緋弾のアリア〜リュパンの懐刀~※新規執筆版   作:高所作業

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高校卒業して嬉しい(小並感
春から大学生です。入学金払ってくれた親とかご指導鞭撻頂いた高校の恩師に感謝したいですね。
ところで、最近また「ファッ!?」となったのですが、お気に入りがかなり伸びているようで、本当にありがとうございます。凄まじいランキング効果を見た。
つきましては、お気に入り500件逝った時のために短編でも企画しておこうかな、と、思いまして。何か、キャラクターと戦わせたりとか、本編と関係ない方向でやりたいですね。色々考えてはいます。やるかどうかも未定ですが、作ったら短編で投稿して、その報告も以降の話でしますので、今後ともよろしくおねがいさしすせそ(激寒



第九話『The fire requiem』

 その日、キンジは風邪をひいていた。

 曰く、「アリアに東京湾に突き落とされて風邪をひいたので学校を休む」とのこと。

 俺はついにアリアと白雪の間で、キンジを巡った最終決戦が繰り広げられたのかと内心わくわくしていたが、そんなことは全くなかった。

 アリアに事の子細を聞くと、どうも半裸のキンジが無理矢理白雪を組み伏せていたところに、アリアが乱入。

 不貞の輩・遠山キンジを成敗しようとしたアリアは、何だかんだで白雪と口論。

 そして、難を逃れようとしたキンジは勢い余って東京湾にダイブした、等と供述しており……

「まるで意味がわからんぞ」

「アリアがいけないの」

「白雪が悪いのよ」

 現在、俺は二人の口論の板挟みに遭っている。

 それを、横でレキが興味無さ気に見ているという、何とも混沌に包まれた空間が発生していた。

「ふ、ふんだ。アリアなんか、裁判で滅多メタにするんだから! 私、武装検事の家系の戦妹がいるもん!」

「あー! そういうこと言うんだ! じゃああたしだって、外交特権濫用しまくってやるんだから!」

「ご自由にどうぞ? 私だってこの前も言ったけど切り札はいくつだって隠してあるんだからね」

 そういえば、アリアと白雪は以前、キンジ宅のテーブルで、切り札隠し合戦を行っていたとか。武力衝突の絶えない二人だな。

 それにしても、切り札が仮にあったとして、それを隠し持っていることを晒して、一体何の利益に繋がるのか。

 女は怖いね。キレると理性が飛んじまうんだ。

「はっ、あたしだってあんたのn+1個くらいもってるんだから」

 アリア、明確な数がわからないからといって、それはいかがなものか。

「うう~! じゃあ私は無量大数個!」

「じゃあ一から説明してもらおうじゃない!」

「切り札を説明できるわけないもん! そんなんだから、アリアは背も頭も育ってないのね。なんと哀れなのかしら」

「何ですってぇ……!? ~~~~!! 英介! 護衛を引き継ぎなさい!」

「いいけど、お前さん、どうする気だ」

「ももまん!!」

 それだけ言って、アリアは小柄な割にドスドスという足音がしそうなほど地団駄を踏むようにその場を去った。

 しかし、なるほど、アリアの興奮はももまんで沈静化できるのか。この情報、キンジに高値で売りつけてやろう。

 去るアリアに向かって白雪がとんでもない台詞で煽りをかけたが、それに対してアリアも決して女が口にしてはいけないような暴言で返していた。

「……お互い、災難だな。レキ」

「……私は、それほどでも」

 何と神経の太い奴だ。流石歴戦の狙撃手は、忍耐力が違うと見える。

「ふんだ。アリアなんか……」

 俺の横では、白雪が頬を膨らませて、機嫌悪そうにしている。

「お前らなぁ、もっと、こう、仲良くできねぇのか」

「英介くんは、虎と龍に仲良くしろって言うの……?」

「い、いや、そうじゃないが――ま、まあ落ち着けよ。白雪。大和撫子はクールじゃないとな。そんなんじゃ、キンジは振り向いてくれないぜ?」

「き、キンちゃん……! う、うん、そうだね。えへへ、ごめんね。見苦しいところを見せて」

「いや、構わないさ。じゃあ、お前が帰宅するまで、俺とレキが護衛するからな」

「はい。よろしくね。レキさん」

「よろしくお願いします」

 しかしまあ、私情で任務をほっぽり出すとは、アリアの奴、やる気あんのかね。

 

 †

 

 一通りの授業を終えた昼休み。

 アリアは、先程いなくなってから、まだ帰ってきていない。

 今日はフケる気だろうか。

 現在は、生徒会室で二人と一緒にデスクワークに勤しんでいる。

 それにしても、何故人は俺にデスクワークをやらせようとするのか。

 海軍でもブラドのところでも、そもそもリュパン三世のところでも、あいつらは一番面倒な仕事を俺に押し付けるんだ。そもそも、リュパン家の人間は計算はしても整理をしないから――

「英介くん……? どうしたの」

 白雪が、こちらを心配そうに見ている。

 いや、彼女に他意はない。そもそも、早く切り上げるために手伝っているんだからな。

「ああ、いや、何でもない」

 レキはといえば、全く集中を乱さずに、与えられた課題をただひたすらにこなすワークマシンと化していた。

 狙撃科でSランクも、頷けるというものだ。狙撃手は、長時間、場合によっては何日も一つの場所で待機していねければいけない。つまり、忍耐力が重要だ。その点、彼女はとても優秀。

 余談だが、ああいうのがいい兵士になるんだよな。命令に実直で、髪を挟むほども乱れがない。

「アドシアードも近いから、忙しいの。ごめんね?」

「気にするなよ。それにしても、そうか、アドシアードか。完全に忘れてたな」

「強襲科の競技に英介くんも推薦されるはずだったんだけど」

「腕がこれなんだ、仕方ないさ。それに、元々出場する気はないしな」

「そ、そうだよね。早く治さないとね」

「SSRの治療、効きはいいんだが、一体どういう原理なんだい?」

「うーん、治療って一口に言っても種類が多いから……、大体は、遺伝子情報に基づいて、活性化――」

「あー、その、なんだ。超能力ってのは、俺は門外漢だからな。これ以上は言及しないでおくよ」

「終わりました」

 レキが淡々と作業の終了を告げると、俺と白雪も急いで作業を終わらせる。

 一通り片付いたところで、白雪が茶を淹れてきた。

 自分とレキには日本茶。俺が緑茶が嫌いなのを知っているのか、俺にだけコーヒーを持ってきた。

「悪いな」

「ううん、慣れてるから」

 ブラックコーヒーってのは、ハードボイルドな感じがすると思う。まあ、貧乏舌だから、味はあまりわからないんだが。

 安直な考えかもしれないが、ブラックコーヒーを飲める奴ってのは大人に見えるだろう。だから、次元の真似もあって、俺も昔から苦いのを我慢して飲んでた。

 ただ、慣れというのは恐ろしいもので、今では普通に飲めるようになっていたりする。

 誰だか知らないが、バイリンガルでも思考は母国語で話すというのは嘘だ、と言っていたが、確かに、環境が違えば習慣も変わるのだろう。

 少し啜ってから、白雪に昨日のことを話す。ジェーンのことは、同期の好で秘匿しておくが。

「……昨日、魔剣の関係者と接触した」

「……!」

「彼女――あ、女だ。そいつは、狐の面を被って、自身を妖刀と称していた。身長は、俺より一回り小さいくらいだから、白雪よりも少し大きい。髪は黒で長め。アジア人っぽかったが、色が白いから何とも――白雪?」

 俺が妖刀について説明していく内に、白雪の顔はどんどん強張っていく。

「あ……、ご、ごめんなさい。何でもないの。続けて」

「そうか? あと、服が特徴的だったな。男物の着物だよ。上が白で、下が藍色。下駄じゃなくて、あれ、何だったか、竹の皮の靴」

「雪駄ですか」

「そう、それだ」

 レキの意外な知識を見た。

 それを聴いて白雪は、ますます神妙な顔つきになる。

「も、もしかして、その人、語尾に御座るとか、時代劇みたいな感じだったりする……?」

「! 驚いたぜ、その通りだよ。白雪、お前もしかして、妖刀のこと、知ってるんじゃないか?」

「どう、かな。星伽にはそういう人結構いて、別段珍しいわけじゃないから。でも、私の周りの従者に、似たような人がいたよ」

「いた……? 妙な話じゃないか。今ではいないのか」

「う、うん。青森の星伽神社に、中学校卒業までいたんだけど、卒業したら、家出しちゃって……」

「いたって、家族としてか? あと、家出、というのは、どういう経緯で」

 警察の事情聴取みたいだが、これは、きな臭くなってきたぞ。

「家族、そうだね。立場的には、私の従者だったの。本人は家出じゃなくて出家だって言ってたけど、どういう理由かは、ちょっと」

 変な話だ。神道なのに出家とは、是如何に。

 そういえば、日本では神仏が同一視されることもあるらしい。キンジの家などは、まさにそういう家系だと聞いた。正月は神社にお参りして、葬儀は仏教風にすると。

「そいつについて、詳しく教えてくれ」

「うん。いいよ」

 白雪は、その女のことを話し始めた。

 名を『星伽(すすぎ)』というらしい。

 白雪が生まれたのとほぼ同時期に、星伽神社に縁のある人物が預けに来たのだという。

 その際、多額のお布施と、一振りの刀を共に預けていったという。名前は、預ける際に星伽の女が付けられる雪の一文字だけで、星伽の人間に及ばぬ者として表現されたらしい。

 確かに、白雪の話に時折登場する彼女の妹達も、白雪の例に漏れず雪の字にさらに一文字くっついている。

 白雪の従者として物心着いた頃から仕えていたらしいが、中学卒業とともに星伽神社を出て、以来行方知れずらしい。

 そして、一番肝心なところとしては、言動・容姿の一致がある。

 まず、服。

 普段は巫女服だが、私服では男物を好んで着たらしい。

 髪は黒くて長い。

 そして、口調。風魔のような、御座る口調が印象的だ。

 さらに、戦闘能力に関しても、興味深い情報を得た。

 星伽には、巫女が使う超能力がある。

 どの程度の能力なのかは部外秘だが、妖刀はそれが使える可能性があるという。

 また、剣術の腕は超一流で、星伽で教わる剣術を全て会得し、誰よりも上手く扱えるということだ。

「その、剣術というのは」

「ごめんなさい、それも部外秘で……」

「そうか。――レキ、どう見る?」

「私見ですが、もしその方が敵になった場合、まず勝ち目はないと思います」

「理由は」

「白雪さんは、刀で銃弾を弾くことができると、また、妖刀は白雪さん以上の剣術使いであると聞きました。もしそれが本当であるなら、拳銃を主兵装とする英介さん、アリアさんに勝ち目はありません」

 レキは、こちらを見て、意図が伝わっているかどうか確認する。

「続けてくれ」

「私も近づかれれば瞬時に倒されるでしょう。従って、現状の護衛メンバーでは、一対一で勝てる見込みを誰一人として持ち合わせていません。また魔剣との合流・連携も考えられます」

 レキは、いつも以上に的確に、それでいて長く喋っている。

 恐らく、俺が今まで見た中で、一番喋っているレキだ。

「そうだ。それで、対抗策は」

「フォーメーションを寸断しての各個撃破と、こちらのチームワークの向上や戦力補填、相手の弱点の把握などが考えられます」

「パーフェクトだ、レキ。今のがほとんどだろうさ。だが――」

 俺は、白雪の方を一瞥してから、アリアの顔、キンジの顔を交互に思い浮かべる。

「チームワークはなぁ…………」

 レキは基本誰にでも合わせられるが、白雪、アリア、キンジのチームワークが壊滅的だ。

 三角関係ってのは恐ろしいね。ドラマ以上だ。

「白雪、妖刀――星伽雪か。あいつについて、何かもっと情報はないのか」

「情報、ですか……、といわれても、うーん……好きなものは、和食?」

「へ、へぇ、嫌いなものは?」

「トマトケチャップと、あと、蒟蒻……?」

「蒟蒻?」

「え、う、うん。小さい頃から蒟蒻だけはどうしても食べたくないって」

「……ますますわからん。今度会ったら、出会い頭に蒟蒻でもぶん投げてみるか」

「食べ物を粗末にしちゃいけませんよ」

「はは、わかってるよ」

 

 †

 

 少しした後、俺は、キンジ達がアドシアードの閉会式で演奏するバンドの練習をしている、強襲科の一室へと向かった。

 中では不知火がボーカルを、キンジがギターを、武藤がアホみたいにノリノリでドラムを叩いていて、何だか、滑稽に見えた。

「うん、ベースがいないな」

「そうなんだよ。寄せ集めだから、ちょっと人数が揃わなくてね」

「……そういえば、英介、お前ベースとかできるんじゃないか」

「マジかよ! 手伝えって、英介。一緒に青春の汗を――」

「やめろ、暑苦しい! さっきまで白雪とレキと一緒だったから、よけいむさ苦しいんだよ!」

 武藤はドラムを全力で叩いていたせいか、かなり汗をかいていた。不知火はこんな空間で、唯一の清涼剤だよ。

「それで、英介くんは、ベースできるのかい?」

「……人並みには、な」

「よっしゃ決定」

「勝手に決めんな。第一、俺は護衛の任務が……」

「キンジだって抜けてきてんだから、大丈夫だって。なあ」

「まあ、多少はな?」

 キンジは魔剣への危機感がないせいか、意外と呑気に過ごしているようだ。

「待った! 俺の腕を見ろよ、これじゃ無理だぜ」

「あ、そっか。悪い悪い」

「ライカにやらせるわけにもいかんしなぁ……」

「まあ、今のままでやろうぜ」

 俺は、皆の演奏の様子を見つつ、帽子を深被りして、隣でチア――アル=カタという演武なのだが、それを武偵高の女子は臆面もなくチアと呼ぶ。実際チアの服だしな――をしている女子をチラチラと盗み見る。

 短いスカートが激しい動きなどによってそれはもう激しく――もう一度言うと激しく、揺れている。武藤も言っていたが、眼福というんだろうな、こういうのは。

 ずっとゆらゆらと揺れているスカートを見ていると、何だか、眠くなってくるぞ。

 ああ、いけないな。こんなところで寝ていたら、蘭豹にしばかれてしまう。腕だけじゃない、背骨まで折られかねない。

 走りがちな武藤のドラムを尻目に、強襲科棟を後にした。

 そして、家に帰ってから、白雪の言った情報を、もう一度パソコンに打ち込んで整理していた。しかし、片腕だけの操作は難しい。

 このパソコンは、インターネットに繋いでいないし、普段は金庫に入れているから、一応安全だと思う。

 それにしても、だ。ジェーンといい、星伽雪といい、面倒事を次から次へと持ち込んでくれる。

 こんな時、リュパン三世ならどうするかな。

 あの人は、仕事に必要な能力こそ平均的だったが、とにかく頭の切れる人だった。

 俺にもっと知恵があれば、彼女らへの対策もできるというものだが……、いや、ないものは仕方ない。ないない尽くしだが、それも俺の実力不足故だ。

 そういえば、蒟蒻。

 この食材で、引っかかることが一つあった。

 妖刀の嫌いなものは、蒟蒻。俺の冷蔵庫から捨てられていたのも、蒟蒻。何だろう、これは。もしかすれば、妖刀がこの部屋に来た、という可能性さえありえるぞ。まあ、奴がこの世から蒟蒻を放逐せんと企てている場合に限るが。

 それはつまり、セキュリティ上の観点から言うと、その、何だ、俺の部屋のセキュリティは、ガバガバだって言えるんじゃないか。

 理子じゃないが、勝手に人様の部屋に侵入している奴がいると考えると、ゾッとしない話じゃないか。というか、不法侵入だ。

 そういえば、白雪は、刀がどうこうと言っていたな。 

 ……今日はもう遅いから、後日、確認しておこう。

 

 †

 

 ゴールデンウィーク。

 日本では、様々な休日が重なった結果、休日が連続して訪れる期間がある。それが、これにあたる。

 しかし、ゴールデンウィークとはよく言ったもので、実際金の回りも良くなれば、諸国民にとってはまさに黄金の風が吹くような時間だろう。働き過ぎの日本人にしてみればな。

 俺は、この連休の間、休みもせずに白雪の護衛と、訓練をしていた。

 あの二人が攻めて来るなら、間違いなくアドシアード開催中か、その前の連休になる。それに対応するためだ。

 しかし、五月五日の今日になっても、未だ彼女らは現れない。

 キンジやレキが張り付いているが、アリアはキンジとまた喧嘩したらしく、ここ数日間、連絡がついていない。

 しかしそれでも、アリアは少し直情的なところがあるが、武偵としての一分はきっちりと果たす女だ。ジェーンの行動パターンから考えて、護衛が少なくなったところを狙うことを予測して、あえて魔剣を釣る作戦に出た、と考えたい。そうでなければ、ただのアホ女だ。

 俺は、冷蔵庫から出したコーラを一本持って、ベランダに出た。護衛任務中だから、酒は自重しなければいけない。

 白雪が嬉しそうに話していたが、今日はキンジとデートらしい。

 付近の人工渚で、二人で遊園地から打ち上げられる花火を見るのだとか。俺も、ベランダから見えるかと風呂上がりのランニングシャツのまま、少し肌寒い中、空を見上げている。

 ああ、流石に、東京の空からは星は見えない。イラクはよく見えたなぁ……

 と、昔を思い出していると、低い炸裂音と共に、夜空に花が咲くのが見えた。

 花火を見ながら飲むコーラも、オツに思える。

 二人は、今頃どうしているのだろうか。キンジは、もうその星の下に生まれたと言う他ないくらい好意に鈍感だから、白雪のアプローチに全く気づいていないだろうな。

 俺の隣にも、女の一人でもいればなぁ……、何というか、華がないよ。男一人だと。

 今からライカでも誘おうか。いや、こういう時はもっと静かな奴がいいな。

「理子……」

 彼女なら、こういう時は静かにグラスを傾けるのを好むのだろう。普段は空気も読まずにバカ騒ぎするが、こういう時は素直になる、可愛い奴だよ。

 ああ、もう、人肌が恋しいな、チクショウ…… 

 ――どれくらいそうしていただろうか。気づけば、時刻は既に十時を回っていた。

 俺は、白雪に八つ当たりを兼ねて、妖刀の刀に関する情報を訊く旨のメールを送った。

 そして、数分後。

 白雪から、電話がかかってくる。口頭の方がいいからだろうか。

「口で言った方が早いか?」

『うん……、今から、会えるかな?』

 電話越しに聞こえる彼女の声は、いつも以上に弱々しく聞こえる。……キンジと何かあったのだろうか。

「……女子寮の、温室があるだろう。あそこなら、夜も開いてる。そこでどうだい」

 流石にちょっと、この時間に女子を部屋に連れ込むのは誤解を招くからな。

『はい……』

 

 †

 

 白雪の奴、嫌な声してたな。

 俺も何回か聞いたことがある、自殺志願者のそれだ。

 歩きながら本当に心配になってきたので、途中から走って音質まで向かった。

 ビニールハウスの中を覗くと、花壇のレンガに慎ましく座っている白雪がいた。遊んでいた名残なのか、浴衣姿がよく似合っている。

「――白雪」

「あ……、英介くん」

 気丈に微笑む彼女の目は、さっきまで泣いていたのだろうか、充血していた。

 俺は、あえてあまり気にしていない体で、

「よ、何かあったのかい」

 と軽く尋ねねがら、その前に立つ。。

「ううん、何でもないよ。それより、雪の刀について、だったよね。私も詳しいことは知らないけど……」

 妖刀の刀は、とにかく切れ味のいいものだという。刀身自体が特殊な金属を用いているせいか、常に高温で、それによって発揮されるのだとか。銘は『流星』。隕鉄を原料にしているところから付けられたらしい。

 ――などと語る白雪の話は、理解はできるものの、何か、頭に入ってこない。

 それよりも、彼女のその双眸に気が向いてしまい、話に集中できないのだ。

「……? 英介くん、私の顔、何か変ですか」

 白雪は、俺の視線に気づいたのか、それを問い質す。

「変、いや、変じゃない。綺麗だよ」

「綺麗……? 浴衣は? 髪型は?」

 何か、引っかかる言葉があったのか、白雪は堰を切ったように、問を繰り返す。

「よく似合ってる。本当に綺麗だ」

 俺はそれに、考えなしに、気分に任せて返答してしまった。

 それを聞いた瞬間、白雪は、わっ、と泣き出して立ち上がり、俺に抱きついてきた。

 俺は驚きつつも、彼女を抱き止る。

 頭一つほど俺と背が離れている白雪の髪が、俺の鼻腔を擽る。

「いい子だ、白雪。何があったのか、俺に話してみな」

「うん……」

 白雪は、所々嗚咽を交えながら、今日の出来事を話し始めた。

 彼女は今日、キンジと花火を見に行った。

 最初は、キンジが遅れたせいで、花火は終わってしまったと勘違いした二人だが、キンジはそこで気を遣って小さい花火を購入し、何だかんだで二人はいい感じの雰囲気ではあったのだが……

 実際には花火はまだ打ち上がっておらず、キス寸前まで持ち込んだが花火の炸裂音に気を取られて、その、何というかな……

「わ、わたし……、ぐすっ、き、キンちゃんに、も、もう――」

「ああ、わかるよ。キンジは鈍感だからさ、許してやってくれよ。運が悪かったのさ。白雪は悪くない」

 こういう状態の女性は、自分を肯定してほしいのではないかと思う。君は悪くないって、そういう優しい言葉が欲しいんだよ。

 しかし、俺は、そういう女性に対して、批判的ではない。

 それにしても、だ。弱々しく俺に縋って、泣きじゃくる白雪は――不謹慎ながらも――妙に絵になって焦るよ。

 ――一頻り泣いて、疲れたのか、白雪は目を細めて、また花壇に座った。少し開けた浴衣が、妙に生々しく、色っぽい。

 ……マズイ、変な気分になってきた。早く、帰らせよう。

「さ、白雪、もう遅いだろ。体冷やしちゃ駄目だ。部屋まで送ろうか?」

「うん。お願いします」

 白雪は、少しだけ気が楽になったようで、いつも通り、晴れやかな笑顔をこちらに向けてきた。

 女子寮の、白雪の部屋の前まで、彼女をエスコートして「じゃあ、またな」と言って帰ろうとすると――

「ま、待って!」

 白雪に、手を引かれた。

 ……おいおい、勘弁してくれ。

「その、本当は、こんなこといけないんだけど……」

 と、言葉を詰まらせる。その先は、言わないでほしいんだが。

「ね、寝るまで、側にいてくれませんか……?」

 消え入りそうな声だ。

 ――ああ、わかった。わかったよ、白雪。本気なんだな。

「いいぞ」

 と返事をした俺を、白雪はVIPルームである自室の、寝室まで案内して、改装したであろう和室に布団を敷き、その横に、座布団を用意した。

「じゃあ、私、お風呂入ってくるから」

 と言って、白雪は本当に風呂に入った。

 俺は、その間、何もすることがないので、銃のシリンダーをクルクル回したり、.357マグナム弾を転がしたりして遊んでいた。完全に手持ち無沙汰状態である。

 こういう時は、喫煙でもしたいが、白雪は恐らく、煙が嫌いなんだ。これから一晩一緒に過ごすんだ。彼女の嫌がることはしたくはない。

 そして、少しの後、彼女は火照った体を簡素な柄の浴衣に包んで現れた。そうか、彼女は寝間着も浴衣なのか。しかし、本当に綺麗だ。

 白雪は、そのまま敷いてあった布団に潜り、明りを消した。

「英介くん」

「何だ」

「寝るまで、何か、お話を聞かせて」

「……なら、『プリンの塩加減(seasoning for pudding)』の昔話について、話そうか」

 この時点で、俺は、はっとした。

 白雪は、本気だった。本気で側にいてほしい(・・・・・・・)だけだった。

 邪な考えを抱いていたのは、俺だけだったと、そういうわけだ。

 流石は星伽巫女筆頭。清純この上なくまあ、何というか。

 今の白雪は、怖い夢を見そうだから一緒に寝てほしいと親に頼む子供と同じだ。

「昔の話さ。アメリカの田舎に、プディングを作るのが上手いシンプソンおばさんが――」

 そして、三分後。

 この話、結構早く――そう、五分くらいで終わる話だったのだが、当の本人は、既に寝息を立てていた。

 何てこった。これじゃ、プディングは塩なしで甘ったるいままじゃないか。

「……最後は、丁度いい量の塩を姉妹で入れて、美味いプディングができたとさ。目出度しだな、はは」

 俺は、問わず語りにそう結論づけた。

「キンちゃん……」

 寝言もいいがね、ちったぁ、こっちの苦労を考えてくれ。

「おやすみ、白雪」

 そう言って、俺は女子寮を後にした。

 

 †

 

 星伽雪――妖刀の正体。

 彼女の生い立ちに、打倒のヒントがあると、俺は見ている。

 というのも、彼女の正体――ある程度は割れているのだが――について、俺は確信めいたものを感じていた。

 しかし、それが外れていた場合……

「英介さん」

 屋上で寝ながら思案していた俺に、レキが話しかけてきた。

 今日は、アドシアードの一日だ。

 朝早いとはいえ、一番に競技場へ着いておくべきだろう、出場者としては。

「レキ、どうしたんだ」

「あなたに、邪な風が当たるのを感じる」

「邪な風? つまり、病気の風邪をひくってことか。――ああ、最近寒いよな」

「違います」

 じゃあ何だ。もっと、簡単に言えないのか。

「何か、悪意のようなものがあなたに向けられている。注意すべきです」

「悪意?」

「具体的にはわかりません」

「……そうか。じゃあ、注意しておくよ」

「失礼します」

 レキは、それだけ言って去っていった。

 このことを伝えるためだけに、俺を探し出したのか。本当に、よくわからない奴だな。

 まあ、もし悪意を持って俺に矛先を向ける人間がいるとしたら、それは間違いなく妖刀だろうな。

 しかし、しかし。俺だって、彼女の襲来に備えていないわけじゃない。

 前述の妖刀の正体に照らし合わせて、奴に勝つためのある道具を、昨日コンビニで買ってきた。

 十中八九役に立たないであろうそれで、万に一つくらいは活路が見いだせるかもしれない。

 どうなったって、どんなに役に立たなくたって、ゲン担ぎにはなるさ。彼女の嫌いな、アレはな。

 

 †

 

 昼からの俺は、アドシアード実行委員の仕事で忙しなく動き回る白雪の護衛についていた。やることもないしな。

 現在、レキ、キンジは行動不能。アリアは行方不明と、俺しかいない状況だ。もし、あの古風な二人組が攻めて来るなら、ここだろうが、俺だって、そのためにいるんだぜ。簡単にはやられてやるつもりはない。

「白雪、キンジには何か言ったのか?」

「あ、うん、昨日はごめんなさい、って。気にしなくていいって言ってくれたけど……」

「じゃあ、気にすんなよ。そもそも、ありゃキンジが悪いぜ。100%な」

「そ、そんなことないよ。キンちゃんは、その……」

 白雪は、そこで言葉を濁した。

 俺は、これ以上言わせるのもな、と思い、

「よ、まだ仕事はあるんだろ。さっさと次行こうぜ」

 とその話を切り上げた。

「……うん、そうだね、次は――」

 来賓の誘導などを終えて、彼女と生徒会室へ戻ろうとしている時だ。

 俺の携帯が震える。この音、最近また設定し直したキンジ用の着信音『Flamma Flamma』だ。どうしたんだろうか。

「ハロー?」

『英介ッ! やられた! 敵の襲撃だ! 今、女子寮の方まで逃げてるから、すぐ来てくれ!!』

 言葉が途切れて伝わってくる。走っているようだが……

「敵は何人だ!? 二人か!?」

『ああ! 二人だ――和服の女と、もう一人はよくわからん! 増援、は、早くしろッ!』

「チッ――ああ、わかった、すぐ行く!」

 俺は、携帯を閉じると、白雪に告げる。

「白雪、落ち着いて聞けよ、キンジが襲撃を受けたらしい。俺も、援護に行ってやりたいが……」

 護衛上の観点から言えば、それはできない。

 むしろ、キンジが一人で、もしくはアリアかレキと組んで敵を撃破すべきだ。まあ、望むべくもないかもしれないが。

「いいよ」

「え――」

「自分の身は、自分で守ります。英介くんは、キンちゃんを助けに行ってあげて」

「しかし、お前は――ああ、わかったよ」

 白雪の瞳。何かを決意した目。

 俺はそれを確認してから、キンジの援護に走る。

 校門前を走り抜ける時、誰かが受付でうつらうつらしているのが見えた。

 ああ、ったく、事情を知らない奴はいいよな。俺もかえって不貞寝したい気分だよ

 そして、女子寮前まで来てから気づく。

 ――妙だ。静かすぎやしないか。

 キンジが逃走している最中なら、銃声や剣戟の音が響いてもおかしくないはずだ。それ以前に、このあたりでそんなことをしていたら、女子寮から顔を出した生徒が、煩いから、という理由で発砲してくることもざらだ。

 そんな中で逃走劇を繰り広げることは、まずできない。

 導き出される結論は――

「クソが! ハメられた!!」

 俺はようやく正気に戻って、事態を客観視し始める。

 キンジからの電話は、恐らく――いや、十中八九、あのコンビの罠だろう。

 だとすれば、白雪は今頃……

 踵を返して駆け出した俺は、走りながらまず、白雪に電話をかける。

 ……五回ほどコールしたあたりで諦め、今度は、キンジに電話をかけた、がこれにも出ない。

 やむなく俺は、教務科に連絡を取り、ケースD7――アドシアード開催中の事件に関して、秘密裏に解決する旨のメール――を関係各所に送信してもらった。

 程なくして、校舎に戻った俺は、人が隠れられそうな場所を虱潰しにしていく。

 そして、丁度、校門まで戻った時だ。

「英介!」

「キンジ! この野郎、お前のせいで一杯食わされちまった」

「……? 何の話か知らないが、ケースD7だ.さっきレキから連絡があって、地下倉庫が怪しいらしい」

「地下倉庫? そういうのもあるのか」

「知らなかったのかよ。……大きな声じゃ言えないが、要は弾薬庫だ。さ、行くぞ」

「ああ――いや、先に行ってろ。俺はアリアに連絡してみる。現在の戦況では不利だ」

「……わかった。頼んだぞ」

 キンジはそう言うと、地下倉庫があるであろう方に急いだ。

 俺は、先程まで開いていた携帯をもう一度開いて、アリアの連絡先をプッシュしようとするが――

 そこで、気づいた。

 遠山キンジという連絡先が、二つあるということに。

 ご丁寧にどちらにも同じ着信音、つまり、ニコラス・レンスのファイアーレクイエム・フランマフランマが設定されていた。

 ジェーンか……、いや、そうだろな。こんなことをするのは、彼女の他にいない。

 アリアにも連絡を取ってみたが、無駄だ。出ない。チクショウ、こんな重要な時に誰も携帯に出ないとか、どうなってるんだ。

 仕方がないので、俺はキンジの後を追って、弾薬庫がある地下倉庫へと地図を見ながら向かってみる。

 それにしても、弾薬庫でこの着歌は鳴らないでほしいもんだ。火薬満載の部屋で『Flamma()』とか、洒落にならないぜ。




英介がなァ、白雪の攻略なんぞ、できるわきゃねえだろォ!!(ギンガナム並感
白雪を愛してやまない(むしろ病んでる)人には申訳ないですが、白雪はハーレムに入れるつもりはありません(キンジさんの物ですから)。というか、英介は性欲を持て余していても、作者はりこりんのことで頭がいっぱいなので、一話に一回はユニークアブソリュートマイエンジェルりこりんについて触れていきたいです。
まあでも、かつての偉人・菊池家康は言いました。「二次元美少女は俺の嫁。嫁は何人いてもいい」ってね。まさに名言です。作者は心打たれました。
それに倣う気はないですが、それでも、アリアのメインヒロイン枠の人数くらいはいてもいいかな、と思いました。

3/10:オリジナルやるやる詐欺をしつつガンダムOOの短編の予告するマンです。活動報告に上げておきますね。よろしければ見てください。
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