ようこそ原作主人公抜きで頑張る教室へ   作:灰色の

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試験までの間

 

 

無人島での過酷な特別試験が幕を閉じ、翌日。泥にまみれたサバイバルから一転、エアコンの効いた快適な豪華客船へと戻った俺は、静かな船内の通路を歩いていた。

 

目的の場所に近づくと、見覚えのある特徴的なピンク色の髪が視界に飛び込んでくる。

彼女――佐倉愛里は、俺の接近に全く気づいていない様子で、うつむいたままボソボソと必死に何かを呟いていた。

 

 

「……かげ……くん……と、凍…君のこと……前で……呼んでも良い……かな……ううん、やっぱり変、だよね……」

 

 

小さな唇から漏れる、途切れ途切れの反復練習。

おまけに両手を胸の前でぎゅっと握りしめ、「すうっ……はあーっ……すうーっ……」と、今にも倒れそうなほど過度な深呼吸を繰り返している。

 

メールの差出人である彼女のあまりの必死さに、俺は苦笑しそうになるのをこらえながら、驚かせないよう慎重に距離を詰めて声をかけた。

 

 

「待たせたな、佐倉」

 

「ひゃあ……っ!? あ、と、凍影君っ!」

 

 

これでも気遣ったつもりだったが、完全に不意打ちだったらしい。佐倉は文字通り飛び上がるほど驚き、丸い瞳をさらに大きくして俺を見つめた。

 

 

「驚かせて悪い。かなり集中してたみたいだな」

 

「う、ううんっ! 私が、その……ちょっと緊張しすぎて、パニックになってただけだから!」

 

 

真っ赤になった顔を隠すように両手で頬を押さえながら、佐倉はどうにか荒い呼吸を整えようとしている。ストーカー事件から救って以降、彼女の俺に対する信頼は肌で感じていたが、まさかここまで緊張されるとは。

 

 

「それで、呼び出しの用ってなんだ? 俺にできることなら何でも聞くけど」

 

「あ、うん。実はね……」

 

 

俺が問いかけると、佐倉は上目遣いで、しかし必死に俺の目を見つめてきた。その瞳には、臆病な彼女が必死に振り絞った「勇気」が宿っている。

 

 

「く、櫛田さんがね、凍影君のことを……下の名前で呼んでるの、聞いちゃって。それに、長谷部さんも『ゆっきー』って、親しそうに呼んでるから……えっと、あのね……」

 

 

そこまで一気にまくしたてると、佐倉は呼吸を忘れたように一瞬言葉を詰まらせた。だが、消え入りそうな声で、それでもしっかりと自身の願いを言葉にする。

 

 

「私もっ……凍影君のこと、下の名前で、呼んでいい……かな……っ?」

 

 

じっと俺の反応を待つ彼女の顔は、これ以上ないほど真っ赤に染まっている。あまりの健気さに、断る理由など最初からなかった。

 

 

「良いぞ」

 

「だ、駄目だよね……うん、ごめんなさ……えっ?」

 

 

どうせ断られると思い込んで謝りかけていた佐倉が、間の抜けた声をあげる。

 

 

「良いって言ったんだ。無人島試験のとき、佐倉には色々と手伝ってもらって助かったしな。それくらい別に構わないさ。……その代わり、俺も佐倉のこと『愛里』って呼んでも良いか?」

 

「え……っ、あ……っ」

 

 

佐倉の顔が一瞬で沸騰したように赤くなる。キャパシティを完全にオーバーした彼女は、言葉にならない声を漏らしながら、胸のすぐ下あたりで小さな両手をぎゅっと握りしめ、全力のガッツポーズを決めていた。

 

 

「良いの……!? ゆ、ゆ……雪波君っ」

 

「ああ、これからもよろしくな、愛里」

 

「ふふっ……雪波君……雪波君……」

 

 

名前を呼んだ俺に応えるように、彼女はこれまでに見たことがないほど、幸せそうに、そして嬉しそうに微笑んだのだった。

 

 

佐倉との甘い余韻に浸る間もなく、背後から小走りの軽い足音が近づいてきた。

 

 

「あれ、ゆっきーと佐倉さん。こんなところで何してるの?」

 

 

よく通るような、それでいてどこか気だるげな声。振り返ると、そこにいたのは長谷部だった。彼女は屈託のない笑みを浮かべながら、俺たちの方へと歩み寄ってくる。

 

その瞬間、さっきまで花が咲いたように明るかった佐倉の表情が、途端に凍りついた。

まだ自分の感情を隠したり、他人と臨機応変に接したりするのが苦手な彼女の心境が、痛いほどわかりやすく態度に表れてしまう。周囲に居心地の悪そうな、ぎこちない空気が漂い始めた。

 

 

「あ、わ、私……、ゆ、雪波君。わ、私、部屋に戻るね……っ!」

 

「あ、待って――」

 

 

長谷部が引き止める声をあげるよりも早く、佐倉は真っ赤な顔をうつむかせ、弾かれたように駆け足でその場を去っていった。パタパタと通路に響く足音が、彼女のパニックぶりを物語っている。

 

 

「……あちゃー。私、もしかして邪魔しちゃった?」

 

 

嵐のように去っていった佐倉の背中を見送りながら、長谷部は少し困ったように眉を下げて首をすくめた。

 

 

「気にしなくていいさ。佐倉とは、まだあまり話したことがないのか?」

 

「うん。今回のクルージング、偶然部屋は一緒になったんだけどね。彼女、いつも緊張してるみたいで、なかなかタイミングがないんだ」

 

「ちなみに、他の同室のメンバーは誰なんだ?」

 

「えっと、私と佐倉さんの他には、堀北さんと王美雨さんかな」

 

「……なるほどな」

 

 

長谷部の口から出た名前に、俺は内心で安堵に近い息を吐いた。

原作での佐倉の部屋メンバー――篠原、前園、市橋といった癖のあるメンツに比べれば、遥かにマシな組み合わせだ。プライドが高く冷淡に見える堀北はともかく、長谷部も王美雨も根は優しく無難な性格をしている。

それでもまともに会話ができないあたり、この時期の佐倉のコミュニケーション能力の低さは、なかなかに深刻と言わざるを得ない。俺が間に入って、少しずつクラスに馴染ませてやる必要がありそうだ。

 

そんな俺の思考を知る由もない長谷部は、ふと思いついたように俺の顔を覗き込んできた。

 

 

「ねえ、実はさ、船内のレストランでちょっといい場所見つけたんだよね。景色がすごく綺麗でさ。1人で行ってもいいんだけど……ほら、みやっちは部屋で爆睡してるみたいだし。ねえ、この際、私とゆっきーの2人で行ってみない?」

 

 

少し悪戯っぽく微笑みながら、おねだりするように袖口を引いてくる長谷部。無人島でクラスの減点を防ぎ、それなりの有能さを見せた俺に対して、彼女の距離感は明らかに以前より近くなっている。

 

 

「良いぞ。ちょうど俺も少し喉が渇いていたところだ」

 

 

断る理由なんて、どこにもなかった。

俺が頷くと、長谷部は「やった」と嬉しそうに目を細める。俺は彼女の少し弾むような足取りに合わせて、共に船内へと足を向けた。

 

 

長谷部に連れられて静かな船内を歩いていると、少し前方から低く、不穏な足音が近づいてきた。

 

 

「……ッ、何、あれ……」

 

 

長谷部が声を潜め、前方に冷たい、そしてどこか警戒を含んだ視線を送る。

彼女の視線の先――通路の曲がり角から姿を現したのは、Dクラスのリーダーである龍園だった。無人島での完全敗北が響いているのか、いつもの傲慢な笑みは鳴りを潜め、酷く張り詰めた空気を纏っている。

 

俺としても、せっかくの長谷部との時間に龍園のような厄介者と絡みたくはなかった。おまけに隣には、龍園の異様な威圧感を本能的に嫌がっている長谷部がいる。彼女に余計な恐怖を与えるのは避けたかった。

 

 

「長谷部、こっちだ」

 

「えっ、あ、うん……!」

 

 

俺は彼女の肩を優しく抱くようにして、通路の脇にある太い飾り柱の物陰へと滑り込んだ。長谷部は小さく息を呑みながらも、俺の指示に大人しく従い、体を密着させるようにして気配を殺す。

 

幸い、考え事をしていた龍園は俺たちの存在に気づかない様子だった。

すると、通路の奥からさらにもう一人、重々しい足音が近づいてくる。Aクラスの葛城康平だ。期せずして、俺たちは二大クラスのリーダーによる密談の目撃者となった。物陰に隠れた俺たちの耳に、彼らが静かに、しかし激しく火花を散らす会話が鮮明に届き始める。

 

 

「無人島試験の契約は、お前達が俺にBクラスとCクラスのリーダー情報を持ってきて、初めて成り立つ契約だ。いい加減諦めろ、龍園」

 

 

葛城の切り出した声は、冷徹で容赦がなかった。それに対し、龍園は苛立ちを隠そうともせずに低く吠える。

 

 

「はっ、俺達の支給した物資を受け取っておいて、何も払わねえつもりか? そんな不公平が通ると思うなよ。……契約を変更しろ。俺達が受け取るプライベートポイントは半分でいい。相応の対価を支払え、葛城」

 

「馬鹿を言うな。契約履行のための前提条件(リーダー看破)を達成できなかったのは、お前達の自己責任だ。我々が、無価値となった約束にプライベートポイントを支払う道理はない」

 

 

龍園の必死とも言える譲歩を、葛城は一刀両断にする。

現在の龍園クラスは、俺が仕掛けた「毎月80万ポイントの上納金契約」によって破産寸前だ。ここで葛城からのポイント収入まで完全に断たれれば、今後の活動資金はおろか、クラスの統制すら維持できなくなる。追い詰められた龍園は、なおも葛城に食い下がった。

 

 

「なら、俺と新しく契約を結べ。そうすれば次の試験でも、お前達を裏から支援してやる。もう一度1位を取らせてやる、これでどうだ? 悪くない取引だろ」

 

「断る。龍園、お前達が裏でどんな卑劣な行いをしてきたかは全て聞いている。我々は、お前のような男と二度と組む気はない。いい加減に往生際を悪くするのはやめろ」

 

「チッ……誰から吹き込まれたか知らねえが、それは勘違いだ。俺達は、あの無人島で『嵌められた』んだよ」

 

 

龍園の脳裏には、間違いなく俺――凍影雪波の顔が浮かんでいるはずだ。だが、そんな言い訳が通用する相手ではなかった。俺が事前に「龍園の悪行」をリークし、盤石な信頼関係を築いていた葛城は、冷ややかに鼻で笑う。

 

 

「龍園、悪いが一学期のお前達の粗暴な噂を聞けば、何が起きたかなど想像がつく。それに――お前が我がクラスの橋本と裏で繋がっていたことも、既にこちらには露見している。身内を裏切らせようとするような輩と組む気はない。諦めるんだな」

 

「……っ」

 

 

葛城はそれだけ言い捨てると、一切の未練を残さず、踵を返して重厚な足音とともに去っていった。

残された龍園は、これまでに見たこともないほど苦い表情を浮かべ、拳を血がにじむほど強く握りしめている。

 

物陰からその横顔を盗み見ながら、俺は内心でほくそ笑んでいた。龍園の経済基盤はこれで完全に崩壊した。携帯を集める求心力も、他クラスを買収する資金も、葛城を動かすカードも、今の龍園には何一つ残されていない。

 

 

「……ゆっきー、今の、って……」

 

 

隣で息を潜めていた長谷部が、信じられないものを見たというように、不安げな目で俺を見上げてくる。俺は彼女の緊張をほぐすように、小さく頭を撫でて軽く微笑みかけた。

 

 

だが、一難去ってまた一難。

 

葛城が去った後、忌々しげに顔を歪めた龍園が、あろうことか俺たちが隠れている方向へと歩き出してきた。

 

俺は即座に長谷部の手を引き、この場を離れようとする。しかし、運悪く反対側の通路の奥から、規格外の巨体がぬっと姿を現した。龍園の忠実な部下――山田アルベルトだ。

 

完全に挟まれた。

前方に龍園、後方にアルベルト。通路は一本道で、逃げ場はない。

 

 

「……ッ、ゆ、ゆっきー、これ……っ」

 

 

長谷部が龍園とアルベルトを交互に見つめ、みるみる顔を青ざめさせていく。

一学期の須藤の暴力事件や、無人島での不穏な噂。彼らのあくどいやり口を想像すれば、ここで見つかったらどんな目に遭わされるか分からない。恐怖で長谷部の体が小刻みに震え始める。

 

俺個人としては、ここで正面からやり合っても武力で負ける気はさらさらなかった。だが、今はか弱いクラスメイトの女子が隣にいる。それに、ここで無駄な派手な喧嘩を起こすような厄介事は、今の俺の戦略としても御免被りたかった。

 

ならば、取るべき選択肢は一つだけだ。

 

 

「長谷部、ちょっとごめんな」

 

「えっ――?」

 

 

驚きに目を見開く長谷部の思考が追いつくより早く、俺は彼女の膝裏と背中に腕を回し、一気にその細い体を軽々と抱きかかえた。

 

 

「ひゃんっ……!? ――あっ」

 

 

可愛らしい悲鳴をあげる長谷部。驚天動地のお姫様抱まがいの体勢に、彼女の顔が一瞬で真っ赤に染まるが、俺にそんな余裕はなかった。長谷部を両腕にしっかりと固定したまま、俺は後方のアルベルトに向かって弾丸のような速さで突撃を開始する。

 

 

「あぁん!? ――おいアルベルト、そいつを捕まえろ!」

 

 

物陰から突然飛び出してきた俺たちの姿に、龍園がいち早く気づいて怒声をあげた。

 

 

「Wow……!?」

 

 

正面のアルベルトが、人間一人を抱えたまま突進してくる俺を見て、驚愕に目を見開く。その巨木のような両腕が、俺たちを捕らえようと大きく横に広がった。

 

だが、遅い。

 

アルベルトの手が届く直前、俺は通路の壁に向かって大きく斜めに跳躍した。重力に逆らうようにして、劇場のキャットウォークよろしく壁の垂直面を二歩、三歩と激しく蹴り上がる。

 

 

「えっ……壁を……っ!?」

 

 

俺の胸にしがみついたまま、上下が反転する世界の中で長谷部が驚愕の声を漏らす。アルベルトが慌てて上空へ伸ばした剛腕を、空中での身のこなしだけで鮮やかに回避。巨体の頭上を完全に飛び越えた俺は、彼の遥か5メートル後方の床へと、長谷部を抱えたまま音もなく着地した。

 

振り返ることもなく目の前にある非常階段の重い扉を蹴り開ける。

背後から響く龍園の怒号を完全に置き去りにし、俺は長谷部を抱きかかえたまま、非常階段のステップを驚異的な脚力で一気に駆け上がった。トントンと軽快な足音が静かな階段室に木霊する。

 

息一つ切らすことなく、一気に二つ上の階まで到達した俺は、非常階段の扉を出てしばらく進んだ静かなエリアで、ようやく長谷部をそっと床に降ろした。

 

 

「ふぅ……ここまで来れば大丈夫だろ。驚かせて悪かったな、長谷部」

 

 

床に降ろされた長谷部は、しばらくの間、微動だにできずにいた。

突然の出来事の連続に、完全に思考が追いついていないようだ。無理もない。男にいきなり抱え上げられ、目の前でアクロバティックに壁を走られたのだ。恐怖と驚きでパニックを起こしていてもおかしくはない。

 

 

「おい、長谷部。大丈夫か?」

 

 

今にも崩れ落ちそうに膝を震わせる彼女の体を、俺は慌てて横から支えた。華奢な肩を抱き寄せ、落ち着かせるように背中を優しくさする。

 

 

「はぁ、っ……ふぅ……っ」

 

 

長谷部は胸を大きく上下させ、荒い呼吸を繰り返している。そのあまりの動転ぶりに、俺は申し訳なさが込み上げてきた。

 

 

「怖がらせてごめんな。他に手が思いつかなくてさ」

 

 

耳元でそう声をかけると、やがて呼吸が落ち着いてきたのか、長谷部がゆっくりと顔を上げて俺を見つめた。

彼女の身長は女子にしては大きく多分167cm前後。対する俺は177cm。およそ10cmの身長差があるため、至近距離で見つめ合えば自然と彼女は俺を見上げる形になる。

 

 

「ゆっきー……」

 

「平気か? 気分が悪かったりしないか?」

 

「う、ううん。大丈夫……だけど……っ」

 

 

まだ声がおぼつかない長谷部を気遣いつつ、俺は苦笑交じりに周囲を見渡した。

 

 

「せっかく長谷部が誘ってくれたのに、レストラン、だいぶ遠のいちゃったな。悪いことした」

 

「ううん、大丈夫。……ねえ、ゆっきー。ここから近い、別のレストランに……行かない?」

 

 

緊張の糸がやっと解けたのだろう。長谷部はフゥと深く息を吐き出して呼吸を整えると、少しはにかむようにして言った。

 

 

「良いのか? まだ無理しなくていいぞ」

 

「うん。それに……ゆっきーが一緒にいてくれれば、もう何も怖くない気がしてきたし」

 

 

そう言って、長谷部は悪戯っぽく微笑みながら俺の右腕に自分の両手を絡めてきた。ぎゅっと抱きしめるように腕を引かれ、柔らかな感触と共に、彼女が俺の二の腕の筋肉を確かめるように指先でツンツンと小突いてくるのが分かる。男としてのスペックを測られているようで、少し気恥ずかしい。

 

 

「そっか。なら、改めて行こうか」

 

「うんっ」

 

 

並んで歩き出し、船内の穏やかな通路を進む。ふと頭に浮かんだ計画を切り出すには、丁度いいタイミングだった。

 

 

「そうだ。長谷部、これは俺からの個人的な頼みなんだが」

 

「ん? なぁに?」

 

 

小首を傾げる長谷部に、俺はまっすぐ視線を向けた。

 

 

「出来れば……次に誰かと一緒にレストランに行く日があったらさ。佐倉を誘ってあげてくれないか?」

 

「佐倉さん?」

 

 

意外な名前に、長谷部は不思議そうに眉を寄せた。

 

 

「別に誘うのは良いんだけど……なんで? 私、さっきの様子を見るに、あの娘に嫌われてる気がするんだけど」

 

 

苦笑する長谷部の誤解を解くように、俺は首を振る。

 

 

「大丈夫だ。佐倉はまだ、俺以外の誰に対してもあんな感じなだけなんだよ。あいつは極度の人見知りだからな。……だから、長谷部が彼女の友達になってくれると、俺としてもすごく助かる」

 

 

原作の歴史でも、後に『綾小路グループ』が結成された際、長谷部と佐倉は無二の親友同士になった。あの時、孤立しがちだった愛里の心を救ったのは長谷部のサバサバとした優しさだ。この世界線でも、2人の相性の良さは間違いないだろう。

 

長谷部は俺の言葉を聞き、しばらくの間「うーん」と顎に手を当てて考えていた。やがて、観念したようにふっと笑みをこぼす。

 

 

「分かった。ゆっきーがそこまで言うなら、今度誘ってあげる。……でも、もし上手くいかなくて失敗したら、ゆっきーがちゃんと責任とってよ?」

 

上目遣いで少し挑発的に微笑む長谷部。その言葉に、俺は頼もしい相棒を得たような気分で頷いた。

 

 

「ああ、承知した。その時は俺がいくらでもフォローするさ」

 

 

約束を交わした俺たちは、今度こそ静かな時間を楽しむために、並んでレストランへと向かうのだった。

 

 

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