病弱なご令嬢に転生した俺。だけどチーレムの夢が諦めないので魔法の指輪で男に変身して無双します   作:明るいランプ

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第四話

 数多くのぬいぐるみや小物で彩られた、ローゼンベルク家の一室にて……。

 

「うぅぅ……!!」

 

 俺は枕に顔を埋めながら、ベッドの上をゴロゴロと転がっていた。

 

 思い出すのは、つい先刻の出来事。

 クロとして、初めて兄と邂逅した時の一幕だ。

 

『何しろ今日は月が綺麗だからな』

『副団長殿は随分とお硬い人らしい』

『次合う時は穏やかに話せることを願っているよ』

 

 いやマジで!

 どうして俺はあんなにも小っ恥ずかしい台詞を次々と口走ってしまったのだろうか!

 

 確かにさ。

 前世の男子高校生だった頃、好きだった漫画やアニメの影響で、若干厨二病っぽい時期があったのも事実だけどさ……。

 

 だとしても、流石にもうちょっと主人公っぽい感じの振る舞いをしていたと思うんですよね!?

 

 にも関わらず、今日の振る舞い。

 

 あれでは完全に敵サイド。

 物語の序盤で強キャラムーブをかました後、覚醒した主人公に倒されてしまう噛ませ系の脇役キャラだよ。

 

 ……違う。

 全く違うのだ。

 

 俺がクロとして目指しているのは、あくまでも最強のチートで無双する主人公ポジション。

 物語の途中で退場する脇役ではないのだ。

 

(その為にも、やっぱりもう少しクロな人物像を決めておいたほうが良いよな)

 

 今日のクロとしての暴走。

 その一番の原因は間違いなく、自身の中でクロというキャラ像が定まっていなかったことにあると俺は思う。

 

 だってそうだろう?

 

 どんな物語だって、事前にキャラの性格や口調を考えた上で、物語を書き始めると俺は思う。

 だからこそ、今の俺に足りなかったのは他でもない。

 クロという人物のキャラ付けを行うことだ。

 

(よし!)

 

 そうと決まれば早速、今からクロのキャラ付けを行うぞ!

 

 ……と、行きたいところだったのだが。

 

 ……バタリッ。

 

(あれ?)

 

 次の瞬間。

 まるで糸が切れてしまったかのに、ベッドの上に横たわってしまった俺の体。

 どうやら今日は時間オーバー。

 活動限界のようだ。

 

(……仕方がない……クロのキャラ付けは……明日やろう……)

 

 こうして俺は、半ば気絶をするように、自室のベッドの上で意識を手放したのであった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 騎士団の宿舎へ戻った頃には、既に夜も更けていた。

 

 だが、レオン・ローゼンベルクに休むという選択肢はない。

 王都を騒がせる謎の人物――クロ。

 加えて、そのクロが生け捕りにしたネメシス教団の構成員五名。

 

 この件を騎士団の上層部へ、即座に報告する必要があったからだ。

 

「失礼します」

 

 団長室の扉を軽く叩き、中へ入る。

 部屋の奥には、逞しい壮年の男性が書類へ目を通していた。

 

 王国騎士団の団長――ゲオルグ・ヴァレンシュタイン。

 王国最強と名高い人物である。

 

「戻ったか、レオン」

「はい」

 

 レオンは背筋を伸ばし、一礼する。

 

「報告します。つい先刻、例の人物――クロと接触しました」

 

 その言葉に、団長の視線が鋭くなる。

 

「ほう」

 

「場所は南区画の裏路地。クロはネメシス教団の構成員五名を拘束した状態で現れました」

「そうか……五名も……か」

「それも全員生存したまま、気絶しているだけです」

 

 そこで一瞬言葉を切り、レオンは苦々しく続ける。

 

「ですが、クロ本人の拘束には失敗しました」

「……そうか」

 

 部屋に沈黙が落ちる。

 

 騎士団の副団長であるレオンが逃した。

 それがどれほどの異常なことなのか、団長も理解しているからだ。

 

「……詳しく聞かせてくれ」

「分かりました」

 

 それからレオンは、遭遇から逃走までの一連の出来事を説明した。

 

 圧倒的な身体能力。

 卓越した回避技術。

 そして最後に放った、あの不可解な霧状の闇。

 

 報告を聞き終えた団長は腕を組みながら唸った。

 

「なるほどな」

「……申し訳ありません」

「いや、謝る必要はないさ」

 

 即座に否定される。

 

「むしろ興味深い報告だ」

「興味深い……ですか?」

「ああ」

 

 団長は椅子にもたれながら静かに言った。

 

「まず、お前ほどの実力者を相手に余裕を保っていた。加えて、あのネメシス教団を精鋭を五人も生け捕りにしたのだ」

「……」

「普通なら正体不明の敵、と判断するところなのだがな……」

 

 団長は机を指先で軽く叩く。

 

「その男は今のところ、一度も一般市民へ危害を加えていないのだろう」

「はい……」

「むしろ犯罪者ばかりを捕らえていると聞く」

 

 それは紛れもない事実だった。

 

 クロが現れて以降、騎士団の詰所へ届けられた犯罪者の数は数十人に及ぶ。

 その中には、長年追っていた指名手配犯すら含まれていた。

 

「だからこそ不気味なのだ」

 

 団長の声が低くなる。

 

「目的が見えん」

「……はい」

「金でもない、権力でもない」

「……」

「だが善意だけで動いているとは到底思えん」

 

 それはレオンも同意見だった。

 

 あれほどの実力を持ちながら、何故正体を隠すのか。

 何故、騎士団へ協力するような真似を続けるのか。

 何故、ネメシス教団を狙ったのか。

 

 何一つ分からない。

 

「とちらにせよ放置はできん。引き続き追跡を続けろ。だが無理はするなよ」

「……よろしいのですか?」

「何しろ相手の力量が不気味なほどに未知数だからな」

 

 団長は苦笑する。

 

「それに、お前がここまで翻弄される相手だ。私も少し会ってみたくなったな」

「次こそは捉えます。そうしたら満足行くまで奴の顔を拝んでやってくたさい」

「そうか、そいつは頼もしいな!ガッハッハ!」

 

 豪快な笑い声が部屋に響く。

 

 だがその目は笑っていない。

 王国最強の騎士ですら警戒している。

 

 それほどまでにクロという存在は異質だった。

 

「ところでレオン」

「はい?」

「最近、実家には帰っているのか?」

「……実家、ですか?」

 

 あまりに唐突な質問だった。

 思わずレオンは目を丸くする。

 

「そうだ。お前、ここ最近ずっと宿舎に籠もりっぱなしだろう」

「任務が立て込んでおりますので」

「真面目なのは結構だがな……」

 

 団長は呆れたように肩を竦めた。

 

「部下たちから聞いたぞ。ここ一ヶ月近く帰っていないらしいな」

「それは……」

 

 否定できなかった。

 

 ネメシス教団の捜査。

 そしてクロの存在。

 

 気が付けば仕事ばかりの日々を送っていた。

 

「家族を大切にするのも騎士の務めだ」

「……」

「特にお前には可愛い妹がいるだろう?」

 

 その言葉に、レオンの脳裏へ一人の少女の姿が浮かぶ。

 

 銀色の髪。

 紫色の瞳。

 少し儚げで、それでいて優しい笑顔。

 

 リリアナ・ローゼンベルク。

 自慢の妹だった。

 

「休暇も立派な仕事だ。たまには家の者に顔でも見せてこい」

「……そう、ですね」

「よし。では今日の報告は終わりだ」

「はい」

 

 敬礼をして部屋を後にする。

 その足は、自然と王都の宿舎ではなく、実家であるローゼンベルク公爵家へ向かっていた。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 久方ぶりの我が家だった。

 

 早朝にも関わらず、嬉しそうに出迎えてくれたメイド長と軽く挨拶を交わした後、慣れた足つきで屋敷の奥へと進む。

 

 向かう先は一つ。

 屋敷の最奥にある妹の部屋だ。

 

 ……コンコン。

 

 軽くノックをする。

 だが返事はない。

 

 どうやら眠っているらしい。

 

「……失礼するよ」

 

 念の為、断りを入れてから、静かに扉を開ける。

 

 すると、部屋の中心――ぬいぐるみに囲まれたベッドの上で、一人の少女が寝息を立てていた。

 

「すぅ……すぅ……」

 

 最愛の妹:リリアナだ。

 

「……久しぶりだね、リリアナ」

 

 小さく呟きながら、その美しい銀色の髪にそっと手を添える。

 

 そして――。

 

 ……さわさわ。

 

 優しく、壊れ物に触れるように、リリアナの頭を撫でた。

 

 すると……。

 

「んぅ……お兄さま……」

 

 心地よさそうに身じろぎをしながら、レオンの名を呼んだリリアナ。

 

(……ふふっ)

 

 その様子が微笑ましくて、自然と頬が緩くなる。

 

 同時に、今まで強張っていた肩の力が、少しだけ抜けたことに気づいた。

 

 近頃は忙しさを理由に帰れていなかった。

 

 だが改めて思う。

 

 もっと家族に、ひいては妹に顔を見せるべきだったな、と。

 

「大好きだよ、リリアナ」

 

 最後に――。

 

 リリアナの額に軽く口づけを落としてから……。

 

 少しだけ晴れやかな表情で、静かに部屋を後にするレオン。

 

 ……だが彼は知らなかった。

 

 今、自分が愛おしそうに頭を撫でていた妹こそが――。

 つい数時間前、自分を散々翻弄した正体不明の人物:クロであることを。

 

 その事実を知らぬまま、レオンは静かに微笑むのだった。

 

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