば具体的な医学の知識や専門用語を使えば私たちには反論する術がないんだよ。

それなのにコロシアイ参加者なら遅かれ早かれ誰でも気づく様な偽装をするなんてお粗末すぎるなって思ったんだ。」

 

「しかしそれはこの女の言う通り、鈍臭いが故に起こったミスだとは考えられないのか?」

 

「田中、罪木の不自然な行動はそれだけじゃないんだ。」

 

「しかし先程、罪木を犯人だと断じたのは貴様自身だ。まさか罪木は犯人じゃないとでも言うつもりか?」

 

「それはまだ分からない。でも罪木は凶器に薬を使うっていうわざわざ自分を疑ってくれと言っているような殺害方法を選んだんだ。ドラッグストアにある主な薬は一通り罪木が預かっていたから、犯人の最有力候補になるのは避けられないのに。何かおかしくないか?」

 

「な、何もおかしくないですよぉ。もうこんなことやめましょうよぉ。」

 

「ねえ罪木さん。あなたは犯行が可能だった誰かを庇ってるんじゃないの?だからさも自分が疑われるように仕向けた。違うかな?」

 

「庇うって誰のことですかぁ。」

 

「でもさ庇う必要があるやつなんているの?弐大おにぃはビデオ電話で思いっきり疑われたから違うよね。罪木が庇っても自分が疑われる様なことをしたら意味ないし。」

 

「確かに西園寺の言う通り仲間になるような人物なぞおらんぞ。」

 

それは俺も同感だ。俺自身、罪木の言動に怪しさは感じているし七海の主張にも一理あると思う。でも共犯関係になり得る人物が合理的に考えて存在しないんだ。

 

数秒の間が空き一瞬の静寂が流れた後、またもや七海の声がそれを打ち破る。

しかし俺はその言葉に驚く事になる。

 

「...ううん。犯行が可能だった人ならあのとき病院にいたよ。」

 

「だ、誰だ?犯行ができたヤローってのは?」

 

皆が七海を見つめる中、七海は険しい表情でその人物の方を向いて答えた。

 

「そうだよね。澪田さん。」

 

全員が言葉を失っていた。目を丸くし、七海を見つめ動きが止まる。そんな中、当の澪田は一瞬の間の後、いつも通りのノリで喋る。

 

「へ?やだなー、千秋ちゃん。唯吹はずっと病気にかかってたんすよ。そんな協力なんてことできないっすよ。」

 

「そ、そうですよぉ。わ、私も午前1時頃の見回りで患者の皆さんがベッドでお休みになっているのを見ています。」

 

「そう、状況が変わるさっきまではね。でも罪木さんが少なくとも犯行に関わっているって分かった以上、澪田さんのアリバイは絶対的なものじゃなくなるんだよ。罪木さんの証言そのものの信憑性に疑いが生まれるから。」

 

「でも唯吹が共犯だなんてそんな...。やっぱり唯吹には無理っすよ。殺人に協力なんてできるわけないっす。」

 

「澪田さんは犯人じゃあ、ありませぇん。だってそもそも私と澪田さんが協力して殺人をする理由がないじゃないですか。コロシアイ修学旅行のルールで共犯者は何も得をしないんですよぉ。」

 

「それなら俺にも分かるかもしれない。」

 

「創ちゃんまで唯吹が共犯者だって言うんすか?」

 

「澪田が絶望病にかかっていた。それこそが共犯関係を成立させる肝だったんだ。」

 

「どういうことじゃ?」

 

「絶望病にはいろいろな種類があったよな。狛枝は嘘つき病、終里は泣き虫病みたいにさ。そして澪田は真面目病だった。そこに動機も合理性も必要なかったんだ。命令をすれば忠実なしもべの様に行動する以上はな。」

 

「でも澪田おねぇと罪木には確かにロープで首を絞められた跡があったんだよ?共犯ならどうしてそんなことになってるの?」

 

「恐ろしいことだけどそれはお互いに首を絞め合ったんじゃないかな?よりしっかり絞められていた澪田さんが先に罪木さんを絞めて、その後罪木さんがそれ以上の力で澪田さんの首を絞めた。まさか首を絞め合うなんて常軌を逸した方法をとるなんて思わないだろうし。」

 

「そんなことしたらもしかしたら澪田おねぇか罪木が死んでたかもしれないじゃん!」

 

「その心配はなかった筈だよ。仮にも罪木さんがいる以上どれくらいの力でどれくらいの長さの時間、どの場所を絞めたら危険かなんて分かってたと思う。それにさっき日向くんが言ってくれた通り真面目病の澪田さんはそれに従わざるを得なかった。」

 

「そ、そんなのって...。」

 

澪田の顔はだんだんとひきつりそして青ざめていっている。

 

「では日向よ、こういうことか?午前1時頃、弐大から受け取った薬を手にした罪木は終里の病室に入りそこに恐らく待機していたであろう澪田に命令をして殺害させたと。」

 

「違うっすよ!唯吹は、唯吹はそんなことしてないっす!みんな信じて!蜜柑ちゃんなら信じてくれるっすよね?唯吹はベッドで寝てたんすよね?」

 

「は?何言ってるんですか?そんなわけないじゃないですか。」

 

「蜜柑ちゃん?何を言ってるんすか?」

 

「だぁかぁらぁ、そんなわけないって言ってるんですよぉ〜。面白かったけどそろそろ飽きてきちゃったんで庇うのももういいかなーって。日向さんや七海さんがちゃーんと証明しましたよね?私たちが弐大さんに罪を着せようとしたこと、共犯関係だったことや殺害を実行に移したこと。それに澪田さんのアリバイがボロボロ寸前なことも。」

 

「じゃあ蜜柑ちゃんが唯吹の首を絞めたって言うのも本当なんすか?」

 

「ええ、そうですよぉ。本当はあそこまで絞める必要はなかったんですけどぉ、私の嗜好が少し出ちゃいました。でもいいんじゃないですか?どうせその喉が無事だったとしても個性的で酷い音楽しか生み出せないわけですし。良かったじゃないですか、皆さんに迷惑かけなくて。」

 

「ならば、罪木。私はたまたま午前6時頃という定期連絡にはまだ早い時間にライブハウスにいてテレビ電話を目撃した。しかしお前はそのことは知らなかった筈だ。ならばなぜお前はテレビ電話のトリックをあの時間に実行したのだ?」

 

「ああ、その事ですかー。それは恐らく狛枝さんのせいですね。」

 

「狛枝のせいだと?それはどういうことだ?」

 

「うふっうふっ。そんなことはどうでもいいじゃないですかぁ。」

 

「どうでもいいわけねーだろ!」

 

「はぁ、分かりましたよぉ。幸運の才能ですよ。彼の才能を利用しただけです。ライブハウスでの目撃者がきっと現れるって。」

 

「罪木、それは狛枝の才能じゃ。どうしてあやつの才能がお前さんに味方するんじゃ?」

 

「そんなの彼の幸運の性質を利用すれば簡単ですよ。あなた達は狛枝さんの才能を彼自身も制御できないから理解できないと思ってたようですけど、性質が分かってたら誘導することだってできちゃいます。要するに私が望む展開と彼が望む展開が一致してればいいはずですよね?それだけで私の思い通りに誰かがライブハウスで目撃...」

 

「ちょっと待ってくれ。」

 

俺はどうしても納得できなかった。狛枝が絶望のための殺人に手を貸すなんて。前回の周回と今回の周回を経て狛枝の価値観をある程度知っていた俺にはそれこそ理解ができなかった。

 

「だとしてもだ、あいつはよく言ってただろう。どんな絶望にも負けない絶対的な希望が見たいって。本当にあいつはお前に協力したのか?」

 

「だから、さっきも言ったじゃないですかぁ。協力じゃなくて利用です。だから狛枝さんも不本意だと思いますよ、私の計画に組み込まれたのは。」

 

「だったら、お前の計画に狛枝の幸運の才能が味方するわけ...。」

 

「もし、私の計画が上手く成功したらかつてない絶望が皆さんを襲うことになって、それを乗り越えてこそ皆さんがより輝かしい絶対的な希望に近づくとしたら?そんなこと最初の学級裁判で言ってましたよねぇ。狛枝さんが心変わりしたわけじゃなくて私がちょーっと彼の思い描く未来に相乗りさせてもらっただけっていうか。まあ、私には1ミリも心底理解できませんけどねー。」

 

「だからたまたまだって言いたいのか、全部。」

 

「ええ、そうですよぉ。辺古山さんが目撃者になってくれたのも、狛枝さんを苦労なく殺害できたのも、きっとそうだと思います。そのたまたまが何より計画が成功する保障になりますから、彼の才能の前では。うふっうふっ、うふふふふふふふ。」

 

その時の皆は澪田が共犯であるかもしれないと発覚したときよりも驚愕に包まれていた。いやぞっとしたと言う方が正しいのかもしれない。

罪木は全身から恐怖心を駆り立てる何かが出ているかの様だった。それは街中のヤンキーや戦場の兵士とは異なるこの世の者とは思えない不気味さも纏っていた。

そして、俺は何より命を奪われたあげく身勝手な理由で幸運の才能というアイデンティティさえも歪んだ形で利用され尽くした狛枝が今回ばかりはどうしようもなく不憫でならなかった。

 

「では貴様が澪田に命令を下し、終里と狛枝の命を奪ったと認めるのだな。」

 

「概ね認めますよぉ。澪田さんを終里さんの部屋に待機させていたというところまではね。で?どうするんですかぁ、ここから?」

 

「で?も何も投票するんじゃねーのかよ?澪田には悪りーがこうするしかねーんだからよ。」

 

「九頭龍くん、それはできないと思う。」

 

「あぁん?できないってどういう事だよ、七海。」

 

「罪木さん、あなたはこの状況を作りだすことが最初から目的だったんだね。弐大くんに薬を取りに行かせて凶器の薬を調達しつつ、その隙に澪田さんを終里さんの部屋に移動させたのも、お粗末な偽装工作をしたのも、私たちがそれを見逃さず推理してここまで辿り着くのも。」

 

「ふふふ。流石七海さんですねぇ。そうなんです。問題は私たちが共犯関係を結んでいることじゃない、誰がお二人を殺害したか何ですよね。

もう一度聞きますね。どうするんですか、ここから?」

 

「だから何が言いてえんだ!」

 

「ひぃぃ、怒鳴らないでくださいよぉ。」

 

俺は血の気が引いた。ここに来てようやく俺は遅れて罪木の狙いに気づいた。

 

「殺害時刻に終里の部屋の中にいたのは罪木と澪田の二人。いわば誰にも見られることのない密室に二人きりだ。そして誰にでも簡単に殺害することができる薬の過剰摂取という殺害方法。罪木と澪田どっちが犯人か分からないんだ。

この判断のつかない状況を作り出すことこそがお前の真の狙いだったんだな!」

 

「ご名答!こうなった以上皆さんは勘で犯人を当てるしかないんですよ。」

 

「そんなの唯吹知らないっす!蜜柑ちゃんにそんな命令もされてないっす!」

 

「そりゃあそうですよねぇ。絶望病で意識も記憶も混濁状態にあったんですもんねぇ。そうなんです。今この場で全ての真相を知っているのは私だけなんです。

さあこの限りなく絶望的な状況に置かれて、皆さんはどんな絶望を見せてくれるんでしょうか?」

 

罪木はワクワクしながら俺たちの反応をじっくりと楽しんで快感に打ちひしがれている。

 

「こんなのありなんでちゅか?推理もできないなんて反則じゃないでちゅか!」

 

「反則じゃないよ。罪木さんは何もコロシアイ修学旅行のルールを犯してないからね。だから問題はありません!

うぷぷ。それにしても狛枝クンが死んで裁判も盛り下がると思ったらこんな面白い展開にしてくれる人がいたなんてね!」

 

「やっぱり罪木が犯人なんじゃねーのか?今こうやって澪田が犯人かの様に見せかけているのがその証拠だ。」

 

「私も九頭龍と同じ意見だ。もし澪田に私たちが投票し、罪木が犯人だった場合、生き残るのは罪木だけだ。今までの展開もその布石なのではないか?」

 

「そうとは限りませんよぉ、辺古山さん。私は皆さんと一緒に死んだっていいんですからぁ。自分が立てた計画のせいで無残に死ぬのなんてまるで地の底に叩きつけられるような絶望感!それに何よりあの方に会えるじゃないですかぁ。

はぁぁ、うふっうふっうふふふふふふ。」

 

「何なのこいつ!本当に気持ち悪すぎるよ!」

 

「結局どっちが犯人なんじゃ!」

 

「直感に頼る道しか我らの前に存在しないのならば俺様はせめてこの悪鬼の如き女を道連れに地獄へと落ちて見せる。」

 

どれだけ話し合っても犯人を断定する根拠など当然出てこない。当然だ、罪木の狙いはこれそのものだったんだから。そして皆は罪木に投票しようかと思い始めていた。少なからず罪木が犯人で澪田は犯人であっては欲しくないという想いも混じっているんだろう。

 

「おい、モノクマ。俺らは誰に投票するか決めた。投票タイムに入ってくれねーか。罪木蜜柑が犯人、それで全て終いだ。」

 

「それは違いますよぉ〜。」

 

「は?」

 

「一度、言ってみたかったんですよねぇ。日向さんと狛枝さんの真似をしてみたんですけど似てました?

ということで私は犯人じゃないんですよねー。ぽわわわわーん、犯人は澪田さんなのでしたー!」

 

「お前さん自身が言ったはずじゃぞ、どっちが犯人か判別は着かんと。」

 

「そんなの嘘ですよぉ。あのですねぇ。今回の犯行、澪田さんが犯人とするとお二人を殺害して自分の部屋に戻るには澪田さんから終里さんの部屋へ、終里さんから狛枝さんの部屋へ、そして狛枝さんから澪田さんの部屋へと最低でも三回の部屋移動が必要なんですよねぇ。

部屋移動は弐大さんが廊下にいない時間帯しかできませんから、最初の澪田さんから終里さんの部屋への移動は弐大さんが薬を取りに行ったときになりますね。じゃあ次はいつ廊下を離れたんでしたっけ弐大さん?」

 

「え?ワ、ワシが次に廊下を離れたのは罪木を会議室で休ませるために一時的に罪木を運んだときじゃが。」

 

「そう、そのタイミングで終里さんの部屋から狛枝さんの部屋へ移動できますよねぇ。」

 

「まさかお前、その隙を作るために弐大の前で大胆に転んだのか?」

 

「どうでしょうねー。でもでもぉ、普段あんなに転んでますからいざこういう時に突拍子もなく、はしたない格好で転んでも何も違和感を覚えられることはないんですよね。

自分の絶望的なまでなドジさをここまで幸せに感じたのは初めてですぅ。」

 

「そして最後、三回目はいつのことでしたでしょうねー。ねー、辺古山さん?」

 

「...あのテレビ電話で弐大に罪を着せるため、終里の部屋に入った時か。」

 

「そう、そのときに廊下は無人になるので澪田さんは狛枝さんの部屋から自分の部屋へ戻ることができるんです。

つまりこれは澪田さんが殺人を犯す為にお膳立てされた殺人計画ってことです!これで澪田さんが犯人って分かってもらえましたか?」

 

「唯吹は違う!違うっす!犯人なんかじゃないっす!」

 

初めて見る澪田の涙が出そうな目、震える声。そこには普段の明るい澪田の面影なんてどこにもない。

 

「ま、待てや!俺はまだ納得してねーぞ!さも澪田が犯人かの様に言ってるけどよ、お前にだって犯行はできる筈だ。」

 

「はぁぁ、馬鹿なんですかぁ?私が明け方になる前に会議室から降りて来たら廊下にいた弐大さんに目撃されてる筈ですよねぇ?そうですよね、弐大さん?」

 

「お、応...。」

 

「その事を言ってんじゃねー!終里の殺害だ。それならお前にだってできるだろ!お前自身が言ってたことだ。忘れたとは言わせねーぞ!」

 

「九頭龍さんこそぉ、忘れたとは言わせませんよ。捜査開始前にモノクマちゃんが言ってたじゃないですかぁ。今回私たちが見つけるのはたった一人のクロだって。ですからぁ、終里さんの殺害しかできない時点で私は犯人にはなり得ないんですよ。」

 

「はい、そのとーりでございます。ボクはあくまで公平にコロシアイを運営する立場のため嘘は吐きません。」

 

「はい!九頭龍さん、投票タイムを止めて申し訳ありませんでしたぁ。どうか嫌いにならないで下さいね。

じゃあモノクマちゃん投票タイムお願いしまーす!」

 

一風、勘で当てるしかない状況を作り出し、一度各々が罪木に投票しようと決意し、覚悟を固めたところで真っ向から論理でそれを打ち崩す。そのとき俺たちはさらなる絶望を味わうことになるということなのだろう。全ては最初から最後まで罪木のシナリオ通りということか。

 

皆がおし黙る。そこに微かに聞こえるのは澪田のすすり泣く声。

皆がとても犯人を見つけたとは思えないような沈んだ顔をする。その中でニヤニヤが止まらない罪木の顔。

それぞれの投票をする指がかつてない程に重い。

 

「はぁぁぁん、素晴らしい!素晴らしいですぅ!この絶望に沈んだ人間の顔がこうも並ぶなんて滅多に見れるものじゃないですぅ!圧巻です!あはっ、興奮がとまなら、とまら、止まりませんんんん!」

 

「ぐすっ、唯吹は..ぐすっ、犯人なんかじゃ...ないっす。みんなお願いだから信じてよ!お願いだから...。誰か...。」

 

「あれれー?西園寺さん、まだ押してないんですか?小泉さんがいなくなって、澪田さんもこれからいなくなって、悲しいのは分かりますよぉ。でも大丈夫です!まだ!私がまだ西園寺さんの友達としていますからね。

これからもアリンコ乗っけてくれても体に落書きしてくれてもゲロブタと罵ってくれても構いませんからね♡」

 

「嫌だ..。助けて、誰か!唯吹は死にたくないっす!まだ、夢も..ぐすっ..叶えてないのに。」

 

一人また一人とその重たい指を動かしパネルに映ったクロを指摘する。

 

「ああ、七海さん。疑うことを放棄した信頼なんてただの嘘っぱちでしたっけ?だから、澪田さんの心に寄り添って投票放棄しないで、ちゃんとご自身の言葉に責任をもって投票してくださいね。私も無駄に死にたくはありませんからぁ。」

 

俺は、いや俺たちは甘くみすぎていた。分かった気になって全然分かっていなかったのだろう。超高校級の絶望の全てを飲み込む圧倒的な悪意を。

 

そうして決して忘れることができない悪夢を俺たちの脳裏に焼き付けた学級裁判は終わりを告げた。

 

そしてオシオキという次なる悪夢が襲い来ることが皆にはもう分かっていた。

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