緋弾のアリア〜リュパンの懐刀~※新規執筆版   作:高所作業

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やったね作者!ストックがなくなったよ!!
ということでもう話のストックがない作者です。
というか、原作三巻部分が若干過去編ぶっこむかどうかまだ悩んでいまして……だって、りこりんが一番光るところですからね、可愛く書いてあげたいですけど、シリアスなシーンになるほど苦手になっていく悪癖が……!
それにしても、戦闘描写とか本当に難しいです。何度使えないはずの右腕使ったところを修正したことかって話ですよ。まあ、今回の戦闘半分ギャグみたいなものなんですけどね…………

3/21追記:土方のバイトキツすぎて草も生えません。四月の第二週まで更新できないかもです、フヒヒ、サーセン。


第十話『燃えよ、斬鉄剣』

 

「星伽――雪だな」

「……次元英介。調べたようで御座るな」

 妖刀は、地下倉庫の五階で、俺を待っていた。ここは、物が少なく、ある程度の広さが確保されているため、動きやすい。

 以前遭遇した時のような面はつけておらず、凛々しい顔がさらけ出されていた。

 また、髪を白い紐でテールに結い上げており、それもまた、彼女の凛々しさを醸し出す一因であろう。

「待っていた」

「誰を」

「お主を」

「何の目的で」

「言うたではないか、死合おうぞと」

「しあう……?」

 何をしあうんだ、一体。

「死に合で、殺し合おうという意味で御座ったが、なるほど、伝わってはおらぬか」

「ああ! そういう意味だったのか、ずっと引っかかってたんだよ」

「では、早速――」

「悪いが、無理だ」

「……何故か」

「武偵法九条を知っているか」

 妖刀は、首を横にふるふると動かす。

 ああ、そうだと思ったよ。

「お前は――そう、日本で言う武偵法九条がない国で、ここ二年を過ごしたろう。例えば――アメリカ? いや、アフリカ、でもなければ中東か」

 俺は、質問で地域を挙げるごとに、彼女の表情を確認する。

 すると、最後の中東で少し、目が動いた気がした。

「ははあ、中東か」

 俺がそう言うと、彼女は何故わかったのか、とでも言いたげな、驚きに満ちた表情をする。

 やはり、俺の読み通り、こいつは直情的で、考えがモロに顔に出るタイプだ。こういう手合いは、やり易い。

「中東の、そうだな、もしかして、イラクとか……?」

 俺は、自分の行ったことのある国から適当に挙げていくことにした。

 すると――

「何が言いたい……!?」

 図星だったようだ。

「いいだろう、殺し合う前だ、世間話くらいさ。いや、俺もイラクは行ったことがあるんだ。砂漠が多いよなあ」

 俺は先程無理と言ったことを棚に上げて、話し始める。

「……ああ、そうで御座るな」

 妖刀は、不服そうだが、俺の話に付き合う気でいるらしい。やはり、きちんと殺し合うのだという宣言をしたのが、効いたのだろう。

「俺は軍属だったんだが、お前は、何をしていたんだ」

「……修行の旅を」

「へぇ、修行ね。このご時世ご苦労なことだ。仏像でも彫っていたのか」

「いや、辻斬り紛いのことをしていた」

「辻斬り、それは、解せないな。お前のような奴が、快楽殺人者とは」

 すると、妖刀は怒ったようにしてこちらを睨む。

「滅多なことを言うな。拙者は、殺すことが楽しいのではない。ただ、純粋に戦いを――」

 なるほど、段々こいつの正体が見えてきた。

 人斬りというには生温いが、それでも戦闘行為に対して快楽を覚える種類の人間。

 それが理由で、星伽を脱したのだろう。

「それで、どうして白雪を狙う」

「……白雪様を狙っておるのは、ジャンヌだけで御座る。拙者は、ただ、お主と戦うように言われただけのこと」

「言われた? 誰に」

教授(プロフェシオン)。修行を続けていた拙者に、拙者の往くべき道を示すと、そう言いおったのだ。狂言だが、どこか信用に足る言葉で御座った」

 教授……!?

 一体、何を考えている。俺とこの女を戦わせて、何をしようというんだ。

「さあ、戯れもここまでぞ! 次元英介は稀に見る猛者であると聞き及んで御座る。さあさあ、勝負勝負!」

 そう言って、妖刀は持っていた日本刀とは別に、足元に転がっている、これも持ち込んだであろう日本刀を、俺に投げる。

「刀で戦った経験は?」

「ない。だが、格闘戦で遅れを取る気もさらさらないね」

 俺はそう言いながら、口で鞘を固定して、刀を抜く。

「ふふ、結構――フンッ!!」

 妖刀は、自分の刀を右手だけで大上段に構え、そのまま俺に突進して振り下ろす。

 一瞬のできごとだった。まさに神速。速さでは圧倒的にあちらに部がある。

 俺はそれを、後ろにステップして回避。

 彼女は、俺の様子を見て、しばらくは日和見に専念すると断定したのだろう。次のモーションは、その振り下ろした刀をさらに突き出して、刃を返して切り上げてきた。

 俺はさらにバックステップで回避する。それにしても、何て大振りだ。流石に嘗められてるな……

 どの道このままだと壁際まで追い詰められてしまうので、俺は相手の振り上げた刀をこちらの刀で捲り上げつつ、タックルした。こうすれば、絶対に相手は刀を振れない。

 それにしても、存外に刀ってのは重いんだな。

 妖刀はそのタックルを俺から見た左方向へターンして躱し、そのまま横薙ぎに切りかかろうとする。

「ハッ!!」

 俺はそれを、しゃがんで躱し、右腕を軸にして反時計回りに地自身の足で妖刀の足を払いにかかる。

「よっ!!」

 そして、妖刀は俺の狙い通りにジャンプした。

 妖刀は、ナイフコンバットの経験がないのだろうか、ジャンプしたら負けだということを、知らないらしい。

 俺は足払いの回転力を利用して、転がるように右手の刀を妖刀の脹脛に斬りかかる。

 しかし――

「ッ!!」

 妖刀は空中で身を翻し、上体が下に向くようにして俺の攻撃を回避した。

 何だ、あの動き。奴は体操選手か!?

 足も刀も打ち止めの俺だが、相手もこれ以上の空中での機動はできないらしく、スタッ、と華麗に着地した。

 俺も転がって距離を離してから、再び刀を構える。

「ああ、楽しい。楽しいぞ英介!」

「そうかい。――なあ、質問してもいいかな」

「拙者に答えられることなら」

「どうして、左腕を使わないのか、っつー質問なんだが」

「……バレてしまったか」

 バレるも何も、結構明白だったんだが……

「いや、お主を軽んじてのことではない。フェアプレイ……? とかいう精神だ。わかるか」

「フェアプレイを楽しみたいなら全力で来な。今のままじゃ、ちょっと役が勝ちすぎてるぜ。妖刀さんよ」

「むう、そうか? では、本気で参るぞ、よいので御座るな」

「かかってきな。お嬢ち――」

 俺がそう言い終わる前に、妖刀は凄まじい突進力でもって、俺の鼻先を掠めてきた。

「ッ……!?」

「拙者はとうに女を捨てた身ぞ!」

 これだから、激情型の人間は困る。

 だが、これでいい。こいつがこういう性格なのはわかりきっているので、もっと怒らせて、冷静さを欠いてくれればな。

 妖刀は、そこからも力任せに刀を振り続ける。

 俺は堪らず、近くのラックの裏に避難するが――

 キンッ!

 一瞬の金属音の後、ラックは二段目と三段目が泣き別れとなって、三段目より上の荷物ががらがらと崩れた。

「おいおい、嘘だろ。マジで『斬鉄剣』かよ」

 読みは当たっていたが、いや、当たってほしくない読みだったな。

 やはり、奴の刀は『斬鉄剣』だった。

 流星という銘では気付かなかったが、あの刀の元々の持ち主は――

「『五エ門』の亡霊が!」

「否! 拙者こそ、『十四代目・石川五エ門』! 最早、星伽の姓も雪の名も、過去のものよ!」

 そう言いながら、妖刀は、俺に斬撃を浴びせようと、刀を振り回す。

 石川五エ門。そう、奴こそが、十三代目・石川五エ門の娘なのだ。まだリュパン三世達と行動を共にしている時、十三代目から娘がいると聞いていた。それが彼女らしい。

 盗人忍者が何の因果か侍気取って現代では巫女さんやってましたって、外人にウケそうだな。

 そして、彼女の刀――『斬鉄剣』。

 名は体を表し、本当に金属――だけでなくほとんどのもの――がバターのように切断できる剣だ。防刃制服も、意味がないだろう。……制服で受けようとしなくてよかった。

「ハッ、五エ門がこんなチャチな太刀筋見せるかよ!」

「知ったようなことをッ!」

 五エ門は、さらに息遣いを荒くしながら、大振りの斬撃を繰り返す。

 それは、素人の俺でも意外な程に避けられて――

「そら!」

 ガスッ! という鈍い音と共に鳩尾に俺の蹴りが入る。

「ぐ……!」

 そして、俺は、彼女の綺麗な顔に、一発、二発と、ジャブ。

 五エ門は少しフラつきながらも、俺から距離を取って、体勢を立て直した。

「クク、容赦がないな」

 口内に溜まった血を吐き出しながら、言う彼女には、まだまだ体力はありそうだ。

「これは、ちょっと、本気を出さねばなぁ……!」

 すると、何を思い立ったのか、自身の髪を束ねていた紐を解いた。

「髪を解くことが、本気を出すってことか?」

「左様。英介、できれば屠ることはしたくなかったので御座るが、そうもいかぬ」

「ほぅ、そりゃ、何でだい」

「お主が、星伽の禁制鬼道を目にするからだ。よもや、ここまで追い詰められようとは、思わなんだからな」

 原因を作ったのは自分だろうが。と、心の中で突っ込んでおく。

「禁制鬼道――ああ、白雪が言っていた、超能力の話かよ。見せてみろ、ストリートパフォーマンスは嫌いじゃあない」

「その軽口、いつまで続けられるか――」

 瞬間、五エ門の斬鉄剣から、青い炎が勢いよく立ち上った。

「試してしんぜよう」

 ……? どういうことだ。青い炎は、完全燃焼。酸素が十分に行き届いた『物体』が燃焼する場合にのみ発生する。

 そもそも、あの刀は物を燃やす際の三要素について欠けている部分がある。

 温度は、刀身のことと超能力で説明がつきそうなものだ。

 酸素は、十分か知らないがこの部屋にはある。

 可燃性物質は、どこにあるんだ。刀が酸化している様子も特にないし。

「不思議な焔よ。この斬鉄剣は、拙者に星伽の者しか扱えぬ能力を与えた。即ち、焔を操る能力で御座る」

「なあ、つまり、あれだろう。科学的見地でどうこうじゃなく『そういうもの』だっていう認識で、いいんだろう?」

「ハハハ、まさにその通りよな!」

「ったく、これだから超能力者はよぉ……」

「――では、そろそろ参ろうか」

 五エ門は、陽炎が立つ刀を正眼に構えて、俺を見据える。

「星伽候天流、緋炫毘――――!!」

 刹那。

 まさに閃光のように尋常ならざる速度で駆けた五エ門が、俺の首目掛けて横一線に刀を薙ぐ。

 俺はそれを、既のところで仰け反って回避し、そのまま尻餅をついてしまう。

「頂くッ……!!」

 その大きすぎる隙を、彼女が見逃すはずもなく、彼女の刀が真っ直ぐに振り下ろされようとしていた。

 俺はそれに対して、動かない右腕をガードするように前へ出した。

 しかし、右腕な一本や二本、難なく両断し、俺の胴体まで届くであろうその刃を、五エ門が引くはずはない。

 むしろ、好機と捉えたのだろう。恍惚とした、薄ら笑いを浮かべながら刀を振り下ろし――

「っ……!?」

 それが、俺の『右腕』で止まった。

 俺は、アホみたいに熱いので、すぐにその刀を振り払う。

「は、はは……!!」

 俺の口から、思わず笑い声が漏れる。

 やったぜ。イチかバチかの作戦だったが、成功してよかった……!

 五エ門は、何が起こったのかわからず放心している。

 俺は、その隙を逃さず、奴の手から刀を奪い取る。すると、途端に青い炎は消えた。

 そしてそのまま、個人的にこんな時じゃなきゃ使わないような技をかけにいく。

 自分の刀を離して、左手で五エ門の頭を掴み、そのまま引き寄せて膝蹴りをする。確か、カウロイとかいうムエタイ技だったと思う。一度やってみたかった。

 悶絶して、それでもまだ立っている彼女のタフネスには、本当に参るな。

 俺は、それを引き倒し、そのままサッカーボールキックで彼女の側頭を蹴り上げようとする。

 しかし、そこまでやってしまうと、本当に殺しかねないので、俺は、刀をできるだけ彼女から遠ざけて、手錠を引っ掛け、その横に座る。

「フゥ……」

 俺は五エ門の方を一瞥して、本当に蹴らなくてよかったな、と独りごちる。

 だってな、蹴られる寸前のあいつの怯えた顔見たらなぁ……、マジで、一生トラウマになっちまうよ、俺のな。

「くく、はははは……」

 自然、笑みが漏れる。

「……笑ってくれるな。これでも、実力は出し切った」

「は、はは――バカ、違ぇよ。死に際だったんだぞ。笑わなきゃ、やってらんないよ。笑わせんな、この野郎」

 というか、こいつ、まだ喋れるのか。本当に丈夫な奴だな。

「教えてほしい。何故、拙者の刀が――」

「うん、ああ、あれか。あれも最高に笑えたぜ――ほら」

 俺は、左手の袖を捲くり、仕込みの正体を見せる。

「蒟蒻の腕だよ。漫画みたいだろ。ハハハハ! 全く、お笑い種だよなぁハハ、ハハハ」

 俺の腕には、コンビニで買ってきた蒟蒻類が、びっしりと巻きついていた。ああもう、本当に笑いが止まらないじゃないか。

 それを見せると、五エ門も力なく笑いながら、

「どうして、斬鉄剣に蒟蒻は斬れないと?」

「お前の親父さんさ。俺は、ガキの頃リュパン三世の一味と旅してたからな。その時に聞いたんだ」

「はは、道理よな。すると、お主の父親も、次元?」

「……ここだけの話だ。他言無用だぜ?」

「あそこに転がっている斬鉄剣に誓って」

「俺は、あの三人に拾われたのさ。だから、次元との血縁関係はない。ただ――」

「ただ」

「弟子だから腕は超一級!」

「ふふ、そうか……、峰理子にも、会ってみたいもので御座るが……」

 そう言うと、妖刀は、壁に縋って、息を整えだした。

 それと同時に、階下へ続くハッチが開いたので、俺は咄嗟に銃を抜いて、そちらに照準する。

「英介! どうしたんだ!?」

 キンジだよ、全く、もう少し早めに登場してほしいもんだな。

「遅いぞ、キンジ。魔剣の共犯者、こっちでとっ捕まえたから、運んでくれ」

「お前、大丈夫か、怪我してないのか。つーか、何だそれ、蒟蒻?」

「プッ、ククク……、ああ、そうだよ。今回の戦闘の一番の功労者さ。帰ったら味噌つけて食っちまおう。――そっちの可愛子ちゃんは、精密検査にかけてやれ。でこに膝くれてやったぜ」

 すると、先程出てきたキンジ、そしてアリア、白雪に続いて、こちらは手錠をかけられた、銀髪の少女がハッチから顔を覗かせた。

「やあ、すまんな、ジャンヌ。このざまに御座る」

「気にするな。私とて、見ての通りだ」

 共犯者同士で二言三言話した。

 うん、ジャンヌ……?

「なあ、もしかして、ジェーンかい? それが素顔なのか!」

「……そうだ。お前には、初めて見せるな、英介」

 そのやり取りを見ていたキンジとアリアが、また怪訝そうな顔をしている。

「英介、知り合い、なのか」

「イ・ウーの同期」

「あ、そうですか……」

 キンジは、どうも窶れた顔をして、ジェーンを連行していった。

 それに気まずそうな顔をした白雪と、ご機嫌最高潮のアリアも、妖刀を連れてついていく。

「英介! 置いてくわよ!」

 アリアの声が聞こえる。

「先、行ってくれ! ちょっと、疲れちまった……」

 俺は、そのまま、壁に凭れて、小一時間ほどを過ごした。

 

 †

 

 そして、アドシアード最終日。

『あの一閃は誰が?』

 不知火のお上手な英語の歌詞が、場内に木霊する。

 しかしまあ、あの流星のような一閃は、そう、まさしく彼女が放ったに違いない。

 本当に、超能力は厄介なものさ。肝に銘じておこう。超能力者には蒟蒻が有効ってな。

 それにしても、星伽雪。

 奴は、いい戦力になる。どうせ司法取引のネタなんていくらでも持っているし、ここは一つ、釈放という形で恩を売っておくのも悪くはない。

 そうさ、ブラドを倒すためなら、俺は、何だってしてやる。

 それに、昨日の敵は、今日の味方とも、言うだろう?

 観客席からぼーっと屋外ステージを眺めていると、アリアも練習していたチアの登場だ。

 うん、これは、確かに眼福だ。

 そして、歌詞が最後の方までくると、チアのボンボンを投げ飛ばして、その下に持っている拳銃の空砲を撃つ。

 銃はいらないが、見ている分には華があっていい。

 特に、アリアと違って、成長著しい白雪のチア姿を見ていると、そう思うね。

 等と、考えていると――

 ヒュッ!!

 俺の真横を、亜音速で飛来した物体がすり抜けた。

 何事かと、後ろを見ると、ひしゃげたそいつは.45ACP弾。アリアのガバメントで使う弾だ。

 まさかと思って、チアの方を見てみると――

 アリアがこちらに鬼の形相を向けていた。

「嘘! そりゃ嘘だあ!!」

 思わず叫んだ俺に彼女は満足げに頷き、また空砲を撃った。

 

 †

 

「春宵一刻、値千金よな」

「お前、取り調べ受けてる自覚あんのか」

 五エ門は、強化ガラスの窓から見える夜景を眺めながら、そう言った。綴の拷問――通称・尋問――を受けてもなお意識を平然と保っており、現在もこうして俺と釈放の話をしながら、ピンピンしていた。

 何でもかんでも話すもんだから、鍵の一つもついていない空き教室を取調室して割り当てられた重犯罪者。……何だか、急にバカらしくなってきたぞ。

 俺はといえば、SSRの摩訶不思議な療法を白雪にも手伝ってもらい、アドシアード閉会から数日でギプスが取れるほどとなった。

「なあ、お前、白雪を呼ぶとき、様つけてたよな」

「……それが?」

「白雪がお前のこと、従者って言ってたよ」

「ハァ、昔の話に御座れば、忘れられよ」

「お前の性癖、ねぇ……」

 戦闘行為で高揚する人間は、ざらにいるが……

「み、妙な表現を致すな! 拙者は、星伽には馴染めぬからこそ、出家したのだ」

「つーかよ、その悪癖隠して星伽に残るって選択肢はなかったのか?」

「……あまり、他言するでないぞ」

「ああ」

 保証はしないが。

「昔のことに御座る。拙者は――」

 五エ門は、星伽の歴史上、最も剣の才能があると誉れ高く、白雪の従者としてもまたよく務めていたらしい。

 その一貫で、白雪と剣術の稽古をしている時だ。

 五エ門は白雪と同い年とはいえ、その頃はまだ実力に雲泥の差があった。

 そこで、勢い余って、白雪に大怪我をさせてしまったらしいのだ。

 しかし、彼女がそれに対して覚えたのは罪悪感ではなく、興奮や優越感――多幸感だったという。

「皆は気づいていなかったようだが、額から血を流している白雪様を前にして、私は薄ら笑っていた! 笑っていたんだぞ!? まるで、花を手折る子供のようにだ! それに気づいた時――――あれほど自分が嫌になった瞬間はない……!」

 五エ門は、自己嫌悪に浸りつつも、俺に当時のことを話した。

「そも、星伽の姉妹多けれど、星伽に馴染めなんだは拙者だけよ。それは、拙者だけが、闘いを愉しんでいたからだ。ジャンヌに協力したのも、白雪様に会えば、拙者の蛮行を諌めてもらえるやもしれぬという、浅慮が元よ」

「へえ、ま、気持ちはわからんでもないがね。俺だって、お前を倒した時は笑ったさ。しかし、まあ――」

 俺は、一頻り彼女の言葉を聞き終わると、もう一人、聞いていた人物を呼ぶ。

「だとさ、白雪」

「――失礼します」

 すると、取調室の戸を引いて、白雪が入ってきた。

 星伽の巫女服を着た彼女は、床に膝をつき、正座した。今日の彼女は、武偵高の星伽白雪ではなく、星伽巫女の白雪として、ここに来たらしいのだ。

「雪、そこに直りなさい」

「え――」

「雪」

「……はい」

 俺は、我関せずとばかりに外の景色を眺めるようにして、白雪と顔を突き合わせて正座する五エ門から目を背ける。まあ、ガラスの反射で見えるんだがな。

「まず、あなたが星伽対して、私に対して抱いてきた背徳感や疎外感、それらに気づくことのできなかったことに、謝罪させていただきます」

 そして、そのまま、すっ、と額を床につけた。

「!? し、白雪様! ああ、そのような――お止めください!! 私などには頭が低う御座います!」

 五エ門は思わず立ち上がって、慌てながら白雪を制止する。

 というか、こいつ素の一人称、私なんだな。結構言葉遣いからも現代的なものが見受けられるし、キャラ作りがかなり浮き彫りになっている。まあ、俺も似たようなものだが。

 すると、白雪は、頭を上げ、正座したままで、五エ門に真剣な眼差しで話し始めた。

 五エ門もそれを見るや、また正座し直す。

「どうして、相談の一つもなく、星伽を出たのです。妹達はともかく、私にも何も言わないとは何事ですか」

「なれば! 私に素面で申せと仰るか! あなたを嬲って心底愉しかった、と――ッ……!!」

 五エ門は、途中から自分の言っていることに気づいたのだろう。最後のあたりで言葉を詰まらせるように、息を飲んだ。

「よいのです。話は全て、聞かせてもらいました」

「おのれ、謀ったな、英介!」

「ヒュー、ヒュー」

 口笛を吹いて誤魔化してみた。

「貴様ァ!」

「雪ッ!!」

 白雪の、普段からは想像もつかないような声に、俺もそうだが、五エ門も一瞬肩が震えた。

「あなたは、私による断罪を望むのでしたね」

 すると、白雪は、五エ門の方に歩み寄って、その眼前に立った。

「……蛮行を繰り返した私に、あなたが手を下していただけるのなら、それが、最もなことでございましょう」

「……覚悟は、できているのですね」

「――はい」

 雪は、穏やかながらも、哀切を含んだ声色でそう言い切った。

 そして、白雪は自身の手をあげ――

「ッ……!!」

 覚悟はあると言いつつも、やはりおっかなびっくり目を食いしばっている雪の頭に、諭すように乗せた。

「…………赦します」

「……!? し、しかし、それではあまりにも――」

 そう強がる雪を、白雪はさらに抱きしめ、

「あなたが何をしようとも、赦します。今まで、ごめんなさいね、雪」

 と言いながら、さらに強く抱きしめた。

 それに触発されたのか、雪は切れ長の双眸から大粒の涙を流し、まるで子供のように泣きじゃくる。

「あなたは卑怯なお方だ! 石川五エ門じゃない、星伽雪を知っているから! だからそのようなことが言えるんだ! 私が、私が――――本当は赦してほしいことを知っているから!!」

「本当に、ごめんね。何もしてあげられなくて」

「何と、酷いお方だ。そのようなことを言われれば、赦すほかないと、知っていて言うのだから……」

 そう言いつつも、雪は白雪の抱擁にしっかりと返しているようだった。

 しかし、白雪よ。この前の俺の時とは正反対に見えるぞ。多重人格か、お前は。

 彼女らを背に見る春の夜景は、まさに値千金に見えた。

 

 

 

 

 




3.11検索しましたねぇ。少し不謹慎に申し上げると、広島では土砂崩れはあっても津波はないので、東北の方々の気持ちは実際よくわからない、というのが本音です。
作者は身近な人が死ぬという経験もないので、人生経験のなさが嫌になります。人が死ぬことなどはない方がいいのでしょうが……
遅れ馳せながらこちらでもご冥福を祈らせていただきます。
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