緋弾のアリア〜リュパンの懐刀~※新規執筆版   作:高所作業

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うおおおおおおお!!(すごい漢並みの感想
やっと投稿できました! 大変長らくお待たせした割に短いとか言われそうですけど大丈夫です。むしろ言ってください。お願いします。
もう勉強とガンプラに時間取られてヘトヘトです。今回も、ちゃんとチェックしてないので、謎展開、謎口調、誤字が目立つ、駄文等が見られるかもしれませんが……仕様です。


第十一話『﨟たし彼女の帰還』

 ――例えるなら、そこは、地獄。泥の味と血液による鉄分の味が口内を満たし、硝煙と錆び付いた鉄、それと腐敗臭が鼻腔にひどく不快感を与える。

 キリング・フィールドなどと言い換えてもいい。指先には引き金を引く感覚がいつまでも残り、肩にはストック越しに伝わってくるリコイルが日を跨いでも響いてくる。

「ハアッ、ハッハッ!! ああ――クソッ!!」

『航空支援はまだかよッ!! 早くスナイパーを何とかしてくれぇッ!!』

『弾がない!? 誰か! 誰かぁ!』

『分隊は全滅! 繰り返す、分隊は全め――』

 イラク戦争。それが、俺が初めて経験した戦争だった。

 米軍の非公式少年兵部隊である俺達は、戦時中にイラクに民間人を装って潜入し、敵のゲリラ部隊を掃討し、その武器を鹵獲して使いながらそれを繰り返すことで徐々に敵の勢力を排除していった。ゲリラっていうのは、銃を持っていない時には民間人とほとんど見分けが付かないから、司令部からは民間人が例えば三十人以下の場合は射殺が許可されたり、疑わしきは罰する、などという言葉なんて幼稚に見えるくらい、無差別に人を殺した。言い訳なんかしたくはないが、俺が撃たなければ味方が撃たれる。そうやって、自分を納得させてきた。いつも気がついたときには、マガジンは全部が空になっていて、生きている人間も仲間以外にいなくて……

 俺達に、正義はあっただろうか? ましてや、そんな質問をするのは、烏滸がましいのではないだろうか?

 何度、この問を自問自答したかはわからない。そして、その度に俺は、仕方なかった、と呟くのだろう。

 しかし、そんな俺にも、罰が与えられるらしい。もう、いつのことかも、どこでのことかも、忘れてしまったが――

 

 †

 

「――おい、起きろ。――起きろ! エイスケ・ジゲン一等軍曹!」

「ん……、おはようございます。ウィリアム・ウィルソン少尉」

 揺れる兵員輸送車の中で、目を覚ました。寝汗が酷い。BDUの下に着込んであるシャツが汗で張り付いて、気色悪かった。

 俺を起こしたのは、ウィリアム・ウィルソン隊長。少尉といっても、軍曹の俺と同い年か少し上なくらいだ。というのも、このトゥーム・インスペクター小隊は、比較的若い少年米兵の集まりであるので、全員が子供であった。

「もうすぐ、敵の前線基地だ。汗はまだ出ているか。全員、水分補給を怠るなよ!」

 ウィリアムが一喝し、俺の横に座っていた、ピーター・P・パターソン二等軍曹が声をかけてきた。

「お前、このクソ暑い中でよく寝れるよな」

「最近、寝不足でな」

「ああ……、わかるぜ。俺もだよ」

 来る日も来る日も、虐殺にも似た戦争という行為を繰り返しているのだ、精神が磨り減っているのが、自分でもわかった。

 ペルメルのキングサイズに火をつけて、煙を少し吐き出す。

「……なあ、ピ-ティ」

「何だよ」

「昨日、俺らがやっちゃった女の子さぁ、あれ敵だったのかよ」

 俺達がゲリラ兵の集まりに混じって丁度攻撃を始めたとき、横切った少女を無思慮に殺害してしまった。

「…………知らね。交戦中に出歩いてる奴が悪いんだろ。んなこと言うんだったら戦犯だっつって裁判にかかればいいじゃねーか」

「つわれてもな……、俺が民間人殺しましたっていう証拠がねーんだから仕方ねえ。それに、司令部は俺らを裁判にかけちゃくれないだろうさ。非公式部隊なんだからな」

 前に襲撃したゲリラ基地から接収した水で、喉を潤す。

 コーヒーの一杯でも飲みたいが、贅沢は言っていられない。

「合言葉はスターと言ったらテキサスだぞ! 忘れるなよ!」

「うぃーす……」

 戦闘が続いて、俺達は疲弊していた。

 銃も弾薬も食料もあるのに、気力だけが足りていなかった。

 俺が、煙草を携帯灰皿に入れようとした瞬間――

「ッ――――!!」

 世界が割れた。

 俺の視界には先程まで眼前にあったものが全て破片と化して宙を待っていた。

 そこで、俺は悟るのだ。

 ――ああ、夢、だな。と。

 

 †

 

「ッ!! ハッ……! はぁ……?」

 汗だくで目を覚ませば、そこは自室のベッドの上。

 暑い夢を見た気がするが、さて、どんな夢だったか……

 ただ、気温のせいでこのようなことになったのは間違いないだろう。

 俺は、体に張り付いたTシャツを脱いで、クローゼットを開いて制服のカッターシャツと新しい下着を取り出すと、それを身につけてから大分乾いてきた喉を潤すため、キッチンの蛇口を捻って、出てきた水をそのまま口に運ぶ。

 ガブガブと一頻り飲んだあたりで、顔を上げると、シンクの横に置いてある、皿に盛られた二つのおにぎりが目に入った。

 綺麗な三角形をしたそれは、五エ門が作っていったものなのだろう。

 昨日、司法取引を終えた彼女を部屋に泊めたのだ。体の関係はない。断じてない。

 皿の端には沢庵が二切れほどついていて、横にはインスタントの味噌汁と電気ケトルが用意されていた。用意がいいというか、何というか。コップに水をもう一杯注いでから、それらを全て平らげた口を潤すと、シンクに置き、大きく背伸びをすると、壁にかけていたジャケットを羽織って、学校へ行く準備を整えだしたところで思い至る。

 そういえば、五エ門は、どうして俺に何の断りもなく出ていったのだろうか。彼女は、一晩話し込んだだけでも律儀な人間だとわかる。一宿一飯の恩義がどうのとか、真っ先に言ってきそうなものだが……、とも考えたが所詮は他人の考えることだから、俺にはわからないんだろうなぁと八分目まで膨れた腹に多幸感と、恐らく悪夢を見たことによる脱力を感じながら、登校するために身支度を整えてから家を出た。

 

 †

 

 キンジは最近、登校拒否ならぬ下校拒否というのをしているらしい。大方の授業を終えて後、放課後となっても視聴覚室で武藤・不知火らと共にバトルスピリッツやwiiに打ち込んでいるのだから、それはもう、暇な奴だなあと言う他ないように思える。

 而して、俺もその遊びに加わるため昼休みに自室からデッキを持って教室まで戻ろうとしていたのだが、そこで、携帯電話にメールが来ていることに気付いた。音から察すると、登録していないアドレスからだろう。

『峰理子が遠山キンジに接触を図ろうとしている』

 という内容のメールだったが。アドレスは……、フリーメールのものだ。個人の特定は無理だろうな。メールの意図について、考える。

 まずは、この情報の真偽だ。

 その問いに関しては、すぐに決着がつく。

 添付されていた画像ファイルには、空港で時間を潰している理子の背景に、今日の日時を示す電光掲示板が下げられているから、間違いないだろう。

 …………以前より、少しツーサイドアップのテールが短くなった気がする。

 では、何故、このようなメールが送られた?

 このメールを書くことができる人間は、まず、俺と理子を知っている人間に限られ、さらに条件を絞っていけば――

 と、そこまで考えてこの問の面倒臭さに気づく。

 ヤバそうなら、アドレスを変えることもできるし、自衛だってできる。

 最近、考えるのが億劫になってきている。何だか、やる気がおきないな。

 堕落していく自分に気づきながらも、俺はオネストをフル積みしたライトロードデッキとキャッスルゴレムデッキでいつもの四人で対戦した。

 そして、その帰り。

「どうしたんだ。何つーかさ、ゲッソリした顔してよ」

 ちょっとやりすぎてしまったかな。あたりはもう黒洞々としている。

「英介……、いや、アリアに、呼び出されてさ。女子寮の、1011号室だったか? あいつリアル貴族様だから、部屋とか普通に何個も持ってるんだよな。参っちゃうよ」

 アリアに呼び出されるキンジの図はいつもの通りだが、場所が場所だけにキンジは本当に面倒臭そうな顔をしている。いい気味だと思うのは俺だけではないだろう。

 うん? 1011号室……?

「なあ、キンジ」

「何だよ」

「その部屋さ、誰の持ち物なんだい」

「誰のって……、そりゃ、あいつが呼び出したんだから、アリアのだろ」

「ヘェ……! そうなのか」

 俺は若干眉間に皺を寄せながら、それでもできるだけ苛立つ表情を覚られないように努めた。

「んだよ、怖い顔して」

「いいや、別に。アリアと仲良くやりなよ」

 それだけ言い残して去っていく俺に怪訝な顔をしながらも、キンジは女子寮へ向かっていった。

 一方俺は、情報科の中空知に電話でコンタクトを取った。

 スリーコールしたあたりで彼女の明瞭な声が聞こえてきたので、俺は要件を話す。

「盗聴を依頼したい。今すぐに」

『今すぐ…、ですか。どういった条件ですか?』

「女子寮の1011号室だ。俺は付近のビルから光学機器で観測するから、お前は音声とかを拾って俺の携帯に転送してほしい。できるだろう」

『可能です。では、今から専用の機器を使用して窓ガラスの振動から音をサンプリングしますので、携帯電話の通話を切らないようにお願いします』

「頼んだぜ。報酬はうんとはずむからさ」

『期待します』

 そう言って、中空知の音声が途切れた数秒後に、雑音混じりの音声が聞こえてきた。期待されちまったな。

 俺はそれを聞きながら、女子寮の1011号室が見える高さと場所にある建物の屋上へ上がり、途中で部屋から持ってきた双眼鏡で部屋の中を見る。

 そこでは、アリアとキンジがベッドの上でくんずほぐれつ――というか、キンジがヒスって、何かを言っているのが見える。

 次の瞬間、キンジの言い放った言葉が俺の耳に飛び込んできた。

『――――理子』

 ビンゴだ。

『びんごぉー! やったねキーくん! りこりんが帰って参りましたぁー!!』

 俺の考えと理子の言葉が重なった。

 理子……、お前は、賢しい女だ。狡猾で、いやらしくて、だからこそ、性別を問わず人を魅了する。

 あの部屋は、俺と理子が物置兼アジトとして借りていた部屋だ。理子が俺の前から消えた後も、コスプレの衣装や小道具などを俺が片付けにいったことがある。二人の、思い出の場所と言ってもいい。あそこで語り明かしたり、ゲームや酒を楽しんだものだ。そこに、キンジ――に限ったことではないが――部外者を連れ込むというのは、嫌な気分だ。嫉妬と言い換えてもいい。女々しい男だろうか? 理子は別に俺に愛などという感情を抱いてはいなかっただろうから、二人は体と利害だけの関係で今までやってきて、その結果がこれであるのだから――ああ! 全く! これは一方的な好意なんだろうなぁ!

 このように理子がキンジに言い寄っているのを見て、それに憤慨とは言わなくてもどれくらいか野蛮なことを考えそうな自分を客観的に見れば、俺は彼女を愛しているのだと、嫌でも痛感する。

『キーくん。理子とぉ、えっちぃことしよ? 理子は都合のいい合法ロリだよ? キーくんのしてほしいこと、なーんでもしてあげちゃう。それで、明日になったらまたお友達ごっこすればいいじゃん。キーくんは、いつでもどこでも、理子に好きなこと――』

『ま、待ってくれ、理子、話が見えない。はは、冗談がまた上手くなったね』

 キンジはヒステリアモードの頭で、理子の考えを読もうとしているらしい。あいつがこんな行動に出るのは、十中八九、裏があるからだ。ただ、それでも受け入れてしまいかねない妖艶さを、彼女は一番の武器としているのは、俺が昔から知るところだった。

『ダイジョブダイジョブ。ちゃーんとシャワーも浴びてきました! ねぇ、トリートメント新しいのにしたの、いい匂いでしょ? くふ、くふふっ……!』

 そう言って、理子は押し倒したキンジの上に乗って、顔に頬ずりをしている。

『あ、ああ! そうだ、ね。女性らしくて、いいんじゃないかな』

『キーくん、理子を許して。理子はいけない子なの。欲しいものは誰かのでも――ううん、誰かのものの方がずっと欲しくなっちゃう。だから、キーくんは何にも悪くないんだよ? 悪いのは全部、全部、理子だから。だから、キーくんは気後れせずに、理子を使っていいの。そうすること――盗むことが峰理子の本質なの……!!』

 熱と狂気を湛えた声で、狂おしそうに身を捩りながらそう言う。

 本当に、理子は男をその気にさせるのが上手い女だ。

 海千山千といった感じかな。小賢しいにも程がある。

『しかし、理子。君は兄さんも盗んだ。俺からね』

『あれ、キーくん、もしかしてまだ理子が殺したと思ってるの?』

 キンジの兄、遠山金一は、武偵殺しこと理子が殺したことになっていたが、実際は生きている。キンジはそのことをまだ知らないのだ。

『……違うなら証拠を見せるべきだ』

『ぶっぶー、それはちょっと違うかなぁ。キーくん、キーくんはお願いする側なんだよ? 理子、自分の立場を理解してない人って、ちょっと嫌いかもぉ。――ああ、でもでも、キーくんは許したげる。ね、わかるでしょ?』

 キンジにとって、彼の兄の情報は最も重要なはずだ。今なら、理子の出す条件を何でも飲むだろう。

 ……ちょっと、席を外そうかな。

『そ、れ、にぃ……、HSSのキーくんは、女の子に乱暴できないでしょ?』

『知っていたのか……!!』

『くふふのふ、りこりんは、これでも探偵科Aランクでございますわよ』

『クッ……』

 キンジはそれから一考した後、諦めたように理子をこれ以上近づけまいとしていた手を、話した。

 それに機嫌をよくした理子は、キンジのシャツのボタンを外しにかかる。

 俺が本当に目を背けようとしたところで、

『――キーくん、ハーレムエンドは、バッドエンドなの。今日はちょっと、お開きかな』

 と理子が言った瞬間――

「ッ!!」

 俺の携帯電話から、とてつもない音が発せられた。

 突然のことに、俺は耳から咄嗟に携帯電話を離して、再度、中空知にかけ直す。

「あたしの奴隷を盗むなァ!!」

 1011号室の窓ガラスは割られていて、中では、ピンク色のツインテールが乱舞していた。

 アリアだ。俺があの部屋から目を背けている間に、窓を割って侵入したらしい。

 あの野郎、こっち設備を使って盗聴するような距離にいるっていうのに、何て声量してやがる。まともに聞こえてきやがった。

『今、衛星で確認したところ、目標の部屋の窓ガラスが割られたようです。別の方法を試してみますので、お待ちください』

「お前は、大丈夫なのか。凄い音がしたが」

『一定以上の音量は遮断されるような設備になっていますので……、お心遣い、痛み入ります』

「なら、引き続き頼む」

『了解』

 すると、少しの雑音の後、アリアの甲高い声が聞こえてきた。

『盗人風情が、あたしの持ち物に手ぇ出すなんて、いい度胸してるじゃない……!!』

『ちぇ、アリアさー、間が悪いんだよねぇ。こういうのに乱入するとか、空気読めないよねー。キーくんだって、もうその気だったんだよ。ねー、キーくん?』

 理子は露骨にキンジに同意を求めた。

『ノーコメントにさせてもらうよ。それに、理子、君は英介に操を立てなくても、いいのかい?』

『……フツー、こういう時に他の男の話するかな。――あー! もー萎えた!! 帰る!!』

 そう言うと理子は、改造セーラー服のポケットからゲームセンターのクレーンゲームで取れそうな懐中時計を取り出し、それを床に転がした。

 俺はその動作に咄嗟に双眼鏡から目を逸らし、掌で顔を覆った。

 指の隙間から微かに見えた光は、マグネシウムの酸化反応に伴う発光だ。あれは、閃光手榴弾だ。

 実のところ、俺は理子があの安物の懐中時計を十数個買い込んでいて、さらにそれの隙間に合金粉末とそれを燃焼させるための機構を取り付けていたのを見ている。だから咄嗟に反応することができた。危うく目を潰されるところだった。

『理子ッ!!』

 キンジが叫ぶが、その時、既に理子はアリアがぶち破った窓から外に出て、さらにアリアがラペリングに使用したラインで屋上まで上っていった。

 探偵科のくせに強襲科のようなことをするやつだと、つくづく思う。

 それをギリギリのところで捕捉したのだろう、二人は、女子寮の非常階段を使って屋上まで行くようだ。理子は、それを律儀に待ってやっているようだが、さて、どういう魂胆があるのか。逃走しようと思ったが、キンジの態度が気に入らずにやはり戦う気になったのか、あるいは……

『理子!』

『ぶー、しつこーい』

 屋上へと上がってきた二人を、理子は大分昇ってきた満月を背に、頬を膨らませて、まんざらでもない声音で出迎えた。

『アリア……折角のいい夜が台無しだ。お嬢ちゃんは帰って寝なよ。オトコと硝煙の匂いに混じって、他のオンナの臭いがするってのは、気に食わないじゃないか。ええ?』

『あたしと変わったモンじゃないくせに! チビフロッギー!!』

『はっはー、アーリアちゃん、それって、自分がチビだって認めてるんだー、くふ、くふふ。お馬鹿なライミー』

「けっ、|尻軽女≪スラッグ≫が……」

 俺も悪態をつくが、流石に呟いた程度の声では聞こえない。

 理子にそう返されたアリアは、顔を真っ赤にしてから、いつものパターンで拳銃を抜いて、理子に突っ込んでいった。

『援護しなさい!!』

 しかし、ヒステリアモードの切れているキンジには、それは少し難しいんじゃないか。

 二挺のガバメントから、それぞれマズルフラッシュが光る。それにしても、打ちすぎだ。アリアはキレると弾数管理ができなくなる悪癖があるようだが、俺と組んだときに発揮されなくてよかったぜ。

 ガバメントのスライドがオープンするのにそう時間はかからなかった。

 それを見越してだろう、先ほどまで回避に専念していた理子が、ワルサーP99をアリアに向けて発砲した。それ見たことか。

「うん、やっているな」

 隣に聞こえた声に振り向くと、そこにはいつも通りに男物の和装に身を包んだ五ェ門がいた。……相変わらず、露出度が高くて目の毒だ。

「マジで見限る五秒前なんだが……」

「峰理子で御座るか?」

「それ以外に誰がいるんだよ」

「ん……あれは、そうで御座るな――フフ」

「どうした」

 不意に微笑んだ彼女に、俺は妙な感覚を覚えた。

「いや、どう申せばよいのか――愛らしい? いや、健気な? で御座ろうか」

「理子がかい?」

「お主には、わからぬかな」

「さっぱりだ」

 理子の容姿のことを言っているのなら、愛らしい、は、まあ合っているだろうが、健気はどうだろう。彼女は努力家ではあるが、人を小馬鹿にした言動が目立つから、とてもそうは見えない。

 アリアは、理子と比べ余計なものがついていないから、ワルサーの連射もよく避ける。小太刀を抜いて、その刀身で弾丸の軌道そ逸らしたりもしているぞ。

「巧いもんだな」

「あの程度、星伽巫女なら造作もない」

「ま、五ェ門もそれくらいはやってたしな」

 こういう状況に慣れてしまっているから、もう弾丸を刀で弾くくらいの芸当はストリートパフォーマンスにもならない。

「……ああ、そういや、飯、ありがとよ。久々に人の作ったもん食ったぜ」

「気にするな。簡単なものだ」

 彼女らの戦闘にも飽きるので、俺は、少しだけ五エ門の素性について聞いてみた。

「星伽ってのは……、そうだな、白雪を見ていればわかるが、良妻賢母の集まりみたいな場所だよな?」

「良妻賢母? 鉈や刀を振り回す女子がで御座るか」

「やあ、家を守るのも女の役目さ。前時代的か?」

 五エ門は双眼鏡も使わずに三人の方を見ながら「それなりに」と言う。

「見えるのかい」

「拙者の視力は、十二で御座れば」

「ヒュー、星伽巫女はマサイ族かよ。レキの倍はあるぜ。鬼道術ってやつか」

「さて、どうだか――」

 彼女のように俺もアリアと理子の方を見れば、二人は刀と大ぶりのナイフでお互いに肉薄しているところだった。

 格闘戦において、機動力のあるアリアと、一撃の重い理子はある意味対照的だ。

 しかし、彼女は何故今になって現れたのだろうか。この期に及んで姿を現した彼女に、俺はどうも引っ掛かりを覚えてしまう。

 日本にいるということは、何かしらの司法取引をしたのは間違いないのだろうが……

 ド派手なアル=カタ戦を繰り広げていた二人に触発されたHSS・キンジが、二人がまた衝突しようとしている間に割って入って、それぞれベレッタとバタフライナイフで二人の刃を受け止めた。

「うむ、お見事!」

 ヒステリア・キンジの戦闘能力は俺の舌を巻くほどだからな。

『キンジ!!』

『二人とも……悲しいよ。キャットファイトは、趣味じゃなくてね。仲良くできないかな』

『っざけんじゃないわよ! あんたこいつが何したかわかってんの!? ……ッ! さては、もう理子の毒牙に……!?』

『落ち着いて、アリア。君ができない推理が、俺にはできる。足りないところは補い合うべきだ。そうだろう』

 少し考えたアリアは、一旦刃を収めて、

『いいわ、あんたの話を聞いてあげる』

 と目を吊り上げて言うのだ。大人になったな、アリアちゃん。

『ありがとう。アリアは賢明な子だ。――さて、この戦闘を止めた理由だが、アリア、理子は、司法取引をした可能性がある。でなければ、こうも安易に武偵の前に姿を現すかな?』

『でも、理子がそうしたという証拠はないわ』

『しかし、してないという確証もないね。それをこちらが攻撃すればどうだろう。実際、今回のことは先に武力に訴えたのはこちらだ――そうだろう、理子』

 キンジは理子に向き直り、そう言い放った。

 理子はそれにニタァと笑いながら、

『ピーンポーン! コロンビアー! さっすがキークン=サン、ワザマエ! ゴウランガ!』

 コロンビアは国の名前。キンジの敬称が二つ。ワザマエ、ゴウランガ……? サンスクリット語か。ますますわけのわからない語録が増えたな。

『やっぱり理子とキーくん相性グンバツなんだよ!』

 やけに古い言葉を使うのだなとも思ったが、『ジョジョの奇妙な冒険』のネタだと思い出して、やはり彼女だなと思い至った。

『理子……、日本語を喋りなさい』

『で、でもね! あたしのママに濡れ衣を着せたのは別件よ! 縛ってでも法廷に――』

『いーよぉ』

 飄々と、理子はそう言った。

『……は?』

『アリアのママの裁判に証言したげる。理子もママのこと――』

 理子の母親――あー、不二子おばさん。怖い女だったなぁ……

 理子より先に、結構エグい死に方したけど、まあ、魔性の女だったし、仕方ないかな。リュパンは凄く悲しんでいたが。

 俺は煙草をポケットから探し当てて、口に咥える。

 理子は、どうやら嘘泣きを始めたらしい。

「お主は、リュパン三世と行動を共にしていたと聞いたが」

「ガキの頃の話だよ。まあ、今でもガキとか言われるけどさ。今度、ゆっくり話してやろうか?」

「――それは、是非、お聞きしたいですね」

「今度な」

「……!?」

 丁度、『キーくん、アリア、理子を助けて』と嘘泣きで言う理子を双眼鏡で眺めながら、少しピッチが高めに聞こえた五エ門に返事をした。

 内ポケットから出したジッポーで火を点けようとするが、しまった、オイルが切れてやがる。

「五エ門、火ィ」

「え、いや、ない」

「チッ」

 俺はジッポーを仕舞って、加えた煙草をどうしようか思案していると――

「どうぞ」

 ボッ、っと火の点く音が、俺の口元でした。

「んだよ、持ってるんじゃねぇか……」

 それを点けてもらったのを確認すると、少し吸い込んでから吐き出した。

「フー」

『助けてって、何をすればいいんだい』

 キンジが問いかけるのが携帯電話から聞こえてきてから、俺の右肩がぽんぽんと叩かれるのを感じた。

「何だよ、五エ門」

「……! ……!」

 五エ門が指差す先には、明るい茶色のトレンチコートに、同色の帽子を被った、アリアと同じくらいの背の女の子だった。……小学生、いや、中学生くらいか?

「どうしたのかな、お嬢ちゃん。ここら辺は危ないぜ。俺みたいなこわーい輩が闊歩してるからな」

「――はじめまして」

 鈴を揺らしたような声だった。銀色の短い髪が風に揺れて、柔和に微笑んだ顔は見る者を問わず和ませるような可憐さがあった。

「ン……! ああ、はじめまして。礼儀正しいな」

「次元英介さん、ですよね?」

『ぐす……、ううん、泣いちゃダメ。理子は強い子。やれば出来る子、Y・D・K』

 先程まで嘘泣きをしていた理子が、わざとらしく自身を鼓舞する仕草をしてから。俺の前にいる少女も、こちらを見据えて、言う。

『キーくん、アリア、理子と――』

「次元英介、私と――」

 そして、一拍置いた後――

 

 

『ドロボー、やってみない?』

「警察、やりませんか?」

 

 

 …………まるで意味がわからんぞ。

 

 




フルクロスはかっこいいなぁ……思わずムラマサ・ブラスターだとかセーフティ解除とか叫んだら、親に怒られました。
ガンダムの短編書けるか、ちょっと心配になってきました……
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