「きゃああああああああ」
「うわあああああああ」
小泉や左右田の叫び声を皮切りに叫ぶ者や、声の出ない者など反応は様々であったが、全員が一様に動揺していた。
そんなこと当然だ。人の死を目の前で見ることなんてほとんどの人間が経験することはない。高校生ならばなおさらのことだ。
かくいう俺も何回、目にしても慣れることはない。人が力なくその活動を停止している姿など。いや、そもそも慣れるべきものではないのかもしれない。このような感情を抱いているだけ、俺はまだ正常なのだと思える。
その声を聞いて、七海やモノミ、辺古山も大広間にやってきて、全員が集まった。
そうしていると、どこからともなく不快な声を響かせて、コロシアイの象徴が現れた。
「おやおや、早速殺人が起こったようですねえ〜」
モノクマは嫌味ったらしくそんなことを言いながら、俺たちを煽る。
「バカ言わないでよ。あんたが何かやったんじゃないの?」
「いやいや、間違いなく、殺人はオマエラ生徒間の中で起きたこと。この中の誰かが島から脱出したいがために殺したに決まってんじゃーん。」
小泉がモノクマに食ってかかるも、モノクマはそれを軽くいなし、信じたくない真実を俺たちの前に突きつける。
「ウソ言うんじゃありまちぇんよ。みなさんがそんな恐ろしいことするはずがありまちぇん!あんたが何かしたに決まってまちゅ!」
「あー、はいはい、意味なしマスコットのモノミちゃんは黙っててね。進行に支障が出ちゃうから。ということで、アナウンスにもあった通り学級裁判を開きまーす。
せいぜい、頑張って捜査してクロを見つけなよ。うぷぷぷ。」
「そ、捜査って言われても、どうしたらいいんですかぁ..」
罪木が弱々しい声で尋ねると、モノクマは俺にとっては見覚えのあるモノクマファイルを差し出してきた。
「捜査っていってもさ、やっぱりオマエラは素人なわけでしょ。だから、このボクが死体の状況や死亡時刻なんかを纏めておいてあげたの。いやー、やっぱりボクって会社に入りたての新入社員ぐらいにやる気があるよね。」
そう言うと、モノクマはモノミの耳を引っ掴みどこかへと消えていった。
「それじゃあ、その捜査ってのをやらなきゃいけねーのか?」
「いや、そんなもんする必要ねーだろ。」
終里の言葉に続いて左右田が口を挟んだ。
「だって、そうだろ。返り血がついてんのは狛枝と十神の二人だ!それって、こいつらのどっちかが犯人ってことじゃねーのか!」
「確かに狛枝さんと十神さんは如何にもと言う感じですが、決めつけてしまうのはよくないのではないですか?」
「いーや、ソニアさん。二人に絞られてる以上、直接こいつらから話を聞いた方が早いでしょう。」
「ちなみに僕は犯人じゃないよ。となると、十神クンが犯人なのかな?」
「ありえん!よくもまあ、そんなことが平気で言えたものだな狛枝。犯人はお前だ。」
どうやら、狛枝も十神も互いに潔白を主張し、互いに犯人だと告発しているようだった。
「うーん、このままじゃどのみち埒が明かないから、この場で何があったかを確かめる為にも捜査はした方がいいん...じゃないかな?」
「ああ、私も同感だな。やるに越したことはあるまい。」
七海と辺古山が捜査への意欲を見せたことにより、左右田達も落ち着きを取り戻し、捜査を始めることとなった。
そして、各々が散らばり、自分も捜査を始めようとしたころ俺に声をかけてきたやつがいた。
「おい、日向。俺も、お前の捜査に同行させろ。」
俺への捜査協力を申し出たのは容疑者の一人である十神だった。また、十神の服は血の跡など見られない真っ白なスーツに戻っていた。どうやら、後から聞いた話によると、モノミが着替えを持ってきたらしい。
「でも、本当にいいの?十神と狛枝は容疑者なんだよ?自由に動き回れたら証拠隠滅されちゃうかもしれないんじゃ..」
「そうです。十神さんと狛枝さん、どちらかが犯人である以上、日向さんが危険です。」
近くにいた小泉とソニアから反対意見が挙がったが、俺はきっぱりと答えた。
「俺は、大丈夫だ。それに、俺がついてるってことは逆に俺が監視してるってことにもなるはずだ。むしろ、死体周辺だけに止まらせないように連れ歩いた方がいいと思うんだ。」
「日向がいいなら、別にいいけど。」
「ありがとう、小泉。それと、お前に一つ頼みたいことがあるんだ。停電の直前に写真を何枚か撮ってただろ?その写真をもとに全員の位置を割り出してほしいんだ。」
「うん、分かった、やってみる。それならあたしにもできそうかも。そうと決まったら、あんたもボヤボヤしてないでしっかり捜査しなさいよ。」
「ああ、分かってるよ。」
そう返した俺は十神と共にモノクマファイルに目を通すところから始めた。
『死亡したのは超高校級の料理人、花村輝々。死体発見場所は旧館、大広間。死亡時刻は午後11時35分。失血性ショックにより死亡。また、胸には刺し傷が一つ見られる。』
モノクマファイルにしては、情報がある方だろう。花村の死体と見比べてみても特に不自然な箇所は無いようだった。
しかし、死体のそばには狛枝の用意した凶器であろう血のべっとりついたナイフと、暗視スコープが転がっていた。
このナイフが狛枝の用意したものであれば、あれが刃についているはずだと思い、俺はそばにあった食事用のナプキンで血を拭ってみた。すると、予想通り僅かに塗料の様なものが確認できた。
「十神、あのナイフや暗視スコープに心あたりはないか?」
「いや、ないな。ナイフも暗視スコープも狛枝の用意したものだろう。」
「そうか。」
俺は今は捜査に集中するため敢えてそれ以上何も聞かず、大広間奥に向かった。
エアコンのタイマーと違い、パーティー前には確認できなかった大広間奥のテーブルの下をしゃがんで見ると、テーブルの裏には一部が剥がれたガムテープと、蛍光塗料であろう物質が付いていた。やはり、あのナイフは狛枝の用意したもので間違いないだろう。すると、今度は十神の方から声をかけてきた。
「おい、こっちのガスコンロを忘れてはいないだろうな。あと、気になるならでいいが、俺がここに持ち込んでいたケースの中身も確認しておくか?」
「あ、ああ、そうさせてもらうよ。」
ここで、俺は少し疑問に思った。ついさっきは暗視スコープを狛枝のものだと嘘をついた十神が、ここでケースの中身を見せるメリットなんか無いはずだ。十神はそんなことに気づかないようなやつじゃないし、これはどういうことだ?
疑問を抱えつつも俺はガスコンロを調べている十神の元へ向かった。
「どうやら、厨房にあった何の変哲もないガスコンロらしいな。細工なんかをされている形跡も見つからなかった。」
「まあ、被害者の花村がそんなことをする理由も無いわけだし、当たり前じゃないか?」
「確かに、それもそうだな。」
それから、俺は十神にケースの中身を見せてもらったが、そこには警棒や催涙スプレーなど、前周回で俺が見たものばかりが入っていた。そして、もちろんその中の一つに暗視スコープ用と見られる入れ物もあった。
「ありがとう、一通り見せてもらったよ。ところで、お前はどうしてこんなものを持って来てたんだ?」
答えの分かりきっているものも、一通り本人の口から聞いておきたかった俺は、尋ねた。
「それは、今朝気づいたら俺のポストに脅迫状が入っていたからだ。そこには、今夜、必ず殺人が起きるという内容が書かれていた。そこで、俺は今夜パーティーを開くことにした。こんな殺人予告を受け取っておきながら、何も動かないわけにはいかないからな。こんな物騒なものをケースに詰めて持ってきたのはもしもの場合に備えてだったんだが...
どうやら、俺はリーダーとしての務めを果たすことは出来なかったようだ。お前たちには、謝罪してもしきれないな。」
「いや、お前が一人でこんな大変なことを背負い込んでまで、俺たちを守ろうとしてくれたことはよく分かったし、素直に嬉しい。でも、実際に殺人は起きた。だからこそ、花村の為にも必ず真相を解き明かして、俺たちで生き延びよう。
あと、これからは俺たちのことを信じて、頼ってくれ。一人で引っ張っていくことだけが、リーダーの姿じゃないと思うからさ。」
「日向...ふん、お前如きが俺を励まそうとしているんじゃないだろうな?俺は十神白夜だぞ。人の上に立つことを宿命づけられた男だ。心配など必要ない。
だが、...お前のその気持ちに応えてやらんでもないがな。」
十神はそんな傲慢に見えて実際はそうでもないような言葉を吐きながら、大広間から出て行き、俺もそのあとを追った。
大広間を出た俺たちは、澪田と出会った。澪田からは、一通り停電中の大広間で聞こえたことを、聞いた。
ほとんど、前周回で聞いたのと同じだったが、一部、異なる部分があったため俺はその部分について澪田に聞いてみた。
「なあ、澪田。花村がガスコンロを投げたあとに聞こえたガタッて音なんだけど、これが何の音か分かるか?」
「うーん、多分、テーブルが動いた音だと思うっすけど、あんまり自信はないっすね。唯吹は、人の声とかは聞き分けるの得意なんすけど。」
「じゃあ、ドスドスとした足音が聞こえた直後に聞こえたこのウッて声。誰のものか分かるか?」
「それは、凪斗ちゃんの声っす。なんか、床にドスンって倒れるような音もその後に聞こえたっすけど。」
床に倒れる?声でかき消されて、俺には聞こえなかったからそれほどデカい音でもなかっただろうに、そんな音、あの状況下でよく聞こえたものだ。流石、超高校級の軽音楽部は伊達じゃないと日向は思った。
テーブルが動いたであろう件は、後でまた大広間に戻って確認するとして、次に俺たちは厨房へと向かった。
厨房に入るとソニアが、いろいろな調理器具をチェックしていた。まあ、ほとんどは危険物として十神が回収したから残ったのは鍋みたいな刃物ではないものばかりだった。
「あ、日向さんに十神さん。やはりあのガスコンロはここから持ち出されたもののようです。」
「だろうな、俺たちも先程確認したところだ。」
ソニアの報告に十神が同意する形で答える。
その後も、十神とソニアの会話が問答が続く。
「私は、厨房にまだ凶器になるようなものが残っているのではないかと心配になりまして、真っ先にここに来て調べていました。」
「なるほどな。ちなみに、捜査が始まってからここに来たのはお前だけか?」
「はい。急いでここに来たので、私より前に来た人もいないと思いますし、それ以降も十神さん達が来るまで誰も来ませんでした。」
「ということは、つまりだ。今のこの厨房の状況は、限りなく事件発生時と同じものだと思っていいわけだ。」
ソニアと話した俺たちは、厨房を出て何人かと出会ったが、得られた情報は、前周回と全く同じものだった。
弍大からは、殺人が起きるまでトイレが使用中であったこと、左右田からは会議室のプレーカーが俺たちの手の届かないところにあったことを聞いた。
さらに、倉庫には停電にするためのアイロンの仕掛けもセッティングしてあった。
そんな特に変わり映えのない情報を得つつも、俺たちはコテージ外で七海と狛枝に出会った。
どうやら、今週回では七海は狛枝と捜査しているようだった。確かに、狛枝を野放しにしておくわけにはいかないし、田中は一人で床下のイヤリングを回収しようとしているわけだからな。
「どうだ、七海。何か、役に立ちそうな情報はないか?」
「うーんとね、パーティー中だったかな。一回、九頭龍君がここを通りかかったんだ。」
「九頭龍だと?パーティーに来なかった割に何をしていたんだ?」
十神が不思議そうに考え込んでいるが、九頭龍がただ俺たちの輪に混ざりたいだけだと知ったらどんな反応をするだろうか。
「ま、彼のことはともかくさ。十神クンは何か見つけることができたの?例えば、自分の無実を証明する証拠とかさ。」
狛枝が十神を煽るも、当の十神自身は特に気にしていない様子で平然と答える。
「どうだろうな?それにしても、お前も疑われているというのに随分と余裕だな。」
「いやいや、そんなことないよ。これからどうなるのか、何が起こるのか、怖くて仕方がないよ。ただ、僕はみんなの為に死ぬ覚悟はできている、そういうことだね。」
「そうか。」
あっけらかんとしたいつもと同じ明るい雰囲気で、意味深な事を言う狛枝に、十神は一言だけ返した。
俺には、狛枝の言うみんなの為に死ぬ覚悟は、決して俺たちを幸せにするものではないと分かっている。しかし、十神の視点では、妙な事を言っているこの男はどのように映ったのだろうか。
そうして、十神の真意は分からないまま俺たちは大広間へと戻って来た。
「あっ、二人とも!停電前の位置を割り出せたから、紙に書きおこしてみたんだけど、どうかな?」
大広間に入るやいなや小泉が、声をかけつつこっちに歩みより、全員の位置を整理した結果を俺たちに見せてきた。
内容は、特に前周回と変わらないようだったので、検死をしていた罪木の元へ向かった。
「あ、日向さん、十神さん。今ちょうど検死が終わったところですぅ。」
「で、何か分かったことはあるか?」
「はい、えーっとですねぇ。花村さんの体にあった傷は胸のナイフによる刺し傷で間違いありません。でも、ナイフはかなり奥まで差し込まれたようで、臓器が酷く傷つけられていたんです。」
「でも、モノクマファイルによると花村の死因は、あくまで失血死だったよな?」
「はい。臓器の傷も致命的だったんですが、直接の死因は失血みたいですね。」
犯人がナイフを躊躇なく刺したから、花村は体内の奥深くまで傷つけられていたんだな。でも、ナイフで致命傷を与えたなら、どうしてその後ナイフを引き抜く必要があったんだ?
そして、そこで考えを途切れさせる知らせが響いた。
ピンポーン、パンポーン
「やっほー、モノクマだよ。みんな元気ー?さて、僕もそろそろ待ちくたびれたんで行っちゃいますか!それでは、みなさん。中央の島にあるモノクマロックの前にお集まり下さい。そんじゃ、そういうことで、ヨロシク。」
遂に、始まる。何度経験しても慣れることはない。絶望と死の象徴、学級裁判。これから始まるのは疑い、疑われ、騙し、騙され合う最悪のイベント。
それでも、俺は、俺たちは、乗り切らなければならない。この島を脱出するためにも。
そんな思いを胸に抱きつつ、俺は学級裁判場に足を踏み入れ、計7回目の学級裁判が幕を上げた。