俺は気づくと薄暗い倉庫の中にいた。首元に何かが当たって擦れている。ロープかと気づいた時には自分が置かれている状況をすぐに察した。そもそもこんな如何にも首を吊って下さいと言わんばかりの状況を察すれば嫌でも分かる。
「お目覚めですか?」
俺にこの期に及んで声をかけてきたのは罪木だった。でもいつも程の嫌味ったらしさは感じられなかった。頭も回り始めた俺は倉庫に来た経緯まではっきりと思い出した。
あいつは倉庫に入ってきた俺をすぐに眠らそうとしてきやがった。俺はまんまと眠らされたが消える意識の中で俺がピストルで最後の抵抗をしてやったことも思い出してきた。
「どういうつもりだ、これは?」
「もう既に気づいているんでしょう?今までの私を見ていれば。」
「また誰かを殺人者に仕立て上げようってわけか!前から思ってたけどよ、テメー自身はリスクを負わずに誰かに手を下させる。とんだ下衆野郎だぜ。」
「は?それは私に言ってます?違いますよねぇ...違いますよねぇ..違いますよねぇ。違いますよねぇ!」
「!?」
「わ、わ、私は何にも悪くないのに!いっつも私のせいにして!しかもそんな私をみんなが見て見ぬふりをして助けてくれない。下衆で醜いのはあなた達の方じゃないですか!」
「....。」
「悪いのは私じゃなくて周りの人達や環境のせいなんですよぉ。だから澪田さんの件以降の事は何にも悪くありませんから。私がどれだけ辛かったか分かりますか?むしろ今まで我慢して一人で耐えてきたんですからこれくらい許してくれたっていいでしょお!」
「...。」
「黙ってないで何とか言ったらどうですか?」
「許せるわけねーだろうが!被害者の奴らは当然、クロの連中を死に追いやったのもテメーの行動あってこそじゃねえか。テメーの話によれば殺人を正当化する程酷え目に遭ったらしいな。じゃあ何で攻撃される人間の痛みが分からねえんだよ?何で知ってもなお他のやつらを食い物にするんだよ?それはテメーの為にすらなってねえだろう!」
「私が弱いみたいに言わないでくれますかぁ?怪我を負ったり病気になったりしたらすぐに私を頼るくらい弱い恥知らずな皆さんに言われる筋合いはありませんよ。まあそんな状況も身をよじりたくなるほど快感なのは否定できませんけど。
それに私の為じゃないですしね。」
「江ノ島盾子の為か?」
「!?何でその事を...まさか記憶を!」
「この点だけは感謝しとくぜ。テメーのさっきの発狂、前にもどこかで見たことあると思ったんだよ。それで上手く思いだせたみてえだな。」
「それなら分かりますよね?あなたたちに何と言われようと構いませんし後悔もしてないんですよ。わ・た・し・は!あの方に恩返しをする為だったら何だってします!」
「悪い事は言わねえからやめとけ。実際、江ノ島に対面して分かったけどよ。あいつ自身はお前の事を特別視だなんてしてねえ。ましてや大切な存在だとも思ってねえと思う。良くて絶望を得るための都合の良いコマだ。」
「例えそうだとしてもあの方だけは私自身を見て、認識して、救ってくれた。それは紛れもない事実なんです!あなたたちがみんなでコロシアイから脱出する事が希望というなら私にとってはあの方に絶望を捧げる事が希望であり絶望です!」
「...今、説得しても無駄みてえだな。」
「そうみたいですね。そもそも希望と絶望、表裏一体の二つが相容れる事が無理なんですよ。その人の立場や見方によって姿を変えていく難しくて曖昧なもの。互いを理解しようなんて綺麗事の夢物語です。でもだからこそそれを苦労して得られた時この上なく喜ばしいんですけどね。あなたは今のこの絶望、打ち破って希望を得る事ができるんでしょうかね?
...喋り過ぎたみたいです。足も痛みますしもう行きますね。これでも私、忙しいですから。」
罪木は俺に背を向け扉へと向かうがそんな罪木を俺は呼び止めた。
「待てや罪木、最後に言っておきてー事がある。」
「何ですか?」
「勝手にテメーが俺たちのことを夢物語って決めんじゃねーよ。俺はテメーと分かり合えねえなんて思ってねえからな。」
だが罪木がその言葉に答える事はなく倉庫に俺だけを残した。
後はこの状況にケリをつけるだけだな。
もっとも足場はぐらついてちょっとでも重心を動かしたら崩れかねねーし、両手を後ろ手に縛られてるからバランスも碌にとれやしねえ。十中八九、俺が死ぬ事は避けられねえってわけか。
罪木のヤローは上手くやりやがったと思うけど、俺も黙って死ぬつもりはねえ。少なくとも誰にも俺は殺させねえ。俺を殺すのは俺自身にするつもりだからな。
この仕掛けに気付いた時から何となく予感はあった。これ以外の方法なんて存在しねえって。そりゃ俺だって生きてえし死ぬのは怖い。でも弍大、田中、西園寺、ペコ全員が本来なら死ぬ筈だった未来を既に変えてる。俺が原因であいつらの未来を潰したらあいつら自身にも日向にも合わせる顔がねえよ。
でもこのまま死んだらあいつらは自分達の中にクロがいると勘違いしちまうかもしれねえな。あくまで俺を殺すのは俺自身だと伝えなくちゃ意味がねえ。
俺は足だけを器用に使って片足の靴を脱ぐと罪木を撃ち抜いた時に付着した返り血を使って掌に文字を遺した。
これで流石に日向は気づいてくれるだろ。これくらいの謎、10回以上学級裁判をやってたら朝飯前だろうからな。
さて、とっととくたばらねえと誰かが来ちまう。
...
...やっぱりどうしても心残りは拭えねえな。前周回からここまで生きてきて俺は思い知ってる。心を通わせた仲間を理不尽に唐突に失うと人は立ち直れない程の傷を負う事。俺の死があいつらに与える影響は学級裁判どうこうで済む問題じゃねえ。
特にペコだ。俺が一度ペコを失ったからこそその悲しみは痛い程に分かる。でもよ、それと同時に前周回から通して分かった事がある。それはその傷を乗り越える事ができたら人間はより強くなれる事だ。一度は挫けても、弱い部分を晒してもいい。ペコには乗り超える事ができるだけの強さがあると俺は知ってる。
俺でもできたんだ。俺よりも芯の通ってるあいつにできねえ道理はねえ。この先、江ノ島は必ずお前を揺さぶってくる。絶望に叩き落とそうとする。でも絶対に負けんじゃねえ!まだ心からお前自身の意志で九頭龍って呼ばれた事はねえからな。それまで死ぬんじゃねえ!
それと日向だ。俺が死ねば共に生き残った仲間を全員失うことになる。お前が受けた痛みを共有できる奴が一人もいなくなるのは辛えだろうな。それでもそこで俺たちが終わったわけじゃねえ。...後はお前なら分かる筈だ。この繰り返されたコロシアイで俺たちが掴むべき希望はよお。
長ったらしいのは俺らしくねえ。
じゃあな、ちっと俺はここで休ませてもらうわ。
俺は最後にへッと鼻で笑うと、死への覚悟と後ろ髪を引かれる思いを胸にモノクマパネルから足を踏み外した。
「辺古山大丈夫か?」
俺は九頭龍殺しの真相が辺古山にとってショックなものだろうと思った。どう考えても俺たちの為の自殺だったからだ。だから俺は声をかけたんだけど...
「いや、むしろここで真相が分かって私の間違いに気づく事ができて良かった。」
「間違いじゃと?」
「正直に言おう。私はずっと今回のクロを殺したい、殺してやりたいと考えていた。例え、私がその後の学級裁判で死のうとも九頭龍の仇さえ討てれば後はもう何もいらないと。しかし、そんな事をすれば九頭龍の思いを踏みにじるところだった。あいつは私達、そして私がクロにならぬよう自らの命を犠牲にしたのだ。
それを知って自分の怒りと憎しみのままに復讐だなどとどうして言えるだろうか。」
「...それを言うなら私もだよ。九頭龍が殺されたって知ったとき汚い感情が溢れ出してきて心がぐちゃぐちゃになって自分でも抑えられなかった。だからつい辺古山おねぇに八つ当たりしちゃって...。ごめん...なさい。本当は辺古山おねぇが一番辛かったはずになのに。」
「いいんだ、西園寺。辛さなど一概に比較できはしないし私にはお前の気持ちはよく分かる。だからこそ私はお前を責める気にもなれん。もっとも誰よりもその感情に支配されていた私に責める資格はない。しかし、どうしても自分の気が済まないと言うならせめて生きる事で九頭龍に恩返しをすればいい。」
「辺古山もああ言ってることだし、西園寺が気にする必要はないと思うぞ。」
「うん、ありがとう。辺古山おねぇも一緒にいるしもう大丈夫!」
「という事でこれからも迷惑をかけることもあるやも知れぬが皆、よろしく頼む。」
「フッ、水くさいぞ辺古山よ。西園寺とお前だけとは言わず俺様達も九頭龍の命に生かされている事に他ならぬ。あやつが命を削って希望を繋いだ様に俺様も必ずやその思いは無駄にせんぞ。」
「言わずもがなワシもじゃああああああ!個人では力が足りん事も全員で同じ方向を向けば成し遂げる事ができる!それにワシらが簡単に諦める様では申し訳が立たんからのう。」
「九頭龍だけじゃない。今まで死んでいった皆の想いも俺たちが繋いで行くんだ。」
「ちょっと、ちょっと、何なんだよ!感動のハッピーエンドというか打ち切られた漫画のラストみたいになってんのさ!コロシアイ2周目の日向クンなら分かるよね?これから何をしなくちゃいけないのか。」
「卒業試験、外へ出るための最後の学級裁判だな?」
「そのとーりなのです!オマエラには卒業試験を受けてもらうのです!というわけで修学旅行で浮かれてばっかりじゃなくてしっかり勉強もしておくようにね?うぷぷぷぷ。」
そして時は過ぎ...
「して、日向よ、私達に何の話がある?九頭龍の事なら学級裁判場でも言った通りもう気に病む必要はないぞ。」
「それにしても日向おにぃのコテージって殺風景だねー。本当に何もないし。」
「予備学科生と言う事じゃからワシらの様に才能に関わるものがあるわけでもないじゃろう。」
「早速、話が逸れているようだが日向はそんな話の為に俺様達を呼んだのではあるまい。しかし、今は深き宵闇。このような時間に話をするのは地獄からの使者の俺様としては歓迎すべきだがな。」
「皆、集まってくれてありがとう。とても大切な話だからよく聞いてくれ。そして聞かなければならない事があるんだ。」
「何?私も眠いしさっさと言っちゃって。」
「これからの事についてだ。」
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【chapter5】
君は希望という名の絶望に微笑む
END