〈午前8時10分〉
罪木により誘われたネズミー城では罪木当人がまるで宗教画を彷彿とさせる様に生き絶えていた。
「私誰か呼んでくるから!」
西園寺はそう言い残すとネズミー城から出て行った。なによりこの場に居続けたくなかったのだろう。この凄惨な現場を見れば誰だってそうだ。
しかし西園寺が誰かを呼んで来るのを待ってはいられない。少しでも証拠を見つける為に俺は歯を食いしばって罪木に近づき捜査をいち早く始めることにした。
まず目につくのはやはり胸の傷とその傷に前半分だけめり込んだ弾丸だ。罪木の背中側を見ても傷がないから貫通はしなかったんだろうな。そして弾丸そのものは前方から真後ろの尻の部分までべっとりと血がついている。
傷と言えばまだ目立つものがある、それは両足の傷だ。両足に刺さっているのは罪木がいつも持ち歩いているメスだけどそれは足を貫通し壁にまで突き刺さっている。まさに磔と言うべき状況だ。メスが壁に突き刺さっているのは何故か壁がただれたように腐食しているからだ。石壁にメスが突き刺さっているのはそのせいだ。
またその腐食は両足だけではなく手元にも。両手首は左右に広げて縄に縛られているがそもそも縄は壁に刺さった釘に結びつけられていて釘もまた腐食した石壁に刺さっている。
しかし妙だな。近づいて見て分かったけど、手首は縄で縛られているんじゃなくて、縄と手首の間に隙間がある。ブカブカだ。これじゃあとても縛られているとは言えないしむしろ縄に両手を通している状態だ。
それからは全体的な様子を見てみてたが特に変わった様子はなし。罪木の死体は丁度グングニルの槍が横に壁にセットされているその真上に磔にされている。グングニルの槍自体も三本とも横向きにセットされていて持ち出された形跡はない。
あたりを見回しても特に気になるものも見当たらなかった。
「日向おにぃ!連れて来たよー!」
ピンポンパンポーン
「死体が発見されました!一定の捜査時間の後、学級裁判を開きます!」
三人目の目撃者が現場に到着した為死体発見アナウンスが鳴り響いた。
「む!話には聞いていたが実に禍々しいオーラが漂う地だ。」
「田中か!一通り調べるところは調べたんだけどまだ見落としがあるかもしれない。今度はお前の方でもう一度調べてくれないか?」
「念には念をか、賢明な判断だ。して貴様はどうするつもりだ?」
「俺は弍大と辺古山と九頭龍も呼んで来る。どのみち全員の証言を聞くのは必要だからな。その前に、おい!モノクマ!」
「お呼びですか!」
俺が呼ぶと秒でモノクマは姿を現した。
「モノクマファイルを渡せ。あれがないと俺たちはほとんど罪木についての情報が得られない。」
「勿論用意してるよ。はい!それにしても左右田クンの学級裁判の翌日にこれなんて生き急ぎすぎだよ!現代人は時間に追われてるとか言うけど本当だったんだね!」
「もういい。捜査の邪魔だからもう帰っていいぞ。」
「しょぼーん、ボクってのけもの。それじゃ、ガックシトホホバイナラ。」
モノクマは肩を落とすとこれまた秒で姿を消した。
『死亡したのは"超高校級の保健委員"罪木蜜柑。外傷は両足と胸に存在。また両足には小さな刺し傷がある。』
死亡時刻が書かれていない。ということはどこかで死亡時刻が鍵になってくるのか?それに小さな刺し傷なんてさっき見たときには見当たらなかったけど...。
「なあ田中。このモノクマファイルにある小さな刺し傷についても追加で調べておいてくれないか?俺がさっき調べても見つけられなかったから相当小さいと思うんだけど。」
「この俺様に不可能などない!せいぜい楽しみにしておけ!」
「ねえ、日向おにぃ!私も手伝うこととかないの?これじゃなんか私だけサボってるみたいになるじゃん。」
「えーと、そうだな。じゃあ軍事施設に行って薬品が持ち出された形跡がないか調べてくれないか?あの石壁どうやら腐食してるみたいなんだ。」
「軍事施設ってこの第5の島にあるあの戦車とか置いてあるところ?どうしてそこに薬品があるって分かるの?」
「前周回のときに狛枝が消火弾の中身を毒薬にすり替えてたんだけど、その時に軍事施設から持ち出してきただろうガスマスクを使ってたんだ。ガスマスクがあるってことはそれだけ危険な薬品を取り扱うことが想定されてるってことだろ?」
「なるほどねー。だから、軍事施設に薬品があるかもってことか。ちなみに弍大おにぃは旧館、辺古山おねぇは病院、九頭龍は倉庫だよ。」
「ああ。じゃあ二人とも後は頼んだぞ。」
俺はそう言うと未だ合流していない三人を探して証言を聞くべく走り回った。
〈午前8時40分〉
俺は今現在モノクマ工場の目の前にいる。ネズミー城からここまで20分ぐらいかかったけどまずはここに来てみた。それにしても正直モノケモノがいない事には驚いた。なんせアレはモノミが毎度退治してくれてたからな。モノミも死んだ今、最後の島に入れるなんて思ってもみなかった。
「おーい!九頭龍いるかー!」
倉庫の中は相変わらず薄暗くあまりよく見えない。でも流石に、入ってすぐ足元のところにモノクマパネルが山をつくって一箇所にまとめられている事には気づいた。まあ、まとめられているって言っても無造作に山を作っているだけなんだけどな。しかしどちらかというと不自然に俺から見て左寄りに主にかたまってる様に見える。
左にモノクマパネルを見つけ右を振り向いた俺はそこに思いがけないものを二つ発見することになった。
まず一つは弍大と辺古山だ。西園寺に聞いた話と食い違うが手間が省けるに越したことはない。でも二人とも一向にこちらを振り向かないんだ。熟練した二人なら俺の気配ぐらいすぐに気づいているだろうに何で俺を無視するんだ?
「おい!どうしたんだ、二人してこんなところで?」
俺は二人に近づいた。
「死体が発見されました!一定の捜査時間の後、学級裁判を開きます!」
『死亡したのは"超高校級の極道"九頭龍冬彦。死亡時刻は罪木蜜柑死亡の10分前。首の痣以外に目立ったものはなし。」
モノクマファイルにはそうとだけ書かれてあった。
二人が俺に無視していたのは俺に気づいていなかったからじゃない。そんな事に目を向ける余裕なんてなかったからだ。俺だってそうだ。心の整理がつけられないのはモノクマファイルを見終わった後も変わらない。俺にとっては前周回で共に生き残った最後の一人だったんだ。あいつがいるかいないか俺にとっての、九頭龍の存在意義は計り知れない。
だが俺や弍大以上にショックを受けているのは辺古山だろう。辺古山は九頭龍と幼馴染、いや家族同然に育ってきた。その苦しみは計り知れない。
「のう日向。ワシらと違って辺古山のダメージは比べ物にならん。ここは本人の納得のいくまで辺古山をそっとしておくべきじゃろう。」
「そうだな。今まであいつには助けられたこともあったから今度はこっちが支えてやらないとな。」
俺も平常心でそんなセリフを言えはしなかったけどできるだけ落ち着いた様に弍大に返した。それは自分は大丈夫だと弍大に伝えると同時に無理矢理にでも体を動かすべきだという自分へのメッセージでもあった。
「弍大、最初にお前の午前7時30分からの行動を教えてくれないか?」
「構わんぞ。ワシはまず食堂に向かったのだがそこで『倉庫に行け』と書かれた手紙を見つけた。どうせ罪木じゃろうと思いここへ着いたのが8時20分。ワシが倉庫に着くと、病院で同じ手紙を見つけた辺古山がここに来ておったらしい。辺古山はワシがやってくる数十秒前に倉庫に辿り着いたと言っておったな。そこで辺古山先導のもと二人で倉庫に入ったわけじゃ。後はお前さんが来るまで立ち尽くしていたわけじゃが。」
「なるほど。よく分かったよ。」
とりあえず弍大の動きが分かった俺は現場の捜査に取り掛かることにした。
九頭龍の様子は罪木とは違って至ってシンプル。梁に引っかかったフックから下に伸びるロープで首を吊っているだけというもの。
もちろん細部では気になる部分はある。それは後ろ手に両手首が縛られているという事。これで足も縛られていたら監禁されていた俺の様だった。
そこで俺は掌に何かが血で書かれている事に気づいた。そう九頭龍は首を吊っていて出血の様子がない。にも関わらず身体には血が付着しているんだ。そしてそれは指にも付いてるからこれは九頭龍のダイイングメッセージと考えて良さそうだ。
そこに書かれていたものはさらに不可解なもので『くつ』とだけ。俺は九頭龍の靴を見てみると右足だけ靴を履いていなくて靴は前方に落ちていた。意味は全くもって分からないけど覚えておく価値は充分にあると俺はそう思った。
あと気になるのはモノクマパネルだ。バラバラに山状に積み上げられているのを見ると無造作という感じだが、一箇所に集められているから見方によっては整頓されている様にも見える。その場所は九頭龍が入り口から入って右側で首を吊っている反対側、入り口から入って左側にモノクマパネルは集められている。
モノクマパネルは前周回の狛枝の事件でもトリックに使われた事がある。俺は無関係とは思えず大量のモノクマパネルを調べてみた。
結果、時間はとてもかかって得られたのは二つだけ。大量のモノクマパネルのうち一つだけに靴の跡が残っていて丁度九頭龍の靴と一致すること。もう一つはモノクマパネルに埋もれるように片方が輪っか状になっているロープ。これも一見首吊り用のロープに見えるが輪っかの部分が大きすぎて明らかに用途は異なる。
そしてそのロープのもう一端はまたもや打ち付けられた釘に結ばれていた。
「日向よ。少し分かったんじゃが九頭龍の右肩どうやら外れておるようじゃ。」
「本当か!?」
「あくまでスポーツ選手の身体のケアに関する知識じゃから医者の様に専門的な事は言えんがこれくらいは少なくともワシのマネージャー歴の誇りにかけても断言できる。原因についてはさっぱりじゃがのう。あともう一つこれなんじゃが...。」
弍大がそろりと俺の目の前に見せて来たのはピストルと一通の手紙だった。しかもこれは最近見たばかり。ファイナルデッドルームにあったものと同じだ。
「九頭龍のポケットに入っておった。弾丸は一つも入ってないようじゃから今は危険はない。」
弾丸がないか。俺はその瞬間一つの可能性が頭をよぎったがこの時点では決めつけが過ぎる為、俺はすぐに一度その考えを頭の隅へと追いやった。
「そして手紙の方なんじゃがワシらが朝受け取った便箋と一緒。じゃが内容が九頭龍のものだけ微妙に違うんじゃ。」
俺は弍大から受け取った手紙の内容を読んでみる。
『日向創を預かった。返して欲しければ最後の島、倉庫まで一人で来い。』
「一人だけ場所の指定をされてるってことか。」
「そういう事じゃな。恐らく事件に関係あるんだろうがワシにはサッパリじゃ。」
俺にもまだその意図は分からない。でもきっとこれも事件に深く関わっているに違いない。
しかし捜査とはいえずっとここにいたら気が滅入りそうだ。
俺が一度外の空気を吸いに出たところで彼女達はやって来た。
「日向おにぃ!調べて来たんだけど軍事施設の薬品少し使われてた跡があったよ!調べてみたら強酸ってラベルが貼ってあった。」
「ナイスだ、西園寺!」
「俺様の方も珍しいものを見つけた。いや罪木の懐に入っていたものと考えれば必然と言うべきか。」
そういって田中が取り出したのは注射だった。注射の中にはいくらか液体が入っている。
「懐ってあんた。女子の身体まさぐったの!?」
「否。破壊神暗黒四天王を遣わせただけだ。それよりもまずこの注射の針と両足の小さな刺し傷が一致した。」
「じゃあその刺し傷っていうのは注射の跡のことか?」
「恐らくな。そこで全能たる俺様はついでに注射液の正体も解明してやったぞ!」
「解明したってどうやって?」
「罪木のコテージで薬品の類いを調べた。罪木のコテージにある薬品は軍事施設ではなく、第3の島にある病院由来のものだがな。その中で使われた液体は麻酔しか存在しなかった。さらに注射本体に残存している液滴からも最初にどのくらいの量が入っていたか推測できるから間違いないだろう。」
「その麻酔の入った注射針を持って罪木は命を落としていたわけか。田中もありがとう、重要な証拠になりそうだ。」
「フッフッフッ、甘いな。この程度で満足する俺様ではない。なんとこの麻酔は二人分の容量が使われていたのだ!そしてそれはラベルの用法からも明らかだ!」
「それは両足分ってことじゃなくてか?」
「言っただろう、二人分とな。つまり罪木以外に麻酔を打たれた人間がいたということだ。」
それはもう一人しか考えられないよな。でも考えるのは後でいい。今は情報をできるだけ集めるんだ。
「最後にお前たちの7時30分以降の行動を教えてくれないか?」
「俺様はビーチハウスへ着いたのが7時50分の事。そこで『倉庫へ行け』との記しを発見し倉庫へ向かっている途中に西園寺と合流。そして8時20分頃ネズミー城で貴様とも合流したというわけだ。」
「私はドッキリハウスに入ろうとしたんだけどあの時は眠らされたから入り方が分かんなくてかなり右往左往してたんだ。で、8時頃に日向おにぃのたてた物音に気づいてモノミハウスに入ったの。後はみんなが知ってる通りだよ。」
聞いてはみたものの死亡時刻がハッキリしてない今、アリバイ方面から詰めていくのは難しい。どうにか別の方向から真相を探れないだろうか。
「というか今更なんだけどさ!さっきの死体発見アナウンスって何?罪木の分は鳴ったのにどうしてまた鳴ったの?」
隠してもどうにもならない。俺は真実を告げることにした。
「...九頭龍が死んだんだ。」
「何だと!?」
「は?何言ってんの?こんな時に冗談止めてよ。そんな訳ないじゃん。」
「冗談じゃない。アイツはここいにいる誰かに殺されたんだ。」
「嘘だ!みんな協力してもうコロシアイは起きないんじゃなかったの?アイツ今もどこかで捜査してるんでしょ!」
「違う!もうアイツはいないんだよ!」
「信じない!アイツの事だよ。どうせまた生意気にお節介やいてきたり減らず口叩いたりしながら私をからかいに来るに決まってる!そうだよね!...そうだと言ってよ...。ねえ...何とか言ってよ!」
「おい!お前さん大丈夫なんか?」
「九頭龍はもういない。私がこの目で見た。」
倉庫から出てきたのは毅然とした辺古山と彼女を慮る弍大。
「そんな...。」
西園寺はヘタリとその場に力なく座り込むとこう呟いた。
「あんたのせいだよ。アンタがちゃんと守ってやんなかったから九頭龍は殺されちゃったんじゃん!アンタの役目は九頭龍組の跡取りのアイツを守ることだったんじゃないの!?」
「そうだ、私のせいだ。私が一緒にいればこんな事にはならなかった。
だからケジメは自分でつける。必ず犯人は私の手で例え刺し違えてでも罪を償わせる。」
それ以上は西園寺も何も言わなかった。というより辺古山の溢れ出る怒りと悲しみと憎悪が気迫として伝わってきたから言えなかったのだ。
「おい、辺古山。刺し違えてなんてバカな真似はやめてくれ。そんなことをしたらお前まで死ぬんだぞ。」
「これは私自身の問題だ。気遣いには感謝するが私の決意は変わらない。安心しろ、犯人を見つける為にも最大限協力はする。それで私の行動が知りたいのだろう?」
「あ、ああ教えてくれ。」
「私は7時30分から8時頃まで病院で罪木の残したヒントを探していた。そこで見つけた『倉庫に来い』という手紙を見て8時20分頃にここまで来た。」
弍大の証言とも一致する。嘘ではないんだろうな。
「それと睡眠薬の付いた布を倉庫の入り口付近で拾った。以前、別の組の連中が姑息にも仕込んで来たことがあってな。よもや間違いということもないだろう。」
なるほどな。しかし、ここまで捜査を行っても真相を掴むきっかけさえ見えなくて不安になる。罪木が九頭龍を殺した後、今までの罪木の蛮行を許せなかった俺たちの誰かが罪木を殺した?それとも、罪木は狛枝のように俺たちを陥れるための何らかの自殺をして、九頭龍の方は、罪木の犯行に見せかけた誰かが殺した?それとも、何か俺が気付いてない別の真相なのか...?
ピンポンパンポーン
「さあ最後の学級裁判が始まりますよー!これが終わったら楽しい修学旅行もお終いです。楽しんでいこうぜー!てなことでモノクマロックまで集合して下さい!」
いよいよ始まる。
今周回最後となる殺人事件、その学級裁判が。