chapter2-1
目の前には、白い天井が見える。
何の彩もない唯々殺風景な風景が眼前に映る。
どうやら仰向けに寝転んでいるようだった。
俺はゆっくり患者服を身に纏った上半身だけその身を起こす。
目に入るのは、同じく簡素で白い壁。
耳に入るのは、歓喜と驚きが混じったようなくぐもった声。
それも一つじゃない。二つ、三ついやそれ以上だ。
顔だけ動かしてあたりを見回すとそこにいるのは何人もの白衣やマスク、手袋を身に纏った人がいた。
そしてその人たちは、俺を取り囲むように立っている。
思わず声が出そうになるが、なぜか声が出ない。意思に反して体のみが機能していないかのように全く言うことを聞かないのだ。
そのまま俺は、その人たちに連れられて歩き出す。
目の端に映るのは、何本かの手術刀。
そのうち、インテリア一つない広い大部屋の中心から、壁にまるで場違いな様にぽつんと取り付けられている扉の前に行き着き、そして立つ。
医者の様な出立ちをした人のうち一人が扉を開けた。
その瞬間、眩い光が飛び込んでくる。
その光の強さに目が眩む。
目が眩んで....
......
....
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【chapter2】
言刃と厄災
友と幼馴染
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学級裁判の翌朝、俺たちはいつも通り食堂に集まり、朝食を共にした。
そのうちにモノミがやって来て、第二の島への入口を塞いでいたモノケモノに勝利したと自慢げにアピールしてきた。
そして、その報告を聞いた俺たちは第二の島への探索へと出かけたのだった。
俺が最初に訪れたドラッグストアでは、珍しく罪木が興奮した様子で棚に陳列された品々を調べていた。
「罪木どうしたんだ?何か気になるものでもあったのか?」
「あわわ、日向さん。大変です!見て下さい!ありとあらゆる医療用品が揃っています!こんなに素晴らしいドラッグストアは見たことがありません!」
「へえー。俺は薬のこととかはよく分かんないけど、罪木が言うならそうなんだろうな。」
「はい!薬も豊富にあるんですが、包帯もいろいろな種類がありますよ!私のおすすめはこのタイプの包帯です。日向さんが怪我をした時にはこれを使ってあげますね!」
そもそもそんな状態になりたくないけど...。
「あ、そうだ。もし、普通だったら取り扱いに注意が必要な危険な薬なんかがあったら、あまり皆の目の届かないようなところに移動しておいてくれないか?」
「分かりましたぁ。確かにそういった薬もあるにはあるみたいなんで、私が責任を持って預かっておきますね。
風邪薬や睡眠薬のような日常で使いそうな薬だけは誰でも手に取れるようここに置いておきます。」
「ありがとう。助かるよ。」
そうして俺はコロシアイに走らせる可能性のあるものを出来るだけ排除するようにしつつ、次に図書館に向かった。
図書館に居たのは、ここも前周回と同じくソニアと辺古山だった。
俺が図書館に入ると同時にこちらを振り向いたソニアと目が合い、本を片手に持ったままこれまた興奮した様子で駆け寄ってきた。
「日向さん、見て下さい!今回のオカルトマガジンの最新号はなんと殺人鬼特集です!めたんこワクワクします!」
興奮するソニアの圧倒的な圧に俺は若干押され気味だった。
「おい、ソニア落ち着けって。殺人鬼なんかに興味あるのか?」
あ、その言葉を言ったと同時にその言葉を発したのは間違いだったことに気づいた。
「なんかとは何ですか!殺人鬼は、独自の価値観で独自の世界を生きる唯一無二の存在です!
我がノヴォセリック王国には有名な殺人鬼の方がいないのは残念ですが、だからこそ!私は王女として!普遍的な!..」
「分かった、分かった。俺が悪かったよ。それで例えばどんな殺人鬼がいたりするんだ?」
このまま放っておいたらいつまでもソニアは語り続けるんだろうな。そんなことを思いながら、俺は謝った。
「えっと、ライト層の皆さんにも人気で知名度が高いのは、ジェノサイダー翔というセーラー服の殺人鬼の方です。現場に必ずチミドロフィーバーの血文字を残す愉快な殺人鬼なんですよ。」
「愉快...」
「しかし、今の私のイチオシは古今東西のヒーロー物の仮面を被って犯罪者を殺しまくるキラキラちゃんです!決め台詞まであってとっても痛快な殺人鬼なんですよ!」
「おい、なぜ殺人鬼の話をそんなに楽しそうにしている?」
辺古山が呆れたように俺たちを見る。確かに、自分で尋ねておいて言うのもどうかと思うが、そもそも殺人鬼の話題で盛り上がれるのは世界広しと言えども、ソニアを含めたごく少数人だろう。
「ソニア、ありがとう。よく分かったよ。」
俺は少し疲れた様子で図書館を後にした。
次に訪れたのはダイナー。おそらくここにいる奴は...
「あ?てめーか。」
やはり九頭龍が一人ご飯を食べていた。
「なあ、九頭龍。お前もいい加減みんなと一緒に朝食を食べたり、行動したらどうだ?」
九頭龍は前周回の生き残りであるようにクロにも被害者にもならなかったが、2回目の事件においては深く関与していた。
それに前回の事件で分かったように、必ずしも前周回と同じように進むとは限らない。十神と花村の立場が逆転したように、イレギュラーが発生する場合も十分にある。
そのイレギュラーを防ぐためには、被害者とクロにだけアプローチをかければいいというものではないということを前回で身をもって知った。特に、今回のような単純にクロと被害者の行動だけが引き金になったわけではないようなパターンでは。
「なんで俺がてめーらなんかと行動しなきゃなんねーんだよ。」
「だって、あんなことがあった後でもみんな協力して今の状況を打開しようと頑張ってるんだ。お前だって、今の状況が正しいだなんて思ってないだろ?」
「確かに正しくねーな。仲良しこよし頑張り合うなんてことはな!」
「えっ」
「俺たちは所詮つい最近顔を合わせただけの他人なんだ。心を許して花村みてえに殺られちまったらどうするんだ?
それに、情を持ったらこっちが殺るときにも面倒だしなあ。」
「なっ!冗談でもそんなこと言うのやめろよ。」
「そんなに気に入らねえんなら、てめーが俺の前から消えりゃいいだけだろうが。それとも、俺が今すぐ消してやろうか?」
まるで話に聞く耳を持ってくれない。
前周回では、九頭龍がこんな態度を取っていたのは2回目の事件が終わるまでで、それ以降は俺たちに協力的な心強い仲間となった。
だが、当に心を通わせた時間の方が長かっただけに、忘れていた。いや、正しくは不意をつかれたと言った方がいいだろうか。コロシアイが始まったころのこいつはこんなに強情だということを。
これ以上話しても埒が開かないと感じた俺は一度、ダイナーを離れた。
その後は、ビーチハウスでモノクマからビーチハウスでの着替えは禁止ということを聞いたり、遺跡の謎に皆が頭を悩ませるのを遠目から見ながら、その日は終了した。
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翌朝、いつも通り俺たちは食堂へ集まった。九頭龍はいなかったが...
それでも、最初は特に変わったことのない朝食を楽しんでいた。
その雰囲気の崩壊は弍大と左右田による狛枝の拘束が発覚したことから始まった。
「だってしょうがないだろ!あんなやつを放置しておいたらそれこそ何が起こるか分かったもんじゃないしよ。」
「確かにそれはそうだけど。」
小泉が左右田の主張に納得するのも無理はない。狛枝が殺人を計画していたのは事実なんだから、そのような気持ちになるのは当然だろう。
「でも、狛枝さんは殺人を計画してましたけど、疑心暗鬼になってまた花村さんの様な犠牲者を出さないようにするのも大事だと..」
「黙ってろゲロブタ!」
「ひぃぃ、ゲロブタですいませーん。」
「そもそもみんな甘すぎるんだよ。花村おにぃに同情するならまだしも、十神おにぃが死んだことを引き摺る必要ないじゃん。」
「確かに十神さんは、私たちの命をなんとも思わないような方でしたが、それでも悪いのはこのコロシアイを仕組んだモノクマさんです。十神さんは、モノクマさんの提示した奪われた記憶を戻すという動機のせいであんな凶行に走ってしまっただけだと思うのです。」
あれ?そういえば学級裁判の後は十神の処刑でそれどころではなかったが、モノクマの方から記憶について何も触れられなかったな。結果として、前周回と同じように取り戻せてはいないけど、何か違和感を感じる。
「ふん、そういうあんただって自分の国に帰りたいんじゃないの?自分の国の人の方がわたしたちより大事なんじゃないの?日本に来たことを後悔してるんじゃないの?」
「わたくしはそんな...」
「日寄子ちゃん。ちょっと落ち着くっすよ。」
「そうじゃのお。ちと言い過ぎじゃぞ。」
澪田と弍大が西園寺を諫めると、西園寺は一瞬言葉に詰まったがしかし、
「なんなの、みんなして!澪田おねぇも弍大おにぃも夢とか大切なものがあるんでしょ!ここから出たいと思ってるんでしょ!」
「それは...」
「う...」
確かにみんなこの島から一刻も早く出たいと思っている。それぞれの友人、夢、あるいは家族の為に。それだけに、西園寺の言葉を否定することは誰もできない。
「みんな誰かを殺そうと思ってるんでしょ!自分がこの島から出る為に!そんな連中と一緒になんて居られないよ。」
そういい放つと西園寺は少し涙を浮かべながら、スタスタとその場を後にした。
「待って、日寄子ちゃん!ごめん、みんな。あたしちょっと心配だから様子見てくるね。」
小泉はそう言うと、西園寺の後を追った。
その後は、最初の楽しげな雰囲気はどこへやら。各々の口数が減ったまま朝食はお開きとなった。
その夜、モノクマによって動機発表の為にジャバウォック公園に集められた。
「今回、ボクが用意したのはあの名作トワイライトシンドローム殺人事件です!うぷぷ、これがボクのオマエラに提示する次の動機だよ。」
「は?ゲームなんかが動機ってどういうことだよ?」
終里が不可解そうな顔でモノクマに尋ねる。
「このゲームのテーマはね隠された関係、いわばミッシングリンクってやつなんだよ。あとは、オマエラが実際にプレイしてみるといいよ。折角ボクが作ったんだから楽しんでよね。それじゃ、バイナラ。」
そう言うと、モノクマはその場から消えるように去った。
「このゲームには邪を呼び寄せる不可思議な呪いがかけられている。命が惜しくば、近寄らぬが賢明だろう。」
「ごめん、田中また何言ってるか分かんない..。でも、プレイしない方がいいのはそうだよね。」
「でも、小泉さん。実際にプレイしてみないと動機に対して、対策を立てられないんじゃないですかねぇ。」
罪木が、弱々しながらも小泉に反論する、
「もう夜も遅い。今、話しあっても纏まるものも纏まらないだろう。一先ず、このゲームについては触れないでおくということにして、今日は皆コテージに帰って休まないか。」
しかし、辺古山が皆に一度、帰って今日は休むことを促したためその場は解散となった。
罪木の主張も理解できる。実際に俺も前周回でそう思っていたからだ。でも、この動機のミソはゲームそのものが動機になり得るわけではなく、ゲームをプレイしたことによって得られる情報が動機になるんだ。
つまり、ゲームをプレイしなければ万事、大丈夫なんだが、"あいつら"がプレイする正確な時間を知らない俺は、ピンポイントでゲームのプレイを防ぐことはできない。そのため、いつ誰が来てもプレイさせないよう今夜一晩このジャバウォック公園で一夜を過ごすことにした。
また、俺は気付けていなかった。この動機発表の間、一言も喋らず少し俯いた様子だった西園寺日寄子に。
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夜は長い。南国ということもあり、夜風で寒さに震えるなんて悲惨なことにはならないが、何もしないでいるのは流石に手持ちぶたさだ。
暇つぶしに前周回で今ぐらいの時期に起こった事件を簡単に振り返ってみることにした。
まず、15:00頃にビーチハウスで小泉がバットで殴打されて殺されていた。たしか、左右田から女子たちの海水浴に混ざる計画を聞かされ、半ば強制参加させられたんだっけ。そういうこともあり、時間は結構はっきり覚えている。
小泉を殺したクロは辺古山だった。辺古山自身に動機はなかったが、殺人を犯しそうになった九頭龍に代わって先に先手を打って自分が殺したはずだ。
なんにせよこのゲーム"トワイライトシンドローム殺人事件"をプレイしなければ事件は起こり得ない。
そんなことを考えているうちに時間は既に0:00を回り、辺りはさらに闇に包まれていた。静寂に包まれ自分の心臓の音や呼吸音だけが聞こえる。そんな静寂を切り裂いて、鋭い足音が聞こえてきたのは突然だった。
俺は、誰かがゲームをプレイしに来たのだと思い、近くの草むらに隠れて様子を窺う。
カッ、そしてまたカッと一定のリズムで依然として足音は近づいてくる。
直線距離にして自分のすぐ近くまで来たところでその足音は止まる。ゲームの筐体の前に立っているのだ。
そこでようやく俺はその人影の主の顔を認識した。それは俺たちの中でも一際、童顔である九頭龍冬彦の顔だった。
九頭龍は、筐体に付いたコントローラーを手にして、今にもプレイしようとしている。そのため、俺は草むらから飛び出した。
草むらから飛び出したときの音に気づいて九頭龍も振り返り意外なものを見るようにこちらを見る。
「なっ!お前なんでこんなとこにいるんだよ。」
「それはこっちのセリフだ、九頭龍。このゲームはとりあえずプレイしないようにみんなで決めたじゃないか。」
「へっ。そんなものハナから約束した覚えはねえな。俺には関係ねえよ。」
ダイナーでは九頭龍の態度に思わずたじろいだが、今度はそうはいかない。このチャンスを逃してなるものか。
「そもそもこのゲームはモノクマの提示してきた動機なんだぞ。内容がどんなものであれ、それが俺たちの望むような結果をもたらすはずがない。プレイするのはやめてくれ。」
「動機だあ?そんなものこっちから望むところだっつーの。てめーらはこの極限状態が怖くてしかたねえのかもしんねえがな。こちとら、生まれたときから殺るか殺られるかの世界に生きてんだ。
今更、怖いもんなんてねーんだよ。」
「....本当にそうか?」
「どういう意味だ?」
「お前に怖いものなんてないっていうなら、なんでお前は今すぐにでも俺を殺さないんだ?
この真夜中、誰もいないジャバウォック公園だ。まず誰にも目撃されることなく殺人をすることができると思う。
それに、殺人を計画しているなら狛枝みたいに虎視眈々とその機会を狙うことだってできた筈だ。」
「知った様な口聞きやがって。お前に俺の何が分かんだよ。お、俺が誰も殺せねーって言いてえのか?」
「ああ、お前はそういうやつだよ。自分から俺たちを遠ざけるようなことをしつつ、人一倍俺たちのことを仲間だと思ってくれている。」
「....うるせー。」
「それにお前には俺たち以外にも大切な人がいる筈だ。俺は極道のことはよく分からないけど、厳しい世界だからこそ身近にある大切な存在の大きさに気づけると思ってる。それにお前はもう気付いてると思う。」
「うるせー。」
「もう一度言うぞ、九頭龍。お前はこのゲームをプレイするべきじゃない。それは必ずお前から大切なものを奪ってしまう。
それに俺はずっとお前を見てきた。お前を信じて」
「うるせぇぇぇぇええええええええええええええ」
その瞬間、俺の頬に痛みが走る。そして、俺の体は後ろに吹っ飛ぶ。
体が宙を飛ぶ一瞬にも満たない間に俺は自分の身に起こったことを認識する。
九頭龍が俺の頬を殴ったのだ。そしてその勢いで俺の体は派手に後ろに飛び、やがて仰向けになる様に地面に倒れる。
そして、地面に倒れた瞬間ガツンという鈍い音と後頭部に感じる鈍い痛みに包まれて俺は意識を手放した。