ようこそ原作主人公抜きで頑張る教室へ   作:灰色の

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3日目

 

 

特別試験は3日目を迎えた。

俺の脳内マップと周到な事前準備のおかげで、現Cクラスのサバイバル環境は非の打ち所がないとは言えないが上手い感じに回ってきている。

 

あまりの暑さを凌ぐため、川で魚を捕獲する場所から少し離れた浅瀬では、涼しい木陰の岩場に腰掛けて水に足を浸して涼んでいるメンバーも徐々に増えてきていた。一学期には考えられなかった、クラス全体の精神的な余裕がそこにはあった。

 

そんな中、俺は午前中のスポット巡りを無事に終え、今日も限界まで動いてくれた須藤と三宅の2人をハンモックで深く眠らせていた。さらに、連日クラスの調整弁として誰よりも働きすぎている櫛田にも「今は俺の言うことを聞いて休んでくれ」と指示を出し、強制的にテントで休ませた。

 

 

「さて……それじゃあ、1人で他の食料集めを再開するか」

 

 

誰もいない森の入り口へ向かおうと俺が歩き出した、その時だった。

 

 

「ねえ、凍影くん。……私も、ついて行って良い?」

 

 

不意に背後から声をかけられ、振り返る。そこに立っていたのは、長谷部だった。

 

 

「長谷部か。ああ、構わないが……急にどうしたんだ?」

 

 

俺が素直に尋ねると、長谷部は視線を少し落とし、気まずそうに自分の髪を指先でくるくると弄り始めた。

 

 

「ええとね……みやっちが今、すっごく疲れて休んでるじゃん? だから私、まだまともにこのクラスで喋れる人、いないんだよね……」

 

 

そう言って、収穫した食料を入れるために自分の大きめの鞄を律儀に掲げてみせる長谷部。一匹狼気質の三宅とは一学期から波長が合っていたようだが、その他のクラスメイトとはまだ明確な距離を感じているのだろう。

 

 

「なるほどな。分かった、鞄を持ってきてくれたのは助かるよ。一緒に行こう」

 

「ん、ありがと」

 

 

長谷部は少しホッとしたように口元を緩め、俺の半歩後ろを歩き始めた。

 

2人で島内を歩き、すでに占有を完了しているいくつかのスポットを定期見回りしていると、原生林の奥深くでふと不自然な場所を発見した。

直射日光が遮られた湿った土壌。そこだけ妙に、地面に何かが新しく埋まっているような歪な凹凸の感じがあった。

 

 

「凍影くん? 急に立ち止まってどうしたの?」

 

「……長谷部、ちょっとその鞄を地面に置いて待っててくれ。そこに何かある」

 

 

俺は躊躇なく膝をつくと、高い身体能力を活かしてその不自然な地面をガリガリと素手で掘り起こしていった。湿った土を退けた先から、ゴロゴロとした茶褐色の歪な塊が次々と姿を現す。

 

 

「えっ、何これ……お芋?」

 

「ああ、タロイモだ。サトイモの仲間で、加熱すれば立派な主食になる。無人島に自生している貴重なデンプン質だ」

 

「嘘、すご……。本当に何でも見つけちゃうんだね」

 

 

長谷部が目を丸くして感心する中、俺たちは手際よく収穫したタロイモを、俺と長谷部の鞄の隙間へと限界まで詰め込んでいった。

 

ずっしりと重くなった鞄を肩にかけ、井戸のあるベースキャンプへの帰路につく。道中、森の静けさに包まれる中、長谷部がぽつりぽつりとクラスの人たちのことについて心情を吐露し始めた。

 

 

「さっきも言ったけどさ……私、まだクラスの人たちが苦手っていうか、何となく馴染めないんだよね。基本、1人で居るほうが居心地良いタイプだし」

 

「そうなのか。けどもし友達が欲しいんであれば櫛田なら、自分達のグループに上手く輪に入れてくれると思うが」

 

「うーん、そういう問題じゃなくてさ……」

 

 

長谷部は少し嫌そうに眉をひそめ、自分の豊かな胸元を隠すように腕を組んだ。

 

 

「うちのクラスの男子たちって、すぐそっち(胸)ばっかり見てくる人が多いじゃん? 正直、視線がすっごく気持ち悪いんだよね。……あ、もちろん凍影くんはそんなことしないから、こうして一緒についてきたんだけどさ」

 

「……あ、ああ。そうだな」

 

 

俺はポーカーフェイスを崩さずに短く応じたが、内心では少し冷や汗をかいていた。

 

 

(……いや、ごめん長谷部。俺だって男だし、前世じゃこんなスタイルの良い美少女に縁がなかったんだ。もし心に有り余るほどの余裕があれば、隙を見て思いっきり凝視してたかも知れないな……。それは絶対に墓場まで黙っておくけど)

 

 

「それにさ」

 

 

長谷部はため息を交えて続ける。

 

 

「女子たちからは、この身体の……その、スタイルのことに関して、勝手に嫉妬されることが多くて。だから、女子グループ特有のあのギスギスした空気も何となく苦手意識を持ってるんだよね。みやっちみたいに、そういうのを一切気にしないで普通に接してくれる人じゃないと、疲れちゃうっていうか……」

 

 

彼女の言葉を聞きながら、俺は改めてこの『現Cクラス』という組織の歪さを実感していた。

 

平田への執着と過去のトラウマを隠して俺を見極めようとする軽井沢。表の天使の笑顔の裏で、強烈な闇のストレスと俺への歪んだ独占欲を抱える櫛田。そして、その抜群のプロポーションゆえに周囲から孤立し、他人に心を閉ざしている目の前の長谷部……

 

原作でもそうだったが、俺たちのクラスには、一見まともに見えてその内側に深い何かを抱えている人間が本当に多いんだな、と改めて実感せずにはいられなかった。そんな彼女たちの防壁を一つずつ解きほぐし、完璧な駒として機能させるのも、俺の役割なのかもしれない。

 

昨日俺に何かを打ち明けようとした軽井沢の話も聞いてあげれば良かったか…

 

 

「まぁ、無理に全員と仲良くする必要はないさ。お前には三宅がいるし、俺だって必要ならいつでも話くらいは聞くからな」

 

「……ん。凍影くんって、冷たそうに見えて案外お兄ちゃん気質だよね。ありがと」

 

 

長谷部は少しだけ憑き物が落ちたような、柔らかい微笑みを浮かべた。

 

そうして長谷部と2人で、鞄いっぱいのタロイモを担いでクラスのベースキャンプへと運んできた。

 

 

「ただいま。食料の足しにタロイモを大量に収穫してきたぞ」

 

 

俺たちが鞄から泥のついた大量のイモを地面に並べると、夕食の準備をしていた池や山内、そして女子たちが一瞬で静まり返った。

 

サバイバルのインフラを完璧に整え、川の魚や畑のスイカ、森の木の実を次々に提供し、今度は主食となるタロイモまで大量に持ち帰ってきた俺の姿を見て、クラスメイトたちはもはや歓声を上げることも忘れ、「もう流石だな……」「あいつ、本当に同じ高校一年生かよ……」と、完全に唖然とした表情でこちらを見つめていた。

 

俺への信頼は、この3日目にしてすでに非常に高いの領域へと達しつつあった。本当この身体には感謝している。そんなクラスの視線を浴びながら、俺はテントの影からこちらを凝視している伊吹の存在に向けて、静かに思考を研ぎ澄ませるのだった。

 

 

タロイモの山を前に唖然とするクラスメイトたちを横目に、俺が荷物を下ろしていると、トコトコと軽井沢がこちらへ歩み寄ってきた。

 

少し周囲を気にするように視線を泳がせてから、彼女は俺のすぐ傍で声を潜める。

 

 

「ねえ、ちょっと凍影くん……。あのさ、篠原さんたち女子のグループが、簡易の扇風機(送風機)が欲しいって言ってるんだけど……」

 

「送風機か…」

 

「そう。だって、体力の無い女子たちが夜の暑さで本気で疲れてきてる。あたしが見てもこのままだと、夜中に熱中症とかで誰かぶっ倒れるんじゃないかって心配になるレベルだし……」

 

 

軽井沢はそう言って、不安げに女子テントの方を睨んだ。

本来なら、こういうクラスの不満や要望は女子達視点では表のリーダーである平田に報告すべき案件だ。それをあえて平田を通さず、真っ先に俺のところへ相談しに来るあたり、一学期からの立ち回りとここ数日の圧倒的な有能さで、彼女からの信頼を完全に勝ち得たなと実感する。

 

 

「分かった。女子たちの体調に関わることだし、ちょっと考えてみる」

 

「ホント? 頼んだわよ、よろしくね」

 

 

軽井沢はホッとしたように表情を緩めると、「よろしくね」と言い残して女子たちの輪へと戻っていった。

 

頼まれてしまった以上、動かないわけにはいかない。俺は一つ息を吐くと、ひとまず作業中の男子たちを全員井戸の近くへと集めた。

 

 

「おい、みんな。ちょっと集まってくれ。一週間をノーペナルティで乗り切るための、重要な相談がある」

 

 

池や山内、幸村たちが「なんだよ凍影?」「飯の話か?」と集まってくる。俺は全員の顔を見据え、これまであえて伏せていた裏の戦果を口にした。

 

 

「実はな、俺と三宅、須藤の3人で、初日から今日にかけて島内の様々な場所を回ってきた。――結果から言うと、俺たちは計13箇所のスポットを完全占有している」

 

「じ、13箇所ぉお!?!?」

 

「嘘だろおい!?」

 

 

男子一同から、ひっくり返ったような驚愕の声が上がる。

 

「ああ、本当だ。1つのスポットを占有し続けるだけで、時間ごとに莫大な試験ポイントが裏で加算されるルールになっている。つまり、俺たちはすでに他クラスを圧倒的に引き離すだけのポイントを稼ぎ出しているんだ。まずはその事実を理解してほしい」

 

 

俺が冷静に説明すると、男子たちは「す、すげえ……」「三宅達マジで神じゃん……」と声を震わせた。だが、俺の本題はここからだ。

 

 

「その上で相談なんだが、今、体力の無い女子たちが夜の暑さでかなり疲弊してきている。最悪の場合、このまま熱中症でリタイア者が出るリスクがあるんだ。一人リタイアすればマイナス30ポイントだろ? だから、稼いだポイントの一部を使って、女子テント用に簡易の送風機を購入して、リタイアを未然に防ぎたいと思う」

 

 

その瞬間、やはり男子たちからは不満と反対の声が上がった。

 

 

「ええ〜っ!? また女子のわがままのためにポイント使うのかよ!」

 

「そうだぞ! 俺たち男子だってハンモックで暑さを我慢してるんだから、女子だって我慢すべきだ!」

 

 

池や山内が露骨に嫌そうな顔をして反発する。平田が「でも、みんなの健康が一番だよ」とフォローを入れようとするが、男子たちの納得はいかない様子だ。

そこで俺は、彼らの『動機』を突くために、あえて少し俗っぽい名前を並べ立てた。

 

 

「お前たちの言い分も分かる。だが、もしここで送風機を贈れば、うちのクラスのアイドル的な櫛田だって喜ぶだろうし、長谷部や、体調を崩してる堀北、それに松下なんかも、男子の優しさに間違いなく感謝してくれると思うぞ? ……それでも、反対か?」

 

「……っ」

 

 

その瞬間、池や山内、その他の男子たちがピタリと口を閉ざした。

「櫛田ちゃんが喜ぶ」「女子たちに感謝される」という強烈なワードを突きつけられ、下心が透けて見えるような無言の空間が広がる。あいつら、一瞬で「女子にモテるチャンスかも」と脳内変換しやがったな。

 

だが、そんな現金な奴らの中で、理屈屋の幸村だけは依然として納得がいかない様子で腕を組んでいた。

 

 

「俺はそれでも反対だ。いくら裏でポイントを稼いでいると言っても、それは試験終了後に加算されるものだろ? 今手元にある300ポイントを無駄に消費していい理由にはならない!」

 

 

至極真っ当な正論だ。だからこそ、俺は一歩幸村に近づき、周囲に聞こえない低い声で、そっと彼の耳元に囁いた。

 

 

(幸村。……今回の試験で13箇所のスポットを見つけ、占有し続けた戦果の6割以上は、俺一人の力だ。俺を信じてついてきてくれた三宅や須藤の貢献もある。クラスのためにそれだけの貯金を作った俺の『わがまま』だと思って、ここは俺に免じて譲ってくれ。頼む)

 

「っ……!」

 

 

幸村は目を見開き、言葉を詰まらせた。

「自分が6割以上を稼ぎ出した」という絶対的な事実を、全く嫌味なく、けれど圧倒的な正論として突きつけられたのだ。自分がどれだけ反対したところで、凍影が稼いできた実績の前には何も言い返せない。

 

 

「……分かった。お前がそこまで言うなら、今回のポイント消費は君の戦果に対する投資だと納得することにする。……渋々、だがな」

 

 

幸村はため息をつきながらも、納得して引き下がってくれた。

 

こうして学校側に送風機を注文し、男子たちの合意のもと、女子たちが眠る2つのテントへと簡易の送風機が贈られることとなった。

 

 

「えっ……これ、男子たちが私たちのために買ってくれたの……?」

 

「すごーい! 冷たい風が来る! めっちゃ涼しい!」

 

 

女子テントからは、一瞬にして歓喜と安堵の声が沸き起こった。

「男子たち、意外と優しいところあるじゃん」「池のやつ、ちょっと見直したかも」なんて会話まで聞こえてきて、池や山内は鼻の下を伸ばしてニヤニヤしている。軽井沢もテントの隙間から俺の方を見て、満足そうにコクりと頷いてみせた。

 

過酷なサバイバルの中で、男子の意外な優しさに女子たちも心底から喜んでいる様子だった。クラスの絆がさらに強固になっていくのを感じた。

 

 

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