病弱なご令嬢に転生した俺。だけどチーレムの夢が諦めないので魔法の指輪で男に変身して無双します 作:明るいランプ
ローゼンベルク公爵家の長子であり、誇り高き王国騎士団の副団長であるレオン・ローゼンベルクは、月の光が静かに街を照らす夜、一人の人物と邂逅していた。
漆黒の装束に、同じく漆黒の仮面。
加えて、仮面の隙間から除き見える真紅の瞳。
間違いない。
目の前にいるこの黒装束こそが、ここ数ヶ月にわたり王国内の噂を独占していた正体不明の人物:クロだ。
「どうやら毎晩、我々の詰所の前に届け物を置いてゆく、粋な配達人はお前のようだな」
できる限り声を低く、威圧的に語りかけながら、奴の足元に転がされた五人の人物へ目線を移す。
ロープで縛られた、これまた黒装束の男たち。
だが、クロと決定的に違うのは、奴らの肩の位置に、とある紋様が刻まれていることだ。
蛇が絡み合ったような、禍々しい紋様。
それは、王都の裏社会に巣食う犯罪組織――ネメシス教団の証だった。
誘拐、人身売買、更には違法薬物の流通。
最近、王都で急増している凶悪犯罪の裏には必ずと言っていいほど、このネメシス教団の影が見え隠れしていた。
当然ながら、騎士団も幾度となく捜査を行っている。
だが連中は簡単に尻尾を掴ませてくれない。
何しろ奴らは、王国の最高戦力――レオンをもってしても、捉えることがやっとのほどの隠密行動のプロ。
その上、折角捉えたとしても決して口を割ることはなく、挙句の果てには隙を見て、自決してしまうほどの徹底ぶりなのだ。
故に、教団の全貌は未だ多くの謎に包まれている。
それが、直近で騎士団を悩ませている最大の問題だったのだが……。
目の前の男は、その教団員を五人まとめて生け捕りにしてみせたのだ。
それも、器用に意識だけを刈り取った上で。
「お前は一体何者だ?」
レオンが問う。
だが……。
「別に何者でもないさ。俺はただの善良な市民だよ」
肩を竦めながら、あっけらかんとして答えたクロ。
「そんな筈があるか。ただの一般人にコイツらは倒せる筈がない」
「なら運が良かったのかもな。何しろ今日は月が綺麗だからよ」
「……月だと?」
クロの発言に、思わず眉をひそめるレオン。
「そうだ。良い夜というのは、時折り思いがけない出会いや出来事を運んでくれるものだからな。現にこうして貴殿とも出会えたであろう?」
「話をそらすな。質問に答えろ」
「ははっ、どうやら副団長殿は、噂通り随分とお硬い人らしいな」
レオンの返答を受けて、愉快そうに肩を揺らしたクロ。
「だが嫌いではない。貴殿のような真面目な者がいるからこそ、この国はまだ何とか回っていると言っても過言ではないだろうからな」
「……戯れ言はもう良い」
一歩――。
腰に携えられた剣に手を翳しながら、レオンは歩みを進める。
「お前には聞きたいことが山ほどある。お前の目的、そして正体についてもな」
「ほう、まさかあの誇り高き王国騎士団の副団長殿に興味を持っていただけるとは、これまた随分と光栄なことで」
「ふざけやがって、ならばその光栄を噛み締めながら……」
ダンッ!!
「獄中で後悔すると良い!」
次の瞬間――。
石畳を強く踏み込むと、一瞬でクロの懐へと入り込んだレオン。
王国騎士団の副団長:レオン・ローゼンベルク。
その実力は間違いなく、王国内でも五本の指に入る。
故に、並の相手ならば、今の動きを視認することすらも困難な筈……。
だったのだが――。
「おっと」
(っ!)
いとも容易く、軽く体を傾けるだけで、その攻撃を躱したクロ。
「危ない、危ない。まさかいきなり攻撃とは。どうやら副団長殿は随分とせっかちでもあるらしいな」
(……クソっ!)
余裕げに笑みを浮かべるクロ。
その反応が気に食わなくて、レオンは更に踏み込む。
一撃、二撃。
人間離れした速度で繰り出される連続攻撃。
だがそれも虚しく、その攻撃がクロの体を捉えることは一切なかった。
(くっ!)
内心で舌打ちをかますレオン。
「いやはや、まさかこんなにも太刀が早いとはな。それにこの練度。流石は副団長殿といったところか」
「……クソったれ」
「こうなってくると本当はもう少し遊んでやりたいところだが、実は俺もあまり時間がなくてな。悪いがこの辺で終わりにせてもらうぞ」
そう言うと……。
おもむろに懐から謎の黒い物体を取り出したクロ。
(……っ!……あれはマズい!)
今までの数々の戦闘で培ったノウハウなのか、直感的にそう判断して、即座に後退するレオン。
すると次の瞬間――。
パリンッ!
(くっ!?)
ガラス細工が砕けたかのような音と同時に、瞬く間に周囲一帯を覆った、月明かりさえを飲み込むほどの濃密な闇。
(……クソッ……小細工を!)
その事実を認識するのと同時に、レオンは即座に気配探知能力を発揮して、クロの位置を探るが……。
(……気配が消えた……だと!?)
ほんの一瞬前まで、目の前にいた筈の男の気配が……。
気づけば、まるでそこに最初から何もいなかったかの如く、綺麗に掻き消えていたのだった。
(……馬鹿な……)
必死に焦りを抑えながら、引き続きクロの気配を探り続けるレオン。
だが、その努力も虚しく数秒後――。
(……クソッ)
件の霧が晴れて視界が戻る頃には、奴の姿は完全に消してしまっていたのだった……。
(……なんて逃げ足の早い奴なんだ……)
悔しさを滲ませながら、奥歯を噛みしめるレオン。
すると、視線を落とした先――つい先刻までクロがいた石畳の上に、謎の黒い塗料で文字が刻まれていることに気づくのだった……。
『次合う時は、もう少し穏やかに話せることを願っているよ』
「クソッ……次会った時は絶対に捕まえてやる……」
◇◇◇
――それから程なくして数刻後。
ローゼンベルク公爵家の本邸――可愛いぬいぐるみや小物で埋められた一室では……。
(うわ〜!?なんであんな変な態度をとっちゃったんだろう!?あれじゃあ完全に怪しい奴みたいじゃんか!?)
自身がとった行動を激しく後悔するリリアナがいたのであった……。