俺にとっての10回目の学級裁判が始まった。
「まずはある程度アリバイがある人間を明らかにして犯人候補を絞りこめたら楽なんじゃがどうかのお?」
「俺が聞く限り男連中の中にアリバイのある奴はいねーみてえだったぜ。」
「女子についてもそうだな。私たち三人ともアリバイを証明できるやつは一人もいなかったぞ。」
「いきなり議論の停滞か。」
「いや、田中。それは違うんじゃねーのか?」
九頭龍が真剣な声で割って入る。
「オクタゴンを一通り見ちまったんだけどよ、カーペットであからさまに何かが隠されてやがったんだ。」
「隠されてたって何か重要な物でも隠されてたの?」
「ああ、重要も重要だ。大量の血痕とドライバーと左右田の電子生徒手帳だ。つまり左右田テメーが犯人だってことだ!」
「んな訳ねーだろ!それだけで俺が犯人扱いかよ!」
「それだけじゃねえぞ。ドライバーにべっとりと血がついてやがったんだ。多分七海の血だろうな。それに俺は日向を襲った時にテメーがそれを持ってたのをちゃんと見てんだぞ!」
「あ、それなら私もその場にいたから見たよ!ていうかあれが落ちてたの?しかも血がべっとり付いて。完全に左右田おにぃが犯人じゃん!」
九頭龍に同調するように西園寺もまた左右田への糾弾を強めるが左右田も絶対に認めないという様子だ。
「いや、落ち着け。仮に左右田を犯人とするならばドライバーや大量の血痕、それに電子生徒手帳を残しておく道理がない。そもそもカーペットがかけられていたおかげで周辺が水浸しになっているにも関わらず血痕だけは洗い落とされず守られていた。現場保存を自ら行う犯人など聞いたことがないな。」
「それはあれだよ!澪田おねぇの時みたいに共犯者がいてそいつがやったのかも!」
「前にも言ったと思うんですけどあれは特殊なケースなんです。コロシアイ修学旅行で共犯者なんて普通成立しないんですよぉ。それに共犯者が現場保存をしたならそれはクロに対する立派な裏切りですからそもそも行動がチグハグになってしまいますよ。」
「そ、そうだ!俺が犯人なら全部回収するに決まってるだろ!」
田中や罪木の真っ当な反論に左右田を糾弾していた面々も押し黙るしかなかった。
「しかしさっきから、さもオクタゴンで七海が殺されたという前提で話が進んでおるがそれ自体は間違いないんか?」
「それについては確か罪木が証言していたな。」
「はい、そうですう。辺古山さんたちには話したんですけど丁度12時40分頃に部屋から出てくる七海さんを見ちゃったんですよねえ。怪しいなと思って後をつけたらなんと!オクタゴンに入っていくじゃないですか!私はオクタゴンに入れないから後の事は知らないんですけど、とにかく時間やオクタゴンの状況から考えてあそこで殺人が起こった可能性は極めて高いですね。
結局、午前1時ぐらいになるまで一度も出てきませんでしたから。」
「怪しいと言えばテメーの証言も怪しいけどな。」
「じゃがそんなことを言っていてもキリがないわい!」
「待ってくれ!じゃあ七海はロシアンルーレットをクリアしてたってことか?」
「まあ私と違ってオクタゴンに入れたんでしょうからそうなんじゃないですかねえ。」
信じられない。ロシアンルーレットに成功したことよりもロシアンルーレット自体をやったという事実が信じられない。前周回で俺がファイナルデッドルームに入ろうとしたのを止めてくれただけにどうしても不可解だ。
「逆に言えばそれは犯人自身もロシアンルーレットをクリアしているということになるな。そう考えない限りオクタゴンで殺人など起こり得ないからな。」
「辺古山に付け加えるならロシアンルーレットに使う拳銃は弾が一発だけ装填されてない状態だった。ロシアンルーレットをクリアしたやつが居たとしても何もおかしくない。」
「一つ疑問があるのだがあの現場にはピンクに彩られたリボンも落ちていた。凄惨な殺人現場に似つかわしくない代物だがこれも犯人が落としたというのか?それにサイズが少し大きいのも気になるが。」
俺は既にその答えを得ていた。もう少し厳密に言うならこのリボンの持ち主にピンと来た時にこの結論に辿り着いたといってもいい。
「それは犯人が落としたものじゃない。俺たちの中にいたじゃないか。人が付けるには少し大きいピンクのリボンを身につけていたやつが。」
「ああーー!!それ私も何処かで見たと思ったらモノミのやつじゃん!」
「応!確かにあいつが付けていたものじゃ!このファンシーさは目立つからのお、むしろあいつしかおらんわい。」
「でも今日あいついないよ?いっつもモノクマの横で吊るされてるのに。」
そう。今日俺たちはモノミの姿を一度も見ていない。
「でもよ、いくら現場に落ちてた物だっつってもあいつのリボンが何か事件に関係あんのか?」
「大ありだ。特に連絡エレベーターを破壊したあの爆発には。」
「爆発!?まさか日向お前は!」
そして俺は第二の犠牲者の真相を暴く。
「ああ、あの爆発はモノミに内蔵された爆弾によるものに違いない。もちろん俺は最初オクタゴンにある爆弾を調べた。でもそれらが使われた形跡なんてどこにもなかった。それにモノクマの発言、姿を現さないモノミ、あいつの体内には爆弾が内蔵されてる事実。これらが示す真実は一つだけだ。」
「モノミは偽装工作の為に犯人によって殺害されたというんか?」
「そうなのです!コロシアイ修学旅行の参加者じゃないからモノクマファイルにも書かなかったし、ぶっちゃけオマケみたいなものなんだけど可愛い可愛いモノミちゃんは既に殺されちゃってまーす!でも無かったことにするのは可哀想だから殺しは二つあるよってちゃんと教えてあげたじゃん!ウサギを殺してもそれは殺人じゃなくて殺ウサギだからね〜、うぷぷぷぷ。」
「で、でもよ何であいつをわざわざ殺す必要あるんだよ?爆弾ならオクタゴンにあるんだからそれを使えばいい話じゃねーのか?」
左右田の意見は最もだがそれについては流石に俺も見当が未だについていない。
「何でそんな手間のかかる事をしたのかは俺にも分からない。でも殺そうと思えば簡単に殺せた筈だ。あいつは俺たちが修学旅行のルールを破らない限り、未来機関の監視者として俺たちに危害を加えられないからな。」
「では犯人はそれに甘んじて無抵抗の所を殺したというんか。それも偽装の為だけに。」
「仮に抵抗できたとしてあいつがオマエラを傷つけるとは思えないけどね。あいつ、あの教師ごっこに心底誇りを持ってたみたいだしさ。それにオマエラを信用しきってるから簡単に騙されて簡単にホイホイ呼び出されて、簡単に殺されてくれそうだしね。なんて残酷なクロなんでしょうか〜...。
ま、ボクにとっちゃ未来機関の鼠共を一掃してくれて今回のクロには凄ーく感謝してるんだけどね、ぶっひゃひゃひゃ!」
「黙ってくれ、モノクマ。」
「おろろろ、日向クン珍しく凄んじゃってどうしたのさ?」
「もうこれ以上侮辱は聞きたくないって事だ。それに残酷だからこそ俺たちはこの学級裁判で全ての真相を暴いてあいつら二人の無念を晴らす!絶対にだ!」
「へぇー、それはご苦労な事だね。じゃあやって見せてよ。ボクも楽しみにしてるからさあ!」
モノミの真実が明らかとなり裁判は次の段階へと進む。
「俺からもう一つ見つけたものがあるんだけどいいか?」
「何ですかぁ?」
「あの爆破された連絡エレベーターの前に血が付着したナイフが落ちてたのを覚えてるか?」
「そういえば死体発見アナウンスが鳴った時もナイフが落ちてた様な気がするけどよ、そっちが真の凶器なのか?」
「いや、そのナイフも偽装工作の可能性が高いのではないだろうか?これも先程と同じ様に一連の犯行に関わった場所に血のついたまま、これ見よがしに置かれている。」
「でもさあ、辺古山おねぇの推理の通り犯人は持ち帰りたかったけど何か持ち帰れない事情でもあったんじゃないの?」
「そもそも持ち帰る必要がないんだ。今回の事件で出た犯人にとって全ての不都合な証拠品は連絡エレベーターを爆破した跡の奈落に捨ててしまえばいいんだからな。実際、七海の死体を俺たちは調べられていない。」
「ではこれも凶器ではないということじゃな。そうなってくると死因として考えられるのは一つしか考えられんな。」
「モノクマファイルに書かれている頭部への殴打か。」
辺古山の言葉に誰もが納得しているようだ。
「こういう事でしょうか?ドライバーとナイフという偽の凶器をデッチ上げたのは左右田さんに罪を着せることだけじゃなくて頭部への殴打という本当の死因を隠す為だった。」
「多分そういうことだろうな。でも刺し傷の数が分からない以上それすらも100%正しいとは言えないんだ。まだ俺たちが見つけていない第三の刃物があるのかもしれない。」
「死体を調べられないんだからそれぐらいせめてモノクマファイルに書いておいて欲しいよねー。」
「でもよ学級裁判で暴くのは凶器じゃなくて犯人のヤローなんだろ?殴打をした物が何かも分からない状況でこっち方面から犯人を特定すんのは難しいんじゃねえのか?」
「日向さんと左右田さんは学級裁判の経験が私たちと比べものにならない程ありますから心配しなくても大丈夫ですよぉ。」
「おいおいおいおい。そんなに期待されても分かんねえものは分かんねえよ。てことで、日向!後は任せた!」
「え、そこで俺に振るのかよ。そ、そうだな。じゃあオクタゴンに落ちてた毒薬の瓶のカケラについてでも考えてみるか?」
「毒薬!?」
西園寺や弐大が声を揃えてお手本の様なリアクションをする。
「何だ、貴様ら。そんな事も知らないのか?」
「逆にお前さんは何で知っておるんじゃ?」
「なぜ知っているかだと?我が忠実なる下僕、破壊神暗黒四天王が一角"金鷹のジャンP"にかかれば造作もない事よ。さあ妙技の前にひれ伏すがいい!」
「とにかくだな、あの毒薬はオクタゴンにあったもので中身が存在してないことと、現場が水浸しになっていた状況からあそこで使用されたのは明らかなんだ。」
「中身が存在しない事はなんとなく分かるんじゃが、現場の状況と毒薬に何の関係があるんじゃ?」
「前周回の記憶をもつ左右田以外は知らないだろうけどこの毒薬は加水分解することができるっていう性質をもってるんだ。だから毒薬を使用した後、オクタゴンに充満したガスを加水分解する為に水が使われたって考えられるんだ。」
「なるほど。確かに現場の状況は毒薬の使用を暗示している。だが加水分解を行ったのが誰なのかはもう明白なのではないか?日向、お前はオクタゴンに行っていないのだろう?」
「捜査の時に初めて入ったからな。」
「では事件当時で毒薬の性質を知っていたのは左右田しかいないということだな。もちろん前周回の記憶を持つ者以外にもオクタゴンに入った人間にも知り得ただろうが、オクタゴンに入ったであろう七海は被害者側だ。それに加水分解が行われたのは間違いなく毒ガスが発生して間もない頃だろう。そうでないとオクタゴンのみならずドッキリハウス全体に充満する恐れがある。
と考えると左右田は少なくとも毒ガスが発生し始めた時、現場のオクタゴンに居たということになる。」
「また俺が疑われんのかよ!」
辺古山に言われて初めて気がついた。ここにも左右田を犯人と思わせる為の罠が張り巡らされていたというのか。
でも慌てることはない。
「でもよく考えてみてくれ。左右田に水を入手することができるか?しかもオクタゴンを水浸しにする程の大量の水を。」
「確かに少量であれば容器に入れて持ち込んでいたと考えられますが大量となるとまず無理でしょうね。それにドッキリハウス内に水を補給する場所なんてないですからここに来た後に手に入れるのも無理ですよねぇ。」
「水が簡単に手に入る状況であれば今回の動機である"ここから出るためには殺人を犯さなければならない"の切迫感が薄れてしまう。故に俺様たちの手の届く場所にその様なものが存在しないのは至極当然か。」
「でもそれって左右田おにぃだけじゃなくて私たちの誰にも水を持ち込めないって事じゃん!モノミだってここに閉じ込められてたんだし私たちに水をくれるやつなんていないよ。」
「いや、水を持ち込めるやつなら一人だけ存在する。」
そう言って俺はそいつの方を向き、そいつの背後にいるであろうやつに向かって指を突きつける。
「モノクマいや、この世界の全ての権限を握る江ノ島盾子お前だけだ。」