「いやー凄いね!三連続大正解!そう、二人の仲間を殺めた恐るべきクロの正体は澪田唯吹さんなのでしたー!」
モノクマの皮肉と嫌味に塗れた言い回しに反論する気も失せるほど皆の心に余裕など無かった。
ただ一人を除いて。
「そんなこと言ったら澪田さんが可愛いそうですよぉ、モノクマちゃん。澪田さんは私のお願いを聞いてくれただけ。何にも悪くないんですからね。」
「なあ罪木。お前が突然こんなに豹変したのはお前も絶望病に罹っていたからなんだろ?そうだよな?」
「日向さん、学級裁判が終わっても相変わらず探偵さんみたいですね。そうでーす、私は記憶を思い出すという病気に罹っていたのでしたー。」
「記憶が戻ってこうなったってことはあなたは元から"こう"だったんだね?」
七海の核心を突いた言葉も罪木は意に解さないようだった。
「そうでーす。でもこれは私のせいじゃなくって周りの人たちのせいなんですよ。私を取り巻く人たちが、環境が、今の私を作りあげたんです。皆さんだってそうでしょう?過去の私たちがあって今の私たちがあるんですから。」
「罪木よ、終里たちを殺したのもそうやって正当化するつもりか?」
弍大は本気で怒っているようだった。声こそ荒げていないものの静かで凄みのあるものだった。むしろだからこそ怒りがひしひしと伝わってくると言ってもいい。
「ひぃぃ、だって私のせいじゃないんですから仕方ないじゃないですかぁ!今の私を作ったのも過去に影響を与えた人たち、そして終里さんを殺したのも澪田さんなんですよぉ!どうして私ばっかり嫌われなくちゃいけないんですかあ!」
突然、ヒステリックに怒り出す罪木に対して、もはや今までの穏やかな罪木蜜柑を重ねている者はいない。みんなできることなら今までの罪木に会いたいと思っている。でもこうも厳しい現実を見せられてはどんなに心では受け入れたくなくても受け入れざるを得ないんだ。
「蜜柑ちゃん、何で唯吹にこんなことをさせたんすか?唯吹のこと友達って思ってくれてなかったんすか?」
「うふふふふ、澪田さんは今も昔も友達ですよ。大切な大切なお友達です。」
「じゃあなんでこんな酷いことができるんすか!?」
「それもお友達だからですよ。」
「えっ。」
「だって病気で澪田さんすっかり弱ってしまって。私なんかが大切な友達の為にできることといったら絶望をあげて愛してあげるだけじゃないですかぁ。ここにいる誰よりも絶望させてあげたいじゃないですかぁ。あの人が私にしてくれたように。」
「貴様、何を言っている?」
「私嬉しいんです。私みたいな無力な存在でどうしようもないグズなノロマでも人の、しかも友達の為に働ける。
そして私の計画のお陰で澪田さんは処刑されます。もう喉の痛みはおろかコロシアイの苦しみも治してあげられるんです。保健委員としてこれほど名誉なことはありません。」
「全然唯吹の為じゃないっすよ!唯吹はまだ生きたいっす!みんなと一緒に居たいっす!ここから出てライブをまだしてないっす!」
「澪田さんあなたは素晴らしいですよぉ。今まで死んだ方たちの比じゃない絶望感でしょう。友達に嵌められ裏切られ、挙げ句の果てにみなさんの投票で処刑台に送られる。同情しちゃいますよぉ。
でもそろそろ時間ですよね、モノクマちゃん?」
「そうだね。いよいよお待ちかねのオシオキの時間だね。」
「オ..シ..オ..キ。」
「今回は"超高校級の軽音楽部"澪田唯吹さんの為にスペシャルなオシオキを用意しましたー!」
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!唯吹は!唯吹は死にたくない!」
その後の出来事はまさに一瞬だった。一瞬であるかの様に感じていたんだ。
その瞬間澪田は一心不乱に駆け出した。ただ唯一の逃げ道、学級裁判場と地上を繋ぐエレベーターへと。
皆が息を呑む間もなく自分の呼吸音も心音も感じない程に澪田に視線を集めていた。
しかしその時
「あああああああ!うっあっ、あああ。」
澪田の悲鳴が裁判場に響き渡ったのは逃走を計ろうとする澪田の足をモノクマの爪が裂いた時だった。
澪田はその場に倒れ苦痛に顔を歪めながら悶えている。そしてその場には足からドクドクと血が流れ出ていた。
「あんた!こんな事をして許されると思ってるんでちゅか!」
「当たり前じゃーん!クロになった人はオシオキを受けるって校則にも書いてあったよね?それを破ったんだからボクは澪田さんに手を出すことができるようになったんだよ。
まあここまでやったのに普通に校則違反で殺すのも勿体無いからオシオキはちゃんとするけどね。」
「もう我慢の限界でちゅ!あちしが守ってみせま..!」
ドゴォォォン
モノミの言葉を待たずしてモノクマの手からは再び爪による攻撃が放たれてそれはモノミを爆発させた。
「妹よ、後でお兄ちゃんが遊んであげるから今は大人しくしてなさい!
じゃあまたモノミの邪魔が入ったら面倒臭いからさっさとやっちゃいますか!それでは始めましょうオシオキターイム!」
「ああああああああ!」
断末魔のような悲鳴をあげる澪田の首には首輪がつけられ引き摺られるように処刑場へと連行されていった。
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【澪田唯吹inファイナルライブ】
唯吹は今、暗い暗いライブ会場そのステージの上にいる。マイクが目の前に立ち、静寂が会場内を包み混んでいた。
その時、余りの眩しさに一瞬目が眩んだ。周りが一気に光で包まれ何が起こったのか分からなかった。
そして視界を取り戻してきた目に映ってきたのは大勢の観客で埋め尽くされたライブ会場。華やかなスポットライトで彩られたステージ。
超高校級の軽音楽部と呼ばれて大勢のファンの前でライブをしたことなんて山のようにある。でも今までここまでの大規模なライブステージになんて立ったことがない。
その時ライブ会場に流れ始めたのは聞いたことのある曲。いや聞いたことのあるなんてもんじゃない。唯吹が今までで一番のヒットを飛ばした曲、放課後ボヨヨンアワー。そのイントロが流れ始めてきたんだ。そして盛り上がる観客のみんな。それを見ているとある感情がどうしても湧き上がってくる。歌いたいって。
「ははっ、さっきまであんなに落ち込んでたのにこんな状況になっても軽音したいなんておかしいっすね。でもやっぱりウジウジしてるのは唯吹らしくないっす。
オシオキとか絶望とかそんなのは関係ない。ただ音楽が好きだから歌いたいからそれに観客の人が、唯吹の音楽を聞いてくれる人がいるならやらないと。むしろ唯吹が歌う理由なんてそれぐらいで充分っす。」
深々と爪の刺さった足を無理矢理動かしてマイクにももたれかかり立とうとする。とんでもない激痛が足にはしり涙が出そうになる。
それでも唯吹はやり遂げてみせる。
火事場の馬鹿力で立ち上がって笑顔をつくり高らかに宣言する。
「みんなー、お待たせ!唯吹の最期の集大成、最後まで聞いていってねー!きっと楽しんでもらえると思うからね!」
そして唯吹は歌い始める。さっきも言ったけど本当に可笑しいかもしれない。だってもうすぐ死ぬっていうのにこんなに楽しいって思えるんだから。どうせなら唯吹の最期はこうでなくっちゃ。
曲が進むと同時に足の血も流れ出てくる。でも血が流れても喉をどれだけ痛めても泣いても笑ってもこれが最期なんだからみんなへ唯吹の歌を届けないと。
でも間奏に入ったところで一瞬目の前がぼやけて倒れそうになった。マイクのお陰で倒れることはなかったけど。最初は血を流しすぎたのかとも思った。
すぐに実際はライブ会場内の温度がどんどん上がってるんだと気づいた。多分これは自然にそうなったんじゃなくてモノクマのせいだと思う。今までは会場内の熱気で温度が上がってるんだと思ってた。ライブ中に汗をかくのは当たり前だしこれだけ照明機器があれば自然と熱が篭もるから。
それでも唯吹は最期まで歌いあげてみせる。モノクマは必ず私を殺そうとしているんだろうけど唯吹の軽音への想いまでは殺させない。
後はこのサビを歌いあげるだけだ!
既に会場内は自然発火するほどの高温になっていていつ倒れるか分からない。今だけは唯吹はそんなことに目をそらす気もなく歌に自分の想いを込めていた。
そう、ライブ会場にいる人たちへじゃない。唯吹の音楽は画面越しの人たちにも魅力を伝える。みんな!こんな形のライブになってごめんっす。
でもここで唯吹が最期まで歌いきることそれには必ず意味があるっす。今みんなは絶望して絶望して絶望しきっているっすよね。ここで唯吹が絶望して死んだら今度こそみんなは立ち直れなくなるかもしれない。だからこそ唯吹が最期までオシオキに屈さずにライブを続けることでみんなに希望を与えるっす。なんせ唯吹の音楽はみんなを明るくするっすから!
そうしたら必ずみんななら生き延びられるっすよね!そうっすよね!
創ちゃん!ペコちゃん!冬彦ちゃん!和一ちゃん!眼蛇夢ちゃん!猫丸ちゃん!千秋ちゃん!日寄子ちゃん!
そして唯吹は歌い終わった。ライブ会場の観客はもういない。再び照明は消え、ライブ会場も静寂に包まれる。歌い終わったことで気が抜けたのかな、唯吹の身体もステージ上に倒れる。
もうステージ上は火の海、すっかり周りは炎に包まれていた。上がり続ける温度のせいで唯吹の視界はもう何も見えない。これが死の瞬間っすか。どうせなら苦しまないように死にたいっすけど炎に囲まれてるみたいだからそうもいかないみたいっすね。
アンコールには流石に応えられないっすけど後はみんな次第っす。音楽はただライブで聞いて終わりじゃない。余韻を持ち帰ってそれをどんな風に感じてどう解釈するか。それも音楽の醍醐味っすから...。
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俺たちはスクリーンに釘付けになっていた。普通は絶望の象徴であり本来ならば見たくもないオシオキ。でも今回に限ってはそれが魂のライブとなった。澪田の強さがそれを可能にしたんだ。
そして、今なら狛枝の幸運の才能はこの瞬間のために作用したのかとさえ思える。狛枝自身が死ぬことも、罪木の計画が上手くいくことも全て絶望に最期まで屈しない澪田が輝くため。狛枝にとってはあの場で殺されることこそが、あいつにとっての幸運だったのかもしれない。少なくとも俺はそう思った。
「まさかこんな展開になるなんてさすがの私も想定外でした。でもこれはこれで絶望させがいがありますねぇ。」
「あんなもん見せられて俺らが絶望に屈するわけにはいかねー。澪田の抵抗を無駄にするかどうかは俺らにかかってるんだからな。」
「確かに九頭龍さんならこれを乗り越えれるかもしれませんけどそうじゃない人だっていますよねぇ。人間そんなに強くないんですよぉ、私みたいに。
それに未来機関っていう裏切り者もいますしねー。」
「未来機関だと?それと裏切り者が何だと言うのだ?」
「そのまんまですよぉ。未来機関に所属してる裏切り者がこの中に紛れ込んでる。そして私はその正体を思い出したってことですぅ。」
「裏切り者を思い出したじゃと?そいつらがワシらを閉じ込めた元凶じゃな!さっさと言うんじゃ!」
「ほわわ!ダメでちゅ!それだけは絶対に!」
「あ、モノミ。もう復活したんだね。まあオマエも気が気じゃないだろうね。未来機関のオマエの仲間がバレたって言うんだからさ!」
「大丈夫ですよー、モノミちゃん。少なくとも今は言うつもりはありませんから。その方が面白いことになりそうですしね。」
わざと正体を隠して俺たちを疑心暗鬼にでもさせるつもりか。
「お前がその裏切り者ということはないのか?私たちに絶望を与えるお前なら最も裏切り者らしいと言えるが。」
「辺古山さん、そこは安心していいですよぉ。私が裏切り者ならこの話を蒸し返したりしませんからぁ。」
それ以上はもう何も言えなかった。
ただ大人しく学級裁判場を後にして各々のコテージに戻った。今回はメカ弍大のようなイベントもなかったしな。
三回の学級裁判。たとえ誰が殺され、誰が処刑され、事件が終わろうともコロシアイは終わらない。
因縁も愛憎も禍根も怨嗟も残り続ける。そしてそれは連鎖して複雑に絡み合って次の悪夢を呼び寄せる。
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【第2の島遺跡内裁判場】
「うぷぷぷ、生き残りは9人か。うんいい調子だ。これって実にいいペースだ。あと少しで強制シャットダウンも防げるんだからボクって天才的手腕だよね。
でもそろそろあいつは始末しておいた方がいいか。面倒なことになっても困るしね。」
【モノミハウス】
「もう7人もいなくなってしまいまちた。それにしても、もう全部時間の問題でちゅ。罪木さんには千秋ちゃんのことも知られちゃったし、当然モノクマだって分かってて知らないフリをしてるだけでちゅよね。...。
こうなったらもうあちしが決着をつけるしかないみたいでちゅね。このまま江ノ島盾子が復活するのを見ているぐらいならあちしは命に変えても止めてみせるでちゅ!」
【罪木蜜柑のコテージ】
「澪田さんは本当に素晴らしかったですぅ。学級裁判ではあんなに絶望した顔を見せてそのうえ、他の皆さんの絶望した顔を見ることができましたぁ。もちろんオシオキで絶望しなかったのは期待外れでしたけどまあ最初だから妥協点って所ですかね。
ただ私はあの人に絶望を捧げて救ってくれた恩返しをできたらそれでいいんです。他は何も望みません。ですから次はもっと絶望を見てみたいものですねぇ。」
【左右田和一のコテージ】
「何日か一人で考えて分かったことがあった。俺は絶対に許せないし許さないって。ソニアさんを投票で殺したあいつらを、ソニアさんを守れなかった俺自身も。
ソニアさん、もう覚悟を決めました。俺は俺自身とあいつらに復讐をして必ず貴方の仇をとりますから。」
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【chapter3】
夢と希望のデッドエンド
END