「私の事は気にするな。最後までお前達の力になれるよう協力はするつもりだ。とはいえ私はあいつを見ていないが。」
「今、分かってるのって罪木が銃弾で死んだって事だけだったよね。」
「多分、それはフェイクだ。さも罪木が銃弾で死んだ様に見せかけるためのな。」
「えー?何でそんなこと言えるのさ?」
「罪木の胸の傷に弾丸が埋め込まれたのを西園寺も見たと思うけどあれは弾丸の前半分だけしか埋め込まれてなかったんだ。でも実際は弾丸の真後ろまでべっとりと血がついていた。これって矛盾してないか?」
「それもそうだがピストルから弾丸が発射され弾丸が前半分しか傷にめり込まないなどあり得ないだろう。人類の歴史上その様な銃は聞いたことがないな。そもそもその程度の殺傷能力しかないのなら罪木は死んではいまい。」
「じゃあ日向おにぃと田中おにぃによればその弾丸は本当の死因を隠す為の偽装工作ってわけだね。」
「それなら死因は両足の傷かのう?日向よ、モノクマファイルに書いてあるこの両足の傷は何によってつけられたもんなんじゃ?」
「罪木の両足はメスで壁に磔にされてたんだ。」
「メ、メスで、じゃと!?じゃがそのメスを持っておったのは当然罪木じゃろ。」
「ああ、だからメスを両足に刺したのは罪木自身だったのかもしれない。」
「は!?」
「それはありえないよ!確かに最近のあいつは頭がおかしかったけどさ。いくらなんでも自分で自分の足を磔にして何の意味があんのさ?」
「日向よ、協力すると言った手前言いにくいのだが流石にそれはあり得ないのではないか?考えたくはないが、例えば誰かが以前からの罪木の行いの恨みを晴らす為に拷問染みた過剰な傷を負わせたとも考えられる。」
「ここで少し戻るけどあの弾丸の真後ろも血で汚れてたのは何故だと思う?前半分しかめりこんでない以上罪木ではあり得ない。」
「弾丸?九頭龍にも見た感じ傷はなかったからあいつの血というわけでも無さそうじゃのう。」
「しかし俺様達の中にも傷を負っている者などいないぞ。該当者が誰もいないではないか。まさか隠している者がいるのか?いや、ピストルの傷など負っていたら衣服の上から血が滲むか。事件が起きた後、すぐに捜査が始まったからな。」
「田中の言う通りだ。隠してるんだよ、メスの傷でな。」
「メスということはピストルで傷を負ったのは罪木じゃと言うつもりか!?」
「そもそもピストルを持ってたのは誰だった?」
「...九頭龍。」
「そうだ、つまり九頭龍のピストルから放たれた弾丸は罪木に傷を負わせた。その時に弾丸に血が付いたんだろう。それに素人の俺たちがあの短時間で弾丸を見つけ出すのは簡単じゃない。あるとすれば弾丸が落ちていると知っている撃ったやつと撃たれたやつくらいだろう。」
「だから罪木がそれを使って死因の偽装をしたってこと?でもさっきも言ったけど何の意味があんの?弾丸とメスの傷も関係ない...あっ!罪木が撃たれたのって足?」
「胸の傷が銃弾なら倉庫で即死してるだろうからそうとしか考えらない。ピストルの傷の上からメスを突き刺す事によって倉庫で起こった事を隠す為の偽装工作をしたってことだ。」
「それなら両足を傷つける必要はないはずだぞ!」
「必要はあったと思う。でもとても常人には思いつかない、仮に思いついたとしても実行に移せる人間なんて限られたやつしかいないから辺古山がそう思うのも無理はないかもな。」
「どういうことだ?」
「片方の足だけメスで突き刺しても不自然な状況だ。でも俺たちは驚きはしたものの不自然だとは思わなかった。それは両足を貫通してメスが刺さっていたことによって磔が完成していたからだ。」
「その為だけに自分の両足を刺したって言うの?しかも自分を磔にしてピストルの傷を隠すために。」
「しかもその言い分だと死因の偽装も磔にしたのも罪木ということになってまるであやつが犯人だとでも言わんかのような。」
「弍大、根拠は後で説明するけど先に言っておく。罪木を殺したのは罪木自身で間違いない。」
「自殺じゃとおおおおお!」
「だが俺様が見たところやつの両手を縛られていた。当然、自殺でできる所業ではない。横向きにセットされているグングニルの槍を足場に磔の場所まで登ったとしてもそれ以降の行動にあまりにも無理があるぞ!」
「縛られていたわけじゃない。ロープに両手を通していただけだ。自殺だとしても説明はつく。」
「じゃあさ死因はなんなの?胸の傷は偽装でピストルの傷は倉庫で負ったものだし両足のメスの傷は磔にしたものだから致命傷がないじゃん。」
「俺様が見つけた足の微細な傷なわけもないだろうしな。」
「西園寺、あの弾丸はピストルで死んだ様に見せる為の偽装だって言ったけどあの胸の傷自体も偽装とは言ってないぞ。罪木が死んだのはメスで胸を突いたからということで間違いない。」
「なぜメスだと言うことが分かる?それに私の聞く限りではメスは磔に使われたものしか見つかっていないはずだが。」
「倉庫とネズミー城で誰かを傷つける為に使われた武器はピストルとメスだけだ。ピストルの弾丸が偽装で使われたと分かった以上もう一方のメスが凶器だろうな。それも磔に使われた。」
「仮にメスで自殺をするとしても何も磔に使うものを代用する必要なないはずじゃぞ。」
「いや、日向の推理を正しいと仮定するなら説明はつく。磔に使うことによってあたかも凶器がその場から消えたように見せかけるためだろう。それにメスに血が付いていても何も不思議はない。そのメスは磔に使われていたから血がついている、そう私達に思わせるのが狙いだったのではないか?」
「ああ、だから磔のメスを凶器として代用したんだろうな。」
「じゃがのお、どうにも信じられん。お前さんの説明じゃとメスで胸を突いてから磔をしたことになる。まあ片足は前もって刺しておいたとしてもじゃ、そんな事が可能とは思えん。」
「そうだよ!いくら何でもねえ...。」
「このトリックに必要なのは大きく分けて3つある。一つは即死はしないが致命傷を与えられる程度の正確な傷をつけ、適度な傷の深さをつくることができる能力。」
「それって超高校級の保健委員の才能ってこと?」
「人体の構造やメカニズムに詳しい知識と技術があれば可能だと思う。むしろ現実に起こっているからには罪木以外には不可能な芸当なんじゃないか?そうやって自分に致命傷を与えかつ即死しないようにすることによってその後の磔なんかの偽装工作をするだけの時間を作りだしたんだ。」
「私は人体に詳しいわけではないが偽装工作をするだけの時間が作りだせるのか?」
「もちろん俺も詳しくない。だけどやるべき偽装工作は片足をメスで刺し、胸に弾丸を押し付けて、ロープに両手を通すだけだ。やろうと思えば10秒あればできる。それにその偽装工作を簡単にする為の工作だってあった。」
「工作とは何だ?」
「田中、お前が見つけた足の小さな傷だ。あれは恐らく注射器でついたものだろうな。傷と注射針を照らし合わせてみれば一致するはずだ。」
「注射というとつまり罪木は自らに麻酔を施したということか!」
「しかも田中おにぃによれば麻酔は二人分使われてたんだよね?だったら九頭龍にも打たれてんじゃん。睡眠薬の時と同じように私達の中に麻酔打たれた人いないんだからさ。」
「つまりこういうことか。九頭龍の方はともかく罪木が自らに麻酔を打ったのはメスによる痛みを軽減して死の直前の偽装工作をしやすくするためじゃとそう言いたいのか?」
「ああ、そう言うことだ。九頭龍の方は九頭龍の無力化が目的かもしれない。睡眠薬で眠らせても目覚めた途端暴れられて返り討ちに遭うのを防ぐためのな。」
「日向よ、最後に3つ目のトリックに必要なものも私達に教えてもらおうか。」
「簡単な話だ、痛みや死をも恐れない強靭な意志だよ。いくらこのトリックを思いついたとしても実行できなきゃ机上の空論だ。それに西園寺や弍大が言ってたみたいに常識じゃとても信じられない。だからこそ常人を超える意志があれば可能だし成功したときの意味もあるんじゃないか?」
この一点に関しては根拠としては薄いのは否めない。でも誰も反論してこないのはあいつならやってもおかしくないと、あいつなら可能なのではないかと思わせる生前の罪木の言動があるからだろう。そして学級裁判という特殊な状況下においてはいかに他者を納得させられるかがものを言う。
「確かにあいつならやりかねないよね。後にも先にも自分をここまで痛めつけて死んで私達も皆殺しにしようとするなんてあいつしかいないよ。」
「俺様達を皆殺しだと?」
「だってそうじゃん。偽装工作をしながら自殺をするなんて私達に学級裁判で間違った答えを出させて皆殺しにする為だとしか考えられないよ!」
「じゃがその計画もワシらが見破ったから意味もないがのう。罪木が自殺で残念じゃが九頭龍を手にかけてしまったのは辺古山じゃあ。そろそろ投票タイムでいいじゃろ。」
「待ってくれ!」
「どうしたんじゃ、日向。もう答えは出ておろう。」
「とんでもない事に気づいたかもしれない。ネズミー城の壁と倉庫の壁に酸が使われていただろう事とそこに釘が打たれていた事、そして罪木の死が自殺だった事。これらの事がある事実を指しているんだ。」
「確かに軍事施設からも酸は無くなってたし壁に使われたと考えれば説明はつくけど自殺と関係あるってどういうこと?」
「ネズミー城のトリックで使われた酸。罪木が他殺だったなら俺たちの中の誰かが使ったと考えられたんだけど自殺なら罪木自身が使ったことになる。」
「それはつまり倉庫の壁に使われた酸も罪木にしか使えなかったという事になる。倉庫とネズミー城からの移動時間を考えると軍事施設まで取りに行っている暇はないから九頭龍と会った時にも当然持っていたのだろうな。」
「そうだ、辺古山。と考えるとあの強制殺人装置を作りあげたのも罪木だとここで確定するんだ。酸とそこに打たれた釘に結ばれたロープがないと成立しないトリックだったからな。」
「だからどうしたっていうの?罪木が殺人装置を作ったのはなんとなく分かってたし結果は何も変わらない...。」
「変わるんだ。今までは罪木が他殺の可能性もあったから釘と酸を使って殺人装置を作ったのが罪木だとは言い切れなかったし、辺古山が扉を開けたタイミング以外に九頭龍を殺せたタイミングはなかった。他の誰かが殺人装置を作ったとしてその後、九頭龍を殺して今までの各殺人現場に行って罪木の残したメモを見てまた倉庫に戻ってくるなんて時間的に不可能だ。でもあの殺人装置を罪木が作ったと確定したなら罪木自身がその手で九頭龍に首を吊らせることだってできた筈だ。さも辺古山が殺したように見せかける為にな!」
「しかも私達が殺人装置を作ったとすると罪木が倉庫を去ってからになる。それから私と弍大は8時20分までに殺人装置作りに始まる一連の行動を、田中と西園寺に至ってはより短い時間で行わなくてはならないとなると私達に殺人をしている時間はないな。」
「じゃあ本当に九頭龍を殺したのは辺古山おねぇじゃないって事?でもそれだったら好都合だよ!誰も死ななくて済むんだからさ!」
「待て、西園寺。日向は罪木にも可能だと言っているだけだ。辺古山か罪木か、クロは未だ確定していないのだ!」
「でも辺古山おねぇが殺した様に見せかけて私達を全滅させようとするとかいかにも罪木がやりそうなことじゃん!」
「それを言うなら強制殺人装置で辺古山に九頭龍を殺させるのもいかにも罪木のやりそうな事じゃぞ。それこそ澪田の時の様にな。」
「そうだ!澪田の時で思い出したぞ!日向、あの事件の時、罪木はさも勘でクロを指定しなければならない様な状況を作り出しておきながら実際は澪田をクロと特定できる様な根拠も持っていた。だから今回も私か罪木のどちらがクロか分かるのではないか?」
「いや、あの時と今回とじゃ状況が違いすぎる。あの時は罪木自身も生き残る必要があったからいざとなった時に答えを出せるようにしておいただけだ。でも今回あいつが既に死んでいる以上そんな事をする意味なんてない。罪木の自殺という事実が分かって誰も犠牲にならずに済むと俺たちが安堵する瞬間、一切隙のない完璧なトリックが完成する。そして俺たちは一気に地獄へと叩き落とされる絶望を味わう。それこそが罪木の狙いだったんだ!」
「そんなのってないよ、ここまで来てなんなの!」
「だが日向よ。それは俺様達がたまたま九頭龍殺しのクロを特定しようとし、その後罪木の事件を話し合ったからに過ぎんぞ。」
「仮に俺達が罪木の事件から取り掛かってもまだその時点では判明してたのは自殺の事実だけで殺人装置のトリックは分かってないから結末は同じだ。これは罪木の自殺と殺人装置のトリックの二つのピースがあって初めて完璧な計画が完成するようになってるんだから。」
「モノクマ!犯人を特定するなど到底不可能じゃからまともな学級裁判になっておらんぞ!」
「確かに罪木さんったらボクもドン引きの絶望的展開を作り出しちゃってー。でもね、クロはちゃんといるからオマエラにはきっちり選んでもらうよ!」
「すまない。そもそも私が不用意に扉さえ開かなければこの様な事態には。」
「そんなこと結果論じゃ。誰も扉を開けたら九頭龍が死ぬことになるなも思わんわ!」
「そうだよ!後悔してる暇があったら犯人を特定できる方法を考えなよ!」
また前周回のような展開になってしまった。しかもあの時は裏切り者を犯人にするっていう狛枝の目的があったから七海だと分かって何とか切り抜けられたようなものだ。でも今回に至っては何ら道を切り開く方法がない。罪木にとっては誰が犯人でもよかったんだから。
「...さっきダイイングメッセージは死の直前に書かれたと言っておったのう?」
「ああ、自分が死ぬ事が避けられない状況で書くものだからな普通。それがどうしたんだ?」
「ということは九頭龍は自分の死が来るのが分かっていたと言うことじゃの?」
「それはそうだろうな。俺様の様な予知能力が無くとも自分の首がロープに引っ掛けられれば己の死期ぐらい悟るだろう。」
「じゃがあの殺人装置の性質からいつ倉庫の扉が開かれるかなど分からん筈じゃ。」
「そうか!いつ扉が開かれるかも分からないで自分が死ぬタイミングが分からなかったにも関わらずダイイングメッセージを残す事ができたのがおかしいってことだな!」
「それは罪木が殺人装置をセットしてから辺古山おねぇが扉を開くまでの適当な時間に書いたんじゃないの?」
「思い出してくれ。ダイイングメッセージの内容は"くつ"だ。九頭龍の片方のくつが脱げたのはパネルに足跡が残っていることから死の直前だって事が分かってる。」
「では適当な時間ではなく九頭龍は狙って靴を脱いだという事か。九頭龍が死んだのは罪木が死ぬ10分前。罪木が倉庫を既に立ち去っている以上、九頭龍以外にないのか。」
「辺古山が扉を開けるタイミングが分からない以上靴を脱いだのは辺古山が扉を開ける直前なのはあり得ない。」
「俺様からも言わせてもらうとすると今思えば辺古山が扉を開けたとき既に九頭龍の亡骸があったこともおかしいはずだ。首を吊って死んだのならば即死はしない。つまり辺古山が扉を開けたことにより九頭龍が死んだのならば、辺古山が九頭龍を発見した時まだ九頭龍は苦しんでもがいているはずだ。」
「じゃとするとなぜ九頭龍は死のタイミングを知っていて靴を脱ぎ捨てる事ができたのか。その答えは一つしかない。」
「九頭龍の自殺...。ということはあのダイイングメッセージって九頭龍がこの事を私達に伝える為に...。」
「そうだろうな。罪木の思惑までは流石に知らなかっただろうから自分の死の真相を伝える為のものだっんだろう。」
「それならば俺様達に分かりやすいよう直接ダイイングメッセージで"自殺"と書けばよかったものを。」
「それに何で九頭龍が自殺をする必要なんか...。」
「私には分かる気がする。」
「辺古山おねぇ?」
「はい!ストーーップ!そんな話は投票タイムの後でお願いしますよ!ではシロとクロの運命を分けるワックワクでドッキドキの投票ターーイム!」
俺たちは各々が行き場のない思いを抱えながら行き着いた結論を投票パネルに入力する。
「はい、大!正!解!罪木さん殺しのクロは罪木蜜柑さん。そしてよく当てたね。九頭龍クン殺しのクロは九頭龍冬彦クンなのでしたー!」
こうして今周回5回目の学級裁判は幕を閉じた。