ようこそ原作主人公抜きで頑張る教室へ   作:灰色の

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食料集め

 

 

元々初日に占有していた井戸や川、スイカ畑、そして今日新しく回った場所を含めて、俺たちは実になんと13箇所もの様々なスポットを完全占有していた。

 

午前中の森の踏破を終え、俺と須藤、三宅の3人はベースキャンプへと戻ってきた。

 

 

「須藤、三宅。約束通り、これからの作業は他の奴らに任せてハンモックで限界まで休んでくれ」

 

「悪いな凍影、マジで足がパンパンだわ……おやすみ」

 

「助かるぜ、相棒……」

 

 

2人が泥のようにハンモックへ沈み込むのを見届けた直後、俺の帰りを首を長くして待っていたらしい櫛田、軽井沢、そして平田の3人が、周囲に気づかれないよう俺をスポットから少し離れた木陰へと連れて行った。

 

軽井沢が周囲を警戒しながら、勝ち誇ったような笑みを浮かべて声を潜める。

 

 

「凍影くんの言った通りだったよ。伊吹がシャワー浴びてる間にバッグの中を隠れて探ったんだけど……底の方からデジタルカメラが見つかったよ」

 

「やっぱりデジカメか……。となると現Dクラスの狙いは、単に口頭でカードリーダーを調べ上げるだけでなく、リーダーカードそのものの写真を撮って『言い逃れのできない確実な証拠』を掴みたいようだな」

 

 

俺が冷徹に分析すると、平田が不思議そうに聞き返してきた。

 

 

「証拠……? でも凍影くん、リーダーを当てるだけなら、龍園くん個人が知っていればいいはずじゃないかい? どうしてわざわざ写真に収める必要があるんだろう」

 

「……」

 

 

俺は少し考えるフリをしてから、原作の知識を『仮説』として彼らに提示した。

 

 

「もしかしたらDクラスは、この試験で裏でどこか他のクラスと組んでいるのかもしれない。恐らく、Dクラスと一学期に直接の揉め事を起こしていないAクラス…葛城たちと何らかの秘密契約を交わしているのだと思う。自分たちが最下位でクラスが纏まらない故に身動きが取れない分、スパイを使ってリーダーの証拠写真を撮り、それをAクラスに売り払う……。2クラスで手を組んで、共通の仮想敵のBクラスと、俺たち現Cクラスを同時に引きずり落とす気かもしれないな」

 

「そんな……AクラスとDクラスが裏で同盟を……!?」

 

 

俺の極めて合理的な推測に、平田、櫛田、軽井沢の3人は顔を見合わせ、そのあまりの狡猾さに戦慄していた。

 

 

「さて、それじゃあこれから食料集めのついでに、他クラスの拠点がどこにあるか偵察に行こうと思うんだが……誰か一人、俺について来るか?」

 

 

俺が3人を誘うと、彼らは再び顔を見合わせた。そして、スポット巡りで俺の体力が削られているのを心配した平田が、一歩前に出て俺の肩に手を置いた。

 

 

「いや、凍影くん。君は初日からクラスのために動き詰めだ。ここは少しでも身体を休めて欲しい。……今回の偵察は、僕と軽井沢さんの2人で行ってくるよ。それならカップルが森を散策しているように見えて、他クラスに見つかっても言い訳が立つしね」

 

「平田くんに賛成。あんたは少し休みなさいよ」

 

 

軽井沢も平田の意見に同調する。その瞳には、クラスのために身を粉にして完璧な作戦を立てる俺への、一学期とは違う確かなリスペクトが混ざっていた。

 

 

「分かった、2人に任せる。……ただし、現Dクラスは俺たちがまだ見ていない、島の反対側のプライベートビーチ付近に拠点を構えている可能性が高い。Dクラスの奴らに見つかって捕まらないように厳重に気をつけてくれ。それから、もしあいつらのベースキャンプを見つけたら、何処かにトランシーバーが置いてあるかどうかの確認も頼む」

 

「うん、分かった。行ってくるよ」

 

 

平田と軽井沢の2人は、強く頷くとそのまま森の奥へと向かって歩き出した。

 

 

 

2人を見送った後、俺は男子たちが釣りをしている川のスポットへと足を運んだ。すると、そこでは竿を握る池や山内たち男子軍団と、それを周りから見守っていた女子たちが、一様に困り果てたような暗い顔をして佇んでいた。

 

 

「あーあ……足りねえよな……これじゃあさ……」

 

 

池がため息混じりにポツリと呟く。俺が川べりに置かれたバケツの中を確認すると、そこにはわずか22匹の魚が力なく泳いでいるだけだった。

 

 

「確かに、これじゃあ人数分に足りないな」

 

 

高円寺がリタイアしたとはいえ、スパイの伊吹を含めて今のクラスの総数は40人。22匹では丸焦げにしても全員の胃袋を満たすことはできない。普通に釣りをしているだけでは効率が悪すぎるのだ。

 

俺は即座にルールマニュアルの支給品リストを開き、瞬時に思考を巡らせた。

リサイクル品(無償または超低ポイントの廃材リスト)の中に、2リットルのペットボトルの束があるのを見つける。俺はすぐさま端末を操作し、カッターとペットボトルの束を注文した。10ポイントの消費となったが、これからのリターンを考えれば完全な必要経費だ。

 

届いた物資を受け取ると、俺はクラスメイトたちの前で、カッターを使って手際よくペットボトルの上部を切り取り、逆さにしてハメ込んでいく。チート級の器用さで、ものの数分で大量の『川魚用トラップ(びんどる)』を作り出した。

 

 

「池、水草をこっちに少し分けてくれ。これを中に仕込む」

 

 

俺は水草を重りにしてトラップを川の浅瀬の岩陰へ次々と沈ませると、周囲の男子たちに指示を出した。

 

 

「よし、お前たち、川の上流からこっちに向かって、バシャバシャと音を立てて魚をこの仕掛けの方向に追い込んでくれ!」

 

「お、応! やってみるぜ!」

 

 

池や山内たちがジャブジャブと水に入り、魚を追い込み始める。すると、逃げ惑う魚たちが、俺の仕掛けたペットボトルトラップの狭い口へと、面白いように次から次へと自ら飛び込んでいった。

 

 

「うおっ!? 嘘だろ、めっちゃ入ってくじゃん!」

 

「すごい! 凍影くん天才!?」

 

 

それを見ていた周囲の男女から、一斉に割れんばかりの歓声が沸き起こった。女子たちに混じって、少し離れた岩場からこちらの様子を伺っていた伊吹も、信じられないものを見るかのように目を丸くし、俺の常軌を逸したサバイバル能力に驚いた様子で固まっていた。

 

 

「トラップに引っ掛かった魚から、男子たちでどんどん獲ってカゴに移してくれ。これで今夜の食料は完全確保だ」

 

 

俺がそれを見届けると、近くで感動していた松下に声をかけた。

 

 

「松下、これ以降の指揮はその場のお前に任せる。魚のカウントと配分を頼めるか?」

 

「えっ、私? ……ふふ、了解。凍影くんの頼みなら喜んで。しっかりやっておくね」

 

 

松下は大人びた笑みで快諾し、的確に男子たちに指示を出し始めた。

 

 

「よし、櫛田。お前は俺について来てくれ。次の場所へ行くぞ」

 

「うん! どこへ行くの、凍影くん?」

 

 

俺は嬉しそうに駆け寄ってきた櫛田を連れて、昨日占有した13のスポットの一つ――広大なトウモロコシ畑が近くにあるスポットへと向かった。魚の次は、主食とビタミンの完全確保だ。

 

 

 

櫛田と2人でトウモロコシ畑へと向かい、カゴがはち切れんばかりの大量のトウモロコシを収穫して、俺たちはベースキャンプへと戻ってきた。

 

 

「戻ったぞ。トウモロコシを大量に採ってきた。今夜は焼き魚と一緒に、これも全員で分けて食べてくれ」

 

 

俺がトウモロコシの山を掲げると、拠点に再び歓声が沸き起こった。

 

 

「うおお! トウモロコシじゃん! こんなもの島にあったのかよ!」

 

「魚にスイカにトウモロコシって、これもうただの最高級キャンプじゃん!」

 

「櫛田さんありがとう!凄いよ!」

 

 

 

さらなる食料の集まりに男子も女子も大喜びで、早速トウモロコシを火にかけたり、魚の調理をし始めている。そんなお祭り騒ぎのような現Cクラスの賑わいの中、俺はそっと、輪から離れた場所で岩場にポツンと座っている伊吹を観察した。

 

伊吹は、楽しそうに夕食の準備をしている俺のクラスメイトたちを、心なしか羨ましそうにじっと見つめていた。そして、自分の悲惨な境遇を呪うかのように、ため息を吐く回数も明らかに多かった。

 

 

(……なんか変だな)

 

 

俺の胸の奥に、原作知識との明確な「違和感」が芽生え始めていた。

原作の伊吹は、どれほど不条理な命令をくだされようとも、裏では龍園翔という男に対する確固たる信頼と忠誠を持っていたように見えた。だからこそ、ボロボロになってスパイ活動をやり遂げたはずだ。

 

だが、今目の前にいる伊吹には、その龍園への信頼が一切見えない。ただただ、最下位に落ちて暴走し、手足を失って狂暴化した龍園への「純粋な恐怖と絶望」、そしてクラスから切り捨てられた無力感だけが彼女の背中に漂っていた。

 

一学期の間、俺が龍園の謀略をすべて先回りして叩き潰し、石崎たち主力を停学に追い込んだことで、現Dクラス(旧Cクラス)の内部崩壊は原作以上に深刻化している。だからこそ、スパイとして送り出された伊吹の精神状態も、原作とは全く違うものに変質してしまっているようだった。

 

スパイであることには変わりないが、どこか様子が変だ。

俺は彼女のその「心の隙間」に目をつけ、さらなる一手を打つことにした。

 

 

「佐倉、王、井の頭。ちょっといいか」

 

 

俺は近くにいた佐倉愛里、王美雨、そして井の頭心の3人を集め、周囲に聞こえない声である事を頼んだ。

 

 

「え……あの、伊吹さんに、これを……?」

 

 

佐倉が焼き魚とトウモロコシを見つめながら、おずおずと尋ねてくる。

 

 

「ああ。彼女は他クラスの人間だし、色々と警戒して自分からは輪に入りづらいはずだ。一学期に他クラスから嫌がらせを受けたからって、あんなにボロボロの女の子をのけ者にするような真似は、俺たちのクラスのやり方じゃないだろ? 温かいうちに、彼女の分も届けてやってくれ」

 

「……うん、分かった! 凍影くんって、本当に優しいんだね。私、行ってくる!」

 

 

佐倉が嬉しそうに顔を上気させ、王や井の頭と顔を見合わせて頷いた。俺の「光のリーダー」としての完璧な優しさに、3人は心底から感動した様子だった。

 

佐倉たちは焼き立ての魚と、香ばしく焦げ目のついたトウモロコシを皿に盛り付けると、緊張した面持ちで伊吹の座る岩場へと向かっていった。

 

 

「あの……伊吹さん。これ、よかったら、食べて……? 凍影くんが、伊吹さんの分もって、言ってたから……」

 

 

佐倉が震える手で皿を差し出す。

 

 

「……え?」

 

 

伊吹はびっくりしたように勢いよく顔を上げ、差し出された温かい夕食と、佐倉たちの顔を交互に見つめて激しく動揺した。

 

 

「い、いらないって、そんなの……! 私は他クラスの人間だ!施しなんて――」

 

 

拒絶しようとする伊吹だったが、王美雨が「そんなこと言わずに食べて! 凍影くんのトラップでたくさん捕れたから、遠慮はいらないよ」と人懐っこい笑顔で魚とトウモロコシを押し付けた。

 

伊吹は困り顔で佐倉たちを見つめながらも、胃袋の誘惑と、Cクラスの底抜けた優しさに毒気を抜かれたように、震える手でそれを受け取った。

 

 

(……? やはり、おかしいな)

 

 

その様子を遠巻きに見ていた俺は、確信を深めた。

原作の伊吹なら、どれほどお腹が空いていても他クラスの施しを「汚い罠」だと突っぱねるプライドがあったはずだ。だが、今の彼女は完全に限界を迎えている。龍園の恐怖支配に怯え、ボロボロにされ、誰も信じられない孤独の中にいた彼女にとって、佐倉たちの純粋な善意は、彼女の強固な「スパイとしての防壁」を内側からドロドロに溶かすほどの威力を発揮しているようだった。

 

原作とは何かが違う伊吹の様子を見届け、俺が次なる絶対勝利へのシナリオを脳内で修正していると、森の入り口から足音が近づいてきた。

 

顔を上げると、偵察から戻ってきた平田と軽井沢の2人の姿があった。

 

 

「凍影くん、ただいま。――他クラスの拠点の場所、突き止めたよ」

 

 

平田が引き締まった表情で俺の元へと歩み寄る。俺は表情を整えると、重要な戦果を携えて戻ってきたであろう2人を静かに迎えるのだった。

 

 

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