ようこそ原作主人公抜きで頑張る教室へ   作:灰色の

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伊吹との遭遇

 

 

拠点に釣り具を持ち帰り、明日からの食料計画を説明してクラス全体が歓喜に沸いた後。俺は更なるダメ押しとして、女子たちを誘って井戸の周りに広がる鬱蒼とした雑木林へと足を運んでいた。

 

あらかじめ学校の図書館や前世の記憶を頼りに、植物図鑑の情報を完璧に頭に叩き込んでおいたのだ。

 

 

「みんな、足元に気をつけながら、その辺りの木の枝をよく見てみろ」

 

 

俺が一本の木を指差すと、集まった櫛田、佐倉、長谷部、松下、そしてなぜか平田の彼女であるはずの軽井沢が、物珍しそうに視線を巡らせた。

 

 

「わあ、可愛い! 赤くて丸い実がすっごくたくさんなってる!」

 

 

櫛田が両手を合わせて、いつもの弾んだ声を上げる。

 

 

「これはヤマモモだ。6月から7月にかけて赤く熟す実で、甘酸っぱくて良い香りがする。生でそのまま食べられるし、ジャムの材料にも向いてる」

 

「へえ……! こっちの、ちょっと黒っぽくてブルーベリーみたいなやつは?」

 

 

松下が隣の細い木に手を伸ばしながら尋ねてくる。

 

 

「それはジューンベリー。初夏に真っ赤な実をつけて、今みたいに完熟すると黒っぽい赤になるんだ。酸味が少なくて、強い甘みを楽しめるぞ。……それから、そっちの楕円形のはグミの実。みずみずしくて酸味と甘みのバランスが良い。最後に、その少し奥にある黒紫色のやつがクワの実(マルベリー)だ。優しい甘さが魅力で、どれも貴重なビタミン源になる」

 

 

俺が流れるように特徴と食用特性をレクチャーしていくと、女子たちは一様に驚愕の表情を浮かべた。

 

 

「ちょっと凍影くん、すごすぎない……? あんたって勉強と運動だけができる冷たいタイプかと思ってたけど、まさかサバイバル専門の学者さんだったりするわけ?」

 

 

長谷部が呆れたように、だけど心底感心したように肩をすくめて言った。

 

 

「いや、植物に興味が湧いてな、事前に少し本を読んでいたのが対策になっただけだ」

 

「対策って言ったって、普通そこまで完璧に覚えないよぉ……。あ、あの……凍影くん、これ、本当に、採ってもいいんだよね……?」

 

 

佐倉がカゴを胸に抱きしめながら、嬉しそうに上目遣いで聞いてくる。

 

 

「ああ、どんどん採ってくれ。今日の夕食後のデザートにしよう」

 

「うん……っ! 私、いっぱい採るね!」

 

 

女子たちが楽しそうに実を摘み始める中、俺は少し離れた場所で実を選別している軽井沢に視線を向けた。

 

 

(……それにしても、平田の彼女であるはずの軽井沢が、なぜ平田の側を離れてこっちの採取グループについてきているんだ……?)

 

 

原作の彼女なら、平田の隣をがっちりキープして女子の頂点に君臨しているはずだ。一学期の間、俺が表に立ってクラスを引っ張ってきたことで、彼女の心境や『寄生先』としての品定めにも、何かしらの変化が起きているのかもしれなかった。

 

 

「ねえ凍影くん、これ見て! すっごく大きいクワの実が採れたよ!」

 

 

軽井沢が俺の視線に気づくと、いつものツンとした態度を少し軟化させて、嬉しそうに実を差し出してきた。

 

 

「ああ、よく熟してるな。手際が良いじゃないか、軽井沢」

 

「ふ、ふん、これくらい当然だし! 凍影くんが褒めてくれるなら、もっと採ってあげてもいいけど?」

 

 

少し顔を赤くしながら話を合わせてくる軽井沢。そんな彼女たちの姿を、櫛田が笑顔の奥の冷たい瞳で静かに見つめていた。

 

大量の熟した木の実をカゴいっぱいに詰め込み、俺たちは賑やかな雰囲気のまま井戸のスポットへと戻った。

 

 

「おいおいおい! 凍影、それマジで食える実なのかよ!?」

 

 

戻ってくるなり、池がカゴの中身を覗き込んで大声を上げる。アウトドアの経験が多少ある池は、すぐに実のいくつかを識別できたようで、パッと顔を輝かせた。

 

 

「うわ、これクワの実とヤマモモじゃん! すげえ、凍影の言う通りマジで本物だわ! 篠原、これ美味いんだぞ!」

 

「え、本当に? 池、あんたこういうの分かるんだ……ちょっと見直しちゃったかも」

 

「へへん、これくらい楽勝だし!」

 

 

サバイバルのインフラ(シャワーやトイレ)が完全に整い、食料(スイカや魚、木の実)の目処まで立ったことで、篠原たち女子軍団にも精神的な余裕が生まれていた。あれほど砂浜で簡易トイレを巡って険悪だった池と篠原が、今では自然な笑顔で会話を交わしている。

 

平田がその光景を、少し離れた場所からとても微笑ましそうに見つめていた。

 

 

「よかった……。凍影くん、君のおかげで、クラスメイトたちがこんなに早く手を取り合えたよ。本当にありがとう」

 

 

平田が俺の隣に歩み寄り、心から救われたような、そして深い尊敬の念を込めた言葉を紡ぐ。クラスが仲良くなる姿を誰よりも喜ぶ彼にとって、今のこの拠点はまさに理想郷そのものだろう。

 

ハンモックに揺られる男子、テントの周りでデザートの準備をする女子、そして穏やかな笑みを浮かべる平田。

 

地獄のサバイバルが始まるはずだった無人島の初日。

現Cクラスのベースキャンプには、ほんのりと温かい、極めて居心地の良い空気が、確かに流れ始めていた。

 

 

 

 

夕食の配分をし始めていると、森の奥から山内たちが、現Dクラスの伊吹澪を連れて戻ってきた。

 

その姿は一目見て異様だった。服は泥に汚れ、やたらとボロボロだった。何より、その顔に刻まれた傷は一つじゃない。完全に誰かから暴力を振るわれた痕跡だった。

 

…こんなに酷かったっけ?

アニメでは頬に殴られた傷がある以外は特に大した事なかったはずだった。

 

そんな満身創痍の伊吹だったが、俺たちのベースキャンプに足を踏み入れた瞬間、その足がピタリと止まった。

 

打ち水がされ、ハンモックやシャワーブース、山盛りの果物や釣り具が完備された「楽園」のような現Cクラスの状態を見て、彼女は驚愕のあまり目を見開いた。そして、自分の置かれた悲惨な状況との格差に絶望したのか、なんだか力なく大きなため息を吐いていた。

 

 

「凍影くん、ちょっといいかい?」

 

 

平田が深刻な表情で俺を少し離れた場所へと連れ出し、耳元で事情を話してきた。

 

 

「彼女、伊吹さんっていうんだ。クラスのリーダーから暴力を振るわれて、そのまま追放されたらしくて……。どうにか僕たちのクラスで保護してあげたいんだけど、君はどう思う?」

 

 

平田は相変わらず、目の前の弱者を見捨てられないお人好しだ。俺は一度伊吹の方へ視線を戻してから、彼女を連れてきた山内たちに声をかけた。

 

 

「山内、伊吹を発見した場所はどこだ? 正確な位置を教えてくれ」

 

「あ、ああ、ここから東に少し進んだ、大きな木がある辺りだけどよ……何かあんのか?」

 

 

俺は山内から場所を聞き出すと、真実を確かめるために即座に動き出した。

「僕も行くよ」と平田がついてきて、さらに「私も気になるな」と櫛田、そしてなぜか軽井沢までもが俺の後を追ってきた。

 

山内に言われた場所に到着すると、鬱蒼とした茂みの中に一本の巨木が立っていた。俺が高い視力で周囲を観察すると、すぐに違和感に気づいた。

 

 

「おい、あの木を見てみろ」

 

 

俺が指差した先の枝には、不自然に目印となるリボンが結ばれており、その真下の地面には、最近になって不自然に掘り返されたような跡が残っていた。

 

 

「あれ……? 本当だ。何だろうこれ」

 

 

櫛田が不思議そうに首を傾げる中、俺はためらうことなくその地面を素手で深く掘り起こした。土を退けた先から、ビニールに包まれたプラスチックの筐体が姿を現す。

取り出して泥を払うと、それは一台のトランシーバーだった。

 

 

「これって、無線機……? どうしてこんな場所に埋まって……」

 

 

平田が驚き、誰もが「怪しいな……」と一瞬で不穏な空気を察知した。

 

俺はトランシーバーを持ちながら、背後の3人に向き直って冷徹に事実を告げた。

 

 

「これは間違いなく、伊吹が現Dクラスから送り出されたスパイである証拠だ。現Dクラスのリーダーの支配力が落ちているとはいえ、あいつ等が大人しく引き下がるはずがない。おそらくボロボロの体も傷も、俺たちを騙すための自作自演、あるいは最初から織り込み済みの計画だろう。彼女の目的は、俺たちのクラスに潜入して問題事を起こし、内部を混乱させること。そしてその隙に、Cクラスのカードリーダーを見抜いて、このトランシーバーで現Dクラスに報告することだ」

 

「そ、そうだよね……! あのクラスなら、それくらいの汚いこと、平気でやりそうだもん……」

 

 

櫛田がいつもの怯える優等生のフリをしながら、同意するように呟いた。

平田も「そんな……。でも、もしそれが本当なら、困ったな……」と、彼女の哀れな境遇を信じたい気持ちと、クラスを守る責任の間で板挟みになって頭を抱えている。

 

そんな俺たちの議論を、一言も発さずにじっと見つめている女子がいた。軽井沢恵だ。

彼女の瞳は、さっきまで実を採ってはしゃいでいたギャルの一面を完全に消し去り、俺を値踏みするような、明確な「品定めをする目」へと変わっていた。

 

原作知識を持つ俺には、彼女が何を考えているか筒抜けだった。

 

 

(平田を頼るだけじゃなく、このクラスの本当の支配者が俺だと気づいて、今度は俺に寄生するつもりだろうか? ……悪いけど、俺はこれからやる事が山ほどあるから、面倒なことには寄生しないでね)

 

 

俺が軽井沢の視線を冷たく受け流すと、平田が決意を固めたように一歩前に出た。

 

 

「……それでも、凍影くん。理由がどうあれ、あの怪我をした伊吹さんをこのまま夜の森に放り出すわけにはいかないよ。彼女がスパイだとしても、僕たちの目の届く場所に置いて監視した方が安全だと思うんだ。だから、ひとまずはクラスに入れてあげよう」

 

 

結局、彼は誰も見捨てられない様子だった。まあ、それも予想通りだ。最初から伊吹をクラスに引き入れること自体は、俺の計画の範疇でもある。

 

 

「分かった。平田がそう言うなら、保護すること自体は認めよう」

 

 

俺はそう言って平田を安心させると、彼が先に拠点へ戻るのを見計らい、残った櫛田と軽井沢の2人にだけ聞こえる声で囁いた。

 

 

「櫛田、軽井沢。お前たちに一つ頼みがある」

 

「え? なあに」

 

「何、凍影くん」

 

 

俺は2人の顔を交互に見据え、確実な命令を下す。

 

 

「これから伊吹をテントに入れるが、彼女が油断して席を外した時や、お風呂(ウォーターシャワー)に入っているような、絶対にバレないタイミングを見計らって、伊吹のバッグの中を覗いてくれ。――おそらく、その中に怪しい何かが入っているはずだ。それを見つけたら、俺に報告しろ」

 

 

原作通りなら、彼女はCクラスのリーダーカード、あるいは拠点の様子を撮影するためのデジカメを隠し持っているはずだ。それを逆手に取れば、龍園の計画を根底から叩き潰す最大のカウンター素材になる。

 

 

「……分かった。タイミングを見て、ちょっと探ってみる」

 

 

軽井沢が俺に抗えないように小さく頷き、櫛田も「うん、クラスのためだもんね。任せて!」と満面の笑みで引き受けた。

 

 

 

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