自分のコテージを出た俺は、七海のコテージの扉の前にいた。自己紹介の時に言葉を交わしたものの、改めて七海に会えるということを実感すると涙さえ出そうになってくる。自己紹介の時は、それどころではなかったからな。
そして、俺はインターホンを押す。この部屋の住人が出てくるまでのほんの短い時間。胸の高鳴り、ドキドキが比例して大きくなっていくのを肌で感じる。これは純粋に嬉しいからなのか、それとも久しぶりに会って何を話せば良いものかドギマギしているからなのか。一瞬にして、体感ではとても長いような時間が流れた後に、彼女は開いた扉の向こうから姿を現した。
「...えっと...日向くん...だっけ?どうしたの?」
言葉につまりながらも言葉を発した七海は、やはり俺の記憶の中の七海そのままだった。
「いや、これといった用事があるんじゃないんだけど、ちょっと七海と話してみたいなって思ったんだ。」
「そうなんだ、じゃあこっちから早速。日向くんはゲームとか興味ある?」
「沢山プレイしてるわけじゃないけど、人並みにはしてるかな。」
俺がそんな風にこたえると、七海は子供のように目を輝かせながら、身を乗り出してきた。
「お、お、日向くんとは話が合いそう!ちょうど今、あの有名な対戦ゲーをしてたとこなんだ!日向くんもこれからどう?」
「あ、ああ、じゃあ俺も一緒にやろうかな。」
「ちょっと散らかってるけど、気にしないでね。」
久しぶりに見た興奮した七海に圧倒されながらも、俺はゲームの誘いを了承し、七海についていく形で部屋の中に入っていった。
部屋の中は、さすが"超高校級のゲーマー"。多種多様なゲームのハードに、床に散らばっているものと棚に入っているものを合わせたらいくつになるだろうか。ありとあらゆるジャンルのゲームがところせましと存在していた。
そこからゲームを始めたのは良かったものの、結果は負け続きの散々な結果となった。相手はあの"超高校級のゲーマー"なのだから当然といえば当然なのだが。しかし、俺は悪い気はしていない。むしろ七海と共にゲームをプレイしている、本来であればもう二度と叶うことのなかったこの状況が俺はとても嬉しかったからだ。
そうしていると、七海が口を開いた。
「やっぱりゲームは一人でするだけじゃなくて、他の人とするのも楽しいね。」
「ああ、そうだな。俺も楽しいよ。」
たわいもない感想を言い合う、それすらも俺にとっては感慨深い。この2周目のコロシアイという普通なら最悪にして災厄としか言いようがない事態も、今この瞬間だけは悪くないと思えた。
「日向くんは、怖い?」
いきなりの抽象的な質問に俺は少し戸惑ったが、すぐに言葉を返した。
「コロシアイのことか?それなら、確かに怖い。誰かが殺されるかもしれない、誰かの死に目に会うかもしれない、もしかしたら自分が殺されるかもしれない。そう考えると、不安だな。でも、どうしていきなりそんなことを聞いてきたんだ?」
「だって日向くん、ゲームに集中できてないよ。さっきから、プレイも雑なものばっかりで負けてばっかりだよ。」
「それは、当たり前だろ。七海にゲームで勝てるわけな..」
「ううん、違う。これでも、ゲームは一通りやり込んでるんだよ。初心者さんでもミスをすることが少ない場面とか知ってるし。そういう簡単なとこでミスを連発したら集中できてないことくらい分かるよ。
だから、そういうこと。日向くんがここまで負け続けなのは、私だけの問題じゃない。日向くんの問題でもあるんだよ。」
正直、驚いた。ゲームをしながら俺の心中をズバリと当ててきたことに。七海ほどのゲーマーだからこそ、ゲームを通してその向こう側の相手この場においては、俺、日向創の人となりや心情が分かるのだろうか。
「でも、これからの自分に不安を抱くのは悪いことじゃないよ。不安なことがあったら、私に言って。その時は、また一緒にゲームしよう!」
その時の七海の表情は、ゲームのプレイ中だったからかテレビの方に向いていて、横顔しか見えず、読み取ることはできなかった。
「ありがとう、七海。そのときは、お願いするよ。」
前周回でも今周回でも七海に支えられるなんて。こんな調子で全員生還させることなんてできるのか。いや、やらなければならない。七海の優しさに応えるためにもだ。
その後は、再び雑談を交わしながら、ひとときの楽しい時間を過ごし、七海のコテージを後にした。
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翌日、心の中で俺は溜め息をついていた。
それは、朝食を食べ終わった直後のこと、狛枝が俺に言ってきたのだ。
「ねえ、もし良かったらこの後時間とれるかな?」
そうして、今俺たちは食堂のテーブルを挟んで飲み物を置き、向かい合っている。
「悪いね、日向クン。僕、あんまりうるさいところ好きじゃないからさ。朝食後にみんなが出て行った後に、来てもらったんだ。」
「で、なんだ?急に俺を呼びつけて。」
「たいしたことじゃないよ。ただ君はまだ自分の才能を思い出せてないでしょ。だから、その手伝いができたらと思ってね。」
そういうことか。まだ見ぬ超高校級の才能に興味があるのか、はたまたその才能を持つ者に興味があるのか。
しかし、こいつは才能や希望が関わることでは良くも悪くも嘘はつかない。俺たちにとっては悪意でしかないが、こいつにとっては紛れもない善意なんだからな。
恐らく、今回もそのままの意味で捉えても良さそうだ。
「日向クン的には、初めて僕と会ったときから何か思い出したりしなかった?」
「いや、特に何も思い出せてないな。」
「そっか、それは残念だね。じゃあ、希望ヶ峰学園に来るまでの間、日向くんはどんなことをしてたの?才能を持っている人は少なからず才能に縛られた生き方をするしかないからね。才能はその人の生活にも直結してくると思うんだ。
それこそ、弐大くんや澪田さんのようにね。」
「才能を持っている人は才能に縛られた生き方をするしかないか...。」
どこかで似たようなことを聞いた気がした。前周回で十神の正体が発覚した時に七海が言っていたことに似ているな。
「悪いな、狛枝。普段の生活にも思い当たることはないみたいだ。一般的な高校生と変わらないよ。」
それもそうだ。当時の俺は、ただの予備学科生だったんだから。
その時、俺は自分の犯したミスに気づいた。
今の俺は全てを知っているが、他の人から見た俺は一周目の俺と同じなんだ。前周回の俺はこのとき自分も本科生なのだと当然思っていた。しかし、今、一般的な高校生と変わらないと具体的に本科生とはかけ離れた過去を明かしてしまった。鋭い狛枝ならばここで勘付かれる恐れもある。
しかし、俺のそんな考えは杞憂だった。
「なるほどね。才能に関わるところには全て記憶障害が起きてるのかも。まあ、確かに才能自体を思い出せないんだ。その才能があるが故に起こった出来事を覚えていたら、そもそもそこから才能自体を思い出すのに苦労はしないからね。そんなことを聞いた僕がバカだったよ。」
助かった。都合よく捉えてくれて。学級裁判で推理をしてるときの狛枝の主張はとても理路整然としているが、希望や才能がらみになると少し自分の希望的観測が入り込んでくるようだ。
「まだ思い出せそうにないから、気晴らしに散歩してくるな。」
「うん、分かった。ゴメンね、手間を取らせた挙げ句何の結果も出なかったなんて。まあ、僕なんかが記憶を取り戻す手伝いをしようとしたことが思い上がりだったのかもしれないね。」
「そんなことはないぞ。お前は真剣に俺の問題に向き合ってくれたんだな。素直にありがとうって言っておくよ。」
「そんな言葉をかけてもらえるなんて嬉しいなあ。じゃあ、お礼に僕が日向くんの才能を予想しようか。うーんと、日向くんの才能は"超高校級の癒し枠"とか?」
「俺のどこにそんな要素があったんだ!」
「あれ?違ったかな。じゃあね、"超高校級のアホ毛"とかはどうかな?」
「お前、お礼といいつつ俺のこと完全にバカにしてるだろ。」
「ゴメンね、日向くん。つい面白くって。じゃあね、日向くん。」
そうして、狛枝は食堂を出て行った。
確かに狛枝は希望だの才能だのうるさいし、周りの人間にも迷惑をかけるばっかりする。だけど、それを除けば気のいい好青年であることは間違いないんだ。もし、できるなら今のようにたわいもない冗談を言い合える仲にはなれないだろうか。
「...まさかな」
狛枝とそんな仲になることに一瞬希望を見出したが、それができたら苦労はしないという思いもあり、そんなモヤモヤした感情を抱えながら俺は食堂を後にした。
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さらに、時が経ち翌日の夜。モノクマとモノミのなんとも言えない漫才の中で、俺たちの2年間の記憶がモノミによって奪われたことが明かされた。まあ、漫才のほとんどはモノクマがモノミをいびっていただけのように見えたけど...
「は?冗談やめろよ。」
「何言ってんのさ。流石に笑えないよ。」
「おい!それはどういう意味だ!」
上がった反応は、まさに多種多様なものだった。戸惑いを口にするやつ、現実逃避をするやつ、怒りを滲ませながらモノクマを問い詰めるやつ、様々な反応が上がるなか、モノクマは答えた。
「何って、そういう意味だよ。オマエラは、希望ヶ峰学園で過ごした2年間の記憶を奪われてるんだよ。ほら、オマエラは教室に入ってくるときに目眩がしたでしょ。あれがいわゆる記憶の結合点ってやつだよ。」
「信じない、信じないよ。記憶を奪われたなんてそんなことあるわけないじゃないか。そんなSFじみたこと。」
花村は相当混乱しているようだった。誰かに問いかけるでもなく自分自身に言い聞かせるように、早口でそんな言葉を口ずさんでいた。
「嘘なわけないじゃーん。だって、だからこそオマエラは気づいてないんじゃないの?オマエラの中に裏切り者が潜んでいるってことにさぁ!」
しまった、そうだった。このイベントで行われるのは動機発表だけじゃなかった。動機に気を取られすぎて裏切り者の存在もここでモノクマに明かされることをすっかり忘れていた。
「裏切り者ってそんな...」
「それって唯吹たちの中に、敵がいるってことじゃないっすか!」
案の定、何も知らない狛枝と澪田から声が上がった。この場でモノクマは裏切り者と言っているが、決して七海は裏切り者じゃない。大切な仲間だ。
しかし、この場でそれを証明する方法はない。俺は、悔しさに任せて拳を握りしめることしか出来なかった。
「落ち着け、お前たち。俺たちを疑心暗鬼に陥らせることがモノクマの狙いだろう。そんな確定もしていない情報に今は惑わされる必要はない。
そんなことより、モノクマ、裏切り者の件はあくまで俺たちに記憶喪失を信じさせる為に言ったんだろう?ならば、そもそもお前はなぜ俺たちが記憶喪失であることを伝えた?お前のことだ、ただの親切ではなさそうだな?」
ここで十神がリーダーシップを遺憾なく発揮し、全員を落ち着かせつつ、疑問をモノクマに提示した。すると、他の騒いでいたやつらも黙りこみ、各々がいろいろな表情をモノクマの方へ向けた。
こんな光景をみてると、とても十神の正体が"超高校級の詐欺師"だということを忘れてくる。本当に本物の"超高校級の御曹司"十神白夜だと思えてくるくらいだ。本物の十神白夜とは体型は似ても似つかないのにな。
「さっすが、十神くん。勘が鋭いね。すっかり言い忘れてたけど、ボクがその失われた記憶を取り戻してあげるよ。そのかわり、ただでという訳には行かないんだけどね。」
「ただでは記憶は元に戻らない。それって...」
七海がそこで口をつむぐと、今度はモノクマが口を開いて残酷なその続きを言い放った。
「コロシアイだよ。コロシアイが起きたらオマエラの記憶を返してあげるよ。ヘイユー、さっさと殺しちゃいなよ!」
モノクマは、腹わたが煮えくりかえるほどに残酷で、非日常的で、絶望的な動機をあっさりと軽いテンションで言い放った。
「うぷぷ...。それじゃあね。」
「コラ!待つでちゅ!逃がさないでちゅよ!」
そう言うと、モノクマとその後を追う形でモノミは姿を消した。
十神の嗜めた甲斐もあってか、数分前より皆は落ち着いているが、それでも通常通りとはいかないようだった。皆、一度それぞれ気持ちの整理をつけたいのか、すぐに解散となり各々のコテージに帰り始めていた。
その中の一人に、一見いつも通り元気そうなあいつに俺は声をかけた。
「なあ、花村。あんな話を聞かされた後に悪いけど、ちょっと時間を取れないか?すぐに終わる。」
「え?......うん、大丈夫だよ!食堂にでも行こうか!」
「あ、ああ、そうだな。悪い手間を取らせて...」
俺は二つのことに驚いた。
一つは、予想よりも案外簡単に花村が話してくれることになったこと。
もう一つは、この今の重苦しい雰囲気に似つかわしくない明るい対応だった。
から元気...どこからどうみてもそうだよな。
だからこそ、俺は一番花村がこの中で精神的にも追い詰められているのだと感じた。落ち込んでいる間はいい。自分自身に向き合えているだけまだマシな状態だと思う。
ただ、今の花村は明るく気丈に振る舞っていないと自分自身を見失ってしまいそうなのだろう。コロシアイを迫られた極限状態の中で今度は記憶喪失に裏切り者と来たのだから。
特に、花村はその傾向が顕著でそのために前周回では殺人を犯した。
今回こそは、絶対にそんなことはさせない。必ず説得してみせる。結局、記憶を戻すつもりなどないモノクマに踊らされるとなればなおさらだ。
これからの数十分が花村、そして十神の命運を決める。そんな思いを胸に抱きつつ、俺は花村と共に食堂という決闘場へ向かった。
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「で、何かな、日向くん?一人が不安とか?まあ、あんなこと言われたら仕方ないけどね。」
「お前は、不安じゃないのか?」
「うん、もちろんだよ。だってあんなの現実味が無さすぎるし、嘘に決まってるからね。」
明らかに、虚勢を張っている。気丈な雰囲気とは裏腹な引きつった笑顔を、とても隠せてはいないじゃないか。
「嘘?そんなこと、言い切れないだろ。本当だったら、家族や友達、その他の大切な人たちに何年も会えてないことになるんだぞ。」
いつまでも、シラを切ってこのままでは埒が明かないと思った俺は、強引ながらも本題に足を踏み入れた。
「いやいやいやいや、そんなことあるわけないじゃないか。そんなことよりさ、不安なら一晩僕のコテージで一緒にいろんなものを育んでみないかい?二人でねっとりと体で語り合えば不安なんかへっちゃ...。」
「正直に言ってくれ!俺は、もう誰かが重いものを一人で抱え込んでいることにも気づかずに、後から後悔するなんてそんなことはもううんざりなんだ!」
話を逸らそうとする花村への怒りなのか、はたまた前周回での俺に対する苛立ちなのか、語気は自然と強くなった。でも、言葉にしていることは紛れもない本心だった。もう、誰かが死んでしまうところなんか見たくもない。
「...不安じゃない...よ。2年間の記憶を奪われたって?そんなの信じないよ、絶対に!
もし、記憶を奪われてたとしたら僕のお母ちゃんはどうなるのさ?病気がちでも僕ら兄弟の為に、毎日毎日厨房に立って、朝早く起きて仕込みをしては、夜遅くまで翌日の準備をしているんだよ!僕の夢のために希望ヶ峰学園にまで通わせてくれて...あの日も、僕を見送ってくれて...。それなのに、コロシアイだって?希望ヶ峰学園を忘れろって?
そんなの、信じれる訳ないじゃないかあ!」
今度は、花村の不安、怒り、心配、そして、この世界で一番なによりも大切な母親への申し訳なさが複雑に絡み合った叫びが食堂に響きわたった。
「信じなくて、その先にお前はどうしたいんだ?」
「決まってるじゃん!お母ちゃんに会いに行かないと!今すぐにでも!」
「そのためにはコロシアイでもするっていうのか?」
「そんなわけ...」
最後の消える語尾が物語っていた。花村は迷っている。頭では絶対にしてはならないと分かっていても感情のせいで絶対にブレーキをかけることはできない状態なんだろう。
花村の怒りは最もだ。こんな島に連れてこられて、コロシアイを強要されて、記憶を奪われたと宣告された。
でも、俺は鬼にならなければならない。いや、鬼などではない。もっと、罪深い行為に手を染めなければならない。
「俺は、お前の母親のことは何も知らない。お前の気持ちを真の意味で分かってやることもできない。
けどな、そんないつもお前のことを想ってくれた母親が、前を向こうとしない今のお前を見て、喜ぶわけないだろ!ましてやコロシアイだって?殺人に手を染めた息子が帰ってきて、今まで通り笑い合えるわけないじゃないか!」
「....そんなの、日向くんには関係ないじゃないか。」
「ああ、お前の母親の件だけだったらそうだったかもな。でも、お前は外に出る為ならコロシアイも厭わない感じだった。そんなの、お前を応援してくれた母親だけじゃなくて作った料理にも泥を塗るのと同じだ!
俺は、お前の料理を食べている。だからこそ、見過ごすわけにはいかない。」
花村は黙ってしまった。さらに、俺は続ける。
「大丈夫、母親は無事だと思う。」
「...なんでそんなことが言えるの?」
「だって、お前の母ちゃんなんだろ?そんなの、どう考えてもそう簡単にどうにかなるような人な訳ないと思うぞ。話を聞く限りでも随分肝っ玉母ちゃんって感じだしな。
だからさ、前を向いて、俺たちとこの島から脱出して、そうしたらお前だけじゃなくて、お前の母ちゃんの料理も食べさせてくれよ?花村の母ちゃんなんだ、きっと美味い料理なんだろうな。」
「そうだよね、お母ちゃんがどうにかなっちゃう訳ないよね。
......うん!分かったよ!そのときはたーぷりっとお母ちゃんと一緒に料理を振る舞わせてもらうよ!
なんたって、花村食堂の肉じゃがは絶品だからね!ンフフフ,
...それと、ありがとう日向くん。少し楽になったかもしれない。」
どうやら、花村の不安は改善できたようだった。先ほどまでの作り笑いから、幾分か自然と笑顔を浮かべることができるようだったから。
しかし、俺はほっとした気持ちと同時に罪悪感も感じていた。この世界の外は、人類史上最大最悪の絶望的事件が起きた世界。もし、それを知っていたら、そんな絶望蔓延る世界で、必ず大切な人は生きているなんて楽観的な考えは到底できないだろう。それは花村にとっての母親も同様だ。
今の花村には一筋の希望が必要だ、コロシアイを止めなければならない、聞こえはいいがそんな大義名分のもとに母親は大丈夫だなんて無責任なことを言ってしまった。
もし、母親に何かあったら二度と花村は俺を許してくれないだろう。当然、俺はどんな誹りだって受け入れるつもりだ。僅かな希望を与えて、深い絶望の底に叩き落とす。あのモノクマ同等の畜生に成り下がるのだから。
「どうしたの、日向くん?ぼーっとして。もしかして、やっぱり僕と一晩寄り添ってみたいとか?心に真に同情できないなら、生まれたままの君で僕を温めてくれるとか?」
「な、何バカなこと言ってんだよ。俺はもう帰るぞ!」
「あ、待ってよ日向くーん!」
颯爽と花村に背を向け、早歩きで食堂を出る俺。その俺を、誘惑するように追う花村。
確かに今だけは浸っていいのかもしれない。花村の不安を取り除けたこと、そして殺人の動機を取り除けたことに。
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僕は、昨日の夜に食堂で日向くんから言われたことを一晩もう一度考えた。
そして、翌日十神くんの提案で、夜通しのパーティーが開かれることになって、僕は旧館の厨房で料理の準備をしていた。そう、していたんだ。大広間を覗くまでは...。あれを見るまではね...。
「狛枝くん?何してるの?」
「あれ?見つかっちゃった?」
「君は何してるんだよ?どういうつもりさ?」
「何って殺すつもりだよ。」