ようこそ原作主人公抜きで頑張る教室へ   作:灰色の

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事件後…

 

 

すっかり夜の闇が深まり、俺たちはようやく寮へと戻ってきた。

 

一緒に事情聴取を受けていた茶柱先生は、寮の玄関先で俺たちの前に立つと、いつもの冷徹な声を少しだけ和らげて告げた。

 

 

「今回の件、学校側としても後日必ずお前たちに正式な話がいくことになる。……だが佐倉、安心しろ。もうお前の前にあの男が現れることは二度とない」

 

「……はい、ありがとうございます……」

 

 

佐倉が小さく頭を下げると、茶柱先生は俺の方を向き、他の生徒には聞こえないような低い声で「よく気づいたな。お前がいなければ私はきっと取り返しのつかない事になっていた」と一言残し、夜の闇へと消えていった。

 

ストーカーという脅威が完全に排除された寮内。俺は自分の居住階に到着すると、エレベーターの扉が閉まる間際、一緒の籠に乗っていた佐倉に向けて「じゃあな」と軽く手を振った。佐倉は顔を真っ赤にしながら、壊れ物を見るような熱い視線でこちらを見つめ、小さく手を振り返してくれた。

 

ようやく一息つける。自分の部屋に戻り、制服のネクタイを緩めたその時、ポケットの中でスマートフォンが短いバイブレーションを刻んだ。

画面を見ると、メッセージの主は櫛田桔梗だった。

 

 

『今から、お部屋に行っても良い?』

 

 

(……櫛田から? このタイミングでか?)

 

 

佐倉の一件で脳の処理能力を限界まで引き上げていた俺は、一瞬だけ思考を巡らせたが、すぐに『ああ、大丈夫だ。来いよ』と慌てて返信を入れた。

 

それからわずか5分後。ドアをノックする微かな音が響き、俺が鍵を開けると、そこには帽子を深く被り、うつむいた櫛田が立っていた。彼女はいつもの明るい挨拶も口にせず、無言のままスルリと部屋に入り込むと、吸い寄せられるように俺のベッドの端へと腰掛けた。

 

 

「……どうした? 何かあったのか?」

 

 

俺がベッドの隣に腰を下ろして覗き込むと、櫛田は膝の上でスカートの布地を白くなるほど強く握りしめながら、ぽつりと呟いた。

 

 

「勉強会……」

 

 

その一言を聞いた瞬間、霧が晴れるようにすべてを察した。

 

 

(──そうか、池と山内か……!)

 

 

今日、俺は佐倉の異変を察知して「急用がある」と平田たちに勉強会を丸投げして離脱した。つまり、いつもなら俺が絶対的な威圧感で抑え込んでいた赤点組のストッパーが、完全に外れてしまっていたのだ。

俺がいない間、講師役をしていた櫛田の元へ、下心を隠そうともしない池と山内の二人がどれほど執拗に押し寄せ、馴れ馴れしくつきまとっていたか。想像するだけで反吐が出る。櫛田は表の『完璧な聖女』の仮面を維持するため、爆発寸前の怒りを必死にハラハラと押し殺しながら、笑顔で対応し続けていたのだ。

 

 

「……正直、すまなかった。俺が急にいなくなったせいで、本当に辛い思いをさせたな」

 

 

俺が真っ直ぐに彼女の横顔を見つめて謝ると、櫛田は小さく肩を震わせた。

 

 

「……私、すごく頑張ったよ……。ずっと、笑ってたんだよ……?」

 

「ああ、分かってる。あいつらは本当に酷えよ。色んな意味で、最悪で最低な奴らだ。櫛田、よくやってくれたな。誰よりも頑張って、俺がいない間、あの生き地獄をよく我慢した」

 

 

俺が彼女の抱える「ドス黒いストレス」を全肯定するように言葉を紡ぐと、櫛田の呼吸が荒くなった。

 

 

「……ねえ、言っていい? もう、限界なの……っ」

 

「ああ、思いっきり言え。ここにいる俺は、お前のその声を聴くためにいるんだ。誰にも言わないから、全部吐き出せ」

 

 

俺がそう言った瞬間、櫛田の仮面が完全に剥がれ落ちた。彼女は両手でベッドのシーツを引っ掻くようにしながら、ドスの利いた声を荒らげた。

 

 

「本当にっ……最悪! 最悪、最悪、気持ち悪いっ……!!! なんであんなゴミみたいな連中に、私が優しくしなきゃいけないわけ!? 死ねば良いのに、池と山内なんか……今すぐ消えてなくなりなさいよ……っ!!」

 

「ああ、そうだ。もっと言え。あいつらは害悪でしかない」

 

「大っ嫌い!!! あんな奴ら、この学校にいなくて良い……っ!!」

 

 

叫び、狂おしいほどの罵詈雑言をぶちまける櫛田。俺は机の上に用意しておいた冷たい飲み物のグラスを、そっと彼女の手に握らせた。櫛田はそれを奪い取るようにして一気に飲み干すと、肩を激しく上下させた。俺はその細い背中に手を当て、ゆっくりと大きな円を描くように優しく擦った。

 

 

「本当に……なんで今日に限っていなくなっちゃうわけ……っ!? 私が、あいつらに狙われるって分かってた癖に……!」

 

 

櫛田は潤んだ瞳で俺を睨みつけ、理不尽な怒りをぶつけてくる。だが、それは俺を「唯一本音をぶつけられる相手」として完全に依存している証拠だった。

 

 

「ごめんな。本当に悪かった。どんな状況でも、櫛田がクラスのために完璧に頑張っちゃうのを知っていながら、あいつらを残していった俺のミスだ」

 

「許せるわけない……っ! 絶対に、許さないんだから……!」

 

 

口では激しい言葉を並べながらも、全てを吐ききった彼女の身体からは、次第に鋭いトゲが抜けていくのが分かった。俺はしばらくの間、彼女の言葉を全肯定しながら、なだめるようにその背中を優しく撫で続けていた。

 

その時、手のひらから伝わる彼女の背中が、岩のようにガチガチに強張っていることに気づいた。日頃の「聖女の演技」による重圧と、今日のストレスで、彼女の身体は悲鳴を上げていた。

 

 

「櫛田、ちょっと良いか」

 

「……何よ……」

 

「少し、肩が凝りすぎてる。力を抜け」

 

 

俺は彼女の後ろに回り込み、その華奢な両肩にそっと大きな手を乗せた。そして、チートスペックの指先の感覚を研ぎ澄まし、絶妙な力加減でゆっくりと揉みほぐし始めた。

 

 

「あっ……」

 

 

不意の刺激に、櫛田の口から熱い吐息が漏れる。服の上からでも分かるほど、彼女の肩回りは緊張で引き締まっていた。俺は彼女の反応を確かめながら、丁寧に、じっくりと親指で凝りを捉えて揉み続けていく。

 

 

「んっ……、う……ん……」

 

 

室内に、彼女の小さく甘い鼻声が断続的に響き始める。整いすぎた銀髪のイケメンである俺に、至近距離から背後で身体を預けられ、肉体をじっくりと愛撫されるように解きほぐされていく感覚。

 

 

「……嫌じゃないか? 無理ならすぐに手を引くが」

 

 

あえて意地悪に手の力を抜き、すっと引っ込めようとしてみる。

すると、櫛田は焦ったように小さく手を伸ばし、俺の大きな手を掴むと、自ら自分の両肩の上へと力強く引き戻した。

 

 

「……、……続けて、いいから……」

 

 

うつむいたまま、耳まで真っ赤に染めた彼女が消え入りそうな声で呟く。

 

 

「分かった」

 

 

俺はフッと満足げに微笑むと、再び彼女の肩を優しく、力強く揉みほぐし始めた。

 

 

「櫛田は本当に頑張ったよ。はっきり言って、俺たちの学年で一番頑張っているのはお前だ。誰もが嫌がるような、みんなが出来ないことばかりを一人で引き受けてるんだからな。俺はお前のその努力を、誰よりも評価してるよ」

 

 

耳元で、俺の低く心地よい声で自分の価値を全肯定され、同時に肉体の快感を与えられ続ける。

 

 

「あ、うん……っ、凍影、くん……そこ、気持ちいい……」

 

 

櫛田の口から、時折我慢しきれないような艶っぽい声があがる。

 

やがて、あれほど頑なだった彼女の肩の筋肉が、驚くほど柔らかく、しなやかに解きほぐされていった。彼女の心の中にあったドス黒いストレスも、このマッサージの快感と共に、綺麗に融解していったに違いない。

 

俺がゆっくりと手を離すと、櫛田はふぅ、と熱い息を吐き出し、すっきりとした表情で顔を上げた。

 

 

「……大丈夫か?」

 

「うん……すごく、身体が軽くなったよ。ありがと、凍影くん」

 

 

帽子を直し、少し照れくさそうに微笑む櫛田。その瞳の奥には、恐怖による服従ではなかった。

 

 

「全部、言っちゃった……」

 

 

すべてを吐き出し、身体の凝りも心の中の毒も綺麗に消え去ったベッドの上で、櫛田は少し恥ずかしそうに、しかしどこかすがすがしい表情でぽつりと呟いた。

クラスの前で見せる完璧な聖女の姿からは想像もつかない、ドス黒い本音の全貌。それを一滴残らず目の前の男に見せつけてしまった気恥ずかしさが、彼女の頬を微かに赤く染めている。

 

俺はフッと優しく微笑み、彼女のその歪みすら愛おしむように言葉を返した。

 

 

「……やっぱり、櫛田は俺の上位互換だな」

 

「え?」

 

 

意外な言葉をかけられたというように、櫛田が大きな瞳をパチくりとさせた。

 

 

「俺にはあそこまでの魅力はないし、何より、あんな遠慮のない異性たちに笑顔で勉強を教えるなんて逆立ちしたって無理だよ。お前だからこそ、あの有象無象のDクラスを今日まで破滅させずに繋ぎ止められたんだ」

 

 

俺が真摯に彼女の『演じる才能』の唯一無二さを称賛すると、櫛田は一瞬だけ呆然としたが、すぐにいつもの、しかし今度は作り物ではない不敵な笑みを泥のように浮かべた。

 

 

「ふふっ……そりゃそうだよ。私にしか出来ないんだから。凍影くんだって、私がいなきゃ困るでしょ?」

 

「ああ、心底頼りにしてるよ」

 

 

俺たちの間に、クラスの誰にも踏み込めない絶対的な共犯関係の絆が結ばれた瞬間だった。

櫛田はベッドからゆっくりと立ち上がり、乱れた衣服をスマートに整えると、ドアの前で振り返り、少しだけ拗ねたような、しかしどこか甘えたような瞳で俺を睨みつけてきた。

 

 

「じゃあ、約束ね。明日はちゃんと、最初から勉強会に出るよね? ……もしまたサボって私に押し付けたら、夜にまたここへ押し掛けちゃうんだから」

 

「分かった、明日は絶対に逃げないよ」

 

「よろしい。じゃあね、凍影くん」

 

 

小悪魔的な笑みを残し、彼女は静かに部屋を去っていった。パタンと閉まったドアの背中を見送りながら、俺は手元に残されたマッサージの余韻と、彼女の甘い残り香を脳内で反芻していた。

 

 

 

 

翌日の放課後。俺は約束通り、最初から教室の勉強会に背を向けず、その中心に陣取っていた。

 

ターゲットは、昨日俺の不在をいいことに櫛田にベタベタと付きまとっていた池と山内の二名だ。

 

 

「おい、山内。そこ、さっき教えた公式と全く同じ構造だろ。なんでマイナスとプラスを間違える? 脳みそを一度洗浄してやろうか?」

 

「ひ、ひえええ! 凍影先生、すいません! すいません!」

 

「池、お前もだ。英語の基本構文すら頭に入ってないくせに、何が『櫛田ちゃんに教えてもらう』だ。このルーズリーフの例文を今すぐ10回音読しろ。噛んだら最初からやり直しな」

 

「ううっ……凍影、マジで鬼かよぉ……っ!」

 

 

完璧すぎる銀髪のルックスから、容赦のない絶対的な威圧感(スパルタ)を放ちながら二人を徹底的に締め上げる。池と山内は半分くらい本気で涙目を浮かべながら、必死にシャーペンを動かしていた。

 

櫛田はその様子を少し離れた席から見つめ、「ふふっ、みんなすごく頑張ってるね! その調子だよ!」と、教室の全員に向けていつもの完璧な聖女の笑顔を振りまいていた。だが、俺と一瞬だけ視線が交差したその刹那、彼女の瞳の奥に「ザマァ見ろ、もっとやれ」という強烈な快感と感謝の色がドロリと過ったのを、俺は見逃さなかった。

 

教室内を見渡すと、今日の勉強会には佐倉愛里も最後まで残っていた。

彼女は自分の問題集に向かいながらも、俺が池たちを指導する姿を、おそるおそるチラチラと何度も伺っている。ストーカーから救出されて以降、彼女の瞳に宿る俺への何かが、もう隠しきれないレベルになっていた。

 

やがて池と山内の脳が限界を迎え、短い休憩時間を告げると、入れ替わるように三宅と長谷部がノートを片手に俺の席へと歩み寄ってきた。

 

 

「凍影君、ちょっといい?みやっちから凍影君のルーズリーフのコピー貰ってやってみたんだけどさ。この現代文の解釈、どうにも腑に落ちないっていうか、ぶっちゃけ意味不明なんだけど」

 

 

気だるげに髪を指先で弄りながら、長谷部が少しトゲのある口調で尋ね、三宅も「俺も文系科目のここが苦手なんだ、教えてくれないか」と続いてくる。

 

 

「ああ、そこはな──」

 

 

チートスペックの脳細胞を駆動させ、二人が最も直感的に理解できる言葉を選んでスマートに解説を施す。

 

 

「……ふーん、なるほどね。そういうこと。凍影君って本当に底が知れないね。って言うか、無駄にスペック高くてムカついちゃうかも」

 

 

長谷部はフッと、いつもの品定めするような目を少しだけ和らげ、口の悪さの裏に確かな感心を滲ませて不敵に微笑んだ。

 

一方、教室の反対側に目を向けると、そこでは堀北鈴音が須藤健の対面に座り、英語を教えている光景が目に入った。

実は、この勉強会が始まる前に、俺は堀北へ事前に釘を刺しておいたのだ。

『堀北、須藤に教える時は、自分との絶望的なレベル差があることを自覚しろ。お前の基準で話すと相手は一瞬で心を閉ざす。なるべく噛み砕いて、優しく教えてやってくれ』と。

 

俺に部屋でケアされ、「不良品じゃない」と全肯定された堀北は、俺の言葉を無下に拒絶することはなかった。

 

 

「……そこは、こう訳すのよ。少しは理解できたかしら?」

 

 

相変わらず言葉の端々に冷たさは残るものの、彼女なりに努力してトーンを抑えて教えている。

 

何より、須藤自身のメンタルが、例の事件を経て劇的に強くなっていた。俺への絶対的な信頼が彼の下地にあるため、堀北の多少の冷たい説明や毒舌に対しても、へこたれることなく「おう、なるほどな……! 悪りぃ、もう一回言ってくれ!」と、余裕を持って前向きに食らいついていた。

 

クラスの主要メンバーがそれぞれの場所で機能し、旧Dクラス(現Cクラス)の学力基盤は、今や他クラスが驚愕するレベルにまで強固に補強されつつある。

 

 

 

 

更に数日後、俺と佐倉は放課後の生徒指導室へと呼び出された。

 

茶柱先生の前に並んで立つと、彼女はいつになく厳粛な表情で、学校側の決定を告げてきた。

ストーカー事件の被害者である佐倉に対し、学校としての不手際と管理責任を認める謝罪として、異例の100万プライベートポイントが支給されることになったのだ。

 

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 

佐倉が驚きと安堵で胸をなでおろす中、茶柱先生の視線が俺へと移る。

 

 

「そして凍影。お前には、刃物を持った凶悪犯を迅速に取り押さえ、生徒を保護した多大な功績(アカデミック・ペナルティの未然防ぎ)を評価し、学校から30万ポイントの報奨金を支給する。受け取るがいい」

 

「ありがとうございます」

 

 

手元の端末の残高がさらに膨れ上がる。桐山や3年生からの強奪分を合わせると、俺の総資産はもはや個人で抱えていい限界を超えつつあった。

 

 

「佐倉、お前は先に寮へ戻っていろ。凍影、お前は少し残れ」

 

 

茶柱先生の指示に従い、佐倉は俺に「じゃあ、またね……っ」と熱い視線を残して部屋を後にした。

 

二人きりになった生徒指導室。

夕暮れの赤い日差しが、デスクに腰掛ける茶柱先生の端正な美貌をどこか儚げに照らし出す。ハグしたくなる大人の色気を放ちながら、彼女はふぅと長い吐息を漏らし、俺を見つめてきた。

 

 

「凍影。……お前、入学してから随分と色々な役割を背負い込んでいるようだが、疲れてはいないか?」

 

 

予想外の、俺の身体を気遣うような問いかけだった。

 

 

「大丈夫ですよ。これくらい、どうということはありません」

 

 

チートな肉体と知識がある。俺は平然とそう返した。だが、茶柱先生の切れ長の瞳には、明確な「焦燥」と「恐怖」の色が滲んでいた。

 

 

「そうか。なら良いが……お前にばかり、クラスのすべての命運(役割)を集中させてしまっている気がしてな。実は昨日、お前が過労で倒れる夢を見たんだ。お前が消えた途端、あのクラスは一瞬で、跡形もなく崩壊した」

 

 

彼女の声は微かに震えていた。Sシステムを早期に見抜き、須藤を救い、佐倉を救い、クラスをCクラスへと引き上げた唯一無二の存在──それが俺だ。茶柱先生にとって、俺はAクラスへの希望そのものであると同時に、絶対に失ってはならない、ガラスの心臓のような存在になっていたのだ。

 

俺は一歩前へ進み、銀髪の容姿から絶対的な王のオーラを放ちながら、彼女を安心させるように冷徹に言い切った。

 

 

「──俺がいる限り、そんな安っぽい崩壊は絶対に起こしませんよ」

 

 

その力強い言葉を聞いた茶柱先生は、張り詰めていた肩の力を抜き、ふっと妖艶に、しかし心から救われたように微笑んだ。

 

 

「そうか……お前がそう言うのなら、私は信じる。期待しているぞ、凍影」

 

 

彼女の部屋を後にし、静まり返った廊下を一人で歩きながら、俺は胸の内で重い吐息を漏らした。

 

手持ちの資金力。チートな頭脳。だが、現実は残酷だ。

 

この期末試験を乗り切れば、待っているのは夏休みの豪華客船クルーズ、そして──あの過酷極まりない『無人島特別試験』だ。

 

 

(俺が、このクラスの有象無象全員を、あの地獄の島で導かなくてはならない……)

 

 

原作知識があるからこそ、あの試験の厳しさが身に染みて分かる。本来なら裏で全てを冷酷に片付けるはずだった主人公──綾小路清隆は、この世界線には存在しない。

 

 

(綾小路……。お前がここにいてくれたら、どれだけ楽だったか。お前のあの冷徹な『力』が欲しいよ……)

 

 

存在しない怪物の影を追いかけるように、俺は一人、夜の帳が下りる学園の窓から外を見つめていた。

 

櫛田の爆弾、堀北の依存、一之瀬との同盟、佐倉の好意、そして須藤たちの矯正。外堀はある程度埋めた。だが、自分一人にクラス全員の命が懸かっているという圧倒的な重圧の前に、俺は、まだ見ぬ過酷な無人島を攻略するための冷酷なシミュレーションを、脳内で血を吐くような思いで巡らせ始めるのだった。

 

 

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