「大!正!解!今回、花村輝々クンを殺したクロは、十神白夜クンなのでしたー!」
モノクマの結果発表が響き渡るも、そんなものはどうでもいい。耳にも入らない。各々が、困惑や怒りなどを滲ませながら十神の方を見る。
「十神よぉ。お前さんはどうして花村を殺したんじゃ。お前さんがワシたちに言っていた今までの言葉は全てウソだったと言うんか?」
「さっきも言っただろ。最初からお前たちの事など信用もしていないし、気にもかけてもいない。全てはお前たちを油断させるための策に過ぎなかったということだ。」
もはや俺一人が今からどんな言葉を吐いたとしても、十神が語っている嘘を覆すのはもはや無理だということはこの場の雰囲気が物語っていた。
「じゃあ、十神おにぃは最初から私たちを殺すつもりだったってことー?」
「当然だ。まあ、最も殺人を今回のパーティーで起こそうと決めたのは、俺の元に送られてきた殺人予告がきっかけだがな。なあ、狛枝?」
「君が、いつ殺人を起こそうと思い、どこで実行するかまで読むほど僕は計算上手じゃないけど、少なくとも殺人予告を送ったことは本当だよ。」
ああ、本当にとっさに話をここまで上手く合わせれるものだ。狛枝の言動がいつも異常に憎く感じる。
「そういうわけで俺は、こいつの計画を利用し、俺自身が卒業するための殺人を実行しようとしたというわけだ。
しかし、こいつがどんな計画を立てているか分からなかったからな。万が一にも失敗しないよう、暗視スコープや催涙スプレーも持ち込み、俺に抵抗できる武器になり得るものも回収したというのに、こんな結末になるとはな。」
「そもそも、どうしてあんたは殺人をしてまで卒業しようとしたのよ?」
小泉の問い詰めに対して、十神はいやらしく口角を吊り上げ、そして、俺たちを上から見下ろすように答えた。
「そんなもの決まっている。ここから出て十神財閥をより大きなものにし、より強固に世界を支配する存在にするためだ。」
その時の十神の言葉は、嘘だと分かっていてもとても恐ろしい、言葉の節々に冷気を纏ったようなそんな声で放たれた。
「そんなことの為に俺たちを学級裁判で皆殺しにしようとしたのかよ!」
左右田が怒りに声を震わせるも、微塵も響いていない様子で顔を歪ませながら、あいも変わらず冷たく答える。
「醜く喚くなゴミが。お前たち愚民の命など、俺たち権力者が生きる為の堆肥でしかない。俺の為に消費されるのは至極当然のことだ。世界というのは何百年も前からそのようにできている。
弱者や愚民は等しく、生まれついた身分や才能からは逃れられないんだよ。」
「お前言わせておけば、調子に乗ってんじゃねーぞ!」
九頭龍が怒りに任せて、十神の方に歩いて行き胸ぐらを掴む。九頭龍は、怒気のこもった目を下から十神に向け、十神もまた冷静にゴミを見るような目で九頭龍を上から見下ろす。
「九頭龍くん、暴力はダメでちゅ!十神くんもいい加減にしてくだちゃい!」
モノミも珍しく必死に九頭龍と十神に呼びかけるが、モノクマが場の流れを一気に絶望へと引き戻す。
「そうだね。モノミにしては珍しくいい事言うね。このまま、喧嘩が始まって、流石にこんなところでコロシアイを起こされちゃたまったもんじゃないからさ。さっさと始めちゃうよ、オシオキ。」
始まってしまう。ときには一瞬で、ときには時間をかけて俺たちを苦しめ、最後には命を刈り取る絶望の象徴オシオキが。オシオキが始まってしまえば、どれだけ後悔しようとももう二度と十神と言葉を交わす機会は永久に失われる。
最期に、どうしても聞きたかった。もう一度。十神自身の本音を。そうでないと、とても例え全てが終わっても納得できそうになかったから。
そして、俺は真剣な眼差しで十神をまっすぐ見つめる。
「十神、最後に聞かせてくれ。お前は、なぜこんな事件を起こしたんだ。」
「先程、言った通りだ。これ以上、そのことについて言葉を交わす必要はない。
だが、お前はこの俺に初めて屈辱を味合わせた男だ。せめて、死ぬ前に恨み言の一つでも言ってやらないと俺の気がすまん。」
そう言って十神は、まっすぐ俺の方に歩み寄る。そして、俺のすぐ目の前に立つと誰にも聞こえないような弱くかすかな声でその一言を呟いた。
十神はすぐにきびすを返して歩き出す。
「モノクマ、さっさと始めるぞ。オシオキとやらをな。」
「随分、余裕だね。けどね、そんなやつこそ最後には絶望するって相場が決まってるんだよ。」
俺が今まで押しとどめていたものが決壊するような思いだった。俺の目からは涙が零れ落ちる。自分の意思とは関係なく零れ落ちる。
「大丈夫ですか、日向さん?十神さんに酷い事を言われたのですか?」
ソニアが心配そうな顔をしながら俺に駆け寄るも、もはや俺には答えることができない。
それどころではないのだ。
その時の十神の優しく労わるような顔が頭から離れない。
お前は今から殺されるんだぞ。
なんで、なんで、そんな顔してるんだよ!
なんでそんな堂々としているんだよ!
「それでは始めましょう!オシオキターイム!」
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【人間⭐︎失格(仮)】
足場が開き、ただひたすら奈落へと俺は落ちていた。
感じるのは、自分が落ちていく感覚と地へと誘う重力のみ。
地に着く数秒の間に俺の頭では様々な事が駆け巡る。
人一人の命を奪ってしまったことは、どんな理屈で取り繕おうとも許されぬ大罪だ。
これが、そんな罪に対しての報いなのであれば、とうに受け入れる覚悟はできている。いや、受け入れないという選択肢など存在しないし、あってはならないのだ。
ナイフの刺さった花村を見たとき、何が最適解なのか一生懸命思考を巡らせたが今でもそれが正解であったのかは分からない。花村には、ナイフは根本まで突き刺さっており、誰が見ても助かることは難しい状況だった。もし、このまま花村が死んでしまったら、クロになるのは狛枝だ。
俺は皆の前で約束した。誰一人として犠牲者は出さないと。もはや、その約束を果たすことは絶望的だ。しかし、これ以上、俺が不甲斐ないばかりに犠牲者を出すわけにはいかない。たとえ、殺人を犯そうとしていた狛枝であろうともだ。
花村からナイフを抜く瞬間、なんと嫌な感触だっただろうか。飛び散る鮮血と共にもう二度と味わいたくない人の命をこの手で奪う感覚が俺を蝕んだ。
しかし、どんな誹りも罰も受けなければならない。
結果的には、罪木の言った通りやはり花村が助かることはなかったのだろう。だが、それはあくまで結果論に過ぎない。
もう犠牲者を出さないという大義名分を振りかざしてあんなことを行った以上、誰があいつらと笑い合うことなどできようか。
なにせ、俺は自らの手で犠牲者を出さないという約束を破ってしまったのだから。
俺が落ちたのは大量のゴミの山。とてつもない異臭が漂い俺の鼻や目を突き刺す。俺の真っ白だったスーツにも既に、ゴミがいたるところについていた。
そんなところに現れたのは、モノクマの仮面を被った大勢の子供たち。その子たちは、俺を取り囲むと、各々が大小の石を投げつけてきた。
小石によるチクチクとした普段ならそうでもない痛みもこれだけの量の石となれば明確な痛みとなり体を襲ってくる。俺はたまらず、円状になる子供たちの一点を掻き分け、逃げ出そうとする。
そして、子供たちを掻き分けたとき、掻き分けた子供の落とした大石が俺の右足を押し潰した。
俺はあまりの痛みに顔を歪めながらも、それでも必死に右足を引き摺りながら逃げる。後ろからは子供たちが石を投げつけてくる。
まさに地に堕ちた皇帝だな。しかし、これはこれで十神白夜の姿を借りた俺に相応しいおしおきであることは悪い気はしない。それにしても全く、最後の最後まで詐欺師の才能に縛られることになるとは。
俺は今まで、自分の才能を憎んで生きてきた。人を欺き、人を不幸にし、それによって得た利益で自分は生きる。常に纏わりつくのは、誰かにバレるかもしれないという不安と自分の人生が人の不幸の上に成り立つものであることに対する罪悪感だった。
決して安寧というものが俺に訪れたことはなかった。そう、このコロシアイ修学旅行が始まるまでは。
皮肉にも、この極限の環境下で俺は仲間を得て、本当の幸せというものを知った。確かに他のやつらにとっては災厄でしかないが、俺にとっては、この部分においては感謝していないわけではない。
そして、今日他者を欺くことによって仲間の命を、仲間の心を守ることができるのであれば、この才能をもって生まれたことも悪くないと思える。
俺は、最初で最後の超高校級の詐欺師の才能に感謝する。
いつのまにかあたりには雪が降り積もっており、右足をひきずることしかできない俺はほとんど前に進めなくなっていた。そのとき、後頭部にもの凄い衝撃が走り、一瞬前方が暗くなりながら、俺は地に伏せる。
どうやら、後頭部に子供たちの投げた大石が直撃したようだった。
それでも、前へ前へと俺は這い続ける。
雪のせいなのか、はたまた出血によるものなのか俺は自分の体が冷たくなっていっているのを肌で感じていた。
直に自分の命が尽きることを感じ取っていたのだ。
最期に思い浮かべるのは、この情景をモニター越しに見る仲間達の姿だった。
お前たちは何も気にする必要はない。ただ"利己的な理由で身勝手に殺人を犯した愚か者"が一人散っていくだけの話だ。花村が死んでしまったことは、さぞ辛いだろう。俺の事が憎いだろう。だが、それでいい。お前たちの怒り、憎しみは全て俺が引き受ける。
だから、お前たちはもう二度と殺人を起こさないでくれ。そして、必ずこの島から脱出してくれ。
お前たちなら必ずできると信じている。
そして、日向よ。人を欺くことに於いては、右に出る者のいない俺を嘘で欺けると思っていたのか。
ただ、内通者として疑いをかけてしまったことすまなかった。正直、最初は何か一人で隠し事を抱え、不自然な行動を繰り返すお前を疑っていたのは確かだ。
だが、殺人が起こってからの捜査に始まり、学級裁判が終わるまでどんなに辛い真実であっても立ち向かおうとするお前の姿を見て考えが変わった。
お前の姿は決して他者を陥れようとする者の姿ではない。もっと巨大な使命を背負い、他者を救おうとする者の姿だ。
確かに、お前は俺たちの知らない何か大きな秘密を抱えているのだろう。しかし、今のお前ならば安心して皆を任せられる。
根拠はないが、人の内面を見通し、そして自分の思うままに誘導する超高校級の詐欺師のお墨付きだ。
もう俺の体は1ミリたりとも動かない。意識はあるが、だんだんと薄れていき、目は虚になってゆく。
やはり、"超高校級の御曹司"十神白夜。自分の中の軸がしっかりと存在し、決して折れることのない彼として死ねることは悪くはない。例え、それが地に堕ちた皇帝の姿を模したものであっても。
ああ、自分はこのまま時間の経過とともにいずれ意識を手放すのだろう。
その時、倒れた十神の体を四方八方から放たれた槍が貫く。彼はその口から血を吐き、雪は赤に染まる。
十神白夜として格と気品を身に纏いながら死ぬことも許してはもらえない。無骨で何の変哲もない槍でただ刺されるだけ。所詮何もない空っぽな詐欺師として死ぬことしか許されないのだ。
十神はようやく悟った。これがモノクマの言う絶望なのだと。
そして、文字通り最期に十神は再びオシオキ直前に日向にかけた言葉を呟いた。
「後は頼んだぞ。」
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「エクストリーーム!!」
終わった。十神のオシオキが。皆、あれだけ十神に対して怒りをあらわにしていたのに、オシオキのあまりの凄惨さに絶句するばかりで、すっかり感情を削がれたようだった。
「みんな!こんなところで落ち込んでる場合じゃないよ。確かに花村クンと十神クンがいなくなったのは残念だし、とても悲しいよ。けどさ、この絶望的な状況を乗り越えてこその希望なんじゃないかな?」
狛枝は、変わらぬ様子。いつもの調子で皆に問いかけるも、そんなことで気持ちが切り替えられるのなら苦労はしない。
「狛枝よ。お前は、そもそもなぜ殺人を計画していたのだ。」
「だから、さっきから言ってるじゃん。全ては希望の為だよ。花村クンに殺人計画を話したのもその一貫さ。」
「えっ?輝々ちゃんに?」
「そうだよ。だからこそ彼はガスコンロを持って僕の計画を止めに来たんじゃないかな?」
花村...。あいつなりにあの後考えて、狛枝の計画を聞いても殺人を思いとどまってくれたんだな。でも、その代わりその計画を止めようとしてお前は....
「狛枝クン。もうそんな酷いことしないって約束してくれるよね。」
七海が狛枝に問いかけるも、あいつからはある意味予想通りの答えが返ってきた。
「うーん、やっぱり分かってもらえないんだね。僕はみんなの為に行動してるのに。ま、全ては僕の説明が下手だからみんなは悪くないんだけどね。
七海さんへの返答だけど、これからも僕は殺人を起こすか、あるいは犯人に協力するつもりだよ。だって、せっかくみんなの希望を育めるこの機会を生かさないと勿体無いよ。」
「あの残酷にして悪辣なる処刑を見た後もなお堂々と殺人予告をするとはな。」
田中が驚愕に満ちた表情で狛枝を見る。他のみんなもそんな様子だ。だけど、こんなのは十神の望んでいた俺たちの様子じゃない。ここで、争いが起こってしまえばあいつの死は一体何だったんだ。
俺はそんな一心で声をあげる。
「なあ、こんなところで言い合っていても仕方がない。今日はもう一度コテージに戻って全員休もう。
明日の朝、また食堂に集合しよう。それでいいな。」
「うん、そうだよね。今日はいろいろあって疲れたし。」
小泉が俺の意見に賛成を示したように、他の面々も納得してくれたようだった。
そうして、俺たちは地上へ戻るためにエレベーターへ乗り込んだ。
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〈エレベーター中〉
動機発表の時に人一倍、動揺を押し隠していた花村クンは僕の計画に便乗してくるかと思っていたけど、まさか僕の計画を止めようとしてそのまま死んじゃうなんてね。
しかも、僕はてっきりクロになるつもりだったのにまさか十神くんが庇ってくれるとは思わなかったよ。いやー、彼の責任感の強さを見くびってたね。
でも、折角十神クンが守ってくれた命なんだ。なおさら、この命はみんなの為に使って恩返しをしないとね。
それに、十神クンに生かされたおかげで、絶対的な希望が生まれる瞬間を見たいって欲も出てきたし。
それにしても、僕が花村クンを刺したことを十神クンは黙っててくれた。これで、必要以上にみんなに警戒されることもないんじゃないかな。
まったく、十神クンには感謝でいっぱいだよ。
こんな素敵な人に助けてもらえるなんて、僕はなんて幸運なんだろうね。
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【chapter1 幸運トロピカル】
END