やったぜ。投稿者、変態クソ作家。
今回も、かなり短いですが、どうかお付き合いください。
「……理子、どういうつもりだ」
次の土曜日、俺は、自宅で理子を問い詰めていた。
彼女の目的は、キンジとアリアをより結束させることだった。なら、他にやり方があったんじゃないかってな。
「えー? どういうつもりかって、言われても――」
俺は、ズボンからマグナムを取り出して、理子の顎に密着させる。
あくまで、剽軽な態度を取り続ける理子の奴に、無性に腹が立ったからだ。
「英介、本気?」
「本気、本気かって? じゃあ逆に聞くがな、お前正気か? 頭のネジ緩んでんじゃねーのかっつってんだよ!」
「そ、そもそもさぁ、あたし達に倫理観なんて似合わないよ」
「そういう問題じゃない。お前が焦ってるのが、気に食わないんだよ。キンジとアリアをくっつけるはずが、逆に距離を離したり、あまつさえ殺すようなことをするくらいなら、もっと確実な方法だってあっただろ! オルメスを超えたと証明するだけなら、殺す必要もないはずだ。俺にとっちゃな、キンジだって仲間なんだ」
そもそも、リュパンらしくない。
あんな、下手したら大勢の犠牲を払うような作戦は、リュパンのやるべきところじゃない。
それは、俺の理想を押し付けているだけなのか?
それに、あんな作戦を本気で実行する奴を、仲間とは思いたくないね。
「……何だよ」
「あ?」
「仲間はあたしだろ!? それとも、キンジなんてちょっと付き合いがある奴の方が優先されるのかよ!! ふざけんな! サノバビッチ!!」
理子は、マグナムを跳ね除けて、俺に大きな手振りで怒号を放つ。
「言いやがったな、クソ女! ああいいさ! お前みたいな奴とは、絶交だよ。金輪際そのチビと馬鹿面見せてみろ! 額に尻の穴増設してやるからな!!」
そう言って、何故か――ああ、何でだろうな、俺の方が、部屋から出て行ってしまった。
少しでも早く、この場から離れたかったからだ。
この、彼女の私物と、彼女との思い出が詰まった、部屋からな。
†
男子寮を飛び出した後、俺は頭を冷やすために、休日の強襲科演習場のキャットウォークで、コーヒーを飲みながらのんびりと下の様子を眺めていた。
強襲科は常日頃から危険に晒されているので、休日でも訓練を欠かさないマメな奴は多い。
それを見ていると――いや、海を見ているような効果は期待できないが、何となく落ち着くんだ。
自棄酒を呷るという手も考えた。実際、次元大介ならそうしただろう。
ただ、これは、理子にも伏せていることだが、俺は、次元大介の弟子ではあるが、血は繋がっていない。
だから、次元はどれだけ飲んでもある程度の見当識は付いたが、俺はどうなるかわからない。遺伝関係が全く無いわけだからな。
もし、酔っ払って、理子にこれ以上あたってしまったら、どうしようなどと、冷めた頭で考えてしまう。
そんなの、俺らしくないじゃないか。
いや、さっきのだって、かなり格好悪いよ。自分でも何言ってんだって思ったくらいだ。
でも、あいつが外道に堕ちたりとか、時間に焦ってらしくないやり方で仕事にあたっている姿は、見ちゃいられなかった。
どうしようもなく、居た堪れない気分になったんだ。
だが、彼女の焦る気持ちも、よくわかる。
理子には、できるだけ早くアリアとキンジを打倒しなければいけない、理由があるのだから。
ただ、今のあいつとは死んでも組みたくないね。それだけは、自分の中ではっきりさせておこう。
†
「あら、どうしたの?」
俺は、ふと、負傷したアリアが入院している、武偵病院に足を運んだ。
アリアの傷は、意外と軽傷だったらしい。頭部裂傷なんて、ままある話さ。
ただ、それまで大っぴらに出していたデコが、隠れたくらいだな。
彼女は、もうベッドから立ち上がり、制服に袖を通している。
まあ、強襲科の回復力なんてこんなもんだ。
「いや、見舞いに来たつもりだったんだが――蛇足だったみたいで、安心したよ」
「……あんた、今酷い顔してるわよ。少なくとも、怪我人に見せに来る顔じゃないわ。――何かあったの? あたしでよければ、相談に乗るわよ」
「相談、そういうのもあるのか。あー、いや、別に相談できることじゃないんだがな……」
「そう。なら、少し顔を洗いなさい。汚いわけじゃないけど、気持ちが引き締まるでしょう」
「ああ、そうさせてもらおう」
俺は、備え付けの洗面台でバシャバシャと冷たい水で顔を洗い、持っていたハンカチで荒っぽくそれを拭く。
「どうだい、いつものハンサムに、戻ってるかい」
「……顔はどうかしらないわ。それと、前から気になってたんだけど、あたしと話すときはあんまり米語は使わないで。慣れてないから」
「毛嫌いしてるんじゃなくてか。神崎・H・アリア卿」
「Huh? あんたまで、あたしのこと調べてたの」
「いや、神崎・H・アリアといえば、この界隈では割と有名どころさ」
「ふーん、遠く海軍の船まで、あたしの噂は流れていたわけね」
まあ、実際に軍艦に乗るんじゃなくて、統合作戦指令部的な所属だったんだがな。
「あたしは、あんた達が思ってるよな貴族とは違うわ。米語も英語も、異なる文化圏で発達したものよ。ただ、ちょっと聞き取りづらいってだけ。特に、日本語に混ぜてるとね」
「なるほど、オーケー、お互い少し溝が埋まったんじゃないか? そういえば、キンジはどうした。聞いたが、パーティ組んでたんだろう」
「あいつは――あいつとは、契約解消したわ。あたしのパートナーに相応しいのは、あいつじゃなかった」
「…………」
本当に、そうなのかね。
少なくとも、理子の見立てでは、アリアとキンジはかなりの相性だった。
そのデコボコな正確含めてな。
「……そうだ、あんた、あたしのパートナーになってみない? 溝は埋まったんでしょ」
アリアが若干自棄気味に言う。
アリアの、パートナー、か。
それも、ありかもしれない。
今の俺は、理子とは離れているわけだし、それに、これ以上あいつが無茶な作戦を展開するようなら、それは確実にアリアを狙うものだろう。
その被害を最小限に留めることができれば、それが俺にとっても、理子にとっても、最善のように思える。
差し出がましいだろうか? だとしても、俺やれるのはそれくらいだ。
「――いいぜ、ただし、パートナーってのは抜きだ。俺を雇ってくれ。その方が、後腐れがなくて済む」
アリアは、絶対に断られると思っていたのだろう。
カメリアの瞳を大きく見開いて、俺を凝視してきた。
それはまるで、値踏みするような視線だ。訝しみ、それでいて、そこに安心を求めているような。
その視線だけで伝わってくる。彼女は、俺という人間に、昨日までキンジに求めていたものを期待している。そうあって欲しいと、願っているんだ。
「……わかった。次元英介、あんたを、金で雇うわ。でも、あたし達の関係が金銭のみだとしても、相応の信頼を期待するから、そのつもりで」
「よし、交渉成立だ。神崎・H・アリアから金が支払われ続ける限り、俺は擬似的なパートナーとして、最善を尽くすよ。契約内容は、書面で提出するからな」
「あんあたねぇ……、まあ、いいわ。これくらいビジネスライクな方が、あたし達にはいいんでしょ。契約の履行義務は、そうね、明日からでいいわ」
「サー、イエス、サー。……ああ、デイムか。間違えたよ。デイム、イエス、デイムか? 語呂が悪いな」
実際には、イエス、マムなんだけどな。
「ふふ、そうね。あんた、キンジよりジョークはできるみたいね」
「キンジは、何かジョークを言ったのか?」
「ええ、あたしがアリアなのにかけて『俺と組んでデュエットにでもなるのか』ですって。あれだけは冴えてたわ」
アリアは少し遠い目をして語る。
やはり、キンジに未練があるように感じるな。
ただ、それがどうしてなのか自分でもわからないし、認めたくもない。そういった思いが、あるのだろう。
「明日、ちょっと行きたいところがあるの。まだ本調子じゃないし、護衛しなさい」
「仰せのままに」
結局、どれだけアリアとつるんだって、どれだけ理子と離れたって、俺は、リュパン側の人間だ。
理子が危ない時には、アリアより先に理子を助けなければいけない。
だが、書面だけの関係とはいえ、明日から、アリアも仲間の枠に入るのだ。
――俺は、何がしたいんだろう。
†
次の日、アリアは目的を告げずに、俺を連れ出した。
俺は普段着のダークスーツと帽子。時代錯誤と言う奴もいるだろうが、知るか、好きなんだからいいだろう。
アリアは、いつもの制服から、薄手の普段着に着替え、美容院で髪を直している。
俺はというと、少し離れたところで雑誌を読んでいるのだ。
アリアは、誰かと会うのだろう。
誰だろうか。思わず邪推したくなる。
恋人? 政府高官? それとも、もっと危ない人間か。
どちらにしろ、ボディーガードくらいは、やってみせるさ。
それより、どこかで見ているんだろう、理子。
お前は、俺とアリアが共に行動しているのを見て、どう思っているんだろうか。
もし、悔しさや虚しさ、怒りを覚えてくれてなら、それは――不謹慎ながらも――とても嬉しいことだ。
俺だって、お前が他のパートナーを見つけたりしたら、そのパートナーを潰してでもお前を奪い返そうとするからな。
すると、窓の外で、キンジが見えた。
どうやら、俺とアリアに気づいているらしい。気配隠すのが下手な奴だよ。
俺は、携帯電話を取り出して、キンジにメールを打つ。
『アリアが恋しいか?』
すると、窓の外のキンジからすぐに返信が帰ってくる。
『誰があいつなんか。というか、何でお前がアリアと一緒に?』
『雇われた』
俺は淡白に返す。
きっと、今、キンジはこう思っていることだろう。
アリアの奴は、俺をパートナーにしようとして、実力がないと見るや次元に乗り換えたいけ好かない女だと。
だが、それはそう考えるのは早計だ。
アリアにだって、事情ってのがあるんだからな。
「英介? 何してるの、行くわよ」
そこに、髪を整え終わったアリアが来た。
「ああ、悪い。――アリア」
「何?」
「親が危篤だから任を離れたい」
「……あんた、親いないはずだけど」
ちっ、調べやがったな。
「あー、じゃあ、兄が危篤だ。とにかく、引継ぎはそこの遠山キンジ武偵に任せるからな」
「え、キンジ……?」
アリアが驚いて、外を見る。
キンジは咄嗟に身を隠すが、もう遅い。
お互いがお互いを凝視して、バツが悪そうに目を背けた。
「じゃあ、俺行くから。あとはキンジにエスコートしてもらいな」
俺はそう言って、駆け足でその場を去った。
†
そもそも、俺は、理子の目標に対しては肯定的だ。
打倒キンジ&アリア、大いに結構。
俺だって、少しのお膳立てはしてやるさ。
だけど、何度も言うが、今の理子とはマジで組みたくない。
それに、キンジは、アリアをもっとよく知る必要がある。
アリアの母、『神崎かなえ』は、所謂、武偵殺しと呼ばれる事件の犯人として逮捕されされ、さらに諸々の『イ・ウー』という組織の諸々の罪を被った結果、懲役八六四年――終身刑と大差無いな――という重い刑を課せられるところだ。
そして、俺もイ・ウーの一員であるのだから、笑えた話ではない。
武偵殺しは、ほぼ全てが理子による犯行だ。
つまり、
二人が激突するのは、片方が仕組んだこととはいえ、最早宿命のようになってしまっている。
少なくとも、そろそろ今回どちらに付くかを、決めておかなければいけない。
アリアの側に付けば、俺は理子を撃つだろう。躊躇い無く。
俺は既に宣言したからな。次会ったら眉間に風穴と。
理子の側に付く、ということは、彼女と組むことではなく、彼女の邪魔をしないことだ。
それはつまり、今回の件に関して以降の不干渉を貫くことにある。
二者択一なんてのは人生の中でいくつも経験している。それに、俺の定める『最大目標』には、関係のない選択肢だ。
……理子のゲーム脳が伝染ったかもしれない。
まあ、だから、今回もスパッと決めてしまおう。
俺が付くべきは――
…………アリアだ。残念だがな。
俺は今現在も、彼女との契約を履行しなければいけない立場にある。
それが打ち切られるまで、俺はアリアのパートナーなんだからな。
――そして、その日の夜。
アリアから、電話があった。
『明日、羽田発十九時の便でロンドンへ帰るわ』
携帯電話から聞こえてきたアリアの声は、
『ロンドン到着を以て、契約を満了とする』
枯れた、悲愴感を湛えた、声だった。
やっぱり一次創作も難しいですけど、二次創作にも独特の難しさってありますよね。
世界観を共有するだけならいいんですけど、人の考えたストーリーを自分風にしたりとか、そういう、何と言いますか、発想力とは似て非なる力が試されそうな気がします。
まあ、作者の力では何れも及ばないということですね。ハイ。