鬼畜陵辱エロゲの世界に転生したけど男女比がバグってるせいで竿役が俺しかいない 作:乳と地位が比例する世界
「大丈夫っ、何があったの!?」
部屋に入った途端、漂う悪臭が鼻を突き刺した。生ゴミが腐ったような、嫌な匂い。
反射的に、顔を手で覆う。
……まさか。
最悪の可能性が頭に過ぎる。
何度も、何度も見てきた、あの惨い光景が。
俺は、ゆっくりと彼女に近づく。
そして。
「……アルス」
その身体へゆっくりと目を落とす。
……怪我は、してない。
服も汚れてないし、
辺りを見渡す。
強盗でも入ったのか。
そうも思ったが、物が取られたりといった様子は見当たらない。
むしろ、逆だ。
化粧台や机にかけられているのは泥水。
その周りには何個もの生ゴミがあった。
……臭いの原因は、これか。
さらに目を引くのは、ゴミ山の上。
そこにはまるで脅しているかのように。
錆び落ちたナイフや折れた剣が突き刺さっていた。
わからない。
最悪の事態は起こっていない、けど。
なにかあったのは、間違いない。
……一体、どういうことだ。
「……大丈夫よ、何もされてないわ。
だから、そんな目をしないで」
そのとき。
おそらく、俺の様子を見てだろう。
セレスが声を放った。
「ほ、ほんとに?」
「嘘はつかないわ。
あまり、見せたい姿ではなかったけどね」
そう言うと、彼女は自嘲気に笑ってみせる。
その姿は、いつもの凛とした彼女の様子からは想像できないものだ。
「……今日は、もう帰って。
明日までには、何とかしとくから」
目は真っ赤に染まっている。
瞼は腫れ、手には何度も床を叩いたであろう痕がこびりついていた。
なんでこんなことになってるんだ。
これは間違いなく、人間の悪意によるものだ。
一体、誰がこんなことを。
まさか、ダリウスの手がもう……
――いや、違う。
今、やるべきことは犯人探しなんてことじゃない。
俺は彼女の震える手を取る。
「大丈夫、大丈夫だから。
君には俺がついてる。
絶対、酷いことなんてさせない」
そして、両手でぎゅっと握って、伝えた。
何度も、何度も。
「君にこんなことをした犯人も見つけてみせる。
……だから、今は俺を頼っていいから。
一人になろうとは、しなくていいから」
ぐちゃぐちゃだ。
心配、不安、怒り、無念。
色んな感情が頭の中を渦巻いている。
でも、それはセレスも同じだ。
「……ありがと、アルス」
だから、今は見せちゃいけない。
だって、そうだろう、俺は。
――この子を守るために、ここにいるんだから。
数分後、俺は彼女の耳元で言葉をこぼす。
「……落ち着いた?」
「……そうね。
悪かったわ、心配、させて」
気丈に振る舞おうとするセレスだが、その表情は明らかに影が落ちている。
こんな弱った様子の彼女は初めて見た。
……当然か。
それだけ、ショックだったんだろう。
「……何があったの?」
居た堪れない。
そう思いつつも、聞かないわけにはいかなかった。
少しの間、沈黙が流れる。
その間、俺は彼女の瞳をずっと見ていた。
……彼女の目には迷いがある。
俺に話すべきなのか。
きっと、そういった迷いが。
「君の力になりたい。
だから、話してくれないかな」
それを見て、俺は手を差し出す。
無理に聞き出すことはしない。
話が聞けなかったら、どうにか俺一人でも調査して、解決してみせる。
だけど。
もし彼女が俺の手を取ってくれるなら。
「――信じてくれないか、セレス」
その怒りを、悲しみを一緒に背負っていくことができるはずだ。
「……分かったわ、アルス」
暖かい感触が手のひらを覆う。
……目の前には、差し出した手を強く握りしめるセレスがいた。
そして、彼女は語りだす。
「……今日の朝。
出かけて帰ってきたらこうなってたのよ」
今朝、自らの身に起きた出来事を。
彼女の話によると、部屋がこうなっていたのに気づいたのは今日の朝だったらしい。
宮廷からの命令された政務の手伝い。
それに駆り出された彼女は、昨日の夜、ずっと仕事場である官邸にいたようだ。
そして、クタクタになって帰ってきた彼女が見たもの。
それは、ぐちゃぐちゃに荒らされた自身の部屋だった。
「タチの悪い嫌がらせね。
……ほんと、趣味の悪い」
嫌がらせ。
そう言い放った彼女の声には、何か確信のようなものが感じられる。
「誰がそんなことを?」
「……さあ、知らないわ」
俺の疑問に彼女は答える。
……知らない、か。
彼女の言葉が真実かはわからない。
ただ、嫌がらせと断言したさっきの発言から考えるに……何か、心当たりはあるのか?
いや、隠したいものがあるなら、追求するのも良くないか。
それよりも、今はこの部屋をどうにかするべきだな。
「――ルルカ、来て!」
俺は大きな声で、その名を叫ぶ。
ボディガードとして付いてきてくれてたから、まだ近くにいるはずだ。
「はいはい、お呼びとなればいつでも……
うわ、なんですこの状況。
なんかやらかしました? 坊ちゃま」
部屋に入ると同時、ルルカはぎょっとして目を見開く。
メイドとして、清掃のプロであろう彼女からしても、部屋の状態は酷いもののようだ。
「こういうことなので片付けるの手伝って欲しい。俺たちだけじゃ日が暮れるから」
「ここまでなら清掃業者を手配した方がいいですね。泥が酷いので、土系魔術師も必要でしょうか」
流石のルルカも真面目モードである。
彼女はそそくさと近くにいたメイドを呼び集め、命令を開始する.
「ごめん、ルルカ。
いつも助けてもらって」
「ん、お礼はいいですよ。
それより、坊ちゃまとお嬢様は別の場所へ。
……あ、変な事しちゃ駄目ですよ」
こんなときにするわけないでしょ。
そう思いながら、俺はセレスの元は振り向く。
そのとき。
「待って」
部屋に来てからずっと、床に座り込んでいたセレスが立ち上がる。
「ゴミくらいは自分で片付けるわ。
頼りっぱなしじゃ、嫌だから」
おそらく彼女なりの矜持なのだろう。
セレスは俺たちに向かってそう言い放った。
……ならば、邪魔するわけにはいかないな。
「じゃ、俺も手伝うよ。
掃除は得意だしね」
もちろん、彼女一人にやらせるつもりはない。
この量なら、協力すれば昼までには終わるはずだ。掃除は前世からよくやってたしね。
「そのくらい、私だけで……」
「大丈夫大丈夫。
もっと頼ってよ、ほら婚約者だしさ」
俺は彼女の肩をポンと叩いてみせる。
少々チャラい気もするけど、落ち込んでいる彼女を励ますためだ。
「……アルス」
「ほら、やろっか。
一緒に片付ければこのくらいすぐ終わるよ」
そう言って、俺は彼女の手を取った。
それと同時、まるで身体を預けるかのように、セレスの肩がくっつく。
……ちょっと近いな。
いやでも、これくらいの方がいいんだろうか。
今の傷心した彼女には。
不安を抱いてるとき、肩を預けられる相手がいるのは大切だ。
俺は寄りかかるセレスの身体を支えながら、その場に止まる。
「……ねえ、アルス。
ちょっとでいいから、こうしてていい?」
「ん、分かった。
疲れてるなら、無理しなくていいから。
このくらい俺だけでもなんとかなるし」
きっと、疲労も溜まってるんだろう。
仕事終わりでもあるらしいし。
そのまま、数分が経つ。
作業を始めようにも、くっついたままの彼女は動こうとしない。
「あのー、何イチャイチャしてんすかね。
……はぁ、メイド用の掃除用具持ってくるのでそれまでは休憩しといてください」
「ん、ありがとルルカ」
すると、見かねたルルカがそう言い放った。
……よくよく考えればホウキもなかったな。
流石にナイフとかを素手で触るのは怖い。何があるか分からないしな。
俺は素直に彼女の言葉を受け止め、息を吐く。
すると、そのとき。
部屋を出ようとしていたルルカが声を放った。
「――そうそう、坊ちゃま」
何だ? と俺は彼女の背中を見つめる。
「私たちの共同寝室は宮廷の入り口にあります。
なので、宮廷に誰かが入ってきてたら気づいたでしょう。諜報用のメイドもいたので間違いなく」
視線を受けて、彼女は語り出す。
……この悪意の正体を知るための情報を。
「……それは」
「はい、そういうことです。
……なので、坊ちゃま達も気をつけて。
警備はつけますが、何があるか分かりませんから」
……ルルカが語った言葉、その意味は実に単純なものだろう。
「――宮廷内部の犯行ということか」